University of Universe
#空きコマ月 宇宙はどこも、わたしの大学だ。
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。
2021年8月の実験報告会には、メンタートークにNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子さんが登壇。自身の経験をもとに教育改革の重要性や新しい学びの仕組み作りについてトークを展開。続いて、7プロジェクトがそれぞれの活動について成果報告を行いました。
前半はメンターの石戸さんが、これまでの経験や活動をもとにトークを行いました。
メンターの石戸奈々子さん
石戸さんは自身のプロフィールを紹介しながら「いろんなことをやっていると指摘されることがあるが全くそんなことはなく、ひたすらクリエイティブな場づくりだけを続けてきた」と話します。
これまで「インキュベーション」「ポップテック」「パブリック」と3つの領域を活動のフィールドにしてきたなかで、今回は主に「インキュベーション」についてお話いただきました。
石戸さんのプロフィール
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。
総務省情報通信審議会委員など省庁の委員を多数歴任。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。
著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「日本のオンライン教育最前線──アフターコロナの学びを考える」、「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。
昨年、新型コロナウイルスの影響で一斉に学校は休校。あらゆる教育現場が右往左往するなか、オンライン授業を実施した割合は5パーセントしかなかったと、石戸さんは言います。
石戸:コロナ禍は、いまでにないくらいこの分野の課題をメディアが取り上げました。5パーセントを除いた学校は、先生が印刷した大量のプリントを各生徒の自宅のポストに投函して、配られた子供たちが家で学んでいた。令和の時代に何をやっているんだという状況でした。
なぜそんなことが起こるのか。それは日本は後進国だったからと石戸さんは続けます。
石戸:コロナで改めて「教育って何?」「学校って何のためにあるの?」という、今まで当たり前だったものに疑問を持つきっかけになりました。
石戸さんは東京大学工学部出身。卒業後は、マサチューセッツ工科大学メディアラボの客員研究員として、主に子どもとメディアを大きな柱として活動します。
石戸:先ほど学校は150年間変わらなかったと言いましたが、メディアラボのシーモア・パパート教授という世界的に有名な先生が「150年前の医者を今の時代に連れてきても全く役に立たないだろう。それくらい150年間で一気に医学は進歩した。しかし150年前の学校の先生を現代に連れてきても同じような授業をするだろう。150年間教育は変わらなかったから」と話され、つまり日本だけではなく、世界中も同じ状況だったのだと実感しました。テクノロジーは社会を変え、その社会で生きる全ての人たちは、必要とされるスキルが変わってくる。だからこそ学びの場は変わらなくていけない。その学びを変えてくれるのはやはりテクノロジーの力だと。
2020年度から全国の小学校でプログラミング教育が必修化されました。それは、世界的な流れであり、そこで最も多く使われているプログラミング言語のひとつが、メディアラボが開発した「スクラッチ」です。今まで先生が一方的に知識を伝達する学びから、子どもたち自身が手を動かして何かをつくりながら学んでいくことにこそ本当の学びがある、そのような考えのもと、学びを変えるためツールとしてこの言語が生まれたのです。
石戸:私がメディアラボに足を踏み入れた年に、発展途上国の子ども一人ひとりに100ドルのパソコンを届ける教育改革プロジェクトの話が生まれました。
石戸:世界には学校も建てられない、先生を雇えない、教科書を買えない地域がある。そんな地域にこそネットワークにつながったコンピューターを配ることで教育が改革できる。つまり、学びたい意欲がある子どもたちに、学ぶ環境を提供できるツールになり得るわけです。
メディアラボの考え方や取り組みに感銘を受けた石戸さんは、「教育の分野で新しい未来の学びをつくることに、これからの時間をつぎ込みたい」という思いに至ったと、当時を振り返りました。
日本に帰国後、石戸さんはNPO法人CANVASを立ち上げます。教育を学校や家庭だけに任せるのではなく産官学民の全てのプレイヤーが手を取り合ってこれからの新しい学びが生まれる。そういったプラットフォームをつくることを目的に活動を始めました。
