• イベントレポート

妄想と試行錯誤が未来をつくる—— 実験報告会 & メンタートーク(株式会社リ・パブリック・市川文子さん)

これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。

2021年6月の実験報告会には、メンタートークに株式会社リ・パブリック 共同代表の市川文子さんが登壇。続いて、6プロジェクトがそれぞれの活動について成果報告を行いました。

夢を言い続ける勇気を持つ

100BANCHがスタートした2017年からメンターとして数々のプロジェクトを見てきた市川さん。今回は「ビジョンを語ろう」をテーマにトークを展開しました。

メンターの市川文子さん

市川文子さんのプロフィール

株式会社リ・パブリック共同代表。慶應義塾大学大学院にて修士課程修了後、当時まだ珍しかった人間中心デザインの職を求め、通信系メーカー・ノキアに入社。以後10年に渡り、世界80カ国を跨ぐデザインリサーチを行うなど、さまざまな製品やサービスの開発に従事。2010年博報堂イノベーションラボ研究員を経て、2013年株式会社リ・パブリックを創設。行政・民間・市民を視野に世界のイノベーションの実態調査から、持続可能なイノベーションのためのプロジェクトを多数手がける。監訳に「シリアルイノベーター~非シリコンバレー型イノベーションの流儀」。2019年よりサーキュラーデザインカンパニー fog取締役を兼務。

 

「夢が小さい」

市川さんは「参加者が伸びるメンタリングの一言」として、この言葉を紹介。これはカルビー株式会社 元代表取締役の松尾雅彦さんの言葉です。

市川:普通、プロジェクトへのアドバイスって、具体的なものが多いと思うんです。もちろん、そういうこともすごく必要ですが、そのもっと手前の、自分がこれから何をやっていこうかというスタート地点でいちばん大事なのは「夢が小さくない?」という問いかけです。カルビーの松尾さんはいつもいろんな人にこの言葉をかけながら、「もっとやれるよ」「本当にやりたいことは何?」と問いかけていました。ここにいるみなさんはWill(意志)やビジョンがあると思うので、それを言い続ける勇気を持って進んでほしいと思っています。

また、「まずは妄想でいい」という意識も大切だと市川さんは話します。

その例として、オタフクソース株式会社 商品企画部商品企画課の田中亜紗美さんを紹介。市川さんがディレクターを務める「イノベーターズ100 広島」の第一期生であり、このプログラムをきっかけに、田中さんはオタフクソース株式会社の「KAKOMU(かこむ)ごはんシリーズ」を開発しました。

「KAKOMUごはんシリーズ」は米粉や大豆フレークを代用することで、卵・乳・小麦をはじめとする「7大アレルゲン・フリー」食品。現在、「お好み焼・たこ焼の素」「トンカツの素」「煮込みハンバーグの素」の3種類を展開しています。 

市川:彼女は「子どもによくあるアレルギー源を取り除いた商品」をコンセプトに商品開発に挑みました。でも、多くの食品に含まれるアレルゲンを製造プロセスから取り除くのは大変なこと。田中さんが考える商品を作ること自体「いやいや、無理だから」とまわりから言われるわけです。ただ、彼女はそれをはねのけて、それから2年半後に商品を作りました。

試行錯誤しながらも夢に突き進む田中さんの姿に感化され、「それはあなたの夢でもあるけど、私の夢でもある」と応援する人たちが増えていきました。田中さんが「これ以上は頑張れない」と諦めかけたときには、上司から「きみが倒れても、俺がやる」と言われ、社長からは「この商品はすぐに売れないかも知れないけれど、絶対になくしてはいけない」とメッセージをもらったそうです。

市川:そんな田中さんの姿を間近で見た人って、新しい商品を作るときにすごく影響を受けますよね。「あなたはWillを持っていますか?」と問われているようなものなので。彼女のように強いWillを持って語り続けているとまわりが変わっていくし、それが伝播して他の人も勇気が出る。みなさんには、そういったことを大事にしてもらいたいですね。

 

プロジェクトの向こう側へ発信する

続いて市川さんは、プロジェクトを率いる場合は、「リーダーシップ型」と「コミュニティシップ型」があることを意識してほしいと切り出します。

「リーダーシップ型」は組織を率いるリーダーがビジョンを作り、組織の「枠」がビジョンの「枠」となる一方で、「コミュニティシップ型」はビジョンを誰彼かまわず語って感染していくので、想定範囲の仲間や組織の「枠」をはみ出していくと説明します。

市川:これまでは「リーダーシップ型」が一般的だったけど、これからうまくいくのは「コミュニティシップ型」だと思います。自分のコミュニティにはいないような人たちに何度もビジョンを話すことで、夢が少しずつプロジェクトの枠からはみ出してくるんですよね。そうするとプロジェクトを気にかけたり、関わったりする人が俄然増えてくる。自分たちの枠外の人に話をしていくと、全然違うタイプのスキルを持っている人と出会えることがあるんです。

