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強みを追い求める重要性—— 実験報告会 & メンタートーク(RIETI西垣淳子さん)

これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「 GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。

2021年7月の実験報告会には、メンタートークにRIETI(独立行政法人経済産業研究所)上席研究員の西垣淳子さんが登壇。自身の経験をもとにライフワークバランスやデザイン経営についてトークを展開。続いて、4プロジェクトがそれぞれの活動について成果報告を行いました。

アメリカ留学で経験した専門性の重要性

前半はメンターの西垣さんが、これまでの経験や活動をもとにトークを行いました。

メンターの西垣淳子さん

西垣淳子さんプロフィール

東京都出身。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現 経済産業省)入省。ものづくり政策審議室長、デザイン室長等の経験の中で、日本のものづくり産業のデザイン思考導入を支援。2019年から2021年7月まで特許庁デザイン経営プロジェクトチームCDO補佐官として、中小企業のデザイン経営推進を担当。現在は経済産業研究所に出向し、デザイン経営にかかる研究等を実施。Duke大学、シカゴ大学でLaw and Economicsを専攻し、専門は競争政策、WLB等

 

東京大学法学部を卒業後、22歳で通商産業省(現 経済産業省)に入省した西垣さん。20代は政策立案や予算要求、法律立案、国会対策など役人のいろはを学んだそう。「役所の人は24時間働いているというイメージを持たれますが、当時の私はまさにそういう20代を過ごしていた」と振り返ります。

20代の後半には、アメリカのロースクールに留学。アメリカの同世代の人たちがどのように物事を考え、それをどう発信しているのかに衝撃を受け、また専門性の重要性も感じたと言います。

西垣:日本の国家公務員におけるキャリア官僚像はジェネラリスト志向が強いので、いろいろな意見を聞きながら調整していくような調整過程に重きが置かれることが多いんですね。そのような環境にいた私は留学経験から、アメリカの公務員に比べて日本の公務員は、自分や相手の専門性を尊重する意識が弱いと感じました。たとえば日本のほとんどの役人は4年生の大学を出ただけで就職していますが、アメリカの役人は博士号を持った人が圧倒的に多く、アメリカではそういった人たちが国際交渉の場に出てくるのだと痛感しました。

 

子育てで実感した社会とのギャップ 

帰国後、西垣さんは通商産業省の課長補佐として、法律案作成や研究予算の要求、産業構造転換の推進などを行います。その頃、仕事にやりがいを感じる一方で、出産に対する悩みを抱えたそうです。

西垣:当時、いちばん楽しい実務をやり、世の中を変えていくんだと意気込んでいましたが、やっぱり子どもがほしいなと。30代くらいって、それなりに自分の活動の社会的な意味も大きくなってくるときなので、いちばんやりがいがある時期だと思うけれど、そういう時期がちょうど女性の場合は出産の時期に当たるんですよね。

西垣さんは双子を出産。役所で働きつつ子どもを育てるのは難しかったため、同省の研究所に出向。研究を続けながら子育てを行います。

 西垣:今まで仕事一筋の人間だった私ですが、子育てをすることで地域社会を知るようになります。恥ずかしながら、多様な人間に会うことを30代になって初めて経験しました。役所の似たような人たちと生きてきた私は、ママ友や地域の方々など、年齢や世代を超えていろんな人たちと話をする中で、「社会ってこうやって成り立っているんだ」と教えられました。普段、私たちが霞が関や永田町の世界で議論していることが、身近にいる人の思いをちゃんと踏まえているのだろうか。そういったギャップを感じたのもこの時期でした。

その後、西垣さんは第3子を出産。さらに子育てと仕事の両立が難しい環境となり、同じ役所の同期だった西垣さんの夫が1年の育児休業を取ります。それは今から20年ほど前のこと。男性が育児休業を取ることが当たり前の世の中ではなく、「将来的に出世を諦めたのか」「男性のプライドはないのか」「国家公務員がプライベートを優先して休みを取るとはなにごとだ」など、心ない言葉を受けたそうです。 

西垣:でも、これからの社会は男性も女性も一緒に社会で活躍するのであれば、当然家庭のことも一緒に行う世界をつくらなくては。そのためには、もっと男性が引っ張らなくてはいけない。その思いから夫は育児休業という決断をしました。そこから私たちはライフワークとして、ワークライフバランスや男女共同参画、少子化問題の対策などに関心を持つようになりました。