CANVASではこれまでに子どもたちの創造や表現力をテーマにしたワークショップやイベント、セミナーを多数開催してきました。教育を、ファッションショーのようにポップで明るいイメージに変え、学びを楽しいものとして提供したい。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は年を追うごとに広がりを見せ、150ものワークショップが集まり、2日間で10万人を動員するほどに成長しました。
石戸:当時からCANVASのカルキュラムのひとつに、プログラミングがありました。2011年くらいから世界中でコンピューティングやコンピューターサイエンスを必修化する動きが出てきたこともあり、この教育をより推進するプロジェクトを立ち上げました。これからの時代の基礎教養としてプログラミングが重要になり、そのために必修化をしなきゃいけない。それが私の心のなかにありました。
CANVASは、すべての子どもたちに継続的で豊かなプログラミング学習環境を提供することを目指すプロジェクト「PEG(programming education gathering)」を立ち上げ、プログラミング教育の必修化に向けて歩き出します。グーグルの支援をはじめ、さまざまなパートナーの団体を集めながら、1年間で25,000人の子供たちに届け、1,000人の先生に研修を行い、全国各地でプログラミング教育を継続的に実施するコミュニティづくりに取り組みます。また、日本でプログラミング教育に特化したプラットフォームを構築し、無事にプログラミング教育が必修化されました。石戸さんは、「その実現の背景には、私たちが取り組んできた実装が生きていると自負している」と語りました。
石戸さんはワークショップなどの教育推進に取り組む一方で、2005年に「デジタルランドセル構想」を立ち上げます。これは教育のテクノロジーの導入をきっかけに、これまでのような知識の記憶・暗記型の学びから、思考・創造型の学びに変革する目的で生まれました。
石戸:2009年にこの構想を政府に提案して、初めて日本政府に取り入れられたのが2010年でした。2010年に政府は「2020年までに一人一台の情報端末を持って学ぶ環境を整える」と宣言してくれた。でも、これは他の国からするとずっと遅いんですね。そこで、100社の企業とともにデジタル教科書や1人1台環境整備を推進する団体を立ち上げ、当時掲げた目標を前倒しする取り組みをしてきました。
当時、学校教育においてデジタル教科書の導入には、法律の大きな壁があったと言います。
石戸:日本には「教科書は紙でなければならない」という法律がありました。それが変わらないことには、いつまでたってもデジタル化は進みません。そのため私たちは2012年にデジタル教科書法案を提案しました。しかし、そのときは「時期尚早だ」と散々言われて進まなくて。でも、おかげさまで構想から6年後に法改正を実現することができました。さらにこちらも我々が提案してきた教育情報化推進法も成立しました。
2021年、新型コロナウイルスで教育のデジタル推進はさらに加速。日本の政府予算では、一人一台の情報端末を実現するまでには25年ほどかかる試算だったが、コロナが思わぬ後押しとなり、その動きは急激に進んでいる。
石戸:でも、私はまだ問題意識を抱えています。日本のデジタル教育が進んだと言っても、世界と比べるとまだまだ遅れている。そういう危機感を持っています。私たちは、これまで世界のキャッチアップに時間がかかったけれど、それだけではなくてあらためて世界最先端の教育を日本から作っていきたいと思います。
「デジタル教科書」、「プログラミング教育の必修化」、それして「教育情報化推進法」が成立したタイミングで、石戸さんたちは31の業界団体による未来の学習環境デザインの構築を目指した団体「超教育協会」を立ち上げました。
石戸:みんなで、業界の枠を超えて、この分野に関心のある人たちの叡智を集結し、これからの未来を担う子供たちの学習環境を作っていこうではないか、という思いで活動を推進しています。学習者を主体とした学びの場のリデザインに取り組んでいます。
最後に石戸さんは、自身の座右の銘「イマジン&リアライズ」を紹介しました。
石戸:これはメディアラボ時代の先生に教わった言葉です。「頭の中で想像することは大事だけれど、もっと大事なのはそれを必ずかたちにすること、必ず実行することだ」と。私はどんな活動でも議論よりも行動をテーマに掲げて取り組んできました。自分のビジョンをしっかりと描くことは必要だけれど、さらに大事なことは手足を動かして、しっかりとかたちにしていくこと。私が携わるワークショップや学びの場を通じて子どもたちに伝えたいことも“イマジン&リアライズ”しましょうってことですし、私たち自身も子どもたちの新しい遊びと学びの場を“イマジン&リアライズ”し続けていきたいなと思います。
続けて、100BANCHについて語りました。
石戸:100BANCHのメンターのお話をいただいたときに、根本的な発想が近いと感じました。各プロジェクトが思いに溢れていて、なおかつ自分の人生かけてやろうとする意思と実力がある。そういった方々が集まる場だと思ったので、私もここに貢献できることがあればと願っています。
