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食は作業ではない、冒険だ:篠原祐太(ANTCICADA 代表)

「世の中の見方を変えるきっかけは、新しいものを食べることや、普段イメージできないことを体験してみることにあると思います。それは何事にも代え難い、大切な瞬間です。」

GARAGE Program 11期生「Cricket ramen」の篠原祐太(ANTCICADA 代表)は、昆虫を使ったコース料理やコオロギラーメンを提供するレストランANTCICADAの経営や昆虫食の商品開発、ワークショップを行うなど、昆虫食の魅力を届ける活動を行っています。

そんな篠原の昆虫に魅せられたきっかけや現在の活動内容、100BANCHに感じている魅力などをお伝えします。

篠原祐太 ANTCICADA 代表

1994年、地球生まれ。慶應大学卒業。昆虫食伝道師。幼少期から自然を愛し、あらゆる野生を味わう。昆虫料理創作から、ワークショップ、授業、執筆と幅広く手掛ける。中でも世界初の「コオロギラーメン」は大反響を呼び、2020年6月4日に日本橋・馬喰町にレストランANTCICADAを開店。メディア出演も多数。狩猟免許や森林ガイド資格保持。

 

昆虫食の先入観を払拭する。

篠原:1994年、地球生まれの篠原と申します。普段は昆虫食に関する活動をメインにしております。昆虫食はイメージが悪かったり、強い先入観があったりする領域です。しかし、ぼくは本当に魅力的なものだと信じています。悪いイメージや先入観を払拭できるような食体験をつくっていきたいと思い、どんなかたちで届ければ、初めて食べられる方にも楽しんでもらえるか、大学生時代はひたすら実験を重ねてきました。

大学卒業後、昆虫や普段あまり日の目を浴びない生き物たちの魅力を伝えていきたいと強く思い、そのためにお店を持ちたいと考えました。そんなときに友人が100BANCHに入居していたこともあり、遊びに行ってみると自由で楽しそうな空気に感動して、入居させていただくことになりました。

100BANCHでの3ヶ月だけではお店ができるわけもなく、開業までは1年以上かかりました。現在は「ANTCICADA」(アントシカダ)という昆虫食のレストランをオープンし、コオロギで出汁をとったラーメンと、旬の虫などを楽しめるコース料理の2業態で営業しています。

   

篠原:その他の活動としてはコオロギを使ったコオロギビールやコオロギ醤油などの商品開発や、メディアでの発信、教育機関でワークショップの実施など、昆虫食の魅力を届ける活動を積極的に行っています。

 

虫を食べると、いろんなことがわかる。

積極的に昆虫食の魅力を伝える活動をしている篠原ですが、昆虫食と出会い、そこに魅せられたのにはどのようなきっかけがあったのでしょうか。

篠原: 初めて昆虫を口にして、昆虫に魅せられたのが4歳のときです。といっても虫をよく食べる家庭だったわけでも、いじめられて食べさせられたわけでもなく、自発的に食べたくて食べていただけです。幼少期からとにかく生き物が好きで、いろいろな昆虫を食べてきました。

篠原:カミキリムシの幼虫はクリーミーでしっかりした旨味もあり非常においしいです。一方で、カブトムシの幼虫は腐葉土のえぐみや苦味が凝縮したような、びっくりするくらいまずい味わいです。公園の桜の木についている毛虫は幼稚園の頃に初めて食べましたが、とても上品でおいしい桜餅の味がして衝撃的でした。考えてみると、桜の葉っぱを食べているからそのような味がするのですが、それに気づいたときに、ぼくらが食べているいろいろな生き物たちも他の何かを食べていて、まわりまわって自分が今生きていることが、幼心なりにすごく美しいなと感じました。ぼくにとって毛虫は、そんな思い出の昆虫でもあります。

そうやって食べることでいろんなことを知れるのが面白く、どんどん虫や生き物にのめりこんでいきました。しかし、世の中では虫を食べることを気持ち悪いとか、抵抗があるという空気があり、ぼくも周りには言えずに過ごしてきた過去があります。

篠原:そんな中、2013年にぼくの人生で最大の転機が訪れました。国連のFAO(国際連合食糧農業機関)が昆虫食に関するレポートを発表したのです。たんぱく質が豊富だとか、生産するのに環境負荷が低いなどのメリットが書かれており、昆虫食を見直して研究しましょう、という内容でした。このレポートが世界的にも注目され、「昆虫食は将来の地球にとって良いものになるかもしれない」という動きの最初のきっかけになりました。これを読んだぼくは「国連が仲間になってくれた!」と背中を押され、19歳になりたての頃、SNSでカミングアウトしました。これが、自分の人生のターニングポイントでした。

篠原:ただ、それまで何も言っていなかったので、急に「虫を食べるのは面白いよ」と言い出したぼくを周囲はあまり理解してくれませんでした。今ほど昆虫食への理解や情報のない時代で、誹謗中傷などもあり、かなりしんどかったです。一方、「私も興味があります」と声をかけてくれる方もでてきたのはカミングアウトして良かったことです。

