• リーダーインタビュー

“好き”を分かち合う「エンタメシェアリング」が誰でも一歩を踏み出せる世界へと導く :Cinemally 奥野圭祐

「そうそう!」「その映画、面白いよね!」

誰かに自分の趣味や好みを共感してもらえると、たまらなく嬉しくなりませんか?

「好き」を分かち合うサービス「Cinemally」が2019年夏にリリースされました。これは、スマートフォン専用アプリに自分の観たい映画や展覧会などのイベントを登録し、同じイベントに興味のある人を誘ったり、誘われたりして、一緒に「好き」を分かち合えるというもの。

このサービスを開発した「Cinemally」プロジェクトの奥野圭祐(おくの けいすけ)さんは、自身の悩みや葛藤というパーソナルな部分に加え、SNSの台頭による現代の希薄な人間関係がもたらす動向からこのサービスを生み出したと語り、「好きを分かち合える社会が、挑戦する人を増やす」と目を輝かせます。

「好き」と「挑戦」、そこにはどのような関係があるのか。奥野さんの原体験を知ることで、その思いが見えてきました。手のひらの機械で繰り広げられるコミュニケーションで満足している人たちにこそ、読んでほしいインタビューです。

なぜマッチングサービスは“恋愛”ばかりなのか?

——「Cinemally(シネマリー)」とはどのようなサービスですか。

奥野:観たい映画や行きたい展覧会など、同じ作品に興味のある人同士をマッチングするサービスです。僕たちは「Cinemally」を“『好き』を分かち合う、エンタメシェアリングサービス”と呼んでいます。

——なぜ趣味を切り口としたマッチングサービスにしたのですか?

奥野:もともと、世の中にはもっとカジュアルに出会いを求めている人が多いのでは、と感じていましたが、ほとんどのマッチングサービスは恋愛の切り口しかないことに大きな違和感を持っていました。趣味を通じて仲間を見つけるような入口であれば、気軽に会いやすく、趣味仲間を求めている人も多いと感じていたので、趣味を切り口とした1対1のマッチングサービスには可能性があると考えました。

——そもそも、なぜ映画や展覧会など、エンタテインメントを軸としたサービスに注目したのでしょうか。

奥野:初めは単純に僕が好きな分野だったからですね。幼い頃から映画や音楽、漫画が大好きで、数え切れないほど多くの作品に触れてきました。漫画は3000冊くらい所有していますし、映画を年間500本くらい観ている時期もありました。そういう趣味があると「それ、めちゃくちゃいいよね!」と共感して楽しむ友達がほしくなるじゃないですか。でも、地元の大阪・岸和田にはだんじり祭りが有名になるくらい血気盛んな同級生が多く、なかなか趣味が合わなくて(笑)。

高校卒業後は美術大学に進学して、自分と同じ趣味を持つ仲間もできたから「趣味ややりたいことを共有するってこんなにも楽しいんだ」と実感していました。ところが就職で上京した途端、また同じような趣味や価値観の人となかなか会えなくなってしまい……。その時に「大学時代のような出会いがあったらいいのに」と思いながら、一方で「僕と同じような悩みを持つ人が他にもいるんじゃないか」と感じるようになりました。

——仕事で趣味が合う人と出会えること自体、わりと希少ですからね。

奥野:他にも、年々コミュニティに飛び込んだり、知らない人に話しかけたり。そういう行動を起こせる人と起こせない人で、人生の豊かさにどんどん差が出てきているように感じていました。だから、もっと気軽に人と繋がりを持てる仕組みを作りたかったんです。

——その思いから「Cinemally」が生まれたと。

奥野:もうひとつ、大きな理由があります。幼い頃、僕は貧しい環境で育ち、単位制の高校に通いながら建築作業員をしていました。心では「将来はクリエイティブな仕事に就きたい」と思いながらも、なんとなく日々を過ごしているなか、急に父が亡くなってしまいました。それがきっかけで「本当に自分のやりたい事は何だろう」と生まれて初めて人生の目的と向き合い、僕は美術大学に行くことを決心しました。これは極端な例ですが、僕のようなきっかけがなくても、誰もが負荷なく行動を起こせるような仕組みを作りたい。そういう意識が、心のどこかでずっと残っていたのだと思います。

 

目先の利益ではなく、100年後のビジョンを見つめる

——当初「Cinemally」は映画のマッチングのみに特化するサービスだったと伺いました。

奥野:今リリースしているサービスは映画だけではなく、今後の展開も考えて展覧会の情報などもまとまっているのですが、最初期はマッチングのしやすさなどの理由から映画に特化していました。例えばアーティストのライブの場合、場所は固定だし、時間も決まっている。ファン層は固定されていて大きく循環しません。それにチケット代も高くて、人気公演だと先着予約ですぐに売り切れてしまう。反面、映画はチケット代が安く、時間も調整でき、沖縄から北海道まで日本のどこでも観に行ける。回転率もよく客も循環します。イベント性がありながら時間と場所に融通が利く娯楽って映画しかないと思うんです。その理由から当初は映画に絞ったサービスを展開しようとしていました。でも、100BANCHの影響でその考えは大きく変わることになるんですけど。

