Future Insect Eating
人類の運命を握る昆虫食に、 美しいデザインとレシピを
昆虫食をゲテモノ料理や食糧問題解決のいち手段だけではなく、「おいしい」の視点から昆虫食にアプローチするイベント「昆虫食解体新書 #0」を2018年4月20日に開催しました。
昆虫料理が当たり前の未来になるかもしれない。そんなちょっと先の未来を一緒に覗き見ませんか。
遠い未来、人口増加による食糧問題が発生。その危機的状況で昆虫が食糧として活躍する。このような話をどこかで聞いたことがあるかもしれません。
100BANCHでは人類の運命を握る(かもしれない)昆虫食に美しいデザインとレシピを与えるプロジェクト「Future Insect Eating」があります。
このプロジェクトを立ち上げたデザイナーの高橋祐亮を中心とする実験家集団「bugology(バゴロジー)」は、昆虫食をゲテモノ料理や食糧問題解決のいち手段だけではなく、「おいしい」の視点から昆虫食にアプローチするイベント「昆虫食解体新書 #0」を2018年4月20日に開催しました。
当日は「bugology」が開発した昆虫の料理とお酒を振る舞いつつ、昆虫食についてのクロストークを展開。参加者は未知なる昆虫食について聞いて、見て、嗅いで、触って、味わってと、五感をフルに使って体験する時間となりました。
実験家集団「bugology」は、フリーランスのデザイナーで昆虫食のデザインをテーマの1つに掲げ活動する高橋祐亮、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」でリードバリスタを務める大西陽、京都でnokishita711やThe Roots of all evil.を手掛けるドリンクディレクターのセキネ トモイキさんによって2018年に結成。「昆虫食を美食及びアートとして昇華させる」をテーマに活動しています。
今回は、コオロギの遺伝や進化のしくみや食用コオロギの可能性について研究する徳島大学助教の渡邉崇人さんをゲストにお迎えしました。
はじめに、このイベントについて高橋は、以下のように話しました。
高橋:3年くらい前から昆虫食の研究をはじめました。現在は「昆虫食がいかなる食になりうるのか」や「昆虫食にしかできない食のあり方とはどのようなものなのか」といったことをテーマに実験を行なっています。その実験の中には「牛や豚のように昆虫の中にも部位を見つけ出すこと」や「昆虫の独特の臭みをどのように扱うかを制作を通して考えること」とった些細なことから、実際に料理家などの食のプロとともに昆虫食を社会実装していくことまで幅広く含まれます。
その結果をもとに昆虫食をデザインすることによって、“ゲテモノ食”のような見方を壊し、新しい昆虫食のあり方を提示しようと試みています。今回は「昆虫食解体新書」の“第零回”と位置付けました。まずはいろいろな人と昆虫食を交わらせ、第1回への方向付けをしていきたいと考えています。
ちなみにイベントに参加した約40人に昆虫に関するアンケートを実施すると、「昆虫に興味がある人=5人」、「昆虫が苦手な人=15人」、「昆虫食に興味がある人=ほぼ全員」と、昆虫自体は苦手な人も、昆虫食には興味があることがわかります。
果たしてその味は? 昆虫食を目の前に沸き上がる参加者たち
クロストークの前に、はじめのメニューが登場!テーブルに昆虫食が用意されると、会場は未知との遭遇といわんばかりの不思議な歓声に包まれます。
■ドリンク① アリの卵のジンフィズ
アリの卵×ジン×レモネード(レモン・砂糖・ソーダ)
アリの卵を漬けたジンを口にすると、ほんのりとした甘さが。レモネードと合わせるとスッキリとして飲みやすい一杯でした。
■フード① ヒヨコ豆とアリの卵のツナサラダ風カナッペ
アリの卵のプチプチとした食感が面白く、ツナサラダがマイルドに感じられました。
イベントで料理を担当するシェフが急遽不在となり、当日は100BANCHでフードロスの問題に取り組む「Food Waste Chopping Party」のリーダー・大山貴子が料理を担当。
料理やお酒をじっくり観察したり、香りをかいだりしながら、おそるおそる昆虫食を口にする参加者たち。「甘い?」「美味しい」「アリの卵の食感が面白い」など、徐々に昆虫を食べることに抵抗感がなくなっていきます。
トークテーマ1 : 味覚(食)
実験家集団「bugology」の高橋・大西・セキネさんのトークセッションも行われました。まず昆虫食の「味覚」をテーマに「昆虫が気づかせてくれた味覚の原点」についてトークを展開。
大西:一度、昆虫を食べると昆虫に触れられるようになるんですよ。嫌いだったタランチュラを食べたら、3分くらいで触れるようになりましたからね。味覚から昆虫を好きになることって大切だと思います。
セキネ:はじめて昆虫食を味わってみたときに何の味かよくわからなかったんです。人生で体験したことがない味でした。食べたことのない“未知の味”を日常で摂取することってほとんどないからとても新鮮な経験でした。
ドリンクを担当したセキネ トモイキさん
高橋:そうですよね。昆虫って独特の味を持っているんです。たまに「コオロギの味はエビにの味に似ている」と言われることがあります。でも、コオロギとエビの共通部分だけを引き合いに出して話を進めてしまうと、コオロギの味だからこそできる料理やお酒の可能性がなくなってしまうと思うんです。