そして、外に向けてビジョンを発信し続けると、遠くにいる人が自分たちのビジョンを語るようにもなるといいます。

市川:まわりが勝手に「きみの夢を実現するよ」と言うくらいの夢を思い描いてほしいですね。もっと声高に「これがやりたい」とか「こんな世界を目指している」とか、今やっているプロジェクトの向こう側にある話をどんどんしてほしいと思います。

プロジェクトにアドバイスをする一面も

市川さんは、2014年にインドの火星探査機「マンガルヤーン」が当時異例の低コストで軌道投入に成功したことや、フィンランド・ヘルシンキで自由に料理を提供・販売できる「レストランデー​」をきっかけに街の価値が広がったことなどを紹介。「どれも“妄想をかたちにすると、どうなるのか”という事例であり、それは本人が認識しているよりも大きなインパクトがある」とコメントします。

 市川:ひとりの妄想はシェアするとビジョンになることがあるから、そのビジョンを仲間じゃなさそうな人に語ってほしいですね。今はそういったビジョンやWillをどう表質化させて街を作れるか、という議論が世界中で起きています。リアルな妄想を集めることがこれからの街の原動力になっていくので、みなさんのワンプロジェクト、ワンアイデアにはそういう価値があると認識して、今後も取り組んでもらえたらうれしいですね。

 

GARAGE Program プロジェクト成果報告

後半は100BANCHに入居して3カ月や半年の区切りを迎えたプロジェクトメンバーが登壇し、これまでを振り返りました。

■Kinue (キヌー)

登壇者:竹田賢太

世界中のノベルゲームをひとつのアプリに

 プロジェクト詳細:https://100banch.com/Kinue

Kinueは「高価で気軽に購入できない」「パソコンだと動作環境に問題がある」「ゲームの管理が面倒」などノベルゲームユーザーが抱える問題点を解決し、ノベルティゲームをパソコンやスマホなどマルチプラットフォームを提供するノベルティ配信サービス「Kinue」の開発をしています。

100BANCHではゲームの実現可能性の検証のためにプロトタイプを開発。またノベルティユーザーやゲームメーカーなどを対象に100人を超えるアンケートを実施し、アプリのニーズや利用状況について調査することができました。

竹田:100BANCHでの活動で方向性が見えたので、今後はしばらく開発に専念します。ゲーム投稿型サービスとして同人さまの作品から進めていく方針で、そちらのiOSアプリは10月頃にリリースしたいと考えています。

 

■polaris

登壇者:塗木拓朗

「時代から取り残されたもの」をテーマにしたトラベルマガジン『polaris』

プロジェクト詳細:https://100banch.com/polaris

「出来すぎた旅の情景への違和感」という課題意識をテーマに100BANCHで活動するpolaris。テクノロジーの発達によって旅がどんどん便利になる時代に。旅のもう一つの意味を提案。何が起こるかわからない「未知への冒険」を人々がカジュアルに楽しむ未来をデザインしています。

100BANCHでは「時代から取り残されたもの」をテーマにしたトラベルマガジン『polaris』の出版や、あえて辺境だけをキュレーションする旅メディア「辺境旅行代理店」、アートカルチャーをもっと開放的にするアート展示活動「museumβ」の企画を行いました。

塗木:今後は雑誌『polaris』の販売をはじめ、今年のナナナナ祭では、渋谷キャラバンで隠岐島海士町とタイアップしてのβ版を実施。また、7月下旬から8月上旬に恵比寿のギャラリーで企画展をする予定です。

 

■flower and people

登壇者:望月萌々子

人も植物も同じ輪の中いる世界、自然と人との境界をなくした世界を見たい

プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/flower-and-people

flower and peopleは「人と自然の境界をなくした未来をみたい」という思いのもと植物に借りた表現を行っています。人の内的な自然の一部である感情や感覚、想いに従うことを思い出すことができれば、それが結果的に自然の循環の中での人の役割をになうことであり、全てのものへの還元であり生きたものたちの豊かさにつながると考え、活動しています。

100BANCHでは花と向き合うワークショップや植物から地球と人という自然を考える対話型イベントを実施しました。また、音楽とその場でセッションしたフラワーアレンジメントも行いました。

望月:活動のトライアンドエラーによって、私が伝えたいメッセージや想いを伝えられたという手応えを感じることもあれば、想いを伝えられないこともあって悔しい思いをすることもありました。そのような実験から、今度はナナナナ祭で参加型インスタレーション「百の花束」を展開する予定です。

 

