• リーダーインタビュー

死に向きあい、よりよく生きるためのデザインを ——「Sadamaranai Obake」:鴻戸 美月

「講義やイベントの時もかぶるんですけど、天使のカチューシャ、ちょっとふざけすぎですかね」
そう言いながら現れた鴻戸 美月。「Sadamaranai Obake」は、デザインを通して「死」への向き合い方を変化させるためのプロダクト製作やイベント企画を行っている「デス・デザインユニット」です。

「ビックリオバケマンシール」「オバケTシャツ」のグッズなど、死に向き合うものでありながらも「Sadamaranai Obake」のデザインはポップ。その背景には、日常の中で死と向き合ってほしいという思いが込められています。「Sadamaranai Obake」鴻戸の描く未来を覗いてみましょう。

なんとなく「アパレル工学」に進学し、ファッションデザインの道へ

——本題に入る前に気になったのですが、その天使の輪っかは……?

鴻戸:これ、よく突っ込まれるんですよ。「死」というテーマを扱うプロジェクトなので、どうしても重たい印象になっちゃうじゃないですか。でも私としては、天使とか、そういうポップで前向きなイメージで表現しても良いんじゃないかと思ってるんです。

なのでイベントだったりとか、人前に出る時はこの天使の輪っかをつけているんです。ふざけてるように見えますかね?

——いえいえ、そんなことはないです! そんな死へのリデザインを掲げて活動する「Sadamaranai Obake」ですが、鴻戸さんはもともとデザインに関心を持っていたんですか?

鴻戸:中学校や高校ぐらいの時には、ファッションに興味があったんです。私はほんとに下調べをしないタイプの人間なんですけど、田舎の進学校にいたので、専門学校とかの選択肢を当時はあまり考えていなくて、たまたま見つけたのが奈良にある被服学が学べる大学で。

よく調べもせずにアパレル工学などを学ぶ学科に入ってみたら、アパレルより工学が強かったんです。研究室では、布の表面を機械で計測して波形を見て、表面のぬめりやスリップ率とか、布の風合いを調査する研究をしていました。私は文系なので数字や物理化学は弱いし、卒業するまで授業の内容は一切わかんなかったです(笑)

鴻戸:授業はそんな風だったんですけど、大学ではファッションショーを開催するサークルで、独学で服のデザインを始めました。私はデザイン画を書けないので、頭の中で想像したものを布で直接つくっていく。例えば「花言葉」がテーマで「ブラックバカラ」の時は、花言葉の「憎悪、嫉妬」を表現するために、鎖を巻きつけたりボロボロに破ったりしていました。

——卒業後は、アパレルの会社に就職したんですよね。

鴻戸:ほとんど調べずに就活して、1社目に内定をいただいたスーツの会社に就職しました。1年目は販売員、2年目からは、大学の時に取得した「繊維製品品質管理士」を活かして、製品の検品や品質管理をやっていました。

でも、物足りなくて、もっとしっかりデザインを学びたいと思ったんです。私はいつも下調べが足りなくて、最初はデザイナーはファッション業界にしか存在しないと思っていたんですよ。これから人口が減り、服も売れなくなっていくから、ファッション以外の業界に行ったほうがいい。そんな気持ちもあって、もっと広い意味のデザインを学ぼうと、ネットで検索して最初に出てきた社会人向けのデザイン専門学校に入学しました。

 

遺品の日記から、おばあちゃんの抱えていた孤独を知った

——働きながら、専門学校ではどんな事を学んでいたのですか?

鴻戸:AdobeのIllustratorやPhotoshopを学ぶ基礎コースに通い、その1年後に「フューチャーデザインラボ」というソーシャル・カルチャー・ビジネス的視点を持ったデザイナーを育てるラボに入りました。

そこでチームとして一緒に組んだのが「Sadamaranai Obake」のメンバーだったんです。課題で出さなきゃいけない企画が全然決まらなくって。実は、プロジェクトの名前もそこから来ています。最初は、化粧品の消費期限の問題を解決しようと思って「もったいないおばけ」とつけたけど、その企画がしっくりこなかったから「さだまらないオバケ(Sadamaranai Obake」に変わりました。

「Sadamaranai Obake」のキャラクター。輪郭線もさだまらない

——もともと死に関心があったから、「おばけ」と決めたわけじゃないんですね。

鴻戸:企画が決まらないことをみかねた先生が「亡くなったお母さんの遺品が捨てられないんだよね」と、ヒントをくれたことがきっかけなんです。そこから、遺品整理の業者さんや、メンバーの知り合いのお坊さんの話を聞きに行き、遺品より、捨てられない人の心の問題を解決することが大切なのかもしれないと思いました。

同時に、遠いことのようで、死は私たちにも関係があることだと思い始めたんです。メンバーにも親族を若くして亡くしている子がいたり、私もおばあちゃんの遺品を見に行って、日記を読んで、すごい衝撃を受けたんです。

おばあちゃんが亡くなる以前にお兄さんが亡くなったんですけど、彼女の日記には「お兄ちゃんに会いたい」と寂しい想いが書かれていました。おばあちゃんは、私たちの家族の隣の家でおじいちゃんと一緒に住んでいて、周りに人もいた。けれど、大切な人が亡くなってしまったという出来事を消化できずに、1人でずっと孤独を抱えていたことがはじめてわかったんです。これって、すごい課題だなと思ったんです。身近な人の死に向き合うことで、自分の人生をどう生きていくか、デザインで解決できないかと思いました。

 

なぜ、亡くなった人の思い出を語ることがタブーなのだろう

——死に向き合うために、デザインからどんなアプローチを考えたのでしょうか?