——「Cinemally」をリリースする準備段階で、100BANCHに入居されたんですよね。

奥野:起業系のサイトを検索していたら100BANCHの記事を見つけました。よく読むと「渋谷を拠点に活動できる」「作業スペースやイベントスペースも活用できる」「各界トップリーダーのメンタリングを受けられる」とあり、「これ応募しなきゃ損じゃない?」と驚いてしまって(笑)。「Cinemally」の開発のヒントも得られるかも知れないし、映画の上映イベントもやりたいと思っていたので、100BANCHへの入居は「Cinemally」にとってメリットしかありませんでした。

——入居してどんなことを感じましたか?

奥野:入居前はサービスをリリースするプレッシャーなのか、無意識に「どうやってお金を生み出そうか」と資金調達のことばかり考えてしまい、「Cinemally」のビジョンがどんどん萎んでいくような感覚がありました。でも入居後に、100BANCHのプロジェクトは「シンプルにお金を稼ごう」とか「今の世の中を変えよう」ではなく、単純に「好き」を追求しながら「100年後の未来をつくる」というビジョンに本気で突き進んでいると実感しました。

極端な例だけど、ある日、他プロジェクトのメンバーに「これはどうやって儲けるつもりなんですか?」と聞いたら、「今はまだ分からないないんですよね」って笑ってるから、このままじゃダメだなって思って(笑)。決して、そういうプロジェクトが100BANCHに多いわけではないけど、その会話は僕にとってすごく衝撃的でした。

——それは確かに驚きますよね(笑)。

奥野:そういう環境なのに、僕は目先の利益だけに注力して「Cinemally」が生み出すの100年後の未来なんて考えてないことに気が付きました。おかげで、単にサービスに特化するだけではなく、例えば「好きなことを分かち合う文化が生まれたら、映画や演劇などエンタテインメントの作品づくりにも大きな影響を与えられる」など、もっと先のことや可能性について柔軟に考えられるようになりました。

100BANCHの多様な価値観に触れられたからこそ、リリース直前に「Cinemally」の「好きを分かち合う」というコンセプトや、「エンタメシェアリングサービス」という伝えたい根幹の部分から打ち出すことができたと思います。その前は単に「映画を一緒に観に行くアプリ」と、決して長期的にみて拡がりそうにない打ち出し方でしたからね(笑)。

——先ほどの「考えが大きく変化した」とはこのことなんですね。

奥野:そうなんです。それに加え、メンターの高宮(慎一)さんの影響も大きかったですね。高宮さんに「好きを分かち合う体験を作りたいのに、なんで映画だけに特化するの?」「もっとカテゴリーを広げればいいのに」とアドバイスをもらいました。その時に僕たちが目標とする「好きを分かち合う」市場と、実際に取ろうとしている映画だけの市場には大きな乖離があることを実感しました。

そこから映画の他に、スポーツやライブ、展覧会やイベントなど多くカテゴリー候補も検討しました。ただ、リリースも間近で、複数人のマッチングまで広げるとサービスの仕組みが大きく変わることもあり、検証のためにも現在はベータ版としてリリースしています。今後はサービスのフィードバックを参考にしながら、カテゴリーの拡大なども検討しつつ、大きくリブランディングする予定です。

 

「働き方改革」ならぬ「休み方改革」を生み出すサービス

——「Cinemally」のβ版アプリをリリースして約2カ月(※取材は2019年8月)が経ちましたが、どんな反応がありますか?

 奥野:ユーザーは大きく分けて「純粋に感想を分かち合いたい人」「同性の趣味友達が欲しい人」「恋愛目的で使う人」と、この3つを目的に「Cinemally」を利用する人が多いと分かりました。例えば上京や出張でまわりに友人がいない女性とかが多いですね。なかには、すでに10回以上も「Cinemally」を利用し他のユーザーと映画を観に行った人もいるんです。

——すでに10回も! 着実に結果が出ているんですね。

 奥野:男性ユーザーが女性ユーザーを誘いがちな部分はありますね、一方で想像以上に女性同士のマッチングが多く発生していることも分かりました。今はもう少し効率よく同性同士の出会いを生みだせるようにロジックを調整しつつ、趣味仲間が見つかることをしっかり体感できるように設計を修正しているところです。

——新聞やウェブなど各メディアで「Cinemally」が紹介されていますよね。

 奥野:リリースして間もないのですが、映画会社などからの反応はいいですね。例えば、映画館の運営サイドは集客を促すためにバンバン広告を出して興味を誘発することはできるけど、「Cinemally」のように「誘われたら行く人」のような潜在層にリーチすることって難しいと思うんです。そういった、これまで獲得できなかった層にアプローチできるサービスとして注目されています。

