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私たちは何のために食べるのか? 「EAT VISION 2 〜 Conceptual Eating 〜」開催レポート

食は、栄養補給やエンタメから「コンセプトを食べる」時代へ――。食の原点と未来を志向する7プロジェクトが集うシンポジウム「EAT VISION」。
盛況のうちに幕を閉じた第1弾「100年後のボクらは、何をどう食べている?」に続き、第2弾「Conceptual Eating」をテーマに掲げ、2018年7月1日、クロストークとアンカンファレンスを開催しました。

生理的欲求のひとつである食に対してコンセプトを持つ、とは一体どういうことなのでしょう?

私たちは何者で、何のために食べるのか

インスピレーショントークとして、竹村賢人(SHIITAKE MATSURI)による今回のテーマ「Conceptual Eating」の解説からイベントはスタート。「食べる意味には変遷があったのでは」と竹村が仮説を投げかけます。

はるか昔、狩猟のみによって食糧を得ていた時代に重視されていたのは「とにかく食べられるときに食べる」ということ。安定して食べたいというニーズから稲作などの農耕が始まり、たくさん食べたいというニーズに対し貯蓄が始まり、おいしく食べたいというニーズから美食志向へと移行していきました。

食を大きく変えた転機はインターネット。インターネットの普及によって様々なものが比較されるようになりました。人の輪郭が明確になったことで、「あなたは何者なのか」「私たちは何者なんだろう」という問いが価値を左右するようになった今、食もまた輪郭を構成する要素のひとつとなり、食に対して意味や概念を求める「概念食」の時代が訪れようとしているのではないか、というのが竹村の問題提起でした。

では、私たちは何を求め、何のために食べるのでしょう? 本シンポジウムの中核を担った、7プロジェクトの代表者による2つのクロストークを中心にご紹介します。

 

「未知のおいしさ」に触れてみる

前半のクロストークに登壇したのは以下の面々です。

Computational Creativity 出雲 翔

The Herbal Hub to nourish our life. 新田 理恵(tabel

SHIITAKE MATSURI 竹村 賢人((株)椎茸祭

Future Insect Eating 高橋 祐亮

「未知のものを取り入れていく」という共通点をもつ4名のプロジェクト。未知のものは挑戦することも習慣化することも難しいものです。各プロジェクトにおける障壁や課題とはどんなものでしょうか?

出雲:食事には、糖分や脂のように、食べるとハイになって中毒的になるような「アッパー系」のものと、きのこのように食べてホッとするような「ダウナー系」のものがあって。料理に使う時間がどんどん少なくなってきている中、手軽に美味しさを出そうとすると砂糖や脂に頼りがちになります。そういうときこそ旨味のようなホッとするものが求められるのかな、と研究していて思うところです。

竹村:コオロギはアッパーですか、ダウナーですか……?

出雲:さっきコオロギラーメンを食べさせてもらったんですが、コオロギにカロリーはほとんどないと思うので、いわゆる糖と脂による、アッパー系の食事ではないと思います。虫だけど、意外と食べてホッとするというか、安心感のある……。

竹村:安心感のある虫!?(笑)

高橋:分析が進んで食べられる昆虫が5,000種類ぐらいまで増えたら、今の「毎日同じものを食べる」という食習慣さえなくなって、「毎回食べることが驚き」というアッパーな体験になり得るんじゃないかという面白さはありますね。たとえば、タガメは「青りんごよりも青りんごの香り」というぐらい強烈にフルーティーな香りを放つんですが、今はそういうものを使って「昆虫食にしかできない食」を作る試みをしています。この面白さをいかに人々へ伝えていくかを考えているところです。

昆虫や薬草といった新しい食材を習慣化させるにはいかに料理に落とし込むかが重要ですが、料理として成立させるためのルール・定義はあるのでしょうか?

