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映画をつくり、伝え、これからのスクリーンを耕す:ORQUEST 石原弘之(株式会社ポルトレ 代表)

「ドキュメンタリー映画には作り物ではない人間そのもののもつ魅力や、見過ごされがちな日常の風景・出来事を伝えるパワーがある。だからこそ僕はドキュメンタリーにこだわりたい。」

GARAGE Program 2期生「ORQUEST」の石原弘之は、映画、映像の企画制作、配給、宣伝など、映画にまつわる様々な取り組みを事業とし、大学在学中に創業した株式会社ポルトレでドキュメンタリー映画プロデューサーとして活動しています。

石原がドキュメンタリー映画を志したきっかけ、100BANCHをどう活用してきたか、これからの展望などをお伝えします。

石原弘之 株式会社ポルトレ 代表取締役 (ドキュメンタリー映画プロデューサー/ディレクター)

1987 年愛知県生まれ。フィルム・メーカー。 中学時代より自主映画制作をはじめる。『風待ち』で調布映画祭2014ショートフィルムコンペティション奨励賞。多摩美術大学在学中に映画製作配給会社、株式会社ポルトレを創業。2017 年に企画製作・配給した「74 歳のペリカンはパンを売る。」が全国劇場含め、 アジア各国での劇場公開を実現。その他、配給作品多数。

 

なぜドキュメンタリー映画をつくるのか

映画の中でも、特にドキュメンタリー映画をつくるようになったという石原。そこにはどのようないきさつがあったのでしょうか。

石原:中学時代、学校の隣に老人介護施設があって、そこにビデオカメラを持って通い、医師とその施設で暮らすお年寄りの方々を撮影していました。みなさんカメラを向けると、いろんなことをたくさん語ってくれましたね。戦争体験とか初恋の話とか、そういったことをカメラ越しに聞くのが楽しかったです。「人に歴史があるんだなあ」と強く感じて、それを1本にまとめて映像作品とすることに興奮を覚えました。その後、それを全校集会で体育館で上映をしてみんなに観てもらいました。この、映像をつくるのと観せるのと両方に取り組んでいたことが、いま自分が仕事でやっている「映画を制作して配給する」ことに繋がっていると感じています。 

中学校時代から映画の制作と配給という2つの大きな両輪に取り組むことができたという石原。映画の予告映像などを紹介しながら、これまでどのようなドキュメンタリー映画をつくってきたのかを話します。

石原:ドキュメンタリーというと、災害、貧困、戦争といった人間に振りかかる大きな出来事をドキュメントするのが一般的にイメージされるものだと思います。私自身もそういったものを映画館で観て、自分もやりたいと考えていた人間でした。しかし、自分自身がつくる側に立った時に、もっと人間生活にとって身近な題材でドキュメンタリーができないかと思い立ったんです。例えば、着るものや食べるもの、家といった、衣食住ですね。そういったものにカメラを向けて、自分自身が尊くて残していきたいと思ったものを映画というメディアにしていく、という思いでこれまでやってきました。

 

映画をつくることで、新たな光を当てられる

石原:「74歳のペリカンはパンを売る。」という作品は、浅草にある食パンとロールパンしか作らない老舗のパン屋「ペリカン」のものづくりの商売哲学に迫った作品です。2016年にたまたま実家に帰ったとき、テレビ番組でお店を見て、すごいパン屋さんだなと感じたんです。これは映画にできると思い、次の日にペリカンさんに行きました。映画をつくらせてくださいと話をして、大学の同級生だったウチダ君と一緒に映画をつくりはじめました。テレビは基本的に情報を伝えていくものですが、映画は情緒的な部分が大事になります。だから、そういった部分を大事にして映画をつくってきました。

石原:映画公開時には新聞や雑誌などにも取り上げてもらいました。そこで「やっぱり映画をつくることで、新たな光を当てることができる」と映画の持ってる可能性をあらためて感じました。悪戦苦闘しながら、はじめて配給もやり、渋谷の映画館で毎日上映をしました。ちょうど100BANCHに入居していたタイミングだったので、毎日4回映画館にお客さんの様子を見に行って、「今日は何人だったなあ」と言いながら100BANCHに帰ってくるということをやっていました。そのとき、100BANCHという場所があって、なんだかすごく助けられたなと感じました。

 

石原:他にも2021年にはクラウドファンディングを行い、旅と食をテーマにした「場所はいつも旅先だった」という作品を企画制作、配給をしました。「74歳のペリカンはパンを売る」の頃よりも少し規模も大きくなり、いろんな方々との繋がりの中でつくりました。

