生活に溶け込む「家庭用バイオリアクター」でバイオを身近に
AgriBioPods
生活に溶け込む「家庭用バイオリアクター」でバイオを身近に
100BANCHで毎月開催している、若者たちが試行錯誤を重ねながら取り組んできた“未来に向けた実験”を広くシェアするイベント「実験報告会」。
これからの100年をつくるU35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を終えたプロジェクトによる100BANCHでの活動報告や、100BANCHでの挑戦を経て、プロジェクトを拡大・成長させた先輩プロジェクトによるナビゲータートークを実施しています。
2024年1月23日に開催した実験報告会では、Z世代の視点で落語を再定義し、その魅力発信を行うクリエイティブチーム「Z落語」を主宰するGARAGE Program 40期生「Z-Rakugo」の桂枝之進をナビゲーターとし、GARAGE Programの計6プロジェクトが活動を報告しました。
本レポートでは、GARAGE Programの6プロジェクトの発表内容をお伝えします。
生活に溶け込む「家庭用バイオリアクター」でバイオを身近に
登壇者:丸山崇史
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/agribiopods
「AgriBioPods」は、家庭用バイオリアクターの開発を通じて、バイオテクノロジーを研究者や専門家だけのものでなく、身近な技術にすることを目指すプロジェクトです。
丸山:最近だと飛行機を飛ばすためにバイオを使うなど、バイオって意外と身近なところで使われているんですがほとんど知られていません。私たちはこのギャップを埋めるような製品を作ろうと考えました。始めたのは10〜11月頃。「誰でも使えるようなデバイスを1つ作ってみよう」とバイオリアクターという細胞を増やす機械をつくることにしました。「細胞培養を誰でも自宅でもできるように」と考えてプロトタイプ開発を行っています。今、私たちがパソコンを使うのが当たり前のように、将来的にはバイオテクノロジーがどこにでもあるような社会をつくろうと思っています。活動の中で見えてきた課題が2つあって、1つ目は知らない人に対してバイオの魅力をどうやって伝えていくか。2つ目はそれをどうビジネスにしていくか、ということです。この課題に対して私たちは経営者やVCの方に意見を聞いたり、消費者側の声も聞いたりしてきました。その結果、「目に見えて成長が感じられ、苦労なく楽しむことができるバイオ製品があったら良いよね」という結論に達しました。今後作ろうとしているのは、机の上でも細胞を培養してグミみたいにつまんで食べられるお菓子感覚の製品や、誰でも自宅などでの生活の中で細胞を培養できるような製品です。
「最終的には、生活の中のどこを見てもバイオの製品があって、みなさんの選択肢の中にバイオが入ってくる、そんな社会をつくろうと思っています。」と丸山は話しました。
和食で世界中のみんながもっと健康に、長生きできる世の中をつくりたい
登壇者:藤戸美妃
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/cross-border-washoku-meal-kit
「cross-border washoku meal kit」は、和食の力で世界中のみんながもっと健康に、長生きできる世の中を目指すプロジェクトです。
藤戸:私は現在ハンガリーの大学で医学を学んでいますが、17年間日本で育ってきた日本が大好きな大学生です。なぜ和食だったのかというと、食を通じた予防医療をやってみたかったこと、また、私の大好きな日本の文化を世界に発信したいと思っていたこともあって、「どちらも叶えられるのは和食じゃん」ということで始めました。100BANCH入居当初は、麺類、定食、鍋などの和食のミールキットを考えていて、9月にボストンに行く機会があったので、鍋の素など色々なものを持って行き仮説検証をしてみました。当初は「健康な食事をしたい」と思ってる人に刺さるかなと思っていたのですが全くダメでした。しかし、鍋のミールキットを自分の祖母に食べさせたいと言ってくれた方がいたんです。それをきっかけに少しずつピボットして、新しい仮説の検証を開始しました。それが「SOUP WITH FRIENDS」 という事業で、1人暮らしのシニアの方々の食卓をもっと良くしようというものです。例えば、私の祖母は3年ほど前に夫を亡くし、料理や食事のモチベーションが低下してしまいました。母は心配して毎日祖母の家に行っていました。それを見て私は、シングルのシニアと家族が直面する食事と孤独を解決したいと思ったんです。この事業を、最初はアメリカでやろうとしています。実は今、日本の「IKIGAI」というコンセプトがアメリカですごく流行っているんです。日本人の生きがいは、人との繋がりやおいしい食事を食べることだ、と海外から見られていて、それだったらそれをサービスにしてみようと、現在ミールプレップサポートとバーチャルダイニングをブレンドさせた事業をやっています。 また、日本の鍋の材料を届けるのと同時に、バーチャルダイニングで似た関心を持つユーザーも繋げようとしています。現在、仮説検証の段階でシニアの方々に鍋と日時を選んでもらい、鍋の材料が届いたら一緒に食べる、といったことをやってもらい、試行錯誤している途中です。