篠原:共感してくれた人たちと一緒に虫を捕まえに行って食べると「おいしい、こんな世界があるんだ」と喜んでくれて、味わったことのない感覚を味わいました。自分の人生で初めて好きなことの面白さを共有できた瞬間でした。今でも忘れられない、自分の確かな原動力となっています。

 

のびのび実験できる、100BANCH

続いて篠原は、100BANCHをどのように活用してきたか、入居して感じた100BANCHの魅力などを語りました。

篠原:100BANCHの最大の魅力は、何よりも充実した作業環境です。渋谷駅から歩いてすぐの場所で、24時間いつでも使える安心感はもちろん、広くて解放感があり、プロジェクターなども完備されています。思う存分、作ったり、実験したりできるのは本当に恵まれていることだと思います。人がたくさんいる時間には活気があって良い一方、夜中や早朝は広い空間を独り占めしながら作業ができて、とにかく捗る場所でした。また、一般的なコワーキングスペースでは、コオロギで出汁をとるなどは許されなかったり白い目で見られたりすると思います。でも、100BANCHのみなさんは興味を持って受け入れてくれる空気感があり、やりたいようにできたのが良かったです。

篠原:また、100BANCHはたくさんの出会いがあった場所でもあります。多様なジャンルやバックグラウンドを持つ方がGARAGE Programに参加していて、お客さんやメーカーさんなど様々な方がいらっしゃるので飽きることがなかったです。そのような方たちと作業しながら話していると、新しいアイデアが生まれたり、コラボしようという話になったり、日常のあらゆるところに色々な種が転がっている、——それが100BANCHなんです。

篠原:そして、バックアップ体制も本当に充実していると常々感じています。100BANCHを卒業した後のことです。ぼくはセミが好きで、セミの気持ちを味わいたいと思っていたところ、友人のデザイナーと「セミの気持ちを楽しめるコップをつくったら面白いんじゃないか」と盛り上がりました。とはいえ、お金も必要ですし、制作方法や発表の機会もどうしようかなど、考えることはたくさんありました。やはりその場のノリだけで実現するのは大変なんですよね。そのとき、ちょうどナナナナ祭の開催があったので、企画をまとめて申請したところ、100BANCHのみなさんに、場所の提供や実施にまつわるあらゆるサポートをしていただけました。結果として、実際にコップをかたちにすることができ、つくったコップは今でもお店のコース料理で大活躍しています。100BANCHがなかったら、生まれていなかったものです。

篠原:翌年のナナナナ祭はコロナ禍で、オンラインでのイレギュラーな開催でしたが、コオロギラーメンを参加者みんなで自宅で食べながら紹介するイベントや、蚕を使ったドリンクを飲みながら養蚕について学べるオンライン企画をやらせていただきました。このときも、商品の郵送から環境の整備まで、100BANCHのみなさんにサポートいただき実現することができました。

今回のぼくのように、GARAGE Programの卒業生を招いていただいたり、渋谷に用事があるときにふらっと2階のスペースに立ち寄って話ができたり、入居中の3ヶ月や6ヶ月で終わりではなく、100BANCHでの関係が卒業後も続いていくことも個人的に感じている大きな魅力です。お店をオープンするためにクラウドファンディングを実施した際、入居中にメンターだったカフェ・カンパニーの楠本さんにもいろいろと相談に乗っていただきました。また、100BANCHのイベントで出会って意気投合した徳島大学の渡邉先生ともコオロギの生産を一緒にやらせていただくなど、100BANCHでの経験や出会いが現在に続いていると実感します。

 

好きなことをひたすら追求したい。

篠原:最後に、ぼくがどうしてこれほど夢中になれているのかというと、大好きな虫や生き物の魅力を伝えたいというのが一番の理由です。もちろん、次の世代に対してどう世の中をつくっていくかという視点も大事にしなければいけないとは思っています。ですが、個人的には自分たちが持っている常識やイメージが変わる瞬間が、なにものにも代えがたい大切な時間だと考えています。世の中の見方を変えるきっかけや経験は色々あると思いますが、新しいものを食べるとか、普段あまりイメージがなかったものを体験してみることも、そこに繋がっていくと感じています。だからこそ、これからも「常識やイメージが変わる瞬間」をつくっていきたいです。

自分たちが昆虫食のプロジェクトに取り組む一番の理由は、食料難や環境問題のためではなく、あくまでも本当に好きだからです。純粋に昆虫が食材としての魅力やポテンシャルがあって、世の中を豊かにしてくれると、心から信じているから取り組めます。この100BANCHは、そういう好きなことやあまり理解されないものに、ひたすらに取り組むプロジェクトがたくさん集まっている場所です。この環境を最大限に活かせば、どんなことも実現に向けて近づいていくと思います。これからも100BANCHは大切な場所として、続いていってほしいです。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=W9L9kc9MsJA

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