LEADER INTERVIEW

2019.03.30 Sat

Ostrich Antibodies Revolution 井上雄介:ダチョウ抗体が30年後の人類を救う

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「これって、奇跡だと思うんですよ」
ダチョウ抗体の可能性について話しはじめた井上雄介(いのうえ・ゆうすけ)さんの口調が、熱を帯びていきます。

ダチョウ抗体研究の第一人者である京都府立大学の塚本康浩教授は、獣医としてダチョウを観察し、その免疫力の強さに着目して研究をはじめた結果、ダチョウの卵からさまざまな抗体をつくる技術の開発に成功したといいます。

100BANCHで「Ostrich Antibodies Revolution」プロジェクトを立ち上げた井上さんは、もともと情報工学の研究者からキャリアをスタートさせ、塚本教授との出会いによって、ヘルスケア領域へと大きく舵を切りました。

AI、ブロックチェーンに取り組んでいた井上さんのライフシフトもまた、ある種の奇跡のようにも見えてきます。自社プロダクト第1号となる花粉症対策のダチョウ抗体アメ『花粉への挑戦状』を発売開始した井上さんに、キャリアのこれまでとこれからを伺いました。

(執筆:大矢 幸世 / 写真:加藤 甫 )

 

──井上さんはもともと情報工学を専門とされていたんですね。

井上:そうですね。研究室にいたときからAIや機械学習といった知見をもとに、研究者の支援や企業、工場のデータ解析などに取り組んでいました。ひとくちにサイエンスと言っても、バイオや医学、化学、宇宙学、量子力学などさまざまな分野がありますが、なにか世の中を揺るがすような大きな発見や、新たな理論が生み出されるときって、異分野と異分野が結びつき、融合したときなんですよ。
でも僕自身、研究者の卵だったからわかるんですけど、自分の研究をしながら他の分野の最新情報もキャッチアップして、というのはかなり難しいこと。情報と情報を適切に接続するのが難しいんです。

幸い、情報工学はまさにそのど真ん中というか、すべての分野に接続できる可能性を持っています。僕自身、科学というものに、それこそ信仰に近いほど強い思いを抱いていて、「科学を100年先へ進める」ことをモットーに、自分のなすべきことを考えてきました。それで、『異なる研究分野を接続するプラットフォーム』をつくることができないか、と考えたのです。

 

 

とはいえ、実際に研究者たちがどんな研究を行い、どんな課題に取り組んでいるのかを知らなければ、それをつくることはできません。それで、AIやICO(仮想通貨における資金調達)のコンサルティングを手がける傍ら、2017年から2年ほどかけて、各地の研究者や企業を回って、リサーチすることにしたんです。そのさなかで出会ったのが、京都府立大学の塚本康浩教授が研究するダチョウ抗体でした。

 

──ダチョウ抗体とは?

井上:そもそも抗体というのは、病気を防ぐための免疫システムの一種です。体内である特定の病原体や物質など(これを抗原と呼びます)に反応して結合することで、その毒素や酵素を無毒化して症状が出るのを防ぐことができます。一般的に抗体はウサギやマウス、ニワトリからつくられるため、生産コストが高く、大量生産が難しかったそうです。

 

 

けれどもダチョウは鳥類でもっとも大きく、ニワトリの30倍の大きさの卵を産むので、圧倒的に低コストで抗体を精製できます。しかもダチョウ自体、100万年前には既に現在の姿になっていて、亜種を含めても3種しかいません。これは仮定ですが、進化の過程で多様性の戦略を取るのではなく、免疫を強化することで生き残ってきました。個体同士でケンカして傷だらけになっても、翌朝はケロッとしているほど生命力にあふれた生物なんです。
そのおかげか、ダチョウの卵から精製された抗体は胃酸にも強く、活性を保ったまま腸まで届くし、熱や乾燥などの変性にも強くて、フリーズドライして長期間持たせることも可能なんです。


──そのダチョウ抗体によって、どんなことが可能なのですか。

井上:既に実証段階の抗体はいくつかあって、はじめて塚本教授に出会ったときにダチョウ抗体を使った食品の試作品を試させていただいたんです。
「花粉症緩和のアメ」とか「インフルエンザ予防のグミ」「消化酵素を阻害するサプリ」とか。なかでも、花粉症緩和のアメは衝撃的で。僕、ひどい花粉症で、市販のアレルギー薬を飲んでもあまり効かないんですよ。病院へ行くのも億劫で。

