長坂常
  • 100BANCHストーリー

100BANCHの空間デザイン スキーマ建築計画・長坂常インタビュー 「予想もつかなさ」をイメージすること。

100BANCHの空間設計やデザインを担当したのは、スキーマ建築計画代表の長坂常さん。

ブルーボトルコーヒーを始めとして、視点が思考に及ぼす影響に眼目を置いた設計を行ってきた長坂さんが100BANCHの設計に際して考えたことは、一体何だったのでしょうか。

イメージできないくらい遠いほうが作りやすい

——「100BANCH」の空間デザインは、どのようにして始まったのでしょうか?

最初100BANCHのプロジェクトの皆さんが、うちの事務所に来た時はまだ「これからの100年」というテーマを見つけ出す前で、パナソニックさんの創業100周年で、未来につながる何かを——というところだけがあったんです。なので、どうしても念頭にドン!と松下幸之助さんの存在があって、それをこの場所のイメージとなかなかうまく切り離して考えられなくて。でも、その後「やはり、未来を見るのには新しい人材が必要」という話から「これからの100年をつくる場所」というテーマが決まったら、一気に思考を切り替えることができました。

たぶん、10年や20年先という話だと、いくら新しいことをしようと言っても過去100年の延長線上になるイメージができちゃうというか、その重みが強すぎるんだと思うんです。それが「これからの100年」となると、過去の100年に縛られていては、とても想像なんてできない。100年先って、なんなら、パナソニックさんさえも関係なくなっちゃうような遠い未来のイメージじゃないですか。「それでいいんだ」と思ったのが、振り切れたきっかけですね。

とはいえ、「じゃあ、これからの100年を考える若者たちを集める場所にします」というだけで単純に空間が作れる話ではないんですよね。やはり、その中でいろんな動きがあり、チームの作り直しだとか、そんなたくさんの動きが生まれて、もしかしたら1個か2個、すごい形になるのかな——という、この場所で起こりうる出来事のイメージが必要で。それができたから、もしかしたらムダにもなるかもしれないいろんな動きを自由にできる場所を作ろうと思って、2階を作りました。

 

長坂 常
スキーマ建築計画代表
1998 年東京藝術大学卒業直後にスタジオを立ち上げ、シェアオフィス「HAPPA」を経て、現在は青山に単独でオフィスを構える。
仕事の範囲は家具から建築まで幅広く及び、どのサイズにおいても 1/1 を意識した設計を行う。 国内外でジャンルも問わず活動の場を広げる。日常にあるもの、既存の環境の中から新しい視点や価値観を見出し、デザインを通じてそれを人々と共有したいと考えている。

自由度が最大化される設計を心がけた

——空間のデザインでこだわった事や、キーワードはありますかか?

フレキシブルに、その時々の文化に対応できるようなスペースを考えました。それは2階も3階も共通ですね。おそらく、各プロジェクトにおいて今想定していることが必ずしもそのまま運ぶわけではないと思うので、アップデートできる空間を作る必要があると思ったんです。

2階の部分ではチームが2人であったり10人であったり、2チームであったり5チームであったりと、刻々と構成が変わっていく。そのため、ゾーンを最初から決めるのではなく、増減に対して対応できる空間作りが必要ということで、家具が動かせるようにしました。家具が動くということは、照明と電源も動かせるようにしなければならない。

その時思い出したのが、松下幸之助さんが創業期に開発した商品である二股ソケットで。その二股ソケットの現行品を使った、照明と電源コードがセットになったユニット式の器具を新たにデザイン制作したんです。照明の電源を自由に付け替えることによって、自由に場所を作れるようにしようと。自分が必要な場所で照明をつけて、電源を拾って使う。テーブルも昇降式のテーブルを使っていて、座って仕事をしたり、立ってその場でミーティングをしたり、できるだけ自由に動けるようにしています。

2階では既製品の家具を改良して棚やテーブルや照明を作ったりしたんですけど、3階においては、うちとしては珍しく多くの家具をデザインしました。3階はイベントスペースにするという条件があったので、普段はラウンジなんですけど、イベントの時には家具を自由に動かせるようにしないといけない。普通、ラウンジというとちゃんとしたしっかりしたテーブルがドンドンドンと置いてあるものですが、ここではコンパクトに動かせるようにするため、スポンジを間に挟んだ、女性でも一人で持てるような軽く丈夫なものをデザインしました。それを組み立てることでミーティングにも使えるし、必要がなくなれば倉庫にしまってそこを全部オープンにできるようになっています。

——その空間を、どういう風に使ってほしいですか?

我々が想定しているような使い方ではなく、使い倒してもらって、僕自身が「へ〜、こんな使い方をするんだ」と感じられるように使ってもらえるといいなと思いながらデザインしました。

——外装、特にファサードについてはどういうイメージで?

変にデザインをするというよりも、「何かここで起こっているんじゃないかな」という雰囲気を出せたらいいんじゃないかなと思って作りました。

2F:GARAGE

3F:LOFT

照明と電源コードがセットになった、二股ソケットをモチーフにしたユニット式の器具

スポンジを間に挟んで軽くデザインした、女性一人でも動かせるフレキシブルなテーブル

「予想もつかなさ」の可能性に意識的でいたい

——長坂さんは空間を作るだけではなく、100BANCHのGARAGE Programのメンターでもありますが、入居する若者に対して期待することはありますか?

僕が大事に思っているのは「知の更新」です。知らなかったこと、今まで思いもしなかったことを知るというのは、クリエイティブで一番大事なことだなと思うんです。もちろん、みんななんとなくわかっているんだけど、ちゃんと定義つけられていないがゆえに見過ごしてしまうことって、けっこうあると思うんですよね。そういうことをきちんと拾い上げて、ちゃんと共有可能な知識にできるといいなと思っています。身近なところからでもいいんですけど、これまで気づいていなかったことをみんなで知る機会を生み出せるような新しいことが出てきたらいいですね。

——立地している渋谷というエリアについてはどう思いますか?

僕にとっては、絶えずいつも更新が遅れているというか……。ちょうど渋谷川の、ビルの谷間を流れている感じとイメージが一致していて、ある意味ど真ん中なんだけど、近くて遠い場所だと思っています。でも、そこに若い人たちが集まって、この渋谷というでかい谷間から発信していくというのは、ストーリーとしてもいいなと思いました。なので、100BANCHにはふさわしいと思いますね。

——長坂さんご自身は「100年先」のことを考えることはありますか? あるとしたら、それはどのような未来なんでしょうか。

今の時点ですでに「あと100年もたない」と言われているような環境問題もありますが、100年先にそれらが解決している前提で未来を考えるとするなら、それって、その前のどこかの時点でものすごい革命的な何かが起こっていて、僕たちが思いつかなかったような発想がそれを支えているんだなと思うんです。だから、そう簡単には「こうなっている」なんて言えませんが、自分もそこになんらかの方法で関われたらと思っています。

長坂常

 

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