• イベントレポート

100BANCHの6プロジェクトが考える 『百芸論回』これからのアートの未来

未来を作る実験区「100BANCH」では、10月19日(土)から27日(日)の9日間にわたって秋の芸術祭『OKTOBERFEST』を開催しました。

GARAGE Programに集った未来をつくるプロジェクトやパナソニックのモノづくりを支える技術者集団たちが、100BANCHの空間を使って、100年先につくりたい未来を自由に表現。ここでしか体験できない18もの多様な実験展示は大好評でした。

本記事では、そんな『OKTOBERFEST』期間中に開催されたイベント「百芸論回」の様子をお伝えします。

本イベントでは、100BANCHのGARAGE Programに採択された歴代プロジェクトの中で「アート」に関係する6つのプロジェクトのリーダーが集結。参加者の皆さんと一緒に未来のアートについてディスカッションし、100年先の未来に「アートというものがどうなっていくのか」を自由な発想で考えました。

100BANCHの多様なアートプロジェクトを紹介

「百芸論回」はアート関連の6つのプロジェクトの代表者と参加者たちが集い、和やかな雰囲気でスタートしました。初対面同士の人も多く、まずは歩き回りながら自己紹介をしてアイスブレイクを行いました。

続いて100BANCHのGARAGE Programに採択された歴代のアートに関するプロジェクトを紹介。100BANCHでは、狭義のアートに捉われない数多の実験的な活動が行われています。実際にプロダクトを作成し出展しているものや、街中に進出して実験を行っているものまで、多種多様な取り組みが紹介されました。

100BANCHの歴代アート系プロジェクト一覧

https://100banch.com/projects_keyword/%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%83%88/

そして、今回集まった各アートプロジェクトが自身の活動や『OKTOBERFEST』での展示についてピッチしていきます。

 

ちゃぶ台で街へダイブして交流を生み出し、多様性を感じ、認め合い、楽しめる社会へ!

「車輪付きのちゃぶ台で、まだ見ぬ多様な交流を求め我らゆかん」

キャスターの付いた背の高い“ちゃぶ台”を持って街にダイブして、様々な人と関われる場を簡易的につくる実験を行っているプロジェクトが「Chabu Dive」です。

登壇した落合元世は、このプロジェクトを始めたきっかけとして、様々な人々と街で出会っているのに関わる機会がほとんどないことを挙げました。実は多様な人が存在している街中で、多様性の豊かさや面白さを体感する機会の少なさに関心を抱いたといいます。それらを体感できるような簡易的でモバイルな場をつくりたいと思ったことから生まれたのが「Chabu Dive」でした。

「昭和のちゃぶ台は家の中で、家族だけで使うもの。足を高くモバイルにして街に出ることで、いろんな方とちゃぶ台を囲めるようになるんです。」落合は言います。

実際、このモバイルなちゃぶ台は電車にもそのまま持ち込めるため、渋谷だけでなく千葉の我孫子など様々な場所に赴いてイベントに参加しています。

そして、ちゃぶ台を持って街中にダイブすると多くの発見があるのだとか。気さくに声をかけてくれたり写真を撮ったりする人がいる一方で、中には気付いたら自由にちゃぶ台を使っている人もいたそうです。落合は「そんな風にいろんなことが起こるのが面白いんです。」と笑顔を浮かべました。

「Chabu Dive」はこのアーティスティックな活動を通して、どのような未来を思い描いているのでしょうか。それは、超フリーアドレス社会の実現です。街にちゃぶ台を持ち込むことで社会に存在する見えない壁を溶かし、予定調和ではない出会いやコミュニケーションを生み出すきっかけを創出しようという意気込みが伺えます。いわば「Chabu Dive」とは、ちゃぶ台によって私たちに新たなコミュニケーションのあり方を提起するアートだと言えそうです。

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/17075/

 

自然物が持つ感性的な価値を活かした、「これからの道具のデザイン」を探求する!

