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「癒し」は世界を救う――「ねはんごはん~何が私を癒すのか~」イベントレポート

2019年7月に行われた「ナナナナ祭」。その最終日、100BANCHの1F「LAND」では、「食」と「癒し」の関係性を探求するイベント「ねはんごはん~何が私を癒すのか~」が開催しました。

このイベントに取り組んだのは、100BANCHで活動する4つのプロジェクトがコラボし生まれた「ねはんごはん」チーム。毎日繰り返される「食」をより癒されるものにすることで、一人ひとりの人生をより豊かにできる。そして、最終的には世界平和に寄与したい。そんな考えからこの企画をスタートさせました。彼らは、今回のイベントで「癒しの食体験レシピ」を開発。果たして本当に「食」で人を癒せるのか。

こちらの記事では、「食」と「癒し」を通してより豊かで平和な世界をつくるため奮闘する彼らの活動を、100BANCH事務局の西村がレポートします。

「ねはんごはん」とは?

“涅槃(ねはん)”とは心の安らぎ、心の平和によって得られる楽しい境地という意味があります。日々の「食」を安らぎの場とするための研究・実験を行うのが、「ねはんごはん」チームです。

「香菜ちゃんのおむずびを食べると温泉に入ったみたいにほっとするね」

「ねはんごはん」チームは、それぞれおむずび、お茶、お出汁、音楽を生業にしており、お客様から共通していただくのは「癒される」という言葉。

「食」と「癒し」には何か関わりがある、そう多くの人が感じているはずなのに、実はその観点での研究や記事はあまり見当たらず、本当にそれらが関係するのかも定かではありません。

せっかく食を通して「癒し」を提供するのであれば、「食」と「癒し」の関係性を科学し、より多くの人々のくらしに活かせる「レシピ」として展開していきたいと考え、この取組みをスタートしました。

▼「ねはんごはん~何が私をいやすのか~」企画プロジェクト

MUSUNDE HIRAITESHIITAKE MATSURITeaRoomKAMING SINGURARITY

 

実験「癒しの食体験レシピを実装する」

—— 想像してみてください。

疲れがたまった金曜日。新橋の居酒屋に入り、靴を脱いで、座敷にドサっと座り込む。ポッカポカの温かいおしぼりで顔をふき、キンッキンに冷えたビールを飲む。すると、素材にこだわった美味しい御飯でお腹いっぱい。最後は、お母さんがいたら怒られそうな、だらしない姿勢になって、重ねた座布団にもたれながら、気の許す仲間と会話する。ここで生まれた「癒し」は、冷えたビールや素材にこだわった料理という「食=Eating」だけではありません。食前、食後の行動や空間、音楽など、食にまつわる様々な要素がもたらしたものです。

つまり、食がもたらす「癒し」を考える時に必要なのは、食事の材料や調理工程といういわゆる「料理レシピ」ではなく、「体験レシピ」の開発が必要なのではないか。そんなレシピをつくり、広めることが出来れば、「食べる」という時間が、ただの作業ではなく、今よりもっと特別な時間になるかもしれない。

彼らはこの考え方をベースに、彼らが持ちうるベストな要素を組み合わせて、世界初の「癒しの食体験レシピ」を開発。2019年7月に開催されたナナナナ祭でのイベント、「ねはんごはん~何が私を癒すのか~」では、そのレシピを約30名の参加者が体験しました。

ここからは、イベントの内容についてご紹介していきます。

 

癒しの食体験レシピ「ねはんごはん」

まず、体験者は「ねはんごはん」を書かれたお品書き(レシピ)を渡され、そこには大きく3つの工程が記載されています。

「ねはんごはん」お品書きとパンフレット

一、「運動」生まれる/つくる

・ぬぐ
・はなたれる

体験者は会場に入る前に靴脱ぎ、さらにスマホもスタッフが預かります。
体がまとっているものを脱ぎ捨てて、世間とのつながりから解放します。

二、「食事」生きる/食べる

・かぐ
・のむ
・たべる

聞香杯(もんこうはい)で、お茶の香りを嗅いでいる様子

「食事」の工程「かぐ」では、聞香杯(もんこうはい)をお出ししました。聞香杯とは、お茶が注がれた後の茶器の残り香を「かぐ」ことで、「香りを聞く」というお茶の楽しみ方です。お茶が作り出した、ほんのり温かい香りで深く呼吸すると、鼻のあたりがじわっと温かくなり、とてもリラックスすることができます。

食べる前にこの工程を加えた意図は、新橋の居酒屋で温かいおしぼりで顔をふいた時のリフレッシュ感をヒントにしたとのこと。

「たべる」「のむ」という工程は、竹明かり作家の方にご協力いただいた素敵なダイニングテーブルと緑の空間で、おむずび(塩むずび)と、木のお茶と椎茸出汁をブレンドしたオリジナルのスープを食べて頂きました。

