Up
身体の内側を守る下着「スマートパンツ」
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。
2021年5月の実験報告会には、メンタートークに株式会社ロフトワークの共同創業者で取締役会長の林 千晶が登壇。続いて、5プロジェクトがそれぞれの活動について成果報告を行いました。
100BANCHはパナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーの3社が協業して 2017年7月7日に誕生しました。それから約4年間、メンターとしても100BANCHを見続けてきた林は今回のメンタートークで、「20代、30代、40代で思うこと」と題し、これまでの経験から得た学びや考えを紹介しながら、夢に向かう若者たちにエールを送りました。
メンタートーク中の林 千晶
林 千晶 プロフィール
早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL」、オンライン公募・審査でクリエイターとの共創を促進する「AWRD」などのコミュニティやプラットフォームを運営。
グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員「産業競争力とデザインを考える研究会」、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」取締役会長も務める。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。
まず林は、20代までの自分を振り返ります。
高校時代、喘息の持病があった林さんは「まともに大学受験ができないかもしれない」という不安から、本当に行きたい大学から目を背けて、推薦で早稲田大学商学部に入学。その経験が「本当にやりたいことから逃げてしまった」という後ろめたさを生んだといいます。
大学卒業後は花王に入社し、マーケティング部に所属。他人から見ればうらやましがられる職業でしたが、「実はたまたま流れに乗って受かっただけ」と林さんは明かします。
林:入社して3年目のある日、広告代理店の方に「花王の化粧品事業部の」と伝えて名刺交換をすると、とてもうれしそうな顔をされました。つまり「林 千晶」は誰も求めていなくて、花王の化粧品事業部の人と知り合いになったことを喜んでいた。私は「花王の化粧品事業部の人であって、林 千晶の人生を歩んでいないと痛感したんです。それで他人にどう思われても構わない、今後はどこを切り取っても林 千晶の人生を歩もう」と決意しました。
花王を退社した林はアメリカ留学を決意。ボストン大学大学院でジャーナリズムを学びます。
林:留学サポートセンターに行った時、ジャーナリズム学部の資料に目がとまりました。そこには「モノではなく、考え方を示すことで人々の行動を変えていく」と書かれていて「これだ!」と思ったんです。だけど留学の推薦状をもらうために恩師を訪れると、「ジャーナリズムはお金にならない。あなたはマーケティングの経験も3年間の実務もあるからMBAを取りなさい」と言われました。でも私は「稼げなくてもいいです」と伝え、自分が本当にやりたいことを選びました。
アメリカでジャーナリズムを学んだ林は、ニューヨークで諏訪光洋さんとロフトワークを立ち上げます。28歳の頃でした。当時はまだまだクリエイターやクリエイティブという言葉が流通していなかった時代。林たちは「クリエイティブの流通」をミッションに掲げ、20人ほどのベンチャーキャピタリストにそのサービスを提案したものの、ことごとく失敗したそうです。
林:ほとんどのベンチャーキャピタリストから「そんなサービスはお金にならないから大企業に戻りなさい」と言われました。でも、その中で伊藤穰一さんだけが出資してくれました。その資金が宝物のように嬉しかった。「たったひとりでも信じてくれる人がいるんだ」と実感して、すごく励みになりましたね。
林は「30代はとにかくロフトワークに全てを捧げた」と語り、「社会をより良くする活動は“プロジェクト”であり、それをよりクリエイティブにより面白くする“マネジメント”にフォーカスして活動した」と当時を振り返りました。
その後、ロフトワークは少しずつ成長。40代になった林は、“日本のため”に働くことを意識し始めます。幼少期、父親の仕事の関係で海外に住む期間も長く、ふるさとと言える場所が「日本」よりも小さくブレイクダウンできなかったことから、そう思い立ったといいます。その後、林は経済産業省や文部科学省、東京都や渋谷区など30以上の国や自治体の委員会で有識者を務めました。
精力的に活動を進めるなか、林に突然の病が襲います。2019年1月に脳梗塞と診断され入院。思考や論理をつかさどる左脳の一部の神経細胞が壊死してしまいました。しかし一方で、脳のテストを行うと、知性や感性をつかさどる右脳の能力は通常の人と比べ非常に高い数値だったと知ります。
林:右脳の能力のおかげか、私は人を見るだけで、感覚的にその人のことがよくわかるんです。でもそういった感覚を左脳に変換できないから、言語化がうまくできない。それもあってしばらくは講演の依頼を断っていたけれど、ある時、自分がとても興味があることだけはしっかり話せると気が付きました。その内容が「デザイン経営」と「ヒダクマ」でした。
