• イベントレポート

「アップサイクル」は、 日本人が再び世界をリードする モノづくりアプローチか!? 〜100BANCH アップサイクル・ハッカソン〜

過剰なモノづくりに、さよならしよう——。

これからの100年をつくる実験区として、大量生産を軸にしたムダの多い20世紀型のモノづくりではない、新たなモノづくりのありかたを実験したイベント「アップサイクル・ハッカソン」。テーマに掲げた「アップサイクル」は、製品のリユース・再循環を生み出すリサイクルではなく、アイデア・デザイン・テクノロジーの力で、既存の製品により高い次元の新たな価値を与えるサステナブルなモノづくりとして、今注目を集めているアプローチ方法です。

“ハック・ザ・ステレオタイプ(既成概念をハックしろ)”。
デザイン&アートフェスティバル「DESIGNART(デザイナート)」での作品展示をひとつのゴールに、このメッセージからはじまったクリエイターたちの2日間に渡るチャレンジは、20世紀型のモノづくりからの脱却のヒントになり得たのでしょうか。

ムービーレポートによる追体験とともに振り返ります。

価値と構造を捉えて、見方を変える

2日間のプロセスをダイジェストでまとめた3分半のムービーで、まずは追体験ください。

実践したアップサイクルによるモノづくりのプロセスは、大別すると「フィールドリサーチ」「アイディエーション」「プロトタイピング」という3STEP。

アップサイクルする価値のありそうなモノを探し発見し、その価値と構造を分解する。

水平思考によって、規制の理論や概念にとらわれないアイデアを生み出し、プロトタイピングしながら、新たな価値を明確化していく、というもの。

チームのメンター役は、車輪付きの家具などユニークなモノづくりを行なうバッタネイションの岩沢氏、パナソニックの中山氏という2人のものづくりのプロフェッショナルが担当。

審査員は、いずれも新たな視点でのモノをづくりや表現のプロフェッショナルな3名で、各自異なる視点から作品の評価を行いました。

・ブラウン管テレビを楽器として生まれ変わらせインタラクティブな演奏やパフォーマンスを行っている和田永氏(アーティスト)

・東京から世界にむけてライフスタイルを提案するインテリアライフスタイル展のクリエイティブディレクションなども手がける青木昭夫氏(MIRU DESIGN ・ DESIGNART代表)

・パナソニックで、AI・ロボ分野を担当する傍ら、オープンイノベーション強化に向け共創型ラボWonderLAB企画・運営する仙田圭一氏(パナソニック株式会社 AIソリューションセンター ロボティクスソリューション部 部長)

 

参加チームのメンターを務めたバッタネイションの岩沢氏

パナソニックの中山氏もメンターとしてアイデアへのフィードバックを行った

新たに誕生するデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART(デザイナート)」の代表、青木昭夫氏は、デザインプロダクトの視点からジャッジ

アーティスト/ミュージシャンの和田永氏は、表現や体験という視点から作品を評価

オープンイノベーションを推進するパナソニックの仙田圭一氏は、新しい社会価値という大きな視点から評価を行った

ユニークな作品群はDESIGNARTへ出展

生まれた作品は、いずれも対象としたモノへの視点のズラしが絶妙な水平思考を感じる作品ばかり。審査員の評価が高かった作品をピックアップして紹介します。

世界につながるシャッター「商店街は夜開く」

審査員の仙田賞 受賞。シャッター街となってしまった商店街のシャッターをメディアのインフラと捉え、世界中のひと同士のコミュニケーションツールとする作品です。

「既存の所有者やユーザーだけに留まらず、別の誰かが喜び世界にアップサイクルした視点が面白い」(仙田)

 

異空間をつくる冷蔵庫「冷蔵庫インスタレーション」

審査員の青木賞 受賞。一家に一台ある、冷蔵庫を冷蔵庫を異空間と定義し、扉を開ける行為に驚きを与えるインスタレーション作品です。

「小さな異世界空間と扉を開く行為に着眼した点が面白かった。いろんな驚きを与えるボックスを考えられる余白もあり、可能性を感じました」(青木)

 

公衆電話ボックスをカラオケに「Teleoke box」

審査員の和田賞 受賞。役目を終えても街に点在する公衆電話ボックスを、カラオケボックスにするアップサイクル作品です。

「入出力の機能があり、街に点在するという構造に着眼したところが良い。本当にカラオケをやるか?という疑問はあるが、寄付の仕組みを加えたり、パフォーマンスに使えたりといろいろな可能性を感じました」(和田)

 

ペットボトル容器を工具に「ボルト&ナット」

優秀賞 受賞。ペットボトルのフタとを容器をボルトとナットの機能として捉え、簡易的な椅子づくりなどのDIYツールにする作品です。

「世の中にたくさんあるけれど、捨てているだけのモノの、機能に着眼したところが秀逸です。大きな作品を作れるなど、ブラッシュアップをイメージできる点も評価しました(青木)

 

最優秀は、アップサイクルのプラットフォーム「アップサイクリングステーション」

最優秀に選ばれたのは、アップサイクルの素材と使い方のアイデアとレシピのプラットフォーム。モノではなくプラットフォームという点で、“それはアップサイクルの作品なのか?”と議論された作品でしたが、アップサイクルが当たり前になる世界で価値を持つサービスだと評価された作品です。

「アップサイクルのアイデアとレシピが集積することで、一般にも便利かつゴミにならない仕組みが生み出される。作品ではないとの意見もあり、これを評価すべきかと議論がありましたが、日本はプラットフォームづくりが弱いと言われるなかで、アップル社のように新しい市場の仕組み自体を生み出す視点のジャンプを評価しました」(仙田)

 

21世紀型の日本のものづくりになりえるかもしれない

最後に。企画をした100BANCHプロジェクトマネージャーの松井は今回の取り組みを21世紀型のあたらしいモノづくりへのトライアルだと位置づけています。

これからのモノづくりを考えた時に、今までのようななんでもかんでもゼロから新しいものを作るという発想はナンセンスだと思っているなかで、ヒントになるかも?と思ったのがこのアップサイクルでした。松下幸之助さんが、パナソニックの創業当時、古電球の口金をハックしたアタッチメント・プラグという商品を生み出したというエピソードからもインスピレーションを得ています。

実践してみて、確信めいた仮説が生まれたんですが……。それは、アップサイクルは、日本人の特性にあったアプローチなのかもしれない、ということです。若い参加者が多かったんですが、やっぱり日本人は根底にモノへの敬意があるし、すでに存在するモノへの改良や改善が得意なんですよね。

イノベーションという言葉を提唱したオーストリアの経済学者シュンペーターが、“イノベーションとは新結合である”と定義しているように、イノベーションの源泉は、既存の価値の組み合わせにある。日本人は、ゼロからイチを生み出す発明には長けていないと言われるけれど、この組み合わせやアレンジにおいては優れたセンスがあるということを実感しました。

DESIGNARTでの展示でみなさんにこのアップサイクルから発想した作品を感じてもらい、反応を得られればと考えています。ぜひ会場に起こしください。

 

デザイン&アートフェスティバル「DESIGNART(デザイナート)」

受賞作品は、2017年10月16日(月)から22日(日)の7日間、東京の街全体(表参道・原宿・渋谷・代官山・六本木)で開催されるデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART(デザイナート)」の出展作品として、会場のひとつとなる100BANCHの3F LOFTに展示されます。

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