• イベントレポート

100BANCHで「プロフェッショナル 子ども大学」開校 4プロジェクトから学び、それぞれの「流儀」を考える

第一線で活躍中のプロの「仕事」に迫るNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」。その制作チームと100BANCHがタイアップして、この夏、子供向けの大学「プロフェッショナル 子ども大学」が開校しました。

このコラボレーションの検討がスタートしたのは、およそ1年前。2006年の放送開始以来、350名を超える職業人を取材してきた「プロフェッショナル 仕事の流儀」と、「未来をつくる実験区」として若者たちの挑戦を応援する100BANCHがタイアップし、「働く喜び」や「生きる力」を子どもたちに伝えるため、新しい取り組みができないかと企画を進めてきました。

そして開校した「プロフェッショナル 子ども大学」。第1回のテーマは「ものづくりの『ヒットメーカー』になろう」です。講師は “伝説のヒットメーカー”と呼ばれるほど、日本を代表する商品を生みだしてきた、スナックメーカーの株式会社湖池屋 代表取締役社長・佐藤 章さんが務め、子どもたちは「商品開発」について学びました。

第1回の講師を務めた湖池屋 代表取締役社長の佐藤 章さん。会場は、スタジオへと様変わりした「100BANCH」です。

 

未来の教育コンテンツをつくる「流儀ラボ」

開校日、講師の佐藤さんは子どもたちに「ヒット商品をつくろう」という課題を投げかけました。この課題に取り組むべく、子ども大学事務局の大隅 亮さんは、4日間の「流儀ラボ」を計画。100BANCHに参加する若きイノベーターの力を借りて、子どもたちの考えを揺さぶるような刺激的なワークショップを企画しました。

大隅 子どもたちの目の色は、どの瞬間に変わるのか。「流儀ラボ」は、未来の教育コンテンツを生み出すことに挑んだ4 日間でした。毎回、子どもたちが考案する「ゲストの流儀」には本質を突く言葉が多く、何度も震える瞬間が訪れました。

ここでは、4日間を通して子どもたちが、驚き、考え、発見し、学んだ「流儀ラボ」をレポートします。

 

人の目を気にせず、「自分の好き」を追求する

《ワークショップ1日目》

テーマ:昆虫食

昆虫食ワークショップの参加を呼びかけたところ、集まった子どもはたったの3人。それ以外は昆虫食を“キワモノ”だと感じ避けていたといいます。しかし、その先入観はゲストと触れ合うことで一変していきました。

本日のゲストは「世界初のコオロギラーメン専門店を開業し、先入観を打破したい」と活動を進めるプロジェクト「Cricket ramen」のリーダーで“昆虫食伝道師”こと、篠原裕太です。

はじめに、篠原が持参した食用の蟻やタガメ、ジャイアントミルワーム、ゴキブリを披露。怖がるかと思いきや、子どもたちは積極的に昆虫に触れるとともに、「食用の蟻はチャーハンによく合うんだよ!」など、篠原が話す昆虫食の説明に興味深く耳を傾けていました。特に子どもたちが驚いたのは、タガメの甘い香りを嗅いだ時。ラフランスのような香りがするため、タガメはケーキやシロップ漬けなど、スイーツに使われることが多いそうです。

タガメの甘い香りに驚く子どもたち

その後、篠原が子どもたちを前に、自身の生い立ちを話し始めます。「勇気を振り絞って昆虫食をしている事をカミングアウトしたんだ」「食べることは究極の愛なんだよ」など、篠原はこれまでの経験で感じたことを伝えてくれました。

少しずつ昆虫食に興味を持ち始めた子どもたちは、続いて「昆虫料理組み合わせカードゲーム」を行うことに。篠原は「おにぎり」「コロッケ」など一般的な料理のカードに加え、「タランチュラ」「コオロギ」などの昆虫、「ラクダ」「トカゲ」などの動物が描かれたカードを用意。子どもたちはランダムにカードを引き、カードにある材料を使って、美味しい料理を考案します。

昆虫、野菜、魚などの動物と、料理を組み合わせて新しいメニューを考案

子どもたちの「イソギンチャクチップス」や「タランチュラおにぎり」、「羊の脳みそコロッケ」など、思いもよらないアイデアが発表されるたび、会場は大盛り上がり。篠原は一つ一つの斬新なアイデアに驚き喜びながらそれぞれを講評しました。

最後は今回のワークショップを振り返り、子どもたちが篠原の「流儀」について考えます。子どもたちは特に篠原が自身の生い立ちを話す姿が印象的だったようで、「好きを大切に」「自分に勇気をもつ」「過去を勇気に」など、人の目を気にせず、自分の好きを追求することの重要さを感じさせられる流儀が多く生まれました。

(報告:佐野)

 

当たり前の発想を、あえて逆転させてみる

《ワークショップ2日目》

テーマ:逆転の発想

最近、ヒラメキを苦手と感じる子どもが多いと言われています。今回は簡単な手順で発想を生み出すワークショップをおこないました。子どもたちは、ゲストのヒントを受け取り、ヒラメキを生む方法をスポンジのごとく吸収していくことに