でも、花粉症緩和のアメをなめたら……めちゃくちゃ効いたんです。「あれ、なんともない」って。消化酵素阻害もすごいですよ。油ものを食べても、そのまま消化されずに出ていくんだから(笑)。おぉ……こんなものがあるのか、と感動して。

 

 

──それで「花粉症緩和のアメ」を事業化することにしたのですね。

井上:AIコンサルや受託開発をやっていた関係で、ITスタートアップ界隈のつながりも多くて、そちらの感覚を持っていわゆる創薬ベンチャー業界の状況を見ると全然世界が違いましたね。数億、数十億単位で資金調達を行い、長期間研究を続けた末に、うまくいかずにリビングデッド化、あるいは破綻してしまうスタートアップも少なくないんです。とても難しい業界です。

その点、ダチョウ抗体はあくまでダチョウの卵から採った卵黄抽出物ですから、経口摂取(口から栄養を摂取)する上では安全性も担保されていてアレルギー性も低く、食品添加物として使用することができます。それなら、リーンスタートアップ的な考え方で、まずは手に取りやすい価格帯で商品化し、ユーザーからの意見や口コミを集約しながら、「ソーシャルエビデンス(社会的な証拠)」を獲得して最終的により医学的な証明に繋げていけばいいのではないか、と考えました。僕自身、「うわ、これすごい!」という感動がものすごく大きくて、なんとかこれを世の中に早く届けたい、ダチョウ抗体の有効性を知ってもらいたい、という思いが強かったんです。

 

ダチョウの卵でスクランブルエッグを作ってみる、という100BANCHでの実験風景

──100BANCHではどういった活動をされたのですか。

井上:入居当初はまだいくつか可能性のある商品の中から、どれに絞るか定めきれていなかったので、リサーチを行ったり事業計画をつくったりするために作業をしていました。
メンターはカフェ・カンパニーの楠本修二郎さんに務めていただいたのですが、「食品を商品化する」という知見がまったくなかったので、問屋さんを紹介していただいたり、某大手飲料メーカーさんにプレゼンの機会をいただいたり、本当にさまざまなアドバイスをいただきました。

他の食品系のプロジェクトとも関わるようになって、周りから刺激を受けましたね。IT系のガツガツした世界もそれはそれですごいし尊敬しているんですが、100BANCHに来てみたら、みんなある種の「表現者」というか、自分たちが信じる世界観をいかに表現するか、それによって世の中の人を幸せにできるか、と信念を貫こうとしている。

そもそも、100BANCHのコンセプトの「100年先の未来の景色をつくる」って、僕の「科学を100年先へ進める」という思いと重なる部分も多くて、すごく運命めいたものを感じたんですよ。

 

 

7つの原理にもあるけど「たった一人でも応援したら」って、本当にそうだよな、と胸に来るものがあって。僕自身、AIやITの世界って、一人だけでもなんとかできることは多いんです。自分一人で完結する作業もあるし。でも、ものづくりって本当に一人だけでは何もできない。誰か一人でも信じてくれて、仲間になってくれるからこそできることがある。今回、アメを商品化する過程で本当にそれを実感しました。

 

──はじめての「ものづくり」はいかがでしたか。

井上:いやぁ……「とりあえずアメをつくってくれる会社が見つかったら、あとはマーケティングして、売るだけだな」とか甘く考えてましたけど、アメひとつつくるのさえこんなに大変なのか、と思い知らされました。

 


ー『花粉への挑戦状』パッケージ

 

「うわぁ……終わった、もう今年は販売できないかも」と思った瞬間が3回くらいあったんです。小規模でアメをつくってくれるOEMの会社を探すところから始まり、実験して、生産ラインに乗せたらうまくいかなくて、成分か工場を変えるかどうか悩んで、結局そのままなんとかお願いすることにして、塚本教授の監修をいただきながら、改良や品質管理をして……。一方で印刷会社、デザインファームともやり取りしながら、「店頭販売に必要なバーコードをつくるためには、GS1事業者コードを申請しなきゃならない」とか、取引先の工場から都度細かく、勉強不足なところをいろいろと教えてもらって……。

