• イベントレポート

双生と再生による彼岸へのイマジナリー —DESIGNART TOKYO 2023を終えて

空想の世界の物語を書き、現実の体験に仕立てる「体験作家」のアメミヤユウ。普段の作家活動からインスピレーションを得て、形に残るものの創作にも取り組んでいます。

今回、DESIGNARTでは2つの作品「Pray me -再生墓-」「Touch me -双生機-」を展示しました。物語の世界が現実となったとき、人はどんなことを想うのでしょうか。展示作について、アメミヤが振り返ります。

現象と空想の境目を曖昧にする「体験小説」

こんにちは。

普段は“体験作家”として、小説×フェスティバルを媒体にした体験小説というジャンルの作品作りをしている者です。

主に空想の未来を書いた小説を執筆し、その世界を現実にフェスティバルという形で顕現するという種の作品です。小説は個人の脳内で想像して物語を描きますが、フェスティバルは特定多数の制作メンバーと共に「その世界で起こりそうな様々」を自律分散的に創造し、当日は不特定多数の来場者と共に空想の世界観をインストールし、空想の世界があたかも現実に現れたかのように共犯します。

そして現実に現れた実際の出来事との邂逅を元に、その事実を小説に改稿という形でフィードバックし、現象と虚構の境目を曖昧にしながら、反復し、3部作の小説を3年かけて1部ずつフェスに仕立て、3年タームで1つの作品を完結させます。

ポートフォリオはこちらから:https://www.yuu-amemiya.com/

大変にボリューミーかつ刹那的な作品を扱っている故、滅多に人の目に触れることはない作家活動をしているのですが、その反動的にたまに常設の、形が残る作品作りもしています。

過去には葬像展という葬をテーマにした個展を自身のアトリエ「逃げBar White out」で開催し、8つのコンセプチュアルアート作品を作りました。体験小説側と共通する通奏低音として、この宇宙のアルゴリズムからの逃避と諦念という、相対的なものを同時に扱うことが多く、人間としての生命を呪っているし同時に祝ってもいて、生も死もハッピーバースデーとして理解しているけど、そうじゃないルールを見つけたいとも思っている実に人間らしい矛盾を作品として模ったりしています。

(逃げBar White out)

 

此岸と彼岸の間をそうぞうする2つの作品

今回DESIGNARTに展示させていただいた2作はまさにそのような此岸と彼岸の間をイマジネーションするような作品です。

(Touch me-双生機-)

(Pray me-再生墓-)

『Touch me-双生機-』は宙に浮かぶ2つの檸檬を同時に触ると、死者の世界からの声が聞こえるという作品。檸檬は梶井基次郎の『檸檬』をイメージし、作中で主人公が檸檬を持ってから放った「ーーつまりはこの重さなんだな」という台詞。それまで鬱屈としていた主人公が檸檬を見つけ、嗅ぎ、重さを感じるだけで「カーン」と気分を吹っ飛ばすあの名シーンから創発を受けて作成した作品です。

ある種の逃避を求めて彷徨っていた彼を脱出させた檸檬。持ち→気づくまでの空白のプロセスを、この世とあの世を接続する機能を檸檬は持っていたのではないかと空想設定し、彼は死後の世界に触れることで、この世界の美しさや、善さを再生したのではないかという想像を体験にしました。

Touch meの体験者は黄色い自然のままの檸檬(此岸)と、白く塗装した色彩のない檸檬(彼岸)を同時に触れることで、あの世とこの世を繋げる力を手に入れるのですが、内的な仕組みとしては、PCからの微弱な電流を檸檬→人体→檸檬→インターフェース→midi信号→PC→DAW→ヘッドホンという風に流動させていて、計算機という無機(彼岸)と人体という有機(此岸)の機能的媒体としても檸檬がインターフェースの役割を持っているのです。

メメントモリなどというように、死を想うほどに生は濃くなり、タナトス然り生を突き詰めれば死が手招きします。相対的に互いに効力を及ぼす生と死、檸檬という媒体者がそれを繋げることで彼岸と此岸が混ざり合い、或いは双生します。完全な無から、ゆらぎ、対生成されたこの宇宙以来、全ての概念は双生か、対消滅か、そのどちらかなのです。

『Pray me-再生墓-』は自身のDNAを全シーケンスした実際の塩基配列データをブロックチェーン上に保存し、ハードウェアウォレットに埋葬し、それを墓とした作品です。現代ではまだ机上の空論ですが、個人の塩基配列データがあれば故人になった際に、身体を再生できる未来がやってくるかもしれません。

そんな未来では墓は祈るものではなく、格納するもので、現在も霊園の土地不足問題がありますが、いっそ墓石はなくしUSBと同じくらいコンパクトなサイズにダウンサイジングしてみました。しかしデータ化した故人はいつ、誰によって再生され得るのでしょうか。また、その際の基準や条件などは規定されるのでしょうか。データなので交換も複製も容易です。その際のヒューマンライツは、誰のものなのでしょうか。

本作はプロダクトではなくコンセプチュアルアートですが、もし再生墓が実現し流通し始めた未来が訪れたとしたら、あなたはこの墓に自らを埋葬することを選ぶでしょうか?

人生は縦の時間軸で、始まり、終わるものとするか、円環状に輪廻し続けるものとするか、生命の在り方そのものを選択できる時代がやってきたとしたら、あなたはどちらを選ぶでしょうか。

人の遺伝子解析が終了し、生命科学が飛躍的に進歩する昨今。今はまだSF的なコンセプチュアルアートですが、シンギュラリティ前夜とも言える現代において、このような問いが現実の問題として起こる日も、そう遠くはないのかもしれません。

今回久しぶりに都内で展示が出来たお陰で多くの友人に作品に触れてもらうことができました。「死者はあっちの世界にいたけれど、声が自分の耳と心に届いたし、すごく繋がりを感じられた」など感想をいただき、彼岸へのイマジネーションをする機会をつくれたのかと思います。あと渋谷だからどうせ保存料たっぷりの檸檬しか売ってないだろと舐めていたら、むしろオーガニックな檸檬しか売ってなくて、予想外に檸檬が早く腐ってしまったのは誤算でしたし、都市の進歩へイマジネーションを馳せるいい機会になりました。

此岸より彼岸へ想像を馳せる2作品。お愉しみいただけましたら幸いです。展示のお誘いも随時お待ちしております。

 

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