鴻戸:故人への思いをひきだし、今を生きる希望をひきだすというコンセプトで、プロダクトを2つつくりました。

おばあちゃんのことを考えながらつくった「ひきだしノート」は、6つのお題で構成されています。前半では故人のことを思い返し、後半では、自分のことに焦点を当て、人生に希望があると感じてもらえる流れをつくっています。「ソラがハレるまで」は、故人を思い返し、みんなでわいわいと思い出話ができるカードゲーム。お題に沿って「こんな人っぽいね」と話しながら「ぽい(ポイント)」を集めていくことで、心が晴れていくゲームを考えました。

ネットで出てきたグリーフケアの流れに沿ってお題をつくって、大切な人を亡くした気持ちでメンバーのみんなでワークをやって、何度も試行錯誤しながらつくりました。センシティブなことでもあるので、最後に精神科医の先生に見てもらって、お墨付きをもらっています。

——「ソラがハレるまで」「ひきだしノート」は、故人の思い出に何度も触れる時間ができますね。

鴻戸:死はタブー視されているから、軽々しく触れられないイメージがありますよね。だから、親族を亡くしたメンバーも、私のおばあちゃんも、亡くなった人の話がしづらかったのかなとも思うんです。でも、生きてる人間の思い出話はいくらでもするのに、亡くなってしまっただけで思い出が話せなくなるのって、よく考えてみたら、不思議だと思うんです。

ロシアに暮らしている友達がいるんですけど、会えないという点では、亡くなったおばあちゃんと同じなのかもしれない。物理的に存在してないけど、おばあちゃんが生きていたことは私の中で消えない。だから「いる」って思っても、おかしくないんじゃないかと思ったんです。日常の中で故人の思い出に触れて、関係を続けていきたい。そうすることが、死に向き合い、生きる希望に繫がっていくと思ったんです。

 

ハレだけでなくケの日に、死と向き合える社会へ

——「ひきだしノート」「ソラがハレるまで」をつくった後に、100BANCHに入居したのはどんなきっかけなんでしょうか?

鴻戸:プロダクトはつくったけれど、これから「Sadamaranai Obake」をどう広めていけばいいのかと迷っていて、もう1個新しい活動をつくりたいと思っていた時に紹介してもらったんです。

活動期間中には「デススナック」という、お酒を飲みながら死を語るイベントを開催しました。飲食もイベントも初めてだったので、何もわからない状態で、制作物もつくり、運営も自分たちで行うので、毎回いっぱいいっぱい。でも「死についてオープンに話せる場所はなかなかなかった」と、色んな年代の方が関心を持って来てくれました。

葬祭用品のメーカーが声をかけてくださって、故人をイメージした色のあんこをつくり、はさんで食べることで思い出を生きるエネルギーに変えていく「雲もなか」もつくりました。「デススナック」で試食イベントをしながら、クラウドファンディングで多くの方に支援していただいたんです。

イベントがきっかけで色んな方と繫がったり、100BANCHの「MUJO」という個人葬などに取り組む死にまつわるプロジェクトからデザイン制作を依頼されたり、だんだんと葬儀の業界にデザインクリエイティブとして関わることが増えていきました。こうした死への向き合い方をリデザインする活動を評価していただき、2023年に「グッドデザイン賞」を受賞することができたんです。

——これから、どんな活動をされていくんでしょうか?

鴻戸:それがはっきりとは決まってないんですよ(笑)いつもメンバーと楽しく話しながらなんとなく前に進んでいくような感じで。

——ここまで活発なのに、「部活」のような雰囲気で進んでいるのは面白いですね。

鴻戸:もちろん、しっかり活動していくんですけど、そういうチームのあり方もいいかなって。私たちが楽しそうにしていないと、やっぱり楽しんでもらえないですから。

ただ、価値観としてはしっかり大事にしていることはあって。私たちが大切にしたいことは、「死を考えることで、今ある人生をよりよく生きること」。人はいつ死ぬかわからないから、会いたい人に会いに行くとか、食べようと思っていたケーキを今日食べておくとか、死を生きるエネルギーに変換させていきたいんです。

死は、特別なハレの日に意識するものだと思うんです。でも「Sadamaranai Obake」は、日常というケの中で死を意識することで、より良く生きるきっかけをつくりたい。

アパレルとか、シールとか、常に身につけることで、人はいつ死ぬかわからないことが想起できるアイテムを考えたいです。イメージは、1人1つの「Sadamaranai Obake」。死生観は、その人それぞれ色んな考え方があるし、その時々で変化していく。一人一人の「死」に向き合う価値観を変化させていきたいです。

 

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