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視覚言語の島に没入し、異なる者に向き合う 異言語脱出ゲーム「うしなわれたこころさがし」イベントレポート

手話×謎解きの異言語脱出ゲームを制作・提供している異言語Lab.が2022年3月20日(日)・21日(月・祝)に、新作の異言語脱出ゲーム「うしなわれたこころさがし」を100BANCHで開催しました。このゲームは手話を知らない聴者が、視覚言語の島に没入し、手話を使う人達に様々な手段を駆使して情報を集めたり、覚えたばかりの手話を使って伝え合いながら、島の危機を救い、真実を掴んでいきます。チケットは完売、大盛況となった本イベント。その様子を異言語Lab.代表の菊永ふみが紹介します。

コミュニケーション×謎解きの仕組み

「手話を知らない人が音声言語では通じない環境に置かれた時に、音声言語では成しえない手段、例えば視覚言語(手話)、表情、身振り、絵に描くなどの様々な手段でやり取りをしながらミッションをクリアしていくことが可能だ」と仮説を立てました。

その為、島の人達と視覚言語でコミュニケーションを取らなければ進まないミッションを幾つも用意しました。手話を知らない聴者にテストプレイをお願いし、多くの意見を頂きました。

特に「この手話は教えてもらっていないけども、これまでの経験値から想像したり、視覚的なイメージを絵や身体で伝えていく、手話が分からなくてもなんとか言いたいことを伝えられるのが面白い。そして伝わった時の快感が嬉しい」のコメントは、コミュニケーションの本質を掴んでいました。このようにしてテストプレイを重ねていき、コミュニケーション×謎の難易度が定まっていきました。謎をクリアするにつれ、手話言語の獲得も自然とできるような仕組みにしたことで、不思議なことに最後の方は島の人の言いたいことが、視覚的なイメージがふっと浮かび、理解できることも面白い発見でした。

 

制作秘話

100BANCHの2階には不特定多数の若者が集まり、作業や議論をしていますが、「うしなわれたこころさがし」の公演が近づくと、毎日、100BANCHに入り浸り、制作、研修、そしてテストプレイの実施の日々…終電間際まで制作、時には終電を逃し、100BANCHで夜を明かすこともしょっちゅうでした。そんな訳で、手話を第一言語にしていることもあり、異言語Lab.は、あの3か月間、100BANCHでひときわ目立った存在だったかもしれません。

実は、「うしなわれたこころさがし」は2018年設立当初からある程度形にしていて、様々なところで実験的に公演を行っておりました。手話を知らない聴者がろう者のアテンドから手話を教わりながら、手話を使った謎解きをし、ミッションをクリアしていくコンテンツでした。ただ、物語がシンプルで、突然悪魔が現れてアテンドのこころを奪ってしまい、動けなくなったアテンドを助けるために、参加者がそのこころを取り戻すという、まさに子どもが喜びそうな内容でした。公演そのものは2020年に実施する予定で準備をしていたのですが、そこにコロナが来てしまい、身動きが取れなくなってしまいました。

今回、コロナ禍でリアルに公演できない時期が長く続いたことの反動もあり、一般公演を行うにあたって、「うしなわれたこころさがし」の設定を見つめ直し、異言語Lab.にしかできないことをより極めたいと強く感じました。コロナ禍から希望を見い出せるようなテーマにしたいと考え、物語を一から練り直しました。

手話で生きる人達の文化を体感できるよう、視覚言語の島を作り、「うしなわれたこころさがし」のタイトルの通りに、目の前にいるアテンドの心に深く触れながら、島の真実にたどり着けるような物語になりました。

「うしなわれたこころさがし」あらすじ

 温暖な南の海域に浮かぶ「静穏たる楽園」と謳われている、とある島。 そんな島が未曾有の災禍に見舞われたという。 島の要請で島へ駆けつけたあなたは、目の当たりにする。 ある日突然こころを失い、力なく横たわる虚ろな人を…。 

こころと記憶を研究している、ココロシル研究所が開発した、心の奥底に触れることのできる装置「ココロフレール」と研究員のあなたに島の未来は託されたー

 

視覚言語×没入世界を目指した先に

何よりも大切にしたかったのは、目と手で生きる人達の世界があること、そしてその世界をありのままに伝えること、音声言語と同様に尊重されることでした。

そのために、島のキャストも制作チームも、全員ろう者にしました。物語上の登場人物の設定や気持ちの変化を踏まえた上で、手話での伝え方、表情の工夫、手話を知らない聴者に手話の魅力をどうやったら伝えられるか、議論と練習を重ねました。更にそれを聴者のスタッフやテストプレイヤー、弊団体のスタッフに見てもらい、いかに手話を知らない人が没入できるか、表現が分かるかどうか、確認しながらブラッシュアップをしていきました。

アンケートやTwitterでの反響を見ると、その狙いは成功していたように思います。

とあるTwitterでのツイートがとても印象に残って嬉しかったのでそのまま記載します。

「全てがハートフル。物語も体験も心に残る後味も。最近の言葉だと「エモい」と言うのでしょうか(笑)私が「ムリエモ」と評価する、無理矢理エモに持っていこうとするような小手先の設定は何もなく、ただ参加者の中に巻き起こるドラマを信じている。「彼らの島」に行ってきたような既視感があるのも、物語体験がテーマのエンタメが目指す目標だと思う。あの島は、あの民族は、今も私の旅の思い出の中にあります。」(E-Pin企画:城島和加乃さんTwitterより)

視覚言語の島を創り出し、そこに遊びに来た人と伝え、分かり合いたいという思いをいかに具現化するか、を徹底した結果、謎解きのミッション成功に向ける思いも相まって、参加者が島の人達と積極的に直接コミュニケーションを取りにいったことで、そこに様々なドラマが生まれたようです。視覚言語で伝え合い、感情や想いを島の人と共有できたことが、視覚言語の島に滞在していた時の感覚としてずっと心に残ることになり、それが結果的に「エモさ」を生んだのだと考えています。

 

100BANCHだからできたこと

このコンテンツで、異言語Lab.の目指している、「異を楽しむ世界を創る」を皆様にお伝えできたと確信しています。それは100BANCHの、どのプロジェクトも人も、尖っていて、異が異のままでいられる環境で、そこで起きる化学反応を信じて、背中を強く押してくださっているお陰です。100BANCHで試行錯誤しながら創り上げた「うしなわれたこころさがし」を、これからも大切に育て、継続可能なコンテンツに変え、より多くの方に体験できる場を作っていきたいです。そして沢山の人が異なる人と通じ合った喜びが広がった世界を、視覚言語が音声言語と同様に尊重され、様々な人が自分らしく生きられる世界を創れたら、と思っています。

 

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