出雲:統計上、料理は平均10種類の食材を組み合わせで成り立っていると言われています。人間1日3食、1年で約1,000回食事をして、100年生きるとすると約100,000回食事をすることになりますが、組み合わせの総数からすると今人類が出会っている料理というものは0.0000001%ぐらいしかありません。だとすると、偶然出会う確率をどれぐらい高められるかということは料理として定着するひとつの要因になるかもしれません。

竹村:「偶然出会う確率」というのは?

出雲:和食が旨味に基づいて作られているのは、日本近海で昆布が採れたり、旨味を出してくれる食材が容易に手に入ったからだと思うんです。ズッキーニは日本にはなかったけれどヨーロッパにはあったから、ヨーロッパの家庭料理で定番の食材になった。入手しやすさは、料理に繋がるという意味で大きな要因だと思います。

新田:薬草に関して言えば、身近にあるイチョウもタンポポも実は薬草。薬草は生き延びなければいけない状況を乗り越えるために受け継がれてきた知恵なんです。そういったものを活用して飢餓を乗り越えてきた地域は今でも薬草文化が強いです。沖縄県や長野県など自然が厳しくて食べるものがないエリアや、医師が常駐できないほどの小さな島々で民間療法が発達しているということはよくあります。

竹村:では、昆虫と「偶然出会う」というのは? どういう出会い?

高橋:2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食に関する報告書を出しました。今の昆虫食ムーブメントの大半はそこに端を発しているのですが、だからこそ現代の昆虫食は「無地域性」がポイントになっています。つまり、東南アジアの昆虫食と先進国の昆虫食はまったくの別物だということです。

タイでは身近にいるものを採って食べていますが、アメリカやヨーロッパでは養殖をしたり、多く生息する地域から大量に取り寄せています。「自分の身の回りに昆虫がいるから食べよう」という発想は今の昆虫食とはまったく切り離されているんです。たしかに伝統的な昆虫食といえばタイやベトナムが本場ですが、今の昆虫食は完全にどこの国のものでもない、それこそ概念的な地域性を持ったものだと思っています。

 

もっとカジュアルに考えたい、社会における食のあり方

後半は、フードロスや食用昆虫の養殖など、食がもつ社会的意義や課題解決的要素の強い3プロジェクトによるクロストークになりました。モデレーターであるカフェ・カンパニー 永井 礼佳氏にも加わっていただきます。

Food Waste Chopping Party 大山 貴子

ECOLOGGIE 葦苅 晟矢

Now Aquaponics! 邦高 柚樹

大山:最近自分の中で「理にかなった生活をする」というのが大きなテーマになっています。理にかなった、というのは結果として全体が良い状態になるということです。ECOLLOGIEは未来の食糧問題に良い影響を与える試みですし、都市部でAquaponicsを始めるのは世界の人口増加において理にかなった食糧生産のあり方だと思うんです。理にかなった地球環境の基盤を作っているというのが3プロジェクトに共通するテーマではないかなと思いましたが、どうでしょうか?

邦高:今日の登壇メンバーはみんな、視点が先に行っていますよね。アクアポニックスの生産は基本的に屋内で行うのですが、そうすると「エネルギーを使っている」とか「LEDのコストや賃料を考えたら田舎で農業をしたほうが良い」と言われることがあります。ただ、その一本軸では将来的にかなり不安です。

2050年には世界人口が100億人に到達すると言われています。そのときにどれだけ安定的に食糧が調達できれば自分のしたいことにも挑戦できるのか。100年後200年後にも衣食住がちゃんと叶っている状態を前提にこのプロジェクトを考えているので、そのために今どうしようかという話をしていると、あまり理解されないことが多いですね……。

永井昆虫食に関して言えば、一般的にはまず昆虫を食べるところからスタートして、昆虫が必要になって、それから、いかにサステイナブルに昆虫を生産していくかというところに辿り着くと思うんです。でも葦苅くんは、まだみんなが昆虫を食べ始めてもいないのに、生産性のサステナビリティーを担保するための研究や開発を進めている。昆虫食の普及に確信を持って取り組んでいるんだろうなと思います。

葦苅:食とエネルギーと水資源は全部循環しているんですよ。食について考えるとき、みんなが美味しいごはんを食べられる未来というのと同時に、食、水、エネルギーを意識する必要があると思います。