今日のゲストは、しいたけを中心とした菜食だしのうまみを、世界に分けへだてなく広めようと奮闘する「SHIITAKE MATSURI」の竹村賢人。子どもたちは竹村さんから用いる発想法を、3つの課題を通して学びました。

最初の課題は「新しい目覚まし時計」を発明すること。子どもたちは課題それぞれの要素に対して、「逆」の要素を考えるという発想法に挑戦。課題を分解した要素を紙に書きだし、ガチャポンに入れ、ボックスの中に投入します。今度はボックスからランダムにガチャポンを取り出し、 他の子どもが考えた要素をもとに、その要素の「逆」の思考を考えます。

身近なガチャポンを前にうれしそうな子どもたち

多くの子どもは目覚まし時計の要素として「音が鳴ること」に着目。その逆の要素を考えてもらうと、数人の子どもたちから「音が鳴らない目覚まし時計はどうか」と発言がありました。この要素を膨らせ、「部屋の明かりをつけて目を覚まさせる時計」や「振動して目を覚まさせる時計」など、新しいアイデアが生まれました。途中、竹村の「普通のアイデアじゃ面白くないから、もっと自由に考えてみよう!」という言葉で、子どもたちの発言が積極的になり、非常に活発な会話が展開されました。

続いての課題は、「新しい電車」をテーマに、逆の発想についてさらに踏み込みます。子どもたちを2チームに分かけ、それぞれ考えたアイデアを採点するゲームです。

電車の「固くて四角い」という要素を逆の発想に転換した「やわらかい素材で人を傷つけない丸い電車」や、「終電がある」という要素を逆に考えた「終電のない自動運転の環状線」などが発表され、竹村は「それは思いつかなかった」と高評価を付けていました。

課題に取り組みながら、徐々に「逆発想」が身についていきます。

子どもたちから「これは実現不可能だ」「無理だよ」と言葉を耳にした竹村さんは「一見すると意味がなく無謀なアイデアでも、諦めずにやれる方法を考えてみよう」と語りかけ、自由な発想を妨げないことが大切だと教えていました。

最後の課題は、実践として「新しいうどん」の商品名や特徴、パッケージなどをチームごとに考えました。すっかり逆の発想法を学び取った子どもたち。最終的に「飲むうどん」と「どこでもこだわりうどん」という商品案が生まれました。保護者の投票の結果、僅差で「飲むうどん」のアイデアが勝利。「飲むうどん」を考案したメンバーは誇らしげに、自分たちの発想や思考を披露していました。

みんなで考えたとっておきのアイデアを発表しました

ワークショップは終盤に差し掛かり、子どもたちは竹村の「流儀」を考えます。そのなかに「新しい自分を追求し続ける」という流儀がありました。これを考えた子どもは、「物事を分解し突き詰める発想法を使って、菜食だしを追求する竹村さんの姿勢を知ったから」と、この言葉が生まれた理由を教えてくれました。

竹村がワークショップ中に語っていた、「役に立ちそうになくてもいい。まずはやってみよう」。この言葉は難題に取り組む子どもたちの、大きな勇気になったのではないでしょうか。

(報告:絹谷)

 

料理を食べる人が、どんな気持ちになってほしいかを考える

《ワークショップ3日目》

テーマ:逆料理

「たべもの」の商品開発は、それを媒介として社会にメッセージを発することではないだろうか。今回のワークショップは「逆料理」という方法で、食べ物のメッセージを読み取る訓練を試みました。そこには、食にとどまらない様々な愛情が含まれていました。

今日のゲストは、日本の在来種である薬草を日常に取り入れることによって、健やかな体へと導こうというプロジェクト「The Herbal Hub to nourish our life.」の新田理恵。

はじめに新田はクイズを交えながら、子どもたちにとってあまり身近ではない薬草について説明します。新田は薬草茶を生産する農家とフェアトレードを交わすなど、商品を開発するだけではなく、人と人との関わりがビジネスで重要だと伝えました。

薬草を通じて活動する新田

続いて、新んの「料理にはメッセージがある」という想いを体感するために、料理の工程をさかのぼるアプローチ方法である「逆料理」をおこなった。

子どもたちは2 チームに分かれ、「コロッケ」の「逆料理」に挑戦することに。食材、調理の工程、料理の歴史をそれぞれ書き出し、その中から「コロッケ」に込められているメッセージを読み解きます。思考を巡らせつつチームで協力しながら、「みんなにとって日常的な食べ物」「子供からお年寄りまでみんなで楽しみながら作ることができる」「たまに食べると美味しいけど特別感はない」「家族で食べると楽しい」など、子どもたちはコロッケに込められているメッセージを発表しました。

一生懸命に「コロッケ」に込められているメッセージ伝えます

新田は「食べる人がどのような気持ちになってほしいか」を考えることの重要性を語り、「普段は深く考えないかもしれないけど、今日はみんなでしっかり食について話し合あおう」と伝えます。このワークショップを通して、子どもたちは食にとどまらず、お互いが協力し合いさまざまな考えを見いだすプロセスも学びました。

