• イベントレポート

思い出と人生を振り返りながら、なかなか手放せないモノとじっくり向き合う時間を。monolog —DESIGNART TOKYO 2023を終えて

人々の暮らす都市に目を向けて、生活圏を拡張することでどのような新たな一歩につながるのか、様々な実験をしている安藤智博(していいシティ)は、DESIGNARTにて「monolog」を展示しました。

今回安藤が着目したのは、「一度役目を終えたモノ」。ガラクタに見えたとしてもそこには持ち主の思い出やストーリーが詰まっている、ということに目を向けて、展示に挑んだ様子をお伝えします。

はじめまして、100BANCHではgapcapONOFFという二つのプロジェクトで入居している安藤智博です。gapcapでは、地域の人々とお気に入りの場所を瓶を用いてアーカイブするという活動を、そしてONOFFでは古ゴザを活用したピクニックシートの制作を行っています。どちらも共通して、人々との交流やインタラクションから得た示唆を起点に問いを立て、遊び心のある都市への介入を描くことを大切にしています。

今回、DESIGNARTにはmonologという映像作品を出展させて頂きました。

 

手放せないものとそれにまつわる思い出

突然ですが、みなさんの家の押し入れには、たくさんのガラクタが眠っていませんか。人にとってはガラクタだとしても、自分にとっては思い出が詰まった大切なモノ。おそらく、もう使うことはないけれど、捨てるには忍びない。世の中はそんな“意味がこもったガラクタ”で溢れています。人生の転換期を一緒に過ごしたモノにまつわる思い出を紐解くことで、ひとの人生に思いを馳せる時間を過ごします。

昨今、シェアリングエコノミーの到来によって、モノの機能的価値を共有することで、その利便性を多くの人々が享受できる社会がやってきました。しかし、都市には機能的価値だけでなく、意味的価値が強いために手放すことが難しいモノも多く溢れています。

国内外でもHoarding(溜め込み)は一般的で、手放す選択肢がないまま、自宅や倉庫の押し入れに様々な物が山積しています。現在、私たちは思い出の詰まったガラクタを押し入れに貯め込みつつ、たまに引っ張り出しては懐かしんで、その後ライフステージの変化に合わせて思い切って処分するという状況です。

私たちは、そんなブラックボックスと化した各人の大切な品々にまつわる体験や思い出について、インタビューを実施します。話を聞いていくと、それまではただのガラクタに思えていた目の前の物体に意味が現れて、その人にとってなぜ大切な物なのかがぼんやりと理解できてくるのではないでしょうか。そうして、物を起点としたコミュニケーションが生まれ、自分自身も思い出を振り返ることで物との付き合い方を考え直す、そんな契機を演出しています。

 

他人の思い出に想いを馳せる

人々に「印象に残っている青春の思い出は?」や「幼少期の驚いた思い出は?」と尋ねるとそれなりに当時の記憶を呼び起こして、話をする人が多いだろうと予想します。一方で、それらは人生において自分を表す物語としてストックされた一番手、二番手の思い出たちです。それ以上に、小さく、それでも確実に人生に影響を与えてきた瞬間の連続によって、今が成り立っています。心のどこかにはあるけれど、すぐには出てこない。そういった、尋ねられても答えられないけれど、確実に今の自分を形作るような記憶を呼び起こす装置として、その人が大切にしているモノにアクセスしています。

そのモノと一緒に、瞬間を振り返ることで、当時の知らない人の思い出に触れ、自分自身が少しでも彼ら、または彼女らに寄り添うことができたらと願っています。

DESIGNARTの会期中は、様々な人に作品を見て頂いて、多くのフィードバックを頂くことができました。展示中の実際のものと映像を通して、自分自身の捨てられないものに紐づく思い出を回想してくれる方々が多かったように思います。

今回展示した、「モノ」とそれにまつわるストーリーをインタビューしたビデオ。

頂いた声を一部ご紹介します。

「私もどうしても捨てられないものがあるから、この動画の所有者の気持ちが分かります。」

「自分も子どものときに大事にしていた、首がもう曲がっているミッキーマウスのぬいぐるみがいまだに捨てられません。」

「自分のものは捨てられるんだけど、子どもが小学校の時に描いた絵や使っていたランドセルは捨てられないんだよな。」

自分のものだけにとどまらず、他の人との関係の起点になったものや、その場所との接点になったものも、当時の大切な時間を共に過ごしたものは、一見ガラクタのように見えますが、当人にとっては、大切な宝物であり、なかなか手放すことが出来ない品々です。一方で、「自分はどんどんものを捨てていくタイプだから、物への愛着はない」と話してくれた男性もおり、一定数思い切ってものを手放してしまう人もいるようです。

ある方からは、心理学や社会学系の調査をするときに手放せないモノに注目するアプローチは面白いのではというフィードバックを頂きました。私たちの仮説としては、自宅の奥深くに押し込められた捨てられない品々に、人々は自分自身の大切な記憶をアーカイブしているのではないか、と考えています。つまり、その瞬間までは忘れている思い出も、モノを引っ張り出した時に思い返すことができるようになることから、思い出を捨てたくないがために実物も手放すことができないのではないか、という仮説です。まだ、多くのサンプルが取れているわけではないのですが、そういったリサーチもぜひ多くの方々に協力して実施してみたいと考えています。

また中には、「自分も手放せない物を持ち込んで語ってみたい」と話してくれた人もいました。こうやって、昔を振り返ることで自分自身も認知していなかった価値観や、こだわりが見えてくるのではないかと感じたようです。monologでは、ぜひ手放せないモノとそれにまつわる人生のストーリーについて話してくれる方を募集しています。匿名での出演も可能ですので、ぜひご連絡をお待ちしています。

 

最後に

今回、DESIGNARTへの出展を通して様々なフィードバックを頂くことができました。モノとの向き合い方や思い出の捉え方、普遍的である一方で、個人の固有の記憶を共有する契機を作り、対話をする貴重な機会となりました。今回は、物品と映像の作品が一セットのみの展示となりましたが、今後はさらに多くの方にご協力を頂きながら、映像の制作に挑戦したいと考えています。

今後も引き続き、思い出が強く残っており手放すことが出来ないモノと、モノにまつわるストーリーをヒアリングさせて頂ける方を募集しているので、ぜひ興味を持って頂けたらご連絡をよろしくお願い致します。

 

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