• イベントレポート

コミュニケーションの第六感? 相手を思う感覚「思覚」を育む未来言語ダンジョン

既存の言語は不完全であるという前提に立ち、「みえない」「きこえない」「はなせない」状態で、いままでになかった新しいコミュニケーション方法を模索する「未来言語」。
今回は、7月31日から8月2日にかけての3日間、初のオンラインでイベントを実施しました。

今回のイベントのテーマは「思覚」。様々なやり取りがオンライン化し、ふれあいが希薄になっている時代に、人を思いやり、人の気持ちを推し量る感覚を育てることでした。また、それにあたって、オンラインだと共有できないと言われている「一体感」をどう生み出すか、ということも大きな課題でした。このレポートでは、「思覚」というキーワードの誕生からイベント実施までを未来言語の高橋鴻介がまとめます。

「オンラインという壁」が相手を思いやる新しいキーワードに導く

普段の未来言語ではリアルな場を共有しているので、相手に触れること、つまり触覚が1つのコミュニケーションになっています。しかしオンラインの環境では、触覚を用いて伝えることは容易ではありません。今回はオンラインによって生まれた物理的な距離という壁を超える必要がありました。
そこで、私たちはメンバーと一緒にZOOMを用いて「みえない」「きこえない」「はなせない」状態を体験してみるところからはじめました。

そこには様々な気付きがありました。場を共有していないので、直接触れられないのはもちろん、誰に対して話しているのかすらわからないこと。オンラインのコミュニケーションでは受動的になりがちで、会話を発するタイミングがつかみにくいこと。コミュニケーションにカメラやスピーカーを用いているからこそ、それを切ることで完全に「みえない」「きこえない」「はなせない」状態になり、今まで以上にどうしたらいいかわからないこと…などなど。まさにコミュニケーションの極限地帯。そんな中で出てきたのがお互いを思いやり、思いを推し量る「思覚」というキーワードでした。

「思覚」というのはテレパシー、つまり、直感や第六感に近い概念です。相手が何を考えているかを受け取り、自分がどう思っているかを、言語を介さずに伝える。それにはジェスチャーはもちろん、表情やちょっとしたリアクションなど、言語化しづらいちょっとした機微も大事かもしれない。「触れる」というコミュニケーションから離れたことで、今までとは違ったコミュニケーション方法を探る方向にシフトしていきました。

 

答えはひとつじゃない。言葉ではなくイメージを共有するキットを制作

今回のテーマをそう定めたときに、今まで行ってきたワークでは不完全であることに気が付きました。今までの未来言語ワークショップでは、私たちが伝える内容を指定して、参加者がそれを伝え合うという形式でしたが、それは相互なコミュニケーションというより、ただの情報伝達になってしまっているところが気になっていました。

「思覚」を育てるという観点から見ると、一人ひとりが考えていることを推し量り、共感し、同じ方向に向けて進んでいくというプロセスを生み出すことが大切なはずです。今回は、そのために新しいワークを作り出す必要がありました。

私たちは、様々な実験を繰り返す中で、「イメージを共有するゲーム」というものを思いつきました。それは3つの単語から、1つのイメージを想起するという方法。例えば「白」「△」「食べ物」という3つの概念から、「おにぎり」という結論を導くといったようなゲームです。もちろんこの結論は1つではありません「はんぺん」「サンドイッチ」なども回答としてありうるでしょう。しかし今回、一番大事なのは、他人と自分の頭の中のイメージを共有し、結論に近づいていくというプロセスそのもの。それこそが「思覚」に一番近いものではないかと考えました。

また、言葉ではなく「イメージを共有する」というところもポイントです。今回のワークショップではそれぞれのコンセプトを1枚ずつのカードにして、キットを制作したのですが、極力言葉を使わずに、抽象的な触覚や、色、アイコンなどを用いてカードを作りました。そうすることによって、言葉だけではなく、ジェスチャーや動きなど、様々なコミュニケーション手段を駆使しないと伝わりきらない、「みえない」「きこえない」「はなせない」状態で伝えることがより活きるキットが生まれてきました。

 

「伝わった!」の快感から次に未来言語が目指すもの

実際にイベントを実施してみると、ほぼほぼすべての参加者が「伝わった!」の快感や、喜びを共有していました。参加者の感想を抜粋すると、「人は伝えたいと思えば本気でコミュニケーションを取る。それは言語が違えど関係ない。その尊さを改めて感じました。」というものや、シンプルに「伝わるってこんなに楽しかったんですね」というもの。他には「障害の当事者体験は今までしたことがありましたが、これはそれとは違うものですね。共通言語を作っていく体験は、多様化する社会の中で、すべての人に必要な能力であると感じました。」などなど。

特に障害当事者の方から、「普段抱えているハンデを、ハンデと思わない瞬間が生まれて、とても面白かった」という声を頂いたのは、メンバー全員で感動しました。きっとその瞬間そのチームの中では、障害の有無に関係なくコミュニケーションできる未来言語が生まれていたのでしょう。

反面、ワークショップを行う中でたくさんの課題も生まれてきました。それは、オンラインならではのユーザビリティの課題や、情報保障の課題など。私たちは、これからまだ実験に参加されていない人々をインクルードすることで、それらの課題をポジティブに解決し、未来言語の制作に役立てていきたいと思っています。そのためには多様性理解を目的とした「当事者体験」という切り口とはまた異なる、コミュニケーションの力である「思覚」を育むために提供したいと考えます。

より多くの人や企業の方に参加していただくことで、未来言語の研究はもっと楽しく豊かなものになっていくはず。よかったら、皆さんもぜひこの壮大な実験に参加しませんか?

■関連リンク
未来言語公式サイト:https://miraigengo.net/

 

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