「ねはんごはん」イベント用に設置されたダイニングテーブル

おにぎりと共にお出ししたスープ

三、「睡眠」死ぬ/消化する

・つぶる
・つながる
・ひろめる

最終工程で各々好きな姿勢でリラックスする体験者たち

レシピの最終では、適度に膨れたお腹と共に、ダメになるクッションに各々最もリラックスする姿勢で横になってもらい、目をつぶって頂きます。さらにKAMING SINGURARITYの雨宮がオリジナルで作成した心の安定に影響する周波数や倍音楽器を使った音楽で、大地と繋がるような感覚をつくり出し、体験者はどんどん心を開放させていきました。

この後、20分程の仮眠をとって、彼らが作り出した「レシピ」は終了です。

 

検証「食で人を癒せたのか?」

今回は、「癒しの体験レシピ」の再現性や今後の改善点を把握するために、テクノロジーの力で「癒し」を科学的に見える化することにもチャレンジ。ただ「癒されたかも」というあいまいな感覚だけではなく、数値化することにも取り組みました。

実は、レシピが始まる前に、体験者には一人ひとり、心電図や体温が計測できる絆創膏型のセンサーを胸のあたりに取り付けてもらっていました。「ねはんごはん」のメンバーは、「ねはんごはん」のレシピごとに、体験者のリラックス状態がどのように変化するのか、リアルタイムでチェックし、「癒し」を観察していました。

絆創膏センサーの検証画面とアンケート

体験者の多くが「かぐ」という工程にあった聞香杯で、深く呼吸をした直後にリラックスを示すグラフが上昇していました。また、緊張状態が続いていた体験者が、最後の「つぶる」という工程でスーっとリラックス状態になっていたり、絆創膏センサーによるリアルタイム検知により、さまざまな心の変化を確認することができました。

絆創膏センサーによる分析にご協力いただいた、パナソニック株式会社アプライアンス社 技術本部の金森さんの見解によると「このイベントによって人は癒されたと言える」とのこと。

ただ、さまざまな工程のどの要素がその「癒し」に繋がったのかという細かな分析には、データが不十分であり、また、他イベントとの比較検証をしたわけではないので、このイベントのみに優位性があるとは言い難いとの見解でした。

つまり、今回の「癒しの食体験レシピ」は、まずは成功。
同時に、つくり出したレシピを比較・検証するという今回のような実験を継続的に行い、あらゆるデータを蓄積していくことが、「癒し」のノウハウ化において最も重要だということが分かりました。

これらの気づきを元に、「ねはんごはん」チームは、早速さまざまな業界との共同実験に動き出しています。

 

新たな実験にむけて

8月末に行われた、100BANCHとパナソニックの社員の交流イベント「BANCH up!」。このイベントで彼らは、集まったパナソニック社員十数名を前に、世界初の「癒しの食体験レシピ」について、報告会を実施しました。

BANCH up!の様子

このイベンドでは、パナソニックで食にまつわる事業や人のリラックス状態を研究している部門、さまざまな空間づくりに取り組む社員など、様々なバックグラウンドをもつメンバーと「ねはんごはん」チームによる、ディスカッションが行われました。

「未来の飲食店舗を考えている。食体験レシピに貢献できるかもしれない。」

「日頃の接待を『癒し』を切り口にアップデートできるかもしれない。」

―など、活発な意見交換が行われ、「ねはんごはん」チームとパナソニックとの新たな実験が生まれそうです。

 

イベントを通して得たもの

「ねはんごはん~何が私を癒すのか~」は、今まで曖昧だった「癒し」という感覚を、精一杯科学したイベントでした。

——なぜ「癒し」をデータにしようと思ったのか。竹村に聞きました。

「ここ数十年、多くのカルチャーは『盛り上がること』が主体的だったと思います。これからテクノロジーの発展によって、人は時間をもてあますのではないでしょうか? その余白の時間でテンションを上げることだけやってたら、もたない気がするんです。だからこそ、癒される時間をつくらないと。アッパーじゃなくてダウナー。そこが重要だと思いました。」

——この実験を通して学んだことを菅本はこう語ります。

「今回のイベントに対して、『椎茸出汁や美味しいおにぎりなど、全部素晴らしいものを集めて癒される。それって当たり前じゃない?実験なの?』という事務局のみなさんからの質問がありました。でも私は、それを解明することに意味があると思っているんです。でもそれを伝えることが難しい。でも今回のこのような、本質をつく事務局との会話のキャッチボールのおかげで、この実験の意味を深く考えることが出来たし、自分たちが大事にしている言葉が生まれた機会でした。」

100BANCHは「未来をつくる実験区」。

「実験」という言葉には、強い想いがあります。

「実験」の先にどんな未来があるのか。

本当にそれが自分たちのやりたいことなのか。

どんな未来を自分たちの手でつくりだしたいのか。

100BANCHでは、事務局もプロジェクトメンバーも一緒になって、取り組もうとする「実験」のWhyやWhatの部分をとことん掘り下げ、言語化します。その深堀によって、「やってみたい」という興味・関心が「やりたい」という確信に変わり、自分たちがつくりたい「未来」が鮮明になっていきます。

そうなると、やらずにはいられない。だから、まるで何かに感染したかのように「実験」に取り組む若者が100BANCHにたくさん集まっているんだと思います。

 