「ヒダクマ」は「株式会社飛騨の森でクマは踊る」の通称。広葉樹の森と伝統の組木、テクノロジーを活用し、岐阜県飛騨市にある古民家を改装したデジタルものづくりカフェの「FabCafe Hida」を拠点に、クリエイティブな視点で飛騨の森に新しい価値を生み出す事業で、林さんが取締役会長を務めています。
林:コロナ禍が関係しているかもしれないけど、今はリモートでも企業とつながることができるから、東京にいなくてもいい。だとしたらどこへ行きたいのか。今、その答えが出つつあります。また、40代は「日本のため」といろいろな有識者を務めたけど、地に足がついていない実感もあった。これからの人生、日本という括りでは変えられなくても、地に足をつけて自分が携わる地域を変えていきたいと思います。
最後に「どんな結果になっても、人生の苦楽を味わって生きていきたい」と語った林は、100BANCHのメンバーや若者にエールを送りました。
林:私が起業したのは20代でした。10代、20代って、40代の私には想像もできないほどのエネルギーやパワーを持っているんです。失うものなんてなにもないから、どんどん起業もしてほしいし、そうやって自分らしい生き方やあり方を追求してほしいですね。
後半は100BANCHに入居して3カ月や半年の区切りを迎えたプロジェクトメンバーが登壇し、これまでを振り返りました。
■Up
登壇者:鄧卓然
身体の内側を守る下着「スマートパンツ」
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/up/
Upは独自開発のスマートパンツを開発。着用者の身体の生体指標を取得し、そのデータをパターン解析することで、異常が認められると直ちにそれ知らせ、異常がない時には睡眠時間や運動時間などのライフログをユーザーに伝えることで、利用者の生活管理の補助を行うことができます。
鄧:今後はデバイスの小型化を進めつつ、来年中には1000枚の量産とともに、女性用のスマートパンツもローンチする予定です。このデバイスによって、一人でも多くの方の病気を未然に防ぎたいと考えています。
■Sparkle Ways Project
登壇者:猪村真由
こどもたちの興味・意欲を引き出し、闘病生活に新たな「あそび」の創出を目指す
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/sparkle-ways-project
Sparkle Ways Projectは「子どもたちの”ワクワク”は生きるエネルギーである」という考えを元に、闘病中のこどもたちの興味や意欲を見つける後押しを行うプロジェクト。これまで子どもたちと“ワクワクする車いす”を一緒に作ったり、入院中の子どもたちをオンラインでつなぎ、パレードを体感できる取り組みなどを行ってきました。
猪村:しかし新型コロナウイルスの影響で、屋外でイベントが行うことができなくなり頭を抱えました。そのため、私たちは入院中の療養児に向けたカメラのワークショップなどを通して現状の問題点を把握し、療養児と一緒に“病院内にあったらいいな”を考える企画会議を実施しました。現在は大学生によるコミュティーを運営して、子どもたちのワクワクを引き出すワークショップを企画中です。この活動を続け、全ての子どもたちがワクワクを探究できる社会をつくりたいと思っています。
■serendipity
登壇者:菅野織葉
「敏感すぎて生きづらい」その苦しみ、活かして生きよう。
プロジェクト詳細:https://100banch.com/serendipity
当初、serendipityは「HSP」(とても敏感で繊細な人)を専門とする質問サイトの開発を目指していましたが、変更を行いインスタグラムを質問サイトとして利用することに。HSPに関するベーシックな質問からパーソナルな質問までを吸い上げることができ、それらをサイトで紹介。また身近な調査やインタビューも行いました。
菅野:主に学生を中心とした調査によって、「HSPという言葉は知らないが、自分はHSPっぽい」という人が20パーセントほどいることがわかりました。今、社会では、HSPだと感じる人が増えていると言われています。私たちはその理由として、コロナ禍の影響で心のセンサーが敏感になったから、もしくはHSPのメディア露出が増えたからではないかと考えています。今後、さらに見知を広め、HSPが尊重される未来を作っていきたいです。
■Color Fab
登壇者:大日方 伸
消えない「虹」を3Dプリントする。—未来の色彩工芸—
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/color-fab
Color Fab は3Dプリンタを新しい「着色」のツールとして捉え直し、デジタルとフィジカルが融けあった未来の色彩工芸をつくり出すプロジェクト。100BANCHでは見る角度によって鮮やかに色を変える現象“遊色効果”を用いた作品「遊色瓶」を開発しました。