 さらに、通常は面倒くさいとされるユーザー登録も、「Cinemally」はマッチングするために利用するから、ユーザーは希望を細かく指定して登録してくれます。そこから得られる情報はもちろん、それらのユーザーが「Cinemally」を利用することにより「どんな趣味を持った人が」「どんな人と」「どんな作品を」「どちらから誘って」「いつどこに行ったのか」など、行動に紐付いたデータも得られる。そういったデータの価値にも大きな興味を持ってくれています。

——日経産業新聞では、「休み方改革を担うサービス」として「Cinemally」が大きく紹介されていましたね。

 奥野:今、世の中では働き方改革が叫ばれ、副業解禁や有給取得義務化も後押しに、今後はさらにフリーランスとして働く人が増えることが予想されます。会社に属さない人が増えれば、それまであった社員同士のつながりや、会社の福利厚生で楽しむ機会が薄れる一方で、個人が好きな仲間と独自につながりを持つ時代にさらに向かっていきます。その流れから、好きで繋がるサービス、「Cinemally」が休み方を根本から変えるサービスとして、その価値が社会に広がれば「休み方改革」に繋がると紹介されました。僕自身、この視点は強く持っていなかったので「Cinemally」にとって新たな可能性に気付かされましたね。

 

目指すは「Cinemally」が必要のない世界

——「Cinemally」は100BANCHで2回のイベントを実施したと伺いました。

 奥野:2019年6月に「Cinema lunch」と題して、映画『スパイダーマン・ホームカミング』の上映イベントを開催しました。ランチを食べながら映画を鑑賞し、参加者同士で感想を共有。その後、みんなで渋谷の映画館に向かい、先ほど鑑賞した映画の次回作となる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を観賞しました。

「Cinema lunch」の様子(撮影:100BANCH)

奥野:鑑賞後は高円寺の映画バーに移動し、また感想共有、クイズなどの企画を行うという、昼の部と夜の部を合わせて合計9時間の壮大なイベントになりました(笑)。参加者のほとんどは初対面でしたが、映画の知識の差こそあれ、映画好きという要素は共通していたので自然と交流が生まれ、ゆったりと交流を図れる時間になりましたね。

映画の感想を共有する参加者たち(撮影:100BANCH)

奥野:もうひとつは2019年7月に開催の100BANCHの周年祭「ナナナナ祭」の期間中に、「ショートショートフィルムフェスティバル」の運営会社とタイアップして、100BANCHの1階のカフェ「LAND」で「THE STORY CAFE」を開催しました。これはカフェでデザートを注文するように、ジュークボックス感覚でその時の気分にあったショートフィルムを注文し鑑賞できる試みです。期間中は約100人ものお客さんが参加し、その中の20組は「Cinemally」のアプリでマッチングした来場者でした。

映画注文すると約15分のショートフィルムが上映された(撮影:鈴木 渉)

奥野:「Cinemally」マッチングだけではなく、集客を促すサービスとしても想定しているので、それをこのイベントで試験的に運営できたのもよかったですね。さらにサービス自体の集客力を増やしつつ、近いうちに渋谷にある10店舗くらいのカフェとコラボして、この「THE STORY CAFE」を公式イベントとして企画したいとも話しています。

——今後の「Cinemally」の目標を教えてください。

奥野ありとあらゆる場面でお互いが理解し合える世界を作ることですね。最近は「どうせ理解してもらえない」とか「言っても無駄」とか、そういうネガティブ思考の人がSNSで露出される機会も増えているように感じます。昔は自分で行動を起こすからこそ、それに見合うように周りの世界が少しずつ広がっていました。でも、今はインターネットやSNSが発達し、一瞬にして見えてしまうからこそ、そこで目にする他人と自分を比べて寂しさや孤独感を感じる人も多いんじゃないでしょうか。

 寂しさを感じると人は自信がなくなったり、自分の意見が言いづらくなったり。どんどん消極的になり、それは結果的に行動を起こせなくことにも繋がっていくと思います。だから、そういう寂しさを解消できる状態、つまり「自分を理解してくれる人がいる」と実感しながら、安心して生きられる状態をまずは「Cinemally」を通じて広げていきたいですね。

——「Cinemally」が掲げる「好きを分かち合える」世界が実現すると、社会はどうなると思いますか?

 奥野:そうなったら、こういったサービスはいらなくなりますね(笑)。このサービスは自分を理解してくれる仲間を作ったり、行動を起こすきっかけにしたり。そうやって社会をよりよくするサービスなので。そういう意味では「Cinemally」みたいなサービスが必要なくなる状態が理想の社会じゃないかなと思います。

 ただ、そうは言ってもそんな社会はすぐに実現しないから、まずは「Cinemally」を利用してもらい好きなこと見つけ、それを分かち合える友達がいる状態を作りたいですね。そのベースが確立すれば、サービスを利用して楽しむだけではなく、その先の行動に大きく影響を与え、何かに挑戦する人をもっと増やすことができると思っています。

 

(写真:朝岡 英輔)

 

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