• イベントレポート

友を知り、己を知って未来を想像する 実験報告会メンタートーク:岩田洋佳さん(東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授)

これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。

2022年2月のメンタートークは東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授の岩田洋佳さんが登壇。自身の経験から得た学びや、活動を進めるうえで大切にする考え方について語りました。

大学時代の挫折から得た可能性

現在、統計学や遺伝学を用いた植物の品種改良(育種)の研究を続ける岩田さん。高校卒業後、東京大学農学部に入学すると、ある挫折感を味わったと言います。 

岩田さんのプロフィール

1969年生まれ。タイ、インドネシアで幼少期を過ごす。東京大学 農学部卒。東京大学 大学院農学生命科学研究科で博士号を取得。農業と情報科学の融合をテーマに、農研機構(農林水産省系の研究機関)などで研究に従事後、2010年より東京大学 生物測定学研究室 准教授。現在は、ゲノム科学と情報科学の融合による品種改良(育種)の高速化に主眼をおき、中米やアフリカにも研究を展開中。

 

岩田:僕が専攻する生物学系の学生は、医学部の学生と同じ授業を受けていました。医学部を目指してきた人たちは何でもすぐに理解して、軽々と解いてしまうので、それを目の当たりにした僕は入学早々に挫折感を味わってしまったんですね。それからは何をしていいのかわからないままぶらぶらしていたというのが本音ですが、それでも自分ができることをあれこれ考えていました。 

試行錯誤を続ける岩田さんは、植物の輪郭の画像を用いて遺伝解析をする研究から、自分の長所を発見をします。

 岩田:あるとき、大根の輪郭を波の形と見なして、それを数式で表し統計にかけることをやり始めたんです。今まで育種家が感性で「いいかたちの大根だ」と言っていたものを数字で表すことができないかと。もともとプログラミングが好きで、簡単なゲームを自分で作ったりしていたからなのか、そうやって大根の画像解析をしたり、それを数式で表したりしていたら、だんだん面白くなってきたんです。そうやって自分が好きなことをやっていたら、少しずつ評価されてきたので「みんなと同じやり方で評価される必要はなくて、仲間がいればひとりで全てをやる必要はないのかもしれない」と思うようになりました。

ここで岩田さんは「知彼知己者、百戦不殆」(敵を知り、己を知れば何度戦っても負けることがない)という孫子の言葉を紹介しながら、「まずは自分の好きなことや得意なことを見つけることが大事だ」と続けます。

岩田:好きなことってどれだけやっても疲れないので、自分の好きをどんどん強化できるんですよね。そこでもうひとつ重要になるのは、自分と他人の違いをよく理解して、自分の「得意」を前向きに使うこと。できないことはそれが得意な人と一緒にやればいいんです。他者との関係のなかで自分が望まれていることをより強化していけると、自分も他者も幸せになれるんじゃないか。そういったことを大学生活から学びました。

 

まずは夢のような未来を描いてみる

研究のプロジェクトを進めるには資金調達が不可欠であり、「この研究に出資したい」と思ってもらえるような提案が必要になると岩田さん。研究のアプローチにはふたつの考え方があると話します。

岩田:ひとつは実績を確実に積み上げていく「ピラミッド型」で、下の段ができたら次の段をつくろうという着実な考えです。そしてもうひとつは「天国への階段型」。壮大なゴールを設定して、そこに至るためにはどうしたらいいかを考える方法です。とはいえ、このふたつのアプローチを違うものだと考えるのではなく、私は「天国への階段型」からはじめて、足りないところを「ピラミッド型」で補うようなイメージでやっています。 

より大きな予算を取りにいくときは「天国への階段型」が好ましい、と岩田さんは続けます。 

岩田:「天国への階段型」で一番大事なのは、まず夢のような未来をかなり楽観的に描いてみることです。それができたところで、その未来の実現のために自分自身が生み出せることを探しつつ、それだけでは足りない部分が必ずでてくるので、例えば「どんな人と組めば足りない部分が補えるのか」など考えることも重要になります。研究って結構な割合で足りないところだらけなので、そこを埋めていくのが研究なのだろうなと考えることもありますが、そういったことを考える時間は非常に重要な要素となりますし、研究者として楽しい時間でもあります。

 

物事はどんな繋がりで何が起こるかわからない

メンタートークでは「人とのつながりの重要性」を語る場面もあり、岩田さんはひとつのエピソードを紹介します。

岩田:以前、アグリテックやフードテックをテーマにしたサミット「AG/SUM」のハッカッソンに東大のメンバーを集めて参加したことがありました。ただ私たちのメンバーはみんなピッチが下手で(笑)。ハッカソン中はいろいろなメンターの方にメンタリングをしてもらったのですが、そこでピッチのトレーニングをしてくれたのが林千晶さん(株式会社ロフトワーク取締役会長)でした。その縁がきっかけで100BANCHのメンターとして呼んでもらい、今日こうしてみなさんの前でお話をしているわけです。物事はどういう繋がりで何が起こるかわからないので、そういう繋がりは非常に大切にしたいですし、よきものだなと感じています。

100BANCHのオープン当初からさまざまなプロジェクトのメンタリングを行ってきた岩田さん。プロジェクトが100BANCHの活動を終えても、その縁が続き、さまざまな展開に発展していると言います。 