インタラクションデザインユニットGADARAは、プロジェクト「Natural Mystery Toolism」として100BANCHで活動しています。

インタラクションデザインユニットとは一体どんな集団なのか。柳原一也は「動作を感知するセンサーやマイコンを使って面白い振る舞いをするものづくりを行う人たち」だと自身を紹介します。100BANCHでは、森などの自然に落ちている石や木を拾ってきてセンサーを搭載し、インターフェースにしたものを制作しています。

また、「もし身近なものに生命が宿ったら?」をコンセプトにしたものづくりにも取り組んでいます。一例として柳原さんが紹介したのは、アーム部分にキリンの首の構造をインストールしたデスクトップライトです。キリンの首とデスクトップライトを掛け合わせたらどんな振る舞いをするのか?という興味を出発点にしたこのプロダクトは、本を読もうと近づけるとライトが覗き込んできてくれるようになっています。

これらのものづくりにおいて特に大切にしているのは、人間中心設計ではないことだと柳原は語ります。

「もし設計者が想定していないユーザーがプロダクトを使った場合、その使い心地をどのように担保するのでしょうか?」

柳原は実際に、後天的に右腕を失った人が次第にゲームコントローラーを片手で器用に使いこなしていく様子に立ち会って、このような疑問を抱いたといいます。

「人間中心設計により制作されたプロダクトの限界を感じました。もっと身体の自由度の高さや器用さを引き出すようなデザインがあるのではないかと考え、人の感性に働きかけるような道具を作りたいと思っています。」

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/19809/

 

糖尿病とそうでない人の境目が無くなるようなコミュニケーション・デザイン

「プロジェクト名の『180mg/dl』は、糖尿病と診断される血糖値の値のことです。」

そう語り始めたのは、「180mg/dl」として100BANCHで活動する丸山亜由美。取り組みの原点にあるのは、自身がある日突然糖尿病と診断された経験だといいます。

「私は20歳の時に健康診断でいきなり糖尿病と診断されて、すごくびっくりしました。急に病気になる人が少なくなるといいなと思い、糖尿病をテーマに活動しています。」

ファーストキャリアは製薬会社で遺伝子検査キットの販売の営業を行っていた丸山。あるとき七色に光るユニークな発想の検査キットが出て、それがすごく売れたのだそう。それを機に、医療やヘルスケアにはワクワクや人を楽しませる仕掛けが必要だと感じ、早期退職して美大でデザインを学びました。

これらの経験を活かした100BANCHでの活動も紹介してくれました。例えば、渋谷ストリームではオープニングパーティでビールやカレー、コオロギラーメンを食べたあと検査を受けるユニークな健康診断を実施したといいます。

「普段健康診断はとてもパーソナルで自分しか見ないですよね。悪い結果だとしても人に言いにくくて、こそっと引き出しの中に隠しちゃう。そうではなく、せっかくパーティなんだからみんなで結果をシェアしたり何を食べたらどのくらいの血糖値なのかとか、オープンに公開してみました。すると、意外とみんな人の数値が気になるということがわかりました(笑) これからの健康診断は隠さずシェアが良いのではないでしょうか。」

このほかにも、測った血糖値からデジタルアートを作成したり、血糖値を採血ではなく唾液から測れて結果を色で優しく教えてくれる未来の血糖値測定のコンセプトを展示したりと、ヘルスケア×アートの活動を精力的に行っています。

『OKTOBERFEST』で展示する2019年度版のヘンゼルとグレーテルのお菓子の家について、丸山はこう語ります。

「ビーガンやベジタリアン、アレルギーなど食の多様性がある中、お菓子の家が食べられない人が多いのではないか、ということに気づきました。みんなで食べられるお菓子の家はどうやったらできるだろうと考えて、小麦粉の代わりに玄米の粉を、バターの代わりにココナツのオイルを使用したりと工夫して作りました。」

この日は特別にお菓子の家の試食も用意されていて、参加者も味わっていました。

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/11175/

 

ドラマチックな出逢いを通して、全ての人の隣に仲間がいる社会を作る。

映画などのエンタメを誰かと一緒に観に行ける事業を通して、アートのインフラ作りに取り組んでいるのが「Cinemally」です。

代表の奥野圭祐が力強く語るビジョンは「隣に仲間をつくる」こと。その背景には、今の社会が多様で自由に生きられるようになった分、やりたいことがわからない人、共感しあえる仲間がいない人にとっては生きづらい時代になったのではないかという思いがあります。その上で、奥野は言います。