大日方:「遊色瓶」はパナソニックのクリエイティブミュージアム「AkeruE」で展示をしましたし、今年の「ナナナナ祭」で販売する予定です。また、100BANCHの「コオロギラーメン」プロジェクトの篠原祐太さんとコラボをして、昆虫食のための新しい色彩を持った器の開発を計画するほか、建築用の大型3Dプリンターを用いて「遊色人種」という大型の彫刻作品も制作中です。4月に3Dプリンティングを専門としたデザイン事務所「積彩事務所」を立ち上げ、本格的に活動していきたいと思っています。
■Period of 100 Athletes Project
登壇者:内山穂南
生理で悩む人たちへ。アスリート100人の声を世の中へ届けたい
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/rebolt
スポーツをする女性にとって生理が身体的・精神的に負担となり挑戦する機会が奪われていると感じ、生理で悩む人とアスリートを繋ぐプロジェクトをスタートしたPeriod of 100 Athletes Project。これまで生理と向き合い挑戦し続けるアスリートのリアルな声を集めた記事を制作。またアスリート発の吸収型ボクサーパンツ「OPT」を開発。クラウドファンディングを実施し、600万円を超える多くの支援を得ています。
内山:先月、noteで正式に「アスリートと生理100人プロジェクト」をリリースして、現在Vol.6まで記事を公開しました。今後さらにアスリートの声を集めて、生理で悩む方たちに新たな選択肢や気付きを得られる記事をどんどん公開していきたいと思っています。
全ての成果報告が終わり、林は総評として「100BANCHを立ち上げた時は『どうやって売っていくの?』というプロジェクトも多かったけど、今回の成果報告を聞いて、どのプロジェクトも会社としてやっていけそうなくらい本当にすごい活動をしている」と絶賛。その後、プロジェクトとの対話からアイデアが生まれる場面や、林からプロジェクトへのコラボ提案が飛び出す場面もありました。
オンラインから林への質問も多く、参加者や登壇メンバーにとって直接意見やアドバイスをもらえる貴重な時間となりました。
(会場撮影:鈴木 渉)
100年先の未来を描く7プロジェクトがピッチ!
6月実験報告会&メンタートーク 市川 文子(株式会社リ・パブリック)
日時:2021年6月28日(月) 19:00〜21:00
無料 定員100名
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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
https://100banch2021-06.peatix.com/
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストは株式会社リ・パブリック 共同代表の市川文子さんです!
【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方
【概要】
日程:6/28(月)
時間:19:00〜21:00
参加費:無料
参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介
19:15〜20:00:メンタートーク
・市川文子(株式会社リ・パブリック 共同代表)
20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評
・Kinue (キヌー):世界中のノベルゲームをひとつのアプリに
・polaris:「時代から取り残されたもの」をテーマにしたトラベル・マガジン『polaris』
・flower and people:人も植物も同じ輪の中いる世界、自然と人との境界をなくした世界を見たい
・Langerhans:血糖値にアクセスする未来へ。
・kikkake-kichi:「やりたい!」を「できない…」で終わらせない世界の実現を目指します!
・ALion:閉ざされた交流を僕たちが開く、Z世代感覚のニューツーリズム!
・KAGUYA:ライトシェード型バイオリアクター「KAGUYA」-酸素を生み出す未来の照明-
20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING
【メンター情報】
市川文子
株式会社リ・パブリック 共同代表
プロフィール
広島県出身。慶應義塾大学大学院にて修士課程修了後、当時まだ珍しかった人間中心デザインの職を求め、フィンランドに渡航、携帯事業メーカー・ノキアに入社。世界各国でのフィールドワークから課題を起点とした製品やサービスの開発に従事。退職後、博報堂イノベーションラボ研究員を経て、2013年株式会社リ・パブリックを創設。現在は持続可能なイノベーションをテーマに地域や組織における環境整備およびプロセス設計の研究・実践を手がける。広島県事業「イノベーターズ100」ディレクター、グローバル・リサーチ・ネットワーク「REACH」日本代表。監訳に「シリアルイノベーター~非シリコンバレー型イノベーションの流儀」