未来を彩る光と科学の融合、
夢と驚きが広がる人と生物が共生する新たな光景を描く
BioCraft
未来を彩る光と科学の融合、
夢と驚きが広がる人と生物が共生する新たな光景を描く
100BANCHで毎月開催している、若者たちが試行錯誤を重ねながら取り組んできた“未来に向けた実験”を広くシェアするイベント「実験報告会」。
これからの100年をつくるU35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を終えたプロジェクトによる100BANCHでの活動報告や、100BANCHでの挑戦を経て、プロジェクトを拡大・成長させた先輩プロジェクトによるナビゲータートークを実施しています。
2024年4月25日に開催した実験報告会では、晴眼者が使う「墨字」と視覚障害者の「点字」が一体になった目でも指でも読める書体を開発し、インクルーシブな社会の実現を目指すGARAGE Program 10期生「Braille Neue」の高橋鴻介をナビゲーターとし、GARAGE Program の計5プロジェクトが登壇。聴覚障害のある方も楽しめるよう、手話の同時通訳付きで活動の報告が行われました。
本レポートでは、GARAGE Programの5プロジェクトの発表内容をお伝えします。
未来を彩る光と科学の融合、夢と驚きが広がる人と生物が共生する新たな光景を描く
登壇者:西村隆太郎
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/biocraft
「BioCraft」は、バイオ技術と共生した未来の世界を想像することが可能なバイオクラフトを作製し、世の中に発信し、人と生物の共生を目指すプロジェクトです。
西村:今回のプロジェクトは、発光細菌や発光植物など光る生物を使ったバイオランプをつくるものです。今の日本を見ていると、工学的な感じがするので、もっと緑や生物を取り入れた空間をつくっていきたいと思っています。「バイオフィリックデザイン」というものがあって、生物や植物を空間に取り入れることで幸福度が増すと心理学的に言われてるので、バイオランプでそういう空間がつくれるんじゃないかとも考えています。 今回の実験では、藻と細菌の両方でアプローチしてつくっています。藻については「ピロキスティス」という藻を使っています。「ピロキスティス」は葉緑体を持っていて、昼間に光を吸収して自分で栄養をつくり出し、夜に光ります。こちらの通常培養の培養法は、確立することができました。ここから発光技術の調整、通常培養と長期培養と凍結保存と大量培養の基礎技術を確立させて、バイオランプに移していきたいと思っています。細菌については、イカから発光細菌を採取しようとしていて少し手こずっていますが、現在取り組んでいるところです。イカを買ってきて捌いて実験したところ、イカの表面からの発光は認められたんですが、培地では発光が認められませんでした。そこで、培地の組成を変更して実験したところ、うまく培養できて光らせることに成功したので、次は、液体培養に取り組んでいます。しかし、なかなかうまくいかず、再チャレンジしているところです。
「本プロジェクトから発展した活動として、ラボバンチの創設に取り組んでいます。100BANCHの2階でバイオの実験ができるような場所をつくりたいと事務局に提案したところ、快く受け入れてくださったので、現在つくっているところです。小さなテントを使い、最初はスモールスケールスタートで始めていけたらと思っています。」と西村は話しました。
生活に溶け込む「家庭用バイオリアクター」でバイオを身近に
登壇者:丸山崇史
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/agribiopods
「AgriBioPods」は、家庭用バイオリアクターの開発を通じて、バイオテクノロジーを研究者や専門家だけのものでなく、身近な技術にすることを目指すプロジェクトです。
丸山:100BANCHに入って最初に行ったのは、この装置にどういった機能があれば、細胞培養を家でやってみたいと思うかアンケートを行ったり、この装置をもっと世界中に広めていくためにはどういったビジネスモデルを組めばいいのか、たくさんヒアリングを行ってきたりしました。その中で私たちがたどり着いた細胞農業の形は、「手間がかからない」「虫がわかない」「省スペースで都市部でも利用できる」を実現するプロダクトです。これを開発して「全く新しい家庭菜園として売り出していこう」と方針が決まりました。実際に100BANCHに入居した後は、2つ目のプロトタイプをつくったんですが、光や色を工夫し、生活の中に溶け込むような柔らかいデザインに仕上げました。偶然ですが、そのプロトタイプを100BANCHで展示していたところ、展示を見て興味を持ったという方が加わってくれて、チームも大きくなっていきました。3月には、もう少し自然・緑を意識した新しいプロトタイプの開発も行ってきました。
