LEADER INTERVIEW

2019.12.11 Wed

宇宙開発とVRを使ったコンテンツで教育の未来を開きたい
VR×Space Education Project by Yspace・木村亮仁

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「人生をかけてやりたいものは、宇宙開発と教育」

そう話すのは「VR×Space Education Project by Yspace」を進めている木村亮仁さん。プロジェクト名が表す通り、VR(仮想現実)の技術と宇宙を組み合わせて新しい学びの形を模索しています。

 木村さんは現在、東京工業大学に在学しながらも、XR(さまざまな仮想空間技術)を用いた宇宙開発を行うベンチャー企業・Yspaceにて教育事業を担当。前述のプロジェクトの一環として100BANCHに入居し、宇宙×VRの教育コンテンツの開発や展示、ワークショップなどのイベント開催を行なっています。

 宇宙に焦がれた少年がいつしか教育という分野に興味を持ち、VRとの出会いで未来を見出す。宇宙・教育・VRという3つの点が繋がるまでの物語と現在の活動、そしてこれからの展望を伺いました。

 

(執筆:濱安 紹子 写真:朝岡 英輔)

かつて、月面探査を目指す宇宙ベンチャー企業のインターンシップに参加していた木村さん。そこで出会った仲間が2018年6月にYspaceの立ち上げを行い、縁があってそこに所属することとなりました。「Yspaceは、分かりやすくいうと宇宙開発したい人たちの集まり」と話す木村さんは、創業メンバーではないものの、創業時から事業サポートしていた存在。実はYspace創業のそもそものきっかけ自体が、宇宙とVRとの出会いからだったようです。

 

 

「日本HPが『火星100万都市をデザインする』というアイディアコンペティションを2017年から半年間かけて行なっていて、それにYspace創業メンバーが参加していました。その時に出されたのが『VR空間上にアイディアを再現する』という課題。メンバーの中にVRやゲームコンテンツを作った経験のある人はいなかったけど、航空宇宙工学やロボット工学に携わっていた人たちばかりだったのでなんとか実現でき、見事優勝することができました。その時にVRと宇宙って相性が良いんだなと発見。これを事業化できたらと思い、スタートしたのがYspaceです」

 

木村さんは現在、Yspaceの教育事業を担当。宇宙開発とVRの組み合わせがどのように教育の分野へと繋がったのか、教育事業を立ち上げるに至った経緯をこう語ります。 

 

「創業した最初の1年は特にPR活動に注力していて、機会があれば色々なところへ出向いて出展していました。その中のひとつに、東京・中目黒で開かれている小学生向けの理科教室があり、主催者に依頼される形で初めて教育という分野に関わることになったんです。『宇宙のVRコンテンツを使って小学生向けに学びを提供する』というリクエストをいただき、『楽しそうだな』くらいの気持ちでやってみたんですが、宇宙に興味を持ってくれた子どもが多く、親御さんからの反応も良かったんです。予想以上の反響でしたね。それで、教育事業も面白そうだしチャレンジしてみようかと思いました」

 

 

宇宙開発からVR、そして教育事業へと繋がったYspaceと木村さんですが、この宇宙開発と教育には彼のある原体験が深く関わっていたと言います。

 

「僕は小さい頃から理科が好きでした。ただ、振り返ってみるとそのきっかけは学校の授業ではなく、小さい頃にたまたま見つけた宇宙の本。僕たちが住んでいるこの地球の外側には、想像を絶するほど大きな世界が広がっているということを知り、衝撃を受けました。多感な時期にそういうものに触れ、好きなものを見つけられたという経験があったんですよね。そのおかげで僕の人生はある程度豊かなものになりました」

 

しかし、この経験を振り返るとき「教育への疑問へと繋がる」と木村さんは言います。

 

「一般的な学校で教えている授業の内容やシステムというのは、戦後から現在までそれほど変わっていません。僕は長らく、押し並べて詰め込めていく形の学校教育に疑問を感じていて、学びをもっと面白いものに変えていきたいと、心のどこかで思っていました。例えば、子供の理科離れが危惧されている昨今ですが、それを食い止めるようなやり方もあるんじゃないかと。それが、Yspaceに入り今の活動を進めることで、ちょっと前倒しで実現できているというわけです。宇宙開発から始まった企業で教育分野に参入するというのは、ちょっと不思議な感じに思われるかもしれませんけど(笑)」

 

 