ワークショップでは、子どもたちから新田に質問をする時間も設けられました。「昨日の晩ごはんは?」「小さい頃の将来の夢は?」「嫌いなたべものは?」など、素朴な質問に加え、「仕事をする上でのモットーはありますか?」という質問も飛び出し、それに新田は「モットーは健康と食べる楽しさのバランスが大切だから、どちらかに偏らないようにしている」と教えてくれました。

最後は子どもたちが新田「流儀」を考えました。多くの子どもたちが「健康」「愛情」と発表するなか、ひとりの女の子が発表した「食べ物は話す」という言葉が印象的でした。彼女は「それぞれの料理にはメッセージがあり、作った人の想いはもちろん、その食材を作った人の想いも込められている」とその意味を教えてくれました。

ゲストの「流儀」を発表する子どもたち

今回のワークショップを通して、新田の人に対する愛情の深さを感じるとともに、人に対して思いやりや優しさを抱くことが、自分の強い原動力になることに気が付かされました。子どもたちは物事の奥に込められているメッセージを、普段から考えるきっかけになったのではないでしょうか。

(報告:エイブル)

 

助け合いの文化で生まれたお金は人を幸せにする

《ワークショップ4日目》

テーマ:ITとお金

21 世紀は IT と金融の世紀であると考えられ、今の教育界はIT 教育と金融教育がトレンドだと言われています。今回、子どもたちはゲストから「小さな経済」を学ぶことに。これからの時代を担う彼らは、この学びを通して未来の経済について多くの想像を膨らませました。

今日のゲストは夢に向かって頑張る人を応援する“0円”食堂「polca食堂」を進めるプロジェクト「polca Cafeteria」のリーダー・前田 塁。インターネットサービスやSNSの呼びかけを通じて集めた資金を使い、食事を無料提供する場を演出。これまでさまざまな出会いの場を生みだしています。

はじめに、前田は自身がおこなうクラウドファンディングなど、新しい資金調達方法を取り上げながら、子どもたちに助け合いの文化で生まれるお金の大切さについて語りました。

食い入るように前田の話を聞き、何度もうなずく子どもたち

続いて、資金はどのように資本家から企業、消費者へと流れて行くのかを学びます。お金の話はピンと来ないようで、「難しいそう……」と、やや緊張ぎみの子どもたち。前田は、「100円のポテトチップス一袋をみんなのもとに届けるためには、どんなお金がかかっていると思う?」「ポテトチップスを何袋売れば、従業員にお給料を支払えるかな?」と子どもに分かりやすい例で問いかけると、子どもたちは一変し明るい表情に。たちまち議論は白熱、「材料費が一番高いはずだよ」「お給料を増やすには、送料を削ればいいんじゃない?」など、多くの意見が次々に飛び出し、楽しくお金の流れを学ぶことができました。

どんなお金の流れがあるかを真剣に考えます

「僕の夢は『polca食堂』で47都道府県を回ること。災害の現場にも訪れて食事を届けたい」と話す前田の「流儀」を、子どもたちは「たくさんの夢がかなうように」と発表しました。

お金の流れにちょっとした工夫を加えることで、社会に機会と幸福を拡散させていく。子どもたちは「polca食堂」の活動を通じて、新しい時代の経済を思い描きました。

(報告:鈴木)

 

魅力的なイノベーターは、最高の刺激になる。 子どもたちの好奇心をかきたてる教材は、方法論化できる。

驚きや発見を通して、子どもたちが新しい学びを体感した「流儀ラボ」を振り返り、大隅さんは以下のように話しました。

大隅 若いイノベーターという存在が、子どもたちにとって非常に強いコンテンツであること。そして、子どもたちを刺激する独自の方法論を作ることができると自信を深めた4日間でした。

1日目の「昆虫食」では、なにより篠原さんという強烈な個性が教材になっていたこと、カード式のゲームによって会話が盛り上がる(みんなが同じ舞台の上で会話できる)ことが印象的だった。

2日目の「逆転の発想」では、子どもが親しみやすいガチャポンを使い、勝負形式によるゲームをおこなうことで男の子の競争心をメラメラと燃やすことができた。非常に発想が豊かな竹村さんの存在は、子どもたちにとって、大きな刺激となりました。

3日目の「逆料理」は学問的な内容も多いなか、子どもたちが真剣に学んでくれたおかげで、本質的な授業を展開できたと感じました。当日、新田さんお願いして、子どもたち一人一人にオリジナルレシピを提供してもらいました。このレシピは、子どもたちにとって、非常に素晴らしい刺激になったと思います。

4日目の「ITとお金」では、クラウドファンディングという、人びとの幸せを実現する経済手段について、子どもたちが関心を寄せていたことが印象的でした。前田さんが気さくに新しい経済を語り、それを夢中になって聞く子どもたちの姿はとてもほほ笑ましい光景でした。

“ヒット商品づくり”のヒントを「流儀ラボ」で学んだ子どもたちは、次回の講義でそれぞれが考えた「新しいポテトチップス」を発表します。収録は8月26日(日)で場所は100BANCHです。

果たして、佐藤さんを驚かすポテトチップスは生まれるのか。

子どもたちのさらなる活躍にご期待ください!

 

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