■Langerhans

登壇者:細目圭佑

血糖値にアクセスする未来へ。

 プロジェクト詳細:https://100banch.com/Langerhans

 糖尿病の指標である「血糖値」を「生きるためのエネルギー源データ」として日常生活に馴染ませる取り組みを通じて、患者・健常者に囚われず真の意味での「生きる」を本質的に考えるきっかけを投げかけるLangerhans。現在、血糖値の可視化をテーマに活動しています。

小児期での発祥がほとんどである1型糖尿病を患う子どもと親にとって、血糖値管理によるQOLの低下は大きな課題であるため、Langerhansは血糖値の状態が光の色で簡単にわかるデバイスを開発。これにより、血糖値管理に気を配らなくてもよい時間帯がわかりQOLの向上が見込まれます。

細目:今後は11月14日の世界糖尿病デーで、プロジェクトのメッセージやデバイスを紹介する予定です。これからの100年とどう健康と向き合い、どう生きていくかという世界観を提案したいと思っています。

 

■kikkake-kichi

登壇者:山角亮介

「やりたい!」を「できない…」で終わらせない世界の実現を目指します!

プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/kikkake-kichi

「やりたいことがあるけど踏み出せない」という人が動き出すきかっけをつくる20代限定の実践型コミュニティ形成をしているkikkake-kichi。目標設定サポートや少人数制のグループの活用することで、実行するまでやり切れる環境を作り、みんなのやりたいを現実に変えるコミュニティづくりを目指しています。

 100BANCHではアプリのローンチや班ごとのナレッジ共有の体系化などのコミュニティのアップデートや、SNSやYouTubeなどを活用したコミュニティの拡大、そして人と人のつながりの価値を全面的に押し出した「あなたの一歩を強くする 相互応援コミュニティ」とするビジョンのアップデートを行いました。

山角:現在、100BANCHの魅力とkikkake-kichiの目指す姿を掛け合わせた実験を計画中です。100BANCHのプロジェクトメンバーや、100BANCHに入居を考えている人を巻き込んでいきたいと思っています。

 

■ KAGUYA

登壇者:井下恭介

ライトシェード型バイオリアクター「KAGUYA」-酸素を生み出す未来の照明-

プロジェクト詳細:https://100banch.com/kaguya

LEDライトと微細藻を用いて、空気中の二酸化炭素を酸素に変換していく照明を開発しているKAGUYA。微細藻が培養されていくことで灯りが緑色に変わっていくため、どれだけ二酸化炭素を酸素に変えたかという変化を視覚化できるプロダクトであり、新興国の急速な工業化や森林破壊による空気汚染を解決する一歩になるデザインになっています。

井下:今年のナナナナ祭で、ライトシェード型バイオリアクター「KAGUYA」を実際に展示する予定です。100BANCHでの反省点として、メンターの方に相談する機会がほとんどなかったので、今後はそういったつながりを大切に活動していきたいと思っています。

 

成果報告が終わり、市川さんは講評として各プロジェクトにアドバイスやエールを送りました。プロジェクトメンバーやオンライン参加者からの質問も飛び交った今回のイベント。参加者は市川さんの言葉をかみしめ、今以上に大きなビジョンを持つことの大切さを実感したのではないでしょうか。今後のみなさんの活躍も楽しみです。

 

(会場撮影:鈴木 渉)

<次回実験報告会>

100年先の未来を描く7プロジェクトがピッチ!

7月実験報告会&メンタートーク:西垣淳子 (RIETI)

日時:2021年7月27日(火) 19:00〜21:00

無料 定員100名

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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

https://100banch2021-07.peatix.com/
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストはRIETI(独立行政法人経済産業研究所)の西垣淳子さんです!

【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方

【概要】
 日程:7/27(火)
 時間:19:00〜21:00
 参加費:無料
 参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。。

【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介

19:15〜20:00:メンタートーク
 ・西垣淳子:RIETI(独立行政法人経済産業研究所)

20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評

 ・Playfool:あそびを通して大人の創造性を解放したい
 ・Portfolio of Life:あなたの人生を綴るポートフォリオのようなメディアをつくる 
 ・Assassin from India:三軒茶屋のシェアハウスで育んだ文化とヒューマンリソースをインストール
 ・white squat:余白に人は集う

20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING

 

【メンター情報】

西垣淳子
RIETI(独立行政法人経済産業研究所)

プロフィール
東京都出身。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。
ものづくり政策審議室長、デザイン室長等の経験の中で、日本のものづくり産業のデザイン思考導入を支援。現在は特許庁デザイン経営プロジェクトチームCDO補佐官として、中小企業のデザイン経営推進を担当。Duke大学、シカゴ大学でLaw and Economicsを専攻し、専門は競争政策、WLB等

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