奇しくも、宇宙・教育・VRと3つの点が繋がり出来上がったものが昔から描いていた想いに帰着するというドラマチックなストーリーを経て、進むべき方向性を見出した木村さんはYspaceの教育事業を加速するために100BANCHの「Garage Program」にエントリーし、2019年8月に入居することに。こうして、木村さんの夢と情熱を乗せた「VR×Space Education Project by Yspace」は、さながらYspaceのスピンオフ・プロジェクトのような形でスタートしました。

 

100BANCHとの出会いと入居の経緯について「Yspace代表の田中が知り合いづてに100BANCHで行われた『かくれんぼ協会』のワークショップに参加したことがきっかけ。その時に面白そうだなと目をつけていて、Yspaceの拠点としても利用できそうだし、面白い人とのコラボレーションも叶いそうだと期待して、『Garage Program』にエントリーした」と語る木村さん。入居して最初に行ったのは、『教育の未来について考えるワークショップ』でした。

 

「そこでVRを使った教育コンテンツのアイデアを参加者から募りました。宇宙関連ではないけど、『歴史をVRで体験をしてみたい』とか『ゲーム感覚で関ヶ原の戦いを再現してみたい』などの意見も飛び出し、僕らでは思いつかないようなアイデアが集まりました。そこで得た気付きや発見は僕らにとって大きな収穫になりましたね」

 

教育の未来について考えるワークショップ』のコラム

VRで宇宙を体験したら、教育の未来が見えてくるかも

 

「教育の未来について考えるワークショップ」の様子

 

次に行ったのは、2019年10月に開催された100BANCHの芸術祭「OKTOBERFEST2019」への出展。VRバンジージャンプを開発するプロジェクト「Omoracy」とのコラボレーションにより実現した、地球と月との重力差である6分の1の重力を疑似体験できるVRコンテンツ「Lunar BUNGY(月面バンジー)」と、ブラックホールに落ちる擬似体験ができるスマートフォンを使ったVRコンテンツを展開しました。

 

「コンテンツを教育の現場に普及させることを見据え、より深い学びに繋げるための実験的な試みを行いました。コンテンツの中だけで完結するのではなく、興味を持った人がこの続きを自発的に学ぶことができるようにパネル展示を行なったり、手紙に見立てた持ち帰り用の紙資料を用意したり。月面バンジーは期間中に260人もの人が体験してくれ、すごく好評でしたね」 


 

Lunar BUNGY(月面バンジー)の様子

「遊びが学びの原点」と語る木村さん。しかし、ユニークなVRコンテンツで遊びと学びの両立に挑戦する一方で、教育事業としての効果測定の難しさも感じているようです。

 

「教育にエンタメの要素を加えることで子供たちの好奇心に火を付ける、というところまではある程度できてきた気がします。でもその先にある、興味からより深い学びへとどう繋げていくかがこれからの課題。ここ数年、様々な分野の授業や講義をオンラインで視聴できるプラットフォームなど、自発的に学ぶための学習手段は世界中で増えている傾向にありますが、僕たちの役目はそういうプラットフォームを開発することではなく、子供達がより深い学びへたどり着くまでの導線を引くこと。そしてそれこそが今進めているプロジェクトの目的です」

 

 

「例えば、識字率で見ると日本は圧倒的に世界トップですが、生きがいを見出せてる人の数とか、幸せ度などで測るとすごく低いと耳にします。小さな頃から詰め込まれて勉強を頑張っても人生が豊かなになるわけじゃない。そう考えると元々の教育を考えないといけない気がするんです。もっと生徒が主体となって開かれる授業や、好きなものを選択して学べるシステムがあっていいと思うし、全教科まんべんなく勉強できるようなバランスの良い人間ばかりを育てようとする必要はないんじゃなかなと。教養を強要してはいけないんですよね。なんかダジャレみたいになっちゃいましたけど(笑)。だからこそ僕は、もっと遊びと学びの距離を縮めて、子供達に何かひとつでも面白い、もっと勉強したいと思う分野を見つけてもらいたいと考えています」 

 

未来を見据え「教育現場の普及を目指したVRコンテンツの開発を進めながら、さまざまな分野の企業や人々とのコラボレーションも展開していきたい」と語る木村さん。その柔らかな物腰の裏に隠された並々ならぬ教育への想いは、次世代を担う人材を育するための一助となることでしょう。

 

 

WRITER

濱安 紹子

ライター

猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。 その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。

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