「100BANCHに入居し、色々な実験を通して手法がすごく変わってきたんですが、やりたいことは変わりません。和食という日本の文化で世界中の人がもっと健康で長生きできる世の中をつくりたいと思います。」と藤戸は話しました。
知的障害者のファッションを改革したい
登壇者:加藤海凪
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/safeid
「SAFEID」は、知的障害者のための服をつくることで、彼らの生活の選択肢を広げることを目指すプロジェクトです。
加藤:100BANCHに入居して具体的にやってきたことですが、11月は知的障害を持っているモデルの女の子と一緒に古着屋を巡り、どんな服が合うのか、自分に合った服を選んだときにどういう心情になるのか、などの実験をしていました。また、まだ完成はしていませんが、プロダクトデザイナーさんと一緒によだれかけにもなるベストをつくったり、作業着にも普段着にもなるような、お洒落で機能性のあるツナギを開発したりしていました。12月はラジオに出たり、紡績工場に行ったり、ヘラルボニーの松田さんにお会いしたり、色々なところに行きました。これらを通じて、少しだけビジョンが変わってきました。知的障害や発達障害を持っている人たちが孤立してしまったり、偏見の対象になってしまったりするのはどうしてだろう、と考えた時、骨折してる人のことを見ると「足が悪いなら荷物を持ってあげよう」と思い浮かびますよね。でも、ただ座って泣いてる人を公共の場で見たときは「なんか泣いてる、怖いよね」みたいな感情になることに気がつきました。そこで「できる」と「できない」を明確にすることによって偏見をなくしていくこと、そして親御さんの支援にも繋げていきたいと思って、児童発達支援事業所を開設しようと考えました。未就学時の適切な支援を事業所で担っていくと同時に、カフェのようなものを併設して健常者のお母さんも障害のあるお母さんも、子供たち同士も一緒に関わっていられるインクルーシブな場所を実験的につくる事業をしていきたいと思っています。
「今後は、知的障害、発達障害、グレーゾーンの子供たちの可能性を少しでも引き出し、社会への導入の手助けができるような存在になれたらいいなと思っています。」と加藤は話しました。
大切な人を想うきっかけをもっと日常の中につくりたい
登壇者:新美早紀
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/tojo
「tojo」は、大切な人を想うきっかけを日常に増やすことを目指すプロジェクトです。
新美:100BANCHで私が実験してきた仮説は、大切な人を想う時間が増えれば、日常の幸せも増えるのではないか、ということです。この仮説を実証するために、もっと日常の中で大切な人を想うきっかけをつくれないかと考えました。その手段の1つとして展開しようとしたのが「オフィスフラワー」というサービスです。働く人が多くの時間を過ごすオフィスの中で、もっと気軽に花を贈り物として購入できるようになれば、そういった機会が増えるのではないかなと考えました。しかし、私はお花業界が未経験だったので、最初の3ヶ月はお花屋さんでお手伝いをさせていただいたり、農家さんに行ったり、市場に行ったり、とにかくお花の勉強をしてきました。同時に「Message Flower」というプロトタイプ作成も行ってきました。80種類以上あるタグからメッセージを選んで、一緒にお花に添えて持って帰れるサービスです。実際に渋谷の路面スペースで5回実践販売を行い、お客さんと話をしながら「カジュアルギフト×花」というニーズを探っていきました。その中で、生花ではどうしても枯れてしまう、近くの人にしかあげられない、という声があったので、ドライフラワーでのプロトタイプも作成してみました。「言葉を贈る花屋」と、少しキャッチーにアップデートし、オフィスビルのマルシェや、バーの中のショップインショップ、IT企業のオフィスの中など、後半の3ヶ月は働く人々が集まる場所で実証販売も行いました。お客様からは、「普段口では言えない言葉もメッセージになっていたから伝えられた」とか「選んでいる時間が心温まる時間になった」というようなお声をいただきました。
「半年間やってきた中で、本当にみなさん全員が幸せそうな顔をされていました。大切な人を想う時間が増えれば日常の幸せも増える、という仮説は今のところ Yes! と言えそうです。今後もお花や色々なものを通して大切な人を想う機会をもっともっとつくっていきたいと思っています。 」と新美は話しました。
ヒトの細胞を売り買いする世界をつくる
登壇者:川又龍人
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/cybor-ichiba
「PxCell」は、遺伝子の無断採取や細胞の所有権など様々な問題点や可能性、技術的な課題を洗い出し、ルールメイキングを行うことで、ヒトの細胞を売り買いする世界の実現を目指すプロジェクトです。