たとえば、コオロギ養殖も現状が正解だとは思っていません。ブロイラーの生産と比べてコオロギはエネルギー投資が高いんじゃないかとか、そういった課題はまだまだある。今後新しい食糧生産を考えるときはエネルギー投資や水資源の使い方も同時に意識しないと持続的な食糧生産にならない、それこそ「文化」にならないと思います。

大山:「食」って味覚だけじゃないんですよね。脳で食べている、というか。今まで色味なり匂いなり五感で食べていたものが、それに加えて「この食のバックグラウンドはどこにあるのか」ということを意識するような時代になってきています。

サステナブル・シーフードのマークが付いている、というのは意識の問題で、それを食べることによって「自分が社会に良いことをしている」というのを含めて「このご飯は美味しい」と認識し始める。スーパーマーケットできゅうりを買って食べるだけではない、プラスアルファの部分を見据えたものがこれからの食になっていくと考えたとき、「食」はもはや「食」ではなくなってきている、と思います。

邦高たとえば生活すべてにエシカルファッションを取り入れようとすると、生活費とか現実的な問題があったりする。食でも同じことが起きていると考えると、一生のうちに100,000回ぐらい食事をするわけですから、週2回だけ健康に良いものを食べようとか、ストーリーに共感できた農家さんから野菜買ってみようかなとか、そういうのが浸透していくといいと思います。

永井:回数が多いのでチャレンジがしやすいですよね。

大山イギリス・アメリカの「ビーガン」はベジタリアンの最たるもので、お肉とか乳製品、動物性食品を全然食べません。そう聞くとイチかゼロかのように感じますが、実際は海外に行くと「週末だけビーガン」とか言っている人もいて、多様な食生活が身近にもっとあるんだなと感じます。日本だと、これはダメ、アレはダメと制約に縛られすぎて、受け入れられない自分と現実にギャップが生まれてしまう人も多い。

邦高もっとカジュアルでいいですよね。

大山そう、もっとカジュアルで、昆虫チューズデイみたいな。

永井昆虫チューズデイ!?

大山:そういうカジュアルなところからいろんな問題を考えて食べていく場所ができたらいいですよね。

 

アンカンファレンスで得た気付き

クロストークに続いては、座席のレイアウトを崩し参加者を交えたアンカンファレンスを開催しました。各プロジェクトのテーマに関連したトピックの共有や意見交換など、どのグループもそれぞれに濃いディスカッションが繰り広げられていました。

大山のグループでは、フードロスを減らすためにできる具体案を議論しました。そこで飛び出したのは「人は周りに影響されやすい」という観点から、フードロス対策のアクションがマジョリティに見える環境を意図的に作り出し、当たり前を作っていくのはどうか、という逆転の発想。すべての職業、すべての産業が関わっている問題なだけに、一人ひとりがこの問題に対してどれだけ主体的に関わっていけるかが今後のポイントになりそうです。

一方、竹村のグループでは「Conceptual Eatingの前提」について問いが挙がりました。インド赴任時の経験から「役割を与えられることはうれしいこと、重要なこと」と感じていた竹村は、食によって社会的な役割を感じることができればその体験は広まっていくのではないか、と回答。安くて自分には良いが社会的にあまり良くないものより、値段は少し高いけれど社会的に良いものを選ぶ人は今後増えていくのでは? ということでした。

最後に、参加者を交えた懇親会では大山による「EAT VISION」参加プロジェクトにまつわる素材を使ったメニューが振る舞われました。セッションの内容を振り返りながら、ディスカッションの続きや交流で大いに盛り上がり、イベントは幕を閉じました。

・トウキ(当帰)を使った中南米チミチュリソースのピンチョス

・ウコンのココナッツプリン

・しいたけだしとナスの揚げ浸し

・淡水魚のフライ

・コオロギのグラノーラ

・まるごと野菜のグリル

・根まで使ったからし菜のスパニッシュオムレツ

 

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