後半は100BANCHに入居して3カ月や半年の区切りを迎えたプロジェクトメンバーが登壇し、これまでを振り返りました。
■University of Universe
登壇者:今村柚巴
#空きコマ月 宇宙はどこも、わたしの大学だ。
プロジェクト紹介:https://100banch.com/projects/university-of-universe
ゲストハウスや畑、海や空き家、さらには月などの「おもろい場」を勝手に「大学」に変え、オンライン授業を届け、また現地の大学生を巻き込み、授業の空き時間は農作業や海水浴やDIY体験などオフラインの場も提供する。University of Universeはその発信から日常の生活を「全て自分の世界の広がり=学びになる」と提案する。
100BANCHでは「場と人にアクセスする」をテーマにさまざまな実験を行いました。日帰りや数日間、大学ではない場所で生活をして、それ自体を学びにしてする機会の提供や、人に会える本「ひと本」の制作、SNSでは「#大宇宙大学」で面白い場の隙を発信など実施。
今村:私にはふたつの目指す世界があります。ひとつはオンライン授業の定着。「自分にとっての大学」を一人ひとりが再定義できる世界。もうひとつは、人をたどって足を動かすことがより当たり前になる世界です。私は来月からイギリスに留学するので、大学と言いつつもいろいろなところで生活している様子を発信し続けたいと思っています。
■uni
登壇者:汐田海平
映画とファンをつなぐ、新しい出会い
プロジェクト紹介:https://100banch.com/uni
uniは映画を届けること。そして、映画好きな人を増やすことに特化して活動するプロジェクト。映画鑑賞を体験化し、リッチなコミュニケーションをつくることや、従来のプッシュ型の映画宣伝とは違うリーチを作ることを目的に活動をしています。
100BANCHでの活動期間中は、映画イベントや子ども向けワークショップ、ロケ地を巡るシネマツアーなどのイベント開催やSNSキャンペーン企画、グッズ制作を行いました。6月〜8月は8件のイベントを実施。石戸さんが代表を務めるCANVASと共催で子ども向けの「映画を見る、伝えるワークショップ」も開催しました。
汐田:新型コロナの影響でシネマツアーはできませんでしたが、当初の計画はほとんど実現することができました。次なる実験として映画との出会いから、それをさらに醸成するコミュニケーション形成にも力を入れたいと考えています。ゆるやかなつながりのなかで映画に対する愛や温度感がもれていくようなコミュニティを作っていきたいと思っています。
■omochi
登壇者:Kouta Yamada
「誰かいい人紹介してよ!」は、もう要らない。
プロジェクト紹介:https://100banch.com/omochi
omochiは人々のクレジットを可視化して、「誰かいい人紹介してよ!」をアプリで実現するプロジェクト。新しい友だちのつながりで出会う招待制マッチングアプリを運営しています。
100BANCHでは、ユーザー数を考慮し、赤の他人であっても紹介コメントとつながりの可視化によってマッチ後、すぐに会うことになるかのリサーチを行いました。しかし結果、知らない人から好意がくるという構図を変えられず、認知的には有象無象との出会い=ナンパと変わらない体験になってしまったと振り返り、それを踏まえさらにアプリの改良に取り組みました。
Yamada:この活動を通して、0→1のプロダクト作りは誰の課題をどのように快活するかでしかなく、「あったらいいな」「これは絶対に使う」という作り手の作りたいものではなく。議論や実験を繰り返し絵、まだ誰も知らない課題をいかにして明らかにしていくのかだと思いました。またスタートアップとして、「まだ誰も想像できない世界」と「確かに存在する誰も知らない課題」をつないで、熱狂してもらえるプロダクトを地道に作っていきたいと思います。
■Sparkle Ways Project
登壇者:猪村真由
こどもたちの興味・意欲を引き出し、闘病生活に新たな「あそび」の創出を目指す
プロジェクト紹介:https://100banch.com/projects/sparkle-ways-project
Sparkle Ways Projectは「子どもたちの”ワクワク”は生きるエネルギーである」という考えを元に、闘病中の子どもたちの興味や意欲を見つける後押しを行うプロジェクト。これまで闘病中の子どもたちに向けたワークショップの実施や、ボランティアコミュニティの運営を行ってきました。
今年のナナナナ祭では「こども発明ワークショップ」を開催。闘病経験のある子どもたちから生まれた課題にそって「こんなものがあったらいいな」を生み出す企画で、ありふれた日常をもっとワクワクできるようなアイテムを一緒に模索しました。
猪村:現在は大学のサッカーチームの中で闘病中の子どもたちを支援するファンドレーシング事業などを進めています。これからも私たちはさまざまな活動を通じて、全ての子どもたちがワクワクを探究できる社会をつくっていきたいと思います。
