LEADER INTERVIEW

2019.10.30 Wed

税金教育を通して子供たちに伝えたいこと
100年後もなくならない税金を楽しく学ぶために
:Tax education さんきゅう倉田

  • #未来の教育

  • #GARAGE Program

  • #リーダーインタビュー

大学卒業後、新卒で東京国税局に就職。2年間に渡る法人税調査の業務を経て、お笑い芸人になるためよしもとクリエイティブ・エージェンシーへ。そんな異色すぎるキャリアを持つさんきゅう倉田さんは100BANCHへの入居を機に、小学生から高校生までを対象とした、税金教室を通じて税の基礎知識を学んでもらうためのプロジェクト「Tax education」を本格始動。現在も芸人としてこの活動を推し進めています。

 

税金関連のイベントを開催や執筆活動。あるいは著書『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)の出版や、税金を理解するためのボードゲーム「税金とり」の制作と、多岐に渡る活動を続けている倉田さんですが、そのモチベーションの源は「楽しいから」という実にシンプルなもの。それは、彼が税金教育を通して子供たちに伝えたいことと深く関わっているようです。

(執筆:濱安 紹子 写真:朝岡 英輔)

——なぜ国税局に就職しようと思われたのですか?

大学を卒業するにあたり、いくつか合格した公務員試験の中から最も興味がありそうだったのが国税局の仕事でした。就職をしてからは法人税の税務調査を行なっていました。企業行って売り上げや経費が書いてある帳簿を見せてもらうというのが業務で、帳簿の内容に間違っているところや不正があれば、相手にそれを指摘して修正申告を求めます。国税の仕事はすごく面白かったし、やりがいも感じていました。

 

 

——その後、退職してお笑いの道を選ばれたんですよね。

お笑いへの興味は昔からあったんです。大学生の時にお笑いの道へ進むかと悩んだ時期もありました。だけど、やはりずっと公務員試験の勉強をしていたのでそれを辞めるのはもったいない。まずは国税局の仕事をやってみようと。就職して2年くらい経った時ですかね。再び芸人という職業に就きたいという思いが浮上して、そちらの道を選ぶことにしました。国税局の仕事にはやりがいを感じていましたが、とにかく楽しいと思えることをやりたいっていうのが僕の根幹にあって、色々考えた結果、そのような判断に至りました。お笑いってやっぱり楽しそうじゃないですか(笑)。

 

——そこからさらに、「税金教育を行う」という今のプロジェクトにたどり着いたのは、なぜでしょうか?

タレント業を続ける中で感じたのが、確定申告などを自分でできない芸人が周りに多いという現実。例えば、アルバイトなどの副業をしている芸人なんて、5〜20万円から還付金が適応されるケースがあるわけです。だけど、そもそものやり方がわからないし難しそう、という理由でやらないというケースが非常に多い。税に対するリテラシーが低いがゆえに損をしてしまう人が多いんです。だけど、それって残念ながら学校が教えてくれることではないし、本人が自力で頑張るしかないことなんですよね。子供が大人になった時、同じように損をしてほしくないなと感じたのが、今のプロジェクトをスタートしたきっかけです。

 

 

——税の問題に直結する大人ではなく、子供への教育というところにフォーカスされているんですよね。

大人は頑張れば自分でどうにかできるけど、子供はそうじゃないし、何らかのきっかけが必要ですよね。楽しく税について学び興味を持ってもらう、そのためのきっかけ作りをしたいなと思ったんです。子供がお金について学ぶ機会ってほとんどないじゃないですか。僕が子供の頃には、お金を稼ぐこと自体が悪いこと、というかあまり語っちゃいけないようなイメージすらありましたし。

思えばドラマとか映画とか、そういう製作物ってお金持ちが悪く描かれている作品が多いですよね。清貧こそが美しいみたいな風潮がちょっと前の日本にあった気がします。だけど、今はかなり流れが変わってきていて、お金の勉強を子供にさせたいという親御さんも増えてきているんです。今はまだ一部の方々だけですが、そういうマインドを持った親御さんが増えて広がっていけば良いなと。

 

——やっぱり税金やお金のことになると、難しいとか分かりにくいとか、とにかくネガティブなイメージを持つ人は少なくない気がします。どうしてお金の教育ってこれまであまりされてこなかったんでしょう?