「今後は、私たちが目指す未来の実現のため、ナナナナ祭での展示、クラウドファンディングなどを行おうと思っています。また、これまではアーティストやクリエイターの方々に見てもらって意見をいただくことが多かったんですが、今後は美術館などにも展示し、より一般的に広く見ていただけたらいいなと考えています。 」と丸山は話しました。
未知なる生物「蛸」から、人の社会を問い直す
登壇者:野口竜平
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/octopus-project
「Octopus Project」は、足の一本一本に独立した知性がある「蛸」をモチーフに制作した「蛸みこし」を用いて、人の社会を問い直す体験型プログラムをつくるプロジェクトです。
野口:100BANCHでの6ヶ月間は、蛸みこしと自分がどういう風に関わっていくか、考えるような時間でした。Octopus Projectと蛸みこしがどう違うのか、やっと説明できるようになったんですが、蛸みこしは僕の作品みたいなイメージで、Octopus Project は「蛸みこしをプロデュースする僕」というイメージでやるようにしました。芸術家としてのエゴみたいなものと蛸みこしの生き生きとした性質がぶつかりあってしまう時があるんですが、それに対してどういうスタンスで関わっていけばいいのか見えてきた気がして、今はすごく明るい気持ちでいます。蛸みこしをいかに作者のエゴから解放し、美術品としてではなく、蛸みこしを使って色々な現場で色々な遭遇をつくり、色々な人を巻き込みながら楽しい現場をつくっていく、僕はそのプロデュースやマネジメントをする係になるイメージです。このプロジェクトではさまざまなことを行なっているんですが、1つは蛸みこしを誰もがつくれるものにするために設計図の作成です。ただ誰にでもつくれるようにするだけでなく、蛸みこしの魂の部分を知ることができたり、実際の蛸の神経系と全く同じ蛸みこしの構造自体を体験できたりするようなものにしたいと思っています。もう1つは、蛸みこしをお祭り化することで、自分から手放していくことです。大分県でのお祭りは2年目になりました。ある海峡に大蛸伝説があり、蛸を奉納する神社があってそのリサーチをしているんですが、リサーチをレペゼンするチームもつくっています。他にも企業研修のプランもつくっています。組織のあり方の目標みたいなものは、時代ごとに異なる価値観が地層のように重なっていて面白いなと思ったんです。現在では、組織の在り方としてダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギングという考え方が目標とされているんですが、かつては猛烈社員や愛社精神が良しとされた時代があったわけで、そういうのを蛸として体験しに行くワークショップを現在設計中です。
「蛸を通して、みんなで息を合わせる、バラバラのまま共同するというのを演じることができたらいいなと思っています。蛸みこし本体のインスタグラムも開設したのでフォローしてください。」と野口は話しました。
知的障害者のファッションを改革したい
登壇者:加藤海凪
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/safeid
「SAFEID」は、知的障害者のための服をつくることで、彼らの生活の選択肢を広げることを目指すプロジェクトです。
加藤:「お腹がすいたからご飯食べたいな」とか、「週末どこに出かけよう」みたいに、私たちは色々な場面で当たり前に「えらぶ」ことをしています。しかし、知的障害や発達障害、グレーゾーンと呼ばれる目に見えない障害を持っている人たちは、それが当たり前ではありません。彼らの日常の「えらぶ」をつくる、を目標に色々なコンテンツやプロダクトを考え、活動しています。具体的につくっているものとして、例えば身に着ける部分では、「気に入った服しか着たくない」「チクチクするのが嫌だ」という子供の課題と、「どうせ汚すから安いものを着せておけばいいや」という親の課題を解決するために、よだれかけになる付け襟をつくったり、口元を拭えるようなアームウォーマーをつくったりしてきました。学生団体がやっている「carutena」というブランドがあるんですが、そこと一緒に商品化することになり、8月を目標に企画と制作を進めています。また、知的障害のあるモデルの子に古着を使ってトータルコーデを組んでもらうという企画をして、「えらぶ」ことでどんなわくわくが生まれるのかの実験も行いました。「アソブ」ことで「!(驚き)」 を行き来して、障害がある人もそうでない人も、そうかもしれない人も、言葉だけではない表現で対話する居場所をつくりたいと思っています。そこで、音楽とアートとマーケットがあるフェスみたいなものを開催したいと考えました。私の地元である名古屋のカルチャーメディアと名古屋で最大のヒップホップのフェスを開催するXROSS CULTUREというところに協力していただき、9月頃にフェスをやります。金城市場を会場に、近くの就労支援事業所をアトリエにして、その2会場で同時にイベントを行なうことで、障害を持っている人たちを社会側にプロデュースするだけではなく、「その人たちの独特の雰囲気や面白さを感じるために私たちも足を運ぶ」、そんな構造をつくっています。
