Color Fab
消えない「虹」を3Dプリントする。 ー未来の色彩工芸ー
10月18日〜27日に開催された日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2024」。東京都内94箇所が会場となり、街をあげてつくりあげるこの大イベントに、100BANCHも昨年に続いて出展。GARAGE Programの採択プロジェクトの中からデザインやアートに関連するテーマに取り組む11チームが参画し、14作品を展示しました。
ご来場者には学生やデザインを職業とする方、海外の方の姿も多く、作品・作家のファンだという人や、テーマに共感して来たという人、DESIGNART TOKYOを巡るスタート地点として100BANCHをはじめに選んで来てくれた方も。10日間で500人以上が来場し、作品の背景や活動の説明にじっくり耳を傾け、作品を楽しんでくださいました。その模様を、100BANCH事務局の武石がレポートします。
今回100BANCHでは「生物×アート / 自然×デザイン」をテーマに掲げ、100BANCHに集う若者たちの活動から見えてきた「自然と人間との共棲(シンビオシス)関係が深化する」という未来像が強く表れている作品をキュレート。また、2025年に行われる大阪・関西万博で採用される作品もいち早く先行公開しました。
人間を含む生物種の全ては、関わりを保ちながら絡まり依存し合いながら生きており、一見自然と無縁に見える都市環境においても、昆虫や水生生物、微生物など多くの生物種と隣り合っています。この共棲という関係性への意識はより深化しており、100BANCHで活動する若者たちの創造する作品にも強く表れています。
生きとし生けるものの鼓動に耳を傾けよう。そして人間も生態系の一部なのだという感覚を取り戻そう。ご来場いただいた方々と共に、自然/人間という二元論ではなく、人間を内包する自然というエコシステム全体の共棲関係のあり方を一緒に考えてみたいと思い、今回このテーマを設定しました。
2階と3階の2フロアを会場とし、それぞれ趣きの異なる展示ブースを展開しました。3F LOFTでは、自然を感じられる空間装飾として多種多様な植物を設置。自然の中に息づくさまざまな生物種の声に耳を澄ませながら、自然を生かし、自然と呼応するデザインを試みた作品群を展示しました。
3F 空間演出:roots in field LLC
積彩は、3Dプリンティングに特化したデザイン事務所です。今回は、パナソニックが開発した植物由来のサスティナブル素材「kinari」を用いた大型作品を制作。年輪をモチーフにした自然に溶け込み自然に戻せる「年輪の家具」と、2025年に行われる大阪・関西万博で採用されるオブジェの2作品を展示しました。
「年輪の家具」は、コンピュテーショナルデザインによって樹木の成長過程をシミュレーションし、樹木が持つ生の形状をそのまま家具に転用。樹木がまだ生きているかのような瑞々しさを想起させる作品です。
従来の樹脂素材にはない質感と、天然素材では難しい高いデザイン性を両立した作品に、「まるで本物の木みたい!」「素材の温かみを感じる」と感激しながら、実際の座り心地や触り心地も楽しんでいました。
「リーフオブジェ」は、2025年の大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオンの中で採用されるオブジェ。資源循環型のパビリオン建築内部に、空間演出の一部として利用されます。今回の展示では、特別に一部を先行公開しました。
まるで細胞が分裂していくかのような、生命のエネルギーを感じる不思議なデザインに興味を示す方も多く、「来年の万博ではどのように展示されるのか、ぜひ見に行きたいです!」と、期待の声が寄せられました。
「kinari」の素材そのものや、廃棄物を資源として活用した取り組みに関心を寄せる方、大型3Dプリント技術の可能性に驚きと期待を抱く来場者の方が多くいました。
「KinSci」は、キノコの菌糸によって生成された菌糸造形物。菌糸は、土に還り、微生物に分解され、生態系を拡張させていくという、持続可能性がある素材としても注目されています。今回は「ダルマ」「器」「下駄」「行燈」といった、日本の伝統工芸品をモチーフにした4作品を展示しました。
「本当にキノコの香りがする!」「質感が面白いですね」など、菌糸素材の独特な風合いや不思議な手触りを楽しんでいた来場者の方々。
一般的には役目を終えたダルマは、火で燃やす「お焚き上げ」で天に還しますが、菌糸素材でできたダルマは土に埋めて自然に還すことができます。土に埋めたダルマが微生物による分解によって地球の大きな循環に組み込まれ、新しい生命へと繋がっていく──そんなメッセージに共感し、自然の営みの力を実感する来場者が多く見られました。
そのほか3Fでは、竹やい草を活用した自然物の剥き出しの生々しさを感じられる椅子「HAZAMA」や、日本庭園のやすらぎを感じられる線香花火のような照明「DEW」、作家や歩んだ道のりを遺せるようDNA情報を入れた盆栽「anima」も合わせた6作品を展示しました。
2F GARAGEでは、バイオアートやメディアアート、バイオ×食の未来など、100BANCHならではのユニークな切り口で表現された7作品を展示。「人魚の涙」と題した培養液エナジードリンクが試飲できたり、宇宙空間でのアクセサリーを装着できたりと、実際に試せる体験型の展示もあり、来場者の方が1つ1つの作品をじっくり楽しむ姿が多く見られました。
作家から直接話を聞くことができるのも本イベントの魅力の1つ。作品のことはもちろん、「なぜその取り組みを行っているのか」とプロジェクト活動について興味を持つ方も多く、メンバーの活動をより広く知っていただける機会となりました。
また、100BANCH屋外の壁面に掲げられた懸垂幕もDESIGNART TOKYOの会期に合わせて制作。GARAGE Program 2期生「RGB_Light」のリーダーであり、視覚ディレクターとして活躍する河野未彩によるデザインで、原石たちがキラキラと軌道を描きながらつながり合うような100BANCHをイメージした「Micro-Macro Bio-Cosmos」が入口を彩りました。
会期中にはデザインやアートに関連したイベントも開催。初日の夜には、オープニングイベントとして、今回の展示のテーマである「生物×アート / 自然×デザイン」についてトークイベントを実施。来年行われる大阪・関西万博に向けた共創の軌跡も、関係者によるクロストークでお届けしました。他にも、アマゾンの生態系について本気で考えるディスカッションや、生き物たちへの愛をディープに語るイベント、100BANCH farmの秋のマルシェと収穫祭も開催しました。
DESIGNART TOKYOは、100BANCHに集うクリエイターたちの作品を、1つ1つじっくりご覧いただける機会となりました。昨年に続いて今年も100BANCHに足を運んでくださった方も多く、「昨年とはかなり違った雰囲気でおもしろいですね」「今年も楽しみにしていました」との声をいただきました。今回初めて来た人も、「デザインやアートだけでなく様々なプロジェクトが活動しているなんて、とても素敵な場所ですね」と、多くの方が「100BANCH」という場所の持つ、ジャンルを超えて集まるクリエイティブなエネルギーに刺激を受けていた様子でした。
さらに今回は、「生物×アート / 自然×デザイン」というテーマが新たな層への注目を集め、環境問題に関心のある方やバイオ研究者、生物学を専攻する学生など、テーマに共感して来てくれた方も多くいました。100BANCHに集まるクリエイターたちの作品群や思いを通して、来場者の方々にとって「自然と人間との共棲関係のあり方」を考えるきっかけになっていたら嬉しく思います。
会期中に開催したイベントのレポート、出展メンバーによる展示レポートを順次、公開していきます。さまざまな視点から議論が繰り広げられたイベントの様子や、メンバー視点で綴られる展示の様子をぜひお楽しみください!