 

──これまでとは180度違う仕事ですよね……。

井上:そうなんです。でも、やっているうちに、話し方やフットワークが磨かれてくるところもあって、研究者時代の仮説を立てて検証して実装するアプローチとか、どうやってロジカルでわかってもらえるかとか、リーンスタートアップ的な考え方とか……これまでやってきたことが全部血肉になって役立ってくるような感覚がありました。本当にいろんな方に協力してもらいましたし、学ぶことばかりでしたね。

 

──そしていよいよ、アメの発売ですね。

井上:『花粉への挑戦状』という商品名で、まずはオンラインから販売を開始します。ここからはいよいよ本領発揮というか、SNSマーケティングを行い、ユーザーからの反応分析やモニターリサーチなどをもとに、商品の使用感や体感を集約して、統計的な優位性を実証していけたらと考えています。秋には食品関連の展示会も控えていますから、そこでまた販路を獲得していけたら。とにかくまずは多くの方に試してもらって、「ダチョウ抗体ってすごいな」と興味を持ってもらえたら、もっと他の商品開発にもつながっていくはずです

 

 

たとえば、腸内フローラの悪玉菌のみを退治するダチョウ抗体を入れたサプリメントや、空気中に噴射することで「感染症にかかりにくい空間」を実現できるかもしれません。特にいま、セルフメディケーションの観点から、身体の外、つまり塗ったり食べたりして治すアプローチがあり、特に機能性食品などのニュートラシューティカル(日々の健康維持に有用である科学的根拠をもつ食品・飲料)に注目が集まっています。そこに、ダチョウ抗体を活用した商品開発の可能性があります。病気にかかりにくくなったり、健康でいられたりするためのプロダクトとして、ダチョウ抗体という動物由来の成分が役割を果たすなら、その可能性に賭けてみたいんです。

 

──井上さんが思い描く、これからの未来は?

脅すようなことかもしれないけど、2050年という遠からぬ未来、抗生物質が効かなくなる「AMR(Antimicrobial Resistance:薬剤耐性)」が拡大し、ガンよりも死亡率が高くなる危険性がWHOによって警告されています。人類が一度は克服したはずの細菌やウィルスとの戦いが、またはじまろうとしているのです。

抗体というのは、最初にも話した通り、コストも高く、熱や変性にも弱いため、バイオテクノロジーの分野では主流とはいえない研究分野でした。いまやDNA操作やゲノム編集による研究が進んでいますからね。
ただ、これらはまだまだ安全性を証明するのに時間も資金もかかります。でもダチョウ抗体なら、食品として既に安全性が証明されていて、コストや変性といったデメリットもある程度克服している。スーパー梅毒や耐性ピロリ菌といった耐性菌に対抗するダチョウ抗体は、実験室レベルではもう塚本教授により開発できているんです。
ですから、2050年という目の前の未来に向けて、ダチョウ抗体の実証を積み重ねて、その信頼性を上げていくきっかけをつくっていけたらと思います。

 

 

──その第一歩が、『花粉への挑戦状』なんですね。

そうですね。それともう一つ、ゆくゆくは塚本教授と出会うきっかけにもなった『異なる研究分野を接続するプラットフォーム』を実現したい。日本の研究界はいま中国やアメリカと比較して決して勢いがあるとは言えません。でも去年一昨年と日本中の研究者に会いに行ったとき、まだまだ優れた技術が隠れているんだな、と実感したんです。10年後、20年後の未来を見据えて、優れた技術を世の中に知らしめ、研究資金を集められるようなプラットフォームをつくることができれば、まだ世界に太刀打ちできる可能性が残っているはず。その望みはまだ捨てたくないですね。

 

『花粉への挑戦状』購入サイト
(BASE)https://gsfr3.app.goo.gl/bifjP

 

WRITER

大矢 幸世

writer / editor

愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て2011年からフリーランス。鹿児島、福井など地方を中心に活動。2014年末から東京へ拠点を移す。話す口実が欲しくて、インタビューをしています。

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