なんででしょうね……。ネガティブなイメージに関しては、お金の話をすること自体が良くないって風潮がいまだに残っている、というのが理由のひとつかもしれません。アメリカでは最近、受刑者向けのお金に関するリテラシーを上げるビジネスがスタートしたと耳にしました。刑務所を出た後ってお金がない状態。それが再犯率の高さに繋がっているんじゃないかと言われていて、それを防ぐためにお金の教育を行おうという動きがあるらしいです。どうやって何にお金を使うべきかを分かっていない人が多いというのは僕自身も感じていること。そういうことを教える教育の必要性は強く感じています。

 

——100BANCHに応募したきっかけを教えてください。

僕、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHKのドキュメンタリー番組)が大好きで、毎週見ているんですよね。昨年の夏に放送されていた「プロフェッショナル 子ども大学」というプロジェクトにタイアップしていたのがここ。番組内で数秒だけ出てきた「100BANCH」という文字に引っかかって、ネットで調べてエントリーしたというのが全貌です(笑)。

税金教育に関することをやりたいという思いは以前から漠然とあったんですが、コネクションがあるわけでもなかったし、きっかけもなくて進んでいなかったんです。そんな中で100BANCHの「次の100年を築く実験区」というテーマや「Garage Program」の募集要項を見つけて、ちょうどいい機会なんじゃないかと思いました。そして、うれしいことに入居が決まり、今のプロジェクトを進めていくことになったんです。100BANCHへの応募が一念発起へのちょうど良いきっかけになりました。

 

——100BANCHでは実際にどのような活動を行なっていましたか?

はじめは学校で子供たちへ向けた税金教育を進めていきたかったのですが、やっぱり学校はツテがないと介入するのが難しいし、先々のカリキュラムが組まれているのですぐに実施できないという問題がありました。そもそも自分が全て行うには無理があるなというのも感じていましたし……。そこで、自分が全てを行わなくても良い方法がないかと思いついたのが「税金とり」というゲーム。僕が直接その場に行ってゼロから教えなくても税金について楽しく学べるようなツールがあれば良いなと考えた結果、ボードゲームがぴったりなんじゃないかという結論に至り、そこからはゲーム作りに力を入れました。これが完成した「税金とり」です。

 

 

——「税金とり」とは、具体的にどのようなゲームでしょうか?

基本的には5人以上で遊んでもらうよう薦めています。それぞれのプレイヤーに役職カードを裏にした状態で引いてもらって役職を決めます。中には「国」という役職カードがあるんですが、国以外のプレイヤーは最初に300万円ずつもらって、持った能力を使いながら取引によってお金を増やしていく。そしてその稼いだ分の10パーセントを国に払うようになっています。これがつまり税金ですね。

国は持っている予算カードと収められた税金を比較して、集めた税金より予算カードの数字の方が大きければ国の資産が足りないということになり破綻。税金の方が多ければ次のターンへ進めます。それを3ターン繰り返して、最終的に一番お金を持っている人が勝ちです。国のプレイヤーは途中で他のプレイヤーから寄付を募ることもできるんですが、寄付金が予算に届かない場合も当然ながら破綻。そしたら一番お金が少なかった人とニートが勝ちということになります。ちなみに、国は予算が足りてても足りないって嘘つくこともできます。国ってそういうもんじゃないですか(笑)。

 

 

——そういう騙し合いみたいな要素もあると(笑)。色々な立場から社会の仕組みが分かるゲームなんですね。

ゲーム終了後に子供の感想をヒアリングするんですが、その中には「ニートやアルバイトにはなりたくない」とか、「投資家ってよく分からないけど面白そう」とか、そんな声もあります。職業選択のヒントにもしてほしいですね。いずれにしても、「国はみんなから税金を集めないとダメになっちゃうし、プレイヤーはちゃんと納税しないと、いずれ国が破綻して自分のお金もなくなってしまう」という感覚を持ってもらえることが嬉しいです。