昆虫の特徴的な部分を大事にする必要があるな、と考えていたときにセキネさんが昆虫のお酒を作ってくれました。飲んでみるとちょっと臭みを感じたけど、となりでその独特の香りがクセになって昆虫のお酒を何杯も飲んでいる人がいたんです。そのとき、ストレートに「美味しい」とか「何かに似てて食べやすい」ってことではなくても、昆虫にしかできない食の可能性があると思いました。
大西:昆虫食を食べてみると本当に味のバリエーションが豊かなんですよね。香辛料にも似てるというか。そのまま食べるのも手かもしれないけど、パウダーにするのもアリだと思います。
渡辺:昆虫ってどんなエサを食べたかによって味がかわるんです。僕はコオロギで試しているんですけど、たとえばシイタケをエサにしたコオロギと、小麦をエサにしたコオロギでは全く別の味や香りになるんですよね。
セキネ:それ知りたかったことです!いま昆虫食は食糧問題の観点からしか語られてない部分が多いんですけど、渡辺さんの「エサによって味が変わる」という話からすると、昆虫は美味しいという、美食のアプローチが可能かもしれませんね。
■ドリンク② ゲンゴロウのブラッディー・シーザー
ゲンゴロウ×スパイシーなジン×トマトジュース(クラマト)
独特の香りと酸味が特徴。飲み進めるとクセになりそうな一杯でした。
トークテーマ2:情報(生態)
続いてのトークは、「昆虫食をマイナーからメジャーにするには?」 というテーマで展開。
渡辺:僕たちは栄養補助食品などの栄養バーが取っつきやすいのかなと考えています。高橋さんと僕は方向性がズレてるかもしれないけど、僕はなるべくコオロギ感をなくした方がいいと思っているタイプなんです。栄養素など成分でアピールしていきたいと思います。
長年にわたりコオロギの研究をする徳島大学教授の渡邉崇人さん
セキネ:なるほど。昆虫って食のなかで底辺にいると思うんです。その底辺の位置から食の頂点の人、例えば最先端と呼ばれている食分野の方々に昆虫を使ってもらい、そこから一般の人に降ろしていったほうがいいと思います。昆虫食が美食として流行れば、世間に抵抗なく浸透していくような気がします。
高橋:日本だと伝統食としてイナゴがありますよね。セキネさんは昆虫食をメジャーにする過程としてイナゴの佃煮はあまり重要じゃないと思いますか?
セキネ:そう思います。とりあえずいったんイナゴの佃煮は忘れてもらって、ミシュランを取っているような世界トップクラスのレストランでイナゴを調理してもらう。そこでイナゴがめちゃくちゃ美味しかったら、みんなイナゴのイメージが変わると思うんです。そこから攻めた方が面白いんじゃないかな。
大西:この前、その美食路線をやろうと考えて高級レストランで修行したシェフに昆虫料理を頼んでみたんです。そうしたら「ごめん。昆虫は苦手なんだよ」って言われてしまいました(笑)。シェフでさえ昆虫に手を出しにくい場合があるから、まずは昆虫のイメージをどう変えるかですよね。昆虫って小さいころは触れるのに、なぜか大人になるにつれて嫌がる人が多いから。
「昆虫は食べると触れるようになった」という大西
渡辺:子どもたちが食育的に昆虫を食べることを学べば、大人になったときに昆虫食の見方が変わるかもしれないですよね。例えば昆虫食を給食で出すとかね。
大西:給食で出すのはいい手ですね。
渡辺:自分で昆虫を育てて自分で食べる。そういうプログラムができれば昆虫食の可能性は広がりますよね。
■ドリンク③ タガメのジントニック
タガメ×ジン×トニックウォーター
青リンゴの香りや味がすると説明があったタイ産のタガメ。カップを口に近づけると本当に青リンゴの甘い香りが漂い、味もしっかり青リンゴでした。甘いカクテルのように飲みやすく美味しいお酒でした。
■フード③ イナゴのスパイス炒め
イナゴそのものの姿なので口にするまでは抵抗がありましたが、食べてみるとサクサクとした食感と独特の苦味でクセになる一品でした。
トークテーマ3:思考(デザイン)
最後は「どこを軸に昆虫食の食のあり方を作れば面白いのか?」をテーマにトークを展開。高橋は、以下のように話しました。
高橋:テーマ1でも話しましたが、僕は昆虫食は私たちが日常的に口にする食材とは似ていないと考えています。「何かに似ている」という同一の部分だけを取り上げていると、本当はその差異になっている昆虫の特色が切り捨てられてしまいます。
昆虫食がひとつの食文化になるには、他文化と差異があり、その際が際立っていることが必要になります。そういう差異がないことには文化になるかならないかの土俵にすら立てない。だからこそ僕は「昆虫食は何にも似ていない」という特色を探していきたいと思います。今回のイベントのように昆虫食の特色をアウトプットすることによって、これからも昆虫食のありかたを探していきたいと思います。
■フード④ チアシードココナッツムース タガメとイチゴのソースがけ
甘いタガメのエキスはデザートとの相性抜群。タガメ自体をおそるおそる食べてみると、歩しっかりとした甘さが口の中に広がりました。
昆虫食を五感で味わい大いに盛り上がった2時間。参加者は「料理もお酒も見た目や味付けも凝っていてオシャレだった」「昆虫食って未知の世界だったけど美味しかったので、今後は高級レストランなどでメニューになったら面白いと思う」「トークを聞いて昆虫食を食べると味の感じ方が違いました」「各方面から昆虫食についての話を聞くことができて、さらに昆虫の魅力を感じました」と、イベントを通して昆虫や昆虫食の魅力を受け取っていました。
撮影:延原優樹
本記事を読んで、昆虫を食べてみたくなったあなた。大丈夫です、100BANCHの1周年ナナナナ祭で、昆虫食をテーマにしたイベント昆虫食解体新書 -祭-を実施します。是非こちらにご参加ください。