- 100BANCHストーリー
100BANCHが大切にしたい 未来をつくる実験・6テーマ【後編】 〜SIX THEMES FOR EXPLORATION〜
2017年七夕にオープンした「次の100年をつくる実験区 100BANCH」は、内外の高い評価を得ながら成長している。「WILLのある=心から実現したい活動、意志のある活動を、野心をもって取り組める自由な場をつくろう。」「ここに集まった若者同士が交わっては、互いを刺激しあい、さらに化学変化が起きて、また新しいアクションや実験が繰り広げられる場所をつくろう。」そう言ってスタートしてから8ヶ月が経った。
たった8ヶ月で起きた出来事にしては、あまり濃厚で高密度なので、個々の視点や考察については、これまで掲載されてきた記事に譲るとして、今回は、運営を通じて徐々に見えてきた100BANCHの価値と可能性、そしてこれから集中的に取り組んでいきたい6つの実験テーマについて、個人的主観を交えながら紹介したい。
ここ100BANCHの建屋は、渋谷駅から近くの立地にあって、元は倉庫と配送センターとして利用されていた。いつ取り壊されてもおかしくないほど使い古された築41年の物件だ。(この場所を最初に発見し、若いエネルギーのクリエイティブ拠点にしようと声をかけてくれたカフェ・カンパニー楠本さんには尊敬の念に堪えない。ありがとうございます。)三角屋根が印象的な元・倉庫は、100BANCHプロジェクト・チームによるアイデア集積の重なり、スキーマ建築計画の素晴らしい空間デザインによって、未来創造に挑む「創庫(そうこ)」になった。
私たちが未来について新しい価値を思考したり、創造したいとその環境を整備するとき、その場は新築の先端ビルでなくてもよい。もし、過去に何か意味があった場が、その役目を終えたとき、新しい意味づけをして次の未来をつくる価値に再生できたら、そこで生み出そうとする活動自体や思考もまた、スクラップ&ビルドによる新規開発という発想ではなく、「温故」の視点から新しい価値を創造できるのではないか。100BANCHの空間自体には、そんな仮説と課題解決策が仕込まれている。この思想を「古きをたずねて、新しきをつくる=温故創新(おんこそうしん)」という造語にして一つ目の重点テーマとした。
GARAGE Programからも温故創新のプロジェクトが生まれている。例えば、ふんどし部という日本の「ふんどし」を現代にアップデートして世界に広め、ひいては人間の健やかなる身体管理と進化をプロデュースできるような、ウェルネス・カンパニーに進化しようとしている。たった二人でスタートしたプロジェクトは、共感が共感を呼んでクラウドファンディングを成功させ、40人以上の仲間を集めて世界初の「ふんどしファッションフェスティバル」を実現した。
その成功は、代表二人の人徳によるものだが、これが、最新の機能性下着やスーツでスタートアップしていたら、これだけの活況がみえただろうか、「ふんどし」に温故創新の新機軸を与えたからこそかもしれない。
「和服」を再定義して世代や国籍も選ばない「ボーダレスな服」にしようとするKISABURO KIMONO Projectもある。代表のキサブローは和服の仕立屋の四代目。和装が固定概念の枠の中だけで着られては、着物も未来に継承されることは不可能だろうと、洋服と組みああせて着られるポンチョ風の和服の開発や、新旧の生地・染め方など、文字どおり織り交ぜた着物などを制作し、個展を開催している。自らの個展で、来賓に言われた「いい和服に出会っても、着る機会が全くない」という言葉にショックを受けて、このままプロダクトだけを作っていてもダメだ、和服を着る機会つくらなければと新しいコトの創造活動(エド・ウィーン)も始めている。
他にも、日本元来の薬草文化を現代の食生活にインストールしようという活動(The Herbal Hub to nourish our life)や、銭湯を地域のコミュニティ拠点にリデザインし、時代に寄り添った新しい銭湯の有りようを発信をする活動(東京銭湯)。昨年、100BANCH主催で実施した「アップサイクル・ハッカソン」もまた既成の価値をハックして、新しい価値(コト・モノ)を生み出そうという取り組みの一つ。ペットボトルを構造体のボルトとナットに転換するアイデアや、古い家電を照明インテリアやプロダクトにアップサイクルするプラット・フォームなどのアイデアが生まれていて、DESIGNARTで発表した。