 

——100BANCHで開催した「大人の税金教室 2.5」というイベントの中で、ゲームのお披露目会も行なっていましたよね。

大人の場合は「たくさん稼がないといけない」と改めて思ってもらえているようですね。取引で得た金額の10パーセントを国に持っていかれるわけなので、取引額が大きくならないと国にお金が入っていかず経済が回らなくなる。大人なら知っている当たり前のことではありますが、それを再認識してもらうきっかけにもなっているようです。子供のために作ったものですが、大人も楽しんでもらえる内容になったと思います。今では、よしもと興業のワークショップでも使わせてもらっているんです。

 

——ゲーム作りで苦労した点はありましたか?

全体的な構想は初めからあったんですが、細かい部分を詰める作業は大変でしたね。例えば、プレイヤーの能力や特徴などに矛盾が出ないかとか。特に、どうすればより面白くなるか、つまらなくなってしまうのかということはすごく吟味して試行錯誤しました。

 

 

——ゲームに対する周囲のの反応はいかがですか?

おおむね良い感じの反応を頂いています。ゲーム込みで子供向けの税金授業を開いてほしいというお声も頂きましたし。これをきっかけに僕のことを知ってくれて連絡してくださった方もいて、活動が広がっている感じはしますね。元々は学校に寄付するために作ったもので販売目的ではなかったんですが、現在はメルカリで販売しています。

2個セットで4,200円なのですが、実際にお届けするのは1個のみ。残り1個は学校への寄付分に回させて頂いています。寄付分を負担してもらっているって感じですね。それでも子供がゲームをやって気に入ってくれて、後から親御さんが買ってくださるケースが増えているので嬉しい限りです。ちなみに、ボードゲームのアイディアをくれたのはメンターの山内(康裕)さんなんです。本当に感謝しています。

——100BANCHでの活動期間を振り返って、何を得られたと感じましたか?

僕の場合は偏った知識が必要なジャンルなので、親和性のある他のプロジェクトやメンバーとご一緒する機会はなかなか見つからなかったんです。ただ、100BANCHにエントリーした際にはまだやりたいことがはっきりとは定まっていなかったので、「GARAGE Program」の3ヶ月という期限の中で進めることでプロジェクトの内容を明確化し、加速させられたというのは大きかったですね。

折角の機会だから活かさないといけないという気持ちはありましたし、良い追い込みになったなと。それに、こういう場所が無料で提供されること自体がすごくありがたいことでした。課題はまだまだありますが、100BANCHの活動で生まれた「税金とり」を携えて、次のステップへ進んでいきたいと思っています。

 

 

——次のステップとはどんなものでしょうか?

やはり自分の力だけでは子供を集めるのが難しいので、イベントをあちこちで積極的に行うというよりは、塾などとコラボして幅広く進めていきたいと思っています。あとは新しいゲームを作りたいとも考えているんですよね。今10種類ある役職カードを増やしたいというのもあるし、新たなアイディアもあります。ゲームをきっかけに、何らかのスポンサードとかタイアップなどが、実現できたらいいですね。

 

——色々な構想があるわけですね。では最後に、倉田さんが大切にしていることを教えてください。

僕にとっては、楽しいかどうかということがすごく重要ですね。楽しいことを仕事としてやっていけば自分の能力も上がるし、お金も稼げるようになるというのが僕の考え方です。お金で損をしないようにという思いはもちろんありますが、教育を通して本当に子供たちに伝えたいのは、そういう考え方なのかもしれません。だから、僕のイベントに来てくれる子供には「楽しいことをやろう」と教えています。僕自身、子供が好きなので彼らと関わって何かできることが楽しいし、それが彼らの将来に役立つのであればすごく嬉しいですね。

 

WRITER

濱安 紹子

ライター

猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。 その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。