「ちょっとした興味関心と、思いを分かち合える仲間。この2つが揃えば、やるべきことを見つけて1歩前に踏み出せるはずです。だから、ちょっとした好きを分かち合えるゆるい居場所を提供したいと思っています。」

現在アプリをリリースして3ヶ月ほど。PRなしの口コミだけで6500人くらいのユーザーが使用しているといいます。最近全国版をスタートし、日本全体に広がろうとしています。

奥野は、驚きの事実を指摘します。実は日本で映画館に頻繁に行くのは限られたコアな人で、残りのおよそ9割の人は年に3回以下しか訪れないというのです。一方で、映画を観に行かない人は、「せっかくなら誰かと行きたい」「誰かに誘われたら行きたい」という気持ちを抱えていることが多いようです。奥野はこういった層の人々に向けてサービスを展開していきたいと意気込みます。

さらにアプリでのマッチングサービスにとどまらず、映画鑑賞のイベントを実施した実例も紹介。「隣に仲間をつくる」というビジョンの実現に向けて、今後もまだまだ目が離せそうにありません。

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/15429/

 

「数式」をアートし、数式だけの美術館を作る!

突然、スライドいっぱいにずらっと並ぶ数式。

「これが意味しているものは何でしょう?そこのあなた、何だと思いますか?」

いたずらっぽく笑いながら参加者に話しかけたのは、数学×アートのプロジェクト「Physics As Art」の加藤雅貴。

正解は、加藤の名前の一部。何とこの数式で「加藤」の「カ」の部分を意味しているそう。このように、様々な形で数式とデザインやアートをコラボレーションさせていくのが加藤の取り組みです。

加藤は数学とアートの関係性についてこう語ります。

「アートは絵具などを用いてリアルを表現し、美しいと感じることがあるもの。一方で数式は、数字によって世界の法則を表現したもので、数学者などはそれを美しいと感じます。こんな風に実は共通点があるんです。そして数式もアートと言えるなら、鑑賞も制作もできるだろうと考えました。」

そこで加藤が100BANCHで実施したのが「数式の美術館」。数式を額縁に入れて美術館のように鑑賞してもらったり、自分の身近なことを数式でシンプルに表現してもらったりする企画でした。例えば、1日の仕事内容や幸福の内訳を数式にし、自分を見つめ直すツールとして使ってもらったのです。

加藤はアートの性質をもつ数式が、より私たちにとって身近で親しみあるものになる未来を見据えています。

「数式は純粋な研究にしか使われず、あまり一般の目に触れることはありません。そこでアートとしての価値を付加して、新たな科学の楽しみ方を提案したいと思っています。例えば、数式がついたTシャツを着ている人が世の中に少しでも増えればいいなって。」

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/19228/

 

アクアリウムにイノベーションを。 人は、魚とともに、もっと良い世界をつくれる。

アクアリウムをテーマとする「INOCA」の高倉葉太はまず、世界が直面する厳しい現実について私たちに伝えてくれました。今後20年で多くの生物が海で生息できなくなると予測されていること。身近な寿司ネタの数々が将来姿を消すと言われていること。

「とはいえ、そんなこと自分にはあまり関係ないという人は多いのではないでしょうか?でも、そんなことはないんですよ。」

高倉は、海で生息できなくなると言われるサンゴ礁を例に挙げます。実はサンゴ礁だけでも3兆円の経済効果があるのだそう。漁業などの直接的な効果に限らず、その生物の研究を医療に応用するなど間接的な恩恵も含めると、誰しもが関係する問題です。