石原:そして、最新作は2023年4月21日から公開がスタートした「sio 100年続く、店のはじまり」です。100年という部分が、ちょっと100BANCHっぽさもありますね。小学校の教師から32歳の遅咲きで飲食業界に転身し、ミシュランの一つ星を獲得したシェフの鳥羽周作さんに1年以上密着をしてつくった映画です。鳥羽さんは本当に熱い方で、何かを成し遂げようという強い気持ちのある方です。100BANCHのみなさんには刺さる何かがあると思うので、ぜひ観に行ってみてください。

 

中学生の時の気持ちを忘れずに。

石原:今まで「食」をテーマにしてきたわけですが、今度は着るものである「洋服」をテーマに映画をつくりたいと考えています。「洋服」ってすごく面白いんです。ある人にとっては無頓着なものかもしれませんが、別の人にとっては自分の体の一部のようにアイデンティティのあるものでもあると思っています。今回は後者の方に向けた「洋服」のドキュメンタリーをつくります。若くして亡くなったファッションデザイナーであるトキオクマガイさんに焦点をあてた作品です。この方は、現在海外で評価されているファッションデザイナーよりももっと先に、パリなどで評価をされていました。マルタン・マルジェラもクマガイさんに影響されて足袋ブーツを発明したというお話まで残っている方です。代表作は「食べる靴ーすき焼き」という生肉を使ったパンプスです。既存のファッションの領域を超えた、コンセプチュアルアートのようなファッションをつくっていました。今回は、この方の精神性や思考回路をドキュメンタリー映画で紐解いていきたいと思っています。

 

石原:自分自身がこれからどういう風にやっていくかっていうときに、これを忘れたらダメだなと思っているものがあります。それは、中学校時代に書いていた文章です。その中で「ドキュメンタリー映画には作り物ではない人間そのもののもつ魅力や、見過ごされがちな日常の風景・出来事を伝えるパワーがある。だからこそ僕はドキュメンタリーにこだわりたい。」という文があって。今回、登壇させてもらうにあたり、読み直してみました。このときの気持ちを忘れずに、これからもドキュメンタリーをつくって発表していきたいなと思っています。

 

それぞれが自分のテーマに向きあえる100BANCH

GARAGE Program 2期生として100BANCHに入居していた石原。当時、どのように100BANCHを活用していたかを振り返りました。

石原:まず、新しいことにチャレンジするときにどうしても、人ってカンタンに踏み出せないと思うんです。そのようなとき100BANCHという「場所」があったことが、とても自分のチャレンジの後押しになりました。前提として100BANCHという「時間」と「空間」があったことが非常に助けになっていて、そこに100BANCHの魅力があるな、と考えています。普通は学校を卒業して社会に出てしまうと100BANCHみたいな空間はなかなか持つことができないと思います。そういった意味でも、とても希少価値の高い場所だと感じています。


石原:そのように思う具体的な例として、私は100BANCHで2017年から2022年までの間で、合計4回ほど映画の上映や、映画関係のイベントをやらせていただきました。100BANCHという場所は、渋谷の新南口にあって来やすい場所ですし、思いがけない人との出会いや交流があったりもします。100BANCHで人と話すことで情報を得たり、エネルギーをもらうことがたくさんありました。

石原: 100BANCHに入居したときは、ちょうど「74歳のペリカンはパンを売る。」を公開した年でした。当時は闇雲な状況で、不安でいっぱいだったんです。そういった苦しい中でも、100BANCHという場所があったことがすごく大きかったです。テーマは違えども、100BANCHに帰れば、それぞれのテーマで活動している人の姿がそこにありました。それを横目で見ながら、自分は自分のテーマに向きあえる。そういった場所で、本当に無形の恩恵を与えてくれてる、と感じました。100BANCHが手取り足取り何かをしてくれたり、与えてくれているわけではないのですが、100BANCHが存在することが精神的な面で支えになっていました。

石原:100BANCHで出会った人は、今でも公私ともに交流がある人がいっぱいいますし、本当に自分自身の人生を豊かにしてくれていると感じます。100BANCHという共通言語で繋がれる関係があるのは、とてもありがたいです。これから100BANCHで活動していく意欲のある方は、100BANCHに対して、自らがどれだけ積極的なアプローチができるかを念頭において、この場所を大いに活用していただくのが一番いいと思っています。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/0l0Z-uA3kAA

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