そのひとつが「Now Aquaponics!」プロジェクト。水産養殖と水耕栽培をかけあわせ、魚と植物を同じ環境で育てる循環型有機農法「アクアポニックス」を体現した装置を使って、生態系からコミュニティや未来のあり方を提案してきました。

岩田:「Now Aquaponics!」は100BANCHの初期に採択したプロジェクトでした。今でもリーダーの邦高(柚樹)さんとは2週間に1回くらいブレストをしているのですが、その会話のひとつが膨らんで、「農とブック」という家庭菜園の作業ログや野菜の成長のプロセスをシェアできるウェブサービスの開発に繋がりました。

農とブック
「種まきから食べる」までをオンラインで提供する新しい日常の体験サービス
https://noutobook.com/login?mode=select

野菜とはちみつを使ったお絵かきクリーム「やさいのキャンバス」を開発する「YASAI no CANVAS」プロジェクトのリーダー・瀬戸山 匠さんは、岩田さんのメンタリングをきっかけに、岩田さんの研究室の先輩であり大正大学の教授・古田尚也さんとの繋がりが生まれ、現在は大正大学の埼玉キャンパスで「レイズドベッド」の実証実験を行っています。

岩田:レイズドベッドは腰をかがめず作業が出来る栽培ベンチです、車いすで移動する人でも農作業ができるので、アクセシビリティが高く、いろいろな人が農業を体験できます。これを都市農業と捉える活動に瀬戸山さんが強くコミットして、現在大正大学と一緒に開発を進めています。

また「The herbal hub.」プロジェクトの新田理恵さんが開催した「薬草大学」に岩田さんが登壇したことで、意外な展開が生まれたと言います。このプロジェクトは日本の在来ハーブ・薬草を活用した美味しくて健やかな食卓を、お茶などを通して提案しています。

岩田:「薬草大学」には、漢方薬メーカーのツムラで生薬の研究をする方も登壇されていて、それがきっかけで薬草のゲノム育種に携わることになりました。これまで薬草の育種はほとんど進んでいない分野だったので、力を入れて研究しようというプロジェクトです。他にもたくさんの貴重な機会や縁をいただいている100BANCHに大変感謝をしています。

 自身の経験から得た学びや100BANCHで生まれた縁を語った岩田さんは、最後に先ほどの言葉「知彼知己者、百戦不殆」をあらためて紹介しながら、参加者にエールを送りました。

岩田:私は「敵を知り(知彼)」って言葉はあまり好きではないので、敵ではなく友を知り、そして己を知って一緒に未来のことを思い浮かべる。そうやって私やみなさんが進むことができれば、100年後は食糧問題や地球温暖化などたくさんの問題が山積みで、決して甘くはないと言われているけれど、きっとすばらしい世界になると思っています。これからのみなさんの活躍も期待しています。

 

(撮影:鈴木 渉)

 

GARAGE Programの成果報告ピッチレポートはこちら

<次回実験報告会>

100年先の未来を描く5プロジェクトがピッチ!

3月実験報告会&メンタートーク:米田 惠美(米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表)

日時:2022年3月29日(火) 19:00〜21:00

無料 定員100名

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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
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https://100banch2022-03.peatix.com/

『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストは米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表の米田惠美さんです!

【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方

【概要】
 日程:3/29(火)
 時間:19:00〜21:00
 参加費:無料
 参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介

19:15〜20:00:メンタートーク
・米田惠美(米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表)

20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評

登壇プロジェクト(現役)
Audience-based Switching : 観客の視点をベースにしたスイッチングを実現し、新しい映像配信の体験を作りたい
GEKI: エンターテインメントの力で、「働く」をもっとワクワクに。
Radio is Izakaya : 言いたい事も言えないこんな世の中じゃ Poison 泣く子も黙る大衆ラヂオ

登壇プロジェクト(OB)
Period of 100 Athletes Project:生理で悩む人たちへ。アスリート100人の声を世の中へ届けたい
Seek new game ; Hidden in the future:日本をかくれんぼ大国にします。

20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING

【メンター情報】

米田惠美
米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表

プロフィール
高校時代から社会システムデザインに興味をもち、慶應義塾大学在学中の2004年に公認会計士の資格を取得。大手監査法人(EY)勤務を経て、2013年に独立。 組織開発・人材開発の会社を共同設立。副社長としてビジネスセクターの人材・組織マネジメントの知見を蓄積。

2018年より日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の常勤理事として各種ガバナンス改革と並行して、社会課題を共通テーマにした官/民/スポーツの連携を推進する『シャレン!』を立上げ、経営改革を推進。理事退任後もスポーツを使った社会課題解決の取り組みを多く扱う。
現在はソーシャル・スポーツ・パブリック・ビジネスなど多様なセクターのリーダーのパートナーとして挑戦中。

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次の100年をつくる、百のプロジェクトを募集します。

これからの100年をつくるU35の若きリーダーのプロジェクトとその社会実験を推進するアクセラレーションプログラムが、GARAGE Programです。月に一度の審査会で採択されたチームは、プロジェクトスペースやイベントスペースを無償で利用可能。各分野のトップランナーたちと共に新たな価値の創造に挑戦してみませんか?

GARAGE Program
GARAGE Program エントリー受付中

6月入居の募集期間

3/26 Tue - 4/22 Mon

100BANCHを応援したい人へ

100BANCHでは同時多発的に様々なプロジェクトがうごめき、未来を模索し、実験を行っています。そんな野心的な若者たちとつながり、応援することで、100年先の未来を一緒につくっていきましょう。

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