「全ての人のえらぶをつくる、目に見えない障害を持っている人の居場所になる、というのが目標です。今後も色々なコンテンツをつくって、障害を持ってる人たちのえらぶをつくるのはもちろん、障害を持っていない人も、障害を持っている人たちがどんなふうに生活しているのか、その面白さみたいなところを感じてもらい、そういった職業に就きたい、一緒にやりたいと思ってくれる人を増やしたいと思っています。」と加藤は話しました。
楽しさの垣根のない場をつくることで、 障害を生み出さない社会を目指したい
登壇者:浅見幸佑
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/blined-project
「Blined Project」は晴眼者(見える人)と視覚障害者(見えない人・見えにくい人)の間にある「分断」に対する問題意識から、視覚の状態に関わらずみんなが楽しめるボードゲームの開発と、「楽しさ」をテーマに社会の障害理解を進めるコンテンツ開発に取り組むプロジェクトです。
浅見:これまで私たちは「視覚障害のある人とない人が一緒に楽しめるものと場が少ないんじゃないか」を課題に活動し、開発、イベント、研修の3つをやってきました。視覚障害のある人とない人が一緒に楽しめるボードゲームの「グラマ」を2年前に開発。その他にもボードゲームやミュージカルのワークショップの開発を進めています。視覚障害の関連の団体とも協力しながら、盲学校等の教育現場や一般向けのイベントを開催し、これまで2,000人以上の方々にご参加いただきました。企業や学校向けのワークショップも実施し、一緒に楽しんでいくという場づくりをしてきました。100BANCHのGARAGE Program期間が終わった後にも色々と行なってきたのですが、ここ最近の転換点が「YAPPALi」という新しい試みです。目が見えない、見えにくくなってしまうとできるものが少なくなってしまったり、共有しづらくなったりしてしまうことがすごく多いという話があり、特に就労に課題があると感じました。色々とヒアリングをしているところですが、マッサージ師か教職という風に選択肢が狭められたり、大学卒業後の就職も難しかったり、それぞれのステージで課題があります。これまでエンタメ領域に注力して活動してきましたが、同時に働くという形での自己実現も目指していきたいと考え、就労支援に関する事業を色々と行なっていこうと決意した4月でした。具体的なアプローチとしては、大学生に焦点をあてヒアリングした結果、スキル、経験、マインドセットが不足しているという話が出てきたので、視覚障害のある若者のための問題解決プログラムをつくっていきたいです。現在、視覚障害のある当事者の方々に入っていただきながら開発を進めていますが、マネタイズがすごく難しいですね。ChatGPTを活用した情報アクセスやチームのワーキングのためのファシリテーション技術など最近の実践的なものを学んで理論的かつ実践的に学べるプログラムをつくりたいと思っています。
「これから一年、特に開発とリリースに注力していきたいです。今後は就労とエンタメという領域で色々と活動を広げていきたいという風に思っています。」と浅見は話しました。
報告ピッチ後は、登壇者とイベント参加者が集まり、プロジェクトの展示を見たり体験したりしながら話に花を咲かせました。今回は手話を介しての会話も行われ、より多くの方とお話を楽しむことができました。
実験報告会の各発表内容はYouTubeでもご覧いただけます。
BioCraft https://youtu.be/zeYjDA3qKDw?si=1AbnPXdmTrr4SGpR
AgriBioPods https://youtu.be/Mt7Ual-GTOs?si=kAIAZdklq8ISptka
Octopus Project https://youtu.be/1UOhrqD_tQM?si=AuZqCH7lwwesVIpX
SAFEID https://youtu.be/o8s0k4VPpPg?si=FxzjPYI-DBmlBGhI
Blined Project https://youtu.be/Bigc6DwoENs?si=RlgMJWeX19vW9tC1
次回の実験報告会は5月23日(木)に開催。ぜひご参加ください!
(撮影:鈴木 渉)
【こんな方にオススメ】
・100BANCHに興味がある
・GARAGE Programに応募したい
・直接プロジェクトメンバーと話してみたい
・「死」や物事の「終わり」に関心がある
・地域、集落、まちに関心がある
【概要】
日程:5/23(木)
時間:19:00 – 21:30 (開場18:45)
会場:100BANCH 3F
参加費:無料(1ドリンク付き)
参加方法:Peatixでチケットをお申し込みの上、当日100BANCHへお越しください
詳細はこちらをご覧ください:https://100banch.com/events/60985/