これに対して高倉の「INOCA」が選んだ解決策は、環境移送ビジネスです。

「水生生物は海で生きられなくなる。ならば陸上に彼らの環境を移送すればいい、というアプローチを取ります。本物の海を切り取って、生態系ごと陸上に移動させるんです。」

それを可能にする鍵は、趣味でサンゴや水生生物を飼うアクアリストだといいます。趣味といっても、実は高度で広範な知識を持っているのです。「INOCA」は彼らの技術に着目し、アクアリストと研究者を結びつけて水環境を科学しています。これまで、サンゴの産卵に挑戦したり、絶滅危惧種を企業と協同で守ったりといった取り組みを成功させてきました。

『OKTOBERFEST』では、未来のスマートホームにはどんな水槽があるかを考えて制作したものを展示しています。水槽で自ら育てて食べるという循環がコンセプト。実際に水槽に展示している海ぶどうを調理して食べる企画もこの後のディスカッションタイムで実施されました。

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/10193/

 

世界の”SENSE”をつなぐ

最後に登壇したのは、国際的なアートのコミュニティを築く活動を行っているプロジェクト「SENSE」です。田中栽理は、「SENSE」がバックグラウンドの異なる人々のコミュニティ・プラットフォームとして機能し、国内外の才能やアイデアを持つ人が価値を発揮するための触媒となることを目指していると語ります。

「SENSE」を立ち上げた呉夢瑶は、プロジェクトのインスタグラムを示しながら、投稿された作品について一つひとつ紹介していきました。そこには、中国などアジア各国の服飾デザイナーや陶芸家、書道家、日本に留学して日本画を学ぶ学生など、多種多様なアーティストの作品が並びます。

さらに、中国人や日本の写真家を呼んでの写真展や、古着を持ち寄ってスタイリストが新しいコーディネート・スタイルを提案する「ファッションエクスチェンジ」など、今後の計画についても教えてくれました。

言語や国境の垣根を超えたアートのコミュニティプラットフォームである「SENSE」は、今後も多様性を包摂しながら化学反応を起こしてくれそうです。

▼プロジェクト概要はこちら

https://100banch.com/projects/20315/

 

未来のアートとは?アイデアがさらに膨らむグループディスカッション

各プロジェクトのピッチが終わった後は、グループディスカッションタイムに移りました。参加者それぞれが興味を持ったプロジェクトのリーダーのもとに集まり、自由に議論を交わします。モデレーターを務めたのは「SENSE」のメンバーです。

また、100BANCH2階・GARAGEにも、ピッチで紹介された『OKTOBERFEST』展示の周りに参加者が集まっていました。制作にあたったプロジェクトメンバーが解説する中、参加者は熱心に観察し、互いの感想やアイデアを共有しています。

「INOCA」が展示する未来の水槽では、その場で海ぶどうを収穫して食べる体験が行われていました。プロの料理人のもと、水槽から取り出したばかりの海ぶどうをサラダに盛りつけていきます。海洋環境が家庭内にあり、食が循環するという未来を実際に体感しました。

「Natural Mystery Toolism」が制作したプロダクトの周囲でも議論が盛り上がります。回すと音響が変化する石や、灯りの光量を調整できる木を実際に動かしながら、「もしもこのインターフェイスが自然に紛れてたくさんあったら何ができるか」など、プロジェクトメンバーと参加者が意見を交わしていました。

 

胸は高鳴り、夜は深まる。アートのこれからを語り合う

グループディスカッションを終えた後、各卓で話し合った内容を共有してクロージングを迎えます。展示された料理のレシピを教わったり、事業の課題について熱を帯びた議論が交わされたりと、どのグループでもゲストや参加者といった立場に関係なくディスカッションが行われました。

なかには、「なぜ黄金比は美しいのかという考えは今までなかった」「水槽にあって欲しい食材についてアイデアをもらった」といったようにプロジェクトに新たな視点も生まれていました。

イベント終了後も参加者たちの議論は盛り上がり、未来のアートのあり方について語り合っていました。互いのアートの展望に刺激を与え合うこの夜から、さらなるアートの可能性が切り拓かれていくのかもしれません。

100BANCHでは、アートに限らず100年先の未来をつくる人に向けた、3ヶ月間のアクセラレーションプログラムを提供しています。無償で24時間使用可能なスペースで、多様な仲間達と一緒にあなたの志を形にしてみませんか?

 

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