■atelier basi
登壇者:田中祐太郎/松本杏奈
環境に負けない進学を
プロジェクト紹介:https://100banch.com/projects/atelier-basi
atelier basiは熱意ある学生が環境に屈することなく、自分らしい進路を選択できる社会の実現を目指しています。これまで受講生を対象に週に1回程度のセッションを行うプログラムの実施や、外部連携の強化、メディアを通じた情報発信を行ってきました。
100BANCHでは、夏合宿を開催。全日程オンラインになったものの、集中的にさまざまなコンテンツを提供しつつ、交流の機会や普段はできないことを行うことができました。
松本:当初、我々は資金が苦しかったため、寄付ページの開設を行い、これらを活用してプログラムを充実させつつ、魅力的なプログラムを運営してより継続的なものにするために、企業との取り組みも進めています。これからも継続的にたくさんの高校生をサポートすることで、進路選択における地理的・経済的格差をなくしていきたいと思っています。
■RASHISA WORKS
登壇者:岡本翔
虐待サバイバーの可能性を信じ、引き出す。
プログラム詳細:https://100banch.com/projects/rashisa-works
虐待を受けて育った人、虐待サバイバーが抱える、虐待の後遺症による働き辛さを独自の仕組みによって解決を目指すRASHISA WORKS。働きづらさを感じる全ての虐待サバイバーが安心・安全に働くことの実現に向けて活動を続けています。
100BANCHでは、虐待サバイバーがしっかりと在宅ワークでも仕事ができるような学習プログラムを作り、そのプログラムの卒業者を10名輩出しようと試みました。しかし途中で事業の目的が変わりました。もともとキャリア形成を軸に行ってきましたが、現在はそもそも虐待の後遺症が社会に認知されるように促し、虐待の後遺症による働きづらさが緩和された社会の実現を目的に事業を進めています。
岡本:活動によって、個別のイシューにアプローチしても社会は変わらない。個別のイシューを元にしたデータを、全体構造を解決するために昇華していくことが大切だと考えています。まずは虐待サバイバーの仕事を作る仕組を生み出し事業を立ち上げ、10月を目標にビジネスモデルの横展開や、そういった課題を踏まえた政策提言を進めていきたいと思っています。現在のクライアント数は59社。まだまだ事業の課題はあるので、これからも頑張っていきたいと思います。
■Artborn
登壇者:田澤航樹
学生アーティストの活躍を支援する -芸術に対する興味の再構築-
プロジェクト紹介:https://100banch.com/Artborn
若手アーティストの活躍を応援し、多くの人にアートを楽しんでもらうためのプラットフォームを開発中のArじじtborn。アーティストの活動支援と、芸術に興味のない層に対して入り口を提供する仕組み作りを実現するために、作品を掲載・販売できるプロフィールサイトや、一般の人が興味を持つきっかけになる芸術メディアの立ち上げを目指しています。
100BANCHでは、美大生に協力をあおぎ、作品を渋谷に展示する「渋谷あちこちにアート」の企画や、美大生のインタビュー記事制作を計画。しかし、美大生にコンタクトを取っても不信感を持たれてしまい実現に至りませんでした。そこで、まずは自分たちに信用を持ってもらうためにホームページやアプリを作成。プロダクト+社会的ステータスで信用を得ようと考えました。
田澤:現在はギャラリーに寄り道をさせる地図アプリ「Art Map」の制作に力を入れています。今の芸術の世界を変えるためにはギャラリーが肝になると考え、このアプリによってユーザーがギャラリーに足を運ぶことが増えたり、ユーザーが作品を購入することが盛んになることで、美術業界がよりよい方向に進むと思っています。私たちは、日本人の芸術への理解を深め、芸術を楽しむ心を育むことができれば、日常生活と芸術が共存し、自己の心の豊かさを確立させることができると思っています。
石戸さんのこれまでの経験や描く未来、そして根底にある意志を知る機会は、プロジェクトメンバーをはじめ参加者はにとって大きな刺激や新たな視点を得られる貴重な時間になりました。
100年先の未来を描く6プロジェクトがピッチ!
9月実験報告会&メンタートーク:石川俊祐(KESIKI inc. Co-founder)
日時:2021年9月29日(水) 19:00〜21:00
無料 定員100名
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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
https://100banch2021-09.peatix.com/
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【メンター情報】
石川俊祐KESIKI inc. Co-founder