川又:最初の3ヶ月は、法律、倫理、実験などひたすら試行錯誤しました。その結果、アクセサリーや香水のデザイン、ブロックチェーンのシステム構成図、自分の細胞を入れたアクセサリーなどをつくり、最初の実験報告会で展示をすることができました。次の3ヶ月では、「とりあえずやってみる」精神で色々とやってみました。スタートアップ業界に特化した実践型教育プログラムShibuya Startup University に採択いただいて、メンターの横石さんにも深く色々と教わりました。また「Academimic」の浅井さんら、他の100BANCHメンバーとも出会うことができました。セミファイナリストまで進んだビジネスプランコンテスト TOKYO STARTUP GATEWAY でも100BANCHの方々と出会うことができて、100BANCHのメンバーは本当に色々なところに潜んでるなと実感しました。また、スタートアップ=VCからの調達、のような安易なイメージでベンチャーキャピタルを40社回って「何か違うな」という感じを受けたり、人生について振り返ったり、この期間はPxCell でやりたいことについて考える時期でした。そこで思ったのは楽しいことが1番だということで、ぶっ飛んだ人たちとカルチャーをつくりたいと思うようになりました。100BANCHの「Academimic」の浅井さんや「A cultured energy drink」田所さんとテクノロジー×アートイベントであるDIG SHIBUYA で展示を行ったのですが、細胞のアクセサリーを展示したり、培養液生成の様子を見せたりして大盛況でした。その結果、次の展示の話や細胞提供の話など、色々と話が進んだので、本当にやってよかったです。「とりあえずやってみる」精神で、実際にプロトタイプをつくってみると、モノの説得力は本当に強いんだと実感できました。また、応募できるコンテストやアクセラレータープログラムにはすべて応募したこともやってよかったと思います。
「今後は、細胞のアクセサリーから始め、データベースをつくったり、DNAストレージ技術を開発したりと進めていければいいなと考えています。100BANCHには色々お世話になり、本当に感謝しかないです。」と川又は話しました。
未知なる生物「蛸」から、人の社会を問い直す
登壇者:野口竜平
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/octopus-project
「Octopus Project」は、足の一本一本に独立した知性がある「蛸」をモチーフに制作した「蛸みこし」を用いて、人の社会を問い直す体験型プログラムをつくるプロジェクトです。
発表に際し、会場では参加者に「蛸みこし」の8本の足を持っていただき、発表がスタートしました。
野口:ぼくはお神輿を一体感を作る装置みたいなものと考えています。みんなで重いものをワッショイと持つことによって一体感が生まれ、息が合わさっていきます。実は、蛸の足は1本1本独立した知性があるんです。それが不思議で、「蛸にとっての足、足にとっての蛸って何なんだろう」と考えていました。そこから「蛸の足の気持ちになってみたい」と生まれたのがこの蛸みこしです。みなさん、頭をぐるぐる回して頭の自重に体を委ねて柔らかくして目をつぶってください。そのままぐにゃぐにゃしながら、私は蛸だ、私は足だ、私は蛸の足だ、という気持ちになってみてください。ぼくはこれを3年ぐらいやってきて、どうしたら蛸の足であり、たまに蛸になれて、私であり、私たちが足であり、蛸になれる、その揺らぎみたいなものをどうやってつくるかを試行錯誤してきました。その中で生まれた形状がこれなんですが、実は去年の3月頃に発表された蛸の神経系がどういう構造をしているかというものとほぼ一緒の構造になっていて、地球上に生きる真理に近づいたような気持ちになりました。先日、もっと大きな蛸みこしをみんなで外で動かしたんですが、その時にすごく不思議なことが色々と起きました。自分が操っていると思いきや、いつの間にか操られてるかもしれない、そういう操る、操られるの間みたいなものを感じられる時があったんです。ぼくはこれがコミュニティというか、自分が所属するチームがどういうものか、そもそも人間の個人と社会はどういう関係なのかを考える上で良いものなんじゃないかと思い100BANCHに応募しました。
「これまではアート系の文脈、地域おこし系の文脈で進めてきましたが、今後は例えば企業のチームビルディング的な文脈で使ってみたり、消防団の新しい練習法を考えてもらったり、この可能性をどんどん引き出していきたいと思っています。」と野口は話しました。
実験報告会の各発表内容はYouTubeでもご覧いただけます。
AgriBioPods https://youtu.be/N1N3X3ffCH4?si=cq_58SWRkp2eUYLr
cross-border washoku meal kit https://youtu.be/SiD1ggWy_Zg?si=1OC5rDp3bVyThiYJ
SAFEID https://youtu.be/OZrcvSgi67M?si=26qw2EqbaUX1tu_M
tojo https://youtu.be/RtuMyLnIZHk?si=qVdKP-Ju6Y5kXXjN
PxCell https://youtu.be/W5cq3z_Hwh4?si=ho44hP0bc7cqTTc5
Octopus Project https://youtu.be/3U_mcNUUqYs?si=BJ8oZMkXOm4ub__n
次回の実験報告会は2月20日(火)に開催。ぜひご参加ください!
(撮影:鈴木 渉)
【こんな方にオススメ】
【概要】
日程:2/20(火)
時間:19:00 – 21:30 (開場18:45)
会場:100BANCH 3F
参加費:無料(1ドリンク付き)
参加方法:Peatixでチケットをお申し込みの上、当日100BANCHへお越しください
詳細はこちらをご覧ください:https://100banch.com/events/57956/