今年も古き価値に光を当てて、新しい価値を生み出す活動を創出、支援していきたい。
私たちの「食」は、どこへ向かおうとしているのか。食の原点を顧ながら、未来の食文化をつくる活動は100BANCHで最も注力したいテーマの一つだ。
100BANCHの1階には魚河岸から届く魚食をテーマにしたカフェLAND Seafoodがある。日本人が大好きな魚はパラダイムシフトの中にある。食文化の変化の中で食べられなくなってきたという問題から、乱獲や絶滅危惧種の問題まで話題に事欠かない。それをコミュニティの拠点となるカフェで「食す」という行為から再考してみようというのが狙いだとカフェ・カンパニー楠本さんはいう。
GARAGE Programの中には、昆虫を人工的に大量生産して水産養殖の餌にして、水産養殖業界の課題に取り組むプロジェクト(ECOLLOGIE)もあれば、水産養殖と水耕栽培を一体で実現するアクアポニックスの普及に取り組むチーム(Now Aquapinics!)もいる。彼らは偶然、時を同じくして100BANCHで出会って、EAT VISIONという未来の食をディスカッションするイベントを開いた。未来の食を語るイベントは、食物残渣の視点や、歴史的に人間とは何を食べてきたかという問い、医食同源の話や、食における普遍的な人間の欲求など、食の原点を顧る議論も展開した。
しいたけの出汁を世界に普及させて争いごとののない世界平和を実現しようというプロジェクトSHIITAKEもある。(脳科学的なアプローチによると、しいたけ出汁の成分は人を温和にする効果があるらしい。)日本の食文化は、まだまだ世界を驚嘆させられるはずだ。
さまざまな昆虫を使った美味しい料理のつくり方や食べ方、いままでにない食の体験をデザインするFuture Insect Eatingという活動がある。あるイベントでの昆虫食の試食会の動画を紹介したい。
そう遠くない祖先たちは昆虫を食べてきたはずだから、それがDNA的に美味く感じても不思議でないだろう。彼女のような一つのある固定概念を持った人が、昆虫(コオロギ)を食べてみたら意外と「うん、美味い。」となってしまうように、価値観や世界観を一瞬で変える力が「食」にはある。
Yokiという高校生リーダー率いるスタートアップは、小型のコミュニケーションロボット「HACO」を100BANCHで開発、販売しようとしている。彼らはテクノロジー、情報と人の関係がもっと優しくあったらいいと言う。テクノロジーが進化するにつれ、中の情報技術がブラックボックス化する傾向を彼らは良しとしない。
同じく、RGB_Lightをつくる河野未彩も「これからますますテクノロジーの活用が複雑化する時代にあって、その仕組みがもっと明瞭で、シンプルなものがあっては良いのでないか。」と言う。
Insuranは、既存業界の商慣習と被保険者に還元されず業界内に内部留保されまくる構造をブロックチェーン型の保険によって、その根底からディスラプトしようとする一見、過激な活動だが、根底には人が新しい事にチャレンジする際の生計に不安なく取り組める仕組みを再構築するもので人道的な発想だ。
シンギュラリティの議論をはじめとして、先端テクノロジーが社会にもたらす効果は、経済合理性や効率性が先行して議論されやすいなか、テクノロジーが人間に寄り添うものであれという活動が100BANCHに多く集う。人間が人間らしく、自然が自然らしくあるようテクノジーが使われるべきで、情報自体はオープンソースで、設計構造も自然科学的で、できあがるプロダクトは人の心を温かくさせ、内面的に柔らかい質感をもったものを創造したいと若者たちは考えているようだ。技術視点で考えると冷たく、機械的なものを100BANCHでは人間味ある、感性的豊かさの視点を交えて、温かくて柔らかいテクノロジーの社会実験・実装を進めていきたい。