 

日本からイノベーションを起こすために何ができるか

40代を迎え、経済産業省に復帰した西垣さんは、室長、課長、部長と管理職を歴任。日本の産業競争力の強化を図り、その一環としてデザイン経営の推進に取り組みます。

西垣:日本はどんどん人口減少が進み、日本の市場が狭くなっています。そのため、これから稼いでいくとしたらグローバルに出て行かなければいけないのに、日本から世界に誇れるようなイノベーションや産業が出てこないんです。私はそれにものすごい危機感がありました。いろいろなポストに就きましたが、私はとにかく「日本からイノベーションを起こすために何ができるか」にフォーカスして取り組んできました。今までの企業の考え方を変えていかなければ、新しい市場から取り残されてしまう。そういう考えのもと、デザイン経営の推進を進めています。

この7月から西垣さんは、経済産業研究所へ。現在はデザイン経営の研究を行っています。

西垣:これまでの社会は「良いものなら売れる」という意識があり、それが今でも社会に大きな影響を与えています。「新しい機能を拡充したから値段が高くなっても絶対に売れる」と信じている人が今でもたくさんいるんですね。一方で今の若者たちは新しい技術が欲しいわけではなく、自分たちが共感するものを求めている。そういった意味で、日本は物事の考え方をかなり変えていかないといけないと考えています。

こういうことは、みなさんのような若者世代ではなく、もっと上の40代や50代の世代に向けて普段は話をしています。皆さんからすれば当然のことでも、皆さんのような若者たちが社会に出ていくときに、自分たちが場合によっては説得していかなくてはならない人——それは自分たちに出資をしてくれる人かもしれないし、会社に入れば上司や経営層かもしれないけれど、それだけ価値観が違う人たちを相手に、自分たちの思いをどう説得して共感を求めていくかが必要になります。

「そうした場合、専門性が大きな強みになる」と西垣さん。アメリカ留学で得た“専門性の重要性”を振り返りながら、最後にこう話します。 

西垣:相手に共感を求めることも大事ですが、中には共感できない人たちもたくさんいます。そういう人たちに話を聞いてもらうには、やっぱり専門性に基づいた説得が重要になるんですね。ぜひ「自分は人と何が違うのか」という意識を持ちながら、自分の強みを追い求めて活動を続けてほしいと思います。

 

GARAGE Program プロジェクト成果報告

後半は100BANCHに入居して3カ月や半年の区切りを迎えたプロジェクトメンバーが登壇し、これまでを振り返りました。

■Playfool

登壇者:Coppen Saki

あそびを通して大人の創造性を解放したい

プロジェクト詳細:https://100banch.com/Playfool

Playfoolは大人の創造性を刺激すべく、YouTubeを通して、既存の遊具の創造の幅を広げるような工夫を紹介するプロジェクト。100BANCHでは動画とショート動画を3本の制作と、YouTubeチャンネル「Playfool」の登録数5万人を目標に活動を進めてきました。

Saki:3カ月の活動で私たちは、レゴと紙を組み合わせることで遊びを広げる動画を制作しました。公開後、動画は200万回再生を超え、2万人だったチャンネル登録数が7万5千人となり、予想外の反応に驚いています。そのおかげもあり、海外のクリエイターとつながりも増えたので、これからはもう少しいろいろな人とのコラボレーションをしながら活動を続けていきたいと思っています。

 

■Portfolio of Life

登壇者:渡邊 伶

あなたの人生を綴るポートフォリオのようなメディアをつくる

プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/portfolio-of-life

 今の自分の感情をつづるウェブメディア「しおりん」を展開するPortfolio of Life。人生にはさまざまな出来事があり、その瞬間ごとに今の感情や考えを記録し、人生のポートフォリオとしてウェブで紹介しています。100BANCHでは「しおりん」のブラッシュアップや、活動を物語にする姉妹メディア「chapter」の立ち上げ、そして有料化への準備を行いました。

渡邊:Portfolio of Lifeは「今の感情を言語化して残すことに価値があるのではないか?」という仮説から始まったプロジェクトでした。結果、一定は価値がありそうだと実感しつつも、誰にどのように価値を伝えていくのかを検討する必要があると感じています。それらを踏まえながら、これから有料化を視野に入れて活動を進めていきたいと思っています。

 

■Assassin from India

登壇者:高野一樹

三軒茶屋のシェアハウスで育んだ文化とヒューマンリソースをインストール

プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/assassin-from-india

 「三軒茶屋のインド」と呼ばれるシェアハウスを運営しているAssassin from Indiaのメンバーが、「100BANCHにインドをインストールする」ことを掲げるプロジェクト。カレーを食べたり絨毯でミーティングしたり、インドに行きたくなるウェブサービス「インドネーター」を立ち上げるなど、さまざまな角度からインド化を進めてきました。

高野: 6月にインドからの刺客が呼べるサービスをリリースするなど、さまざまな活動をする中で、僕たちのプロジェクトは日本各地をインド化へと導く活動に発展したと考えています。今年のナナナナ祭のイベントで登壇していただくインド哲学研究者の山口英一さんは、インドっぽさについて「混沌の中の統一だ」と話されていますが、僕たちの活動は紆余曲折を経て混沌としながらも、インドという統一したコンセプトで活動したこと自体が、インドを体現できたと感じています。

 

■white squat

登壇者:翁長宏多

余白に人は集う

プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/white-squat

廃棄予定の白いペンキを使用し、空き家や空き地を白くすることで、町をキャンバスにする活動を行うwhite squat。白く塗る過程を楽しみながら、できた空間で人が集うイベントを開催しています。100BANCHでの延長3カ月間ではブランドムービーの制作や移動式公開実験場「white squat lab」の実施、浅草橋の物件を白くするプロジェクトを手掛けました。 

翁長:今までいろいろな活動をしてきましたが、まだまだ実験的にやっているので、実践や開拓が足りてないと感じています。今後は「white squat lab」をさまざまな場所で展開することで、より多くの人に白の力や余白の可能性を届けながら、あらためて拠点となる空き家を白くしていきたいと思っています。

 

 成果報告が終わり、西垣さんは「みなさんのお話を聞くと、私の考えにもないようなことをやられているので、驚くと同時にワクワクしています。各プロジェクトがさらに面白い活動を続けてほしいと思います」とエールを送りました。参加者から西垣さんへの質問も飛び交い、多くの新しい視点を感じられた時間となりました。

 

(会場撮影:鈴木 渉)

<次回実験報告会>

100年先の未来を描く7プロジェクトがピッチ!

8月実験報告会&メンタートーク:石戸奈々子(CANVAS代表) 

日時:2021年8月25日(水) 19:00〜21:00

無料 定員100名

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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

https://100banch2021-08.peatix.com/
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストはNPO法人CANVAS代表の石戸奈々子さんです!

【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方

【概要】
 日程:8/25(水)
 時間:19:00〜21:00
 参加費:無料
 参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。。

【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介

19:15〜20:00:メンタートーク
 ・石戸奈々子:NPO法人CANVAS代表

20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評

 ・Sparkle Ways Project:こどもたちの興味・意欲を引き出し、闘病生活に新たな「あそび」の創出を目指す
 ・University of Universe:#空きコマ月 宇宙はどこも、わたしの大学だ
 ・uni:映画とファンをつなぐ、新しい出会い
 ・atelier basi:環境に負けない進学を
 ・RASHISA WORKS:虐待サバイバーの可能性を信じ、引き出す。
 ・Artborn:学生アーティストの活躍を支援する-芸術に対する興味の再構築-
 ・omochi:「誰かいい人紹介してよ!」は、もう要らない

20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING

【メンター情報】

石戸奈々子

NPO法人CANVAS代表

プロフィール

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。

総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。

著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「日本のオンライン教育最前線──アフターコロナの学びを考える」、「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「デジタル教育宣言」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。

これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。

実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。

デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。

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これからの100年をつくるU35の若きリーダーのプロジェクトとその社会実験を推進するアクセラレーションプログラムが、GARAGE Programです。月に一度の審査会で採択されたチームは、プロジェクトスペースやイベントスペースを無償で利用可能。各分野のトップランナーたちと共に新たな価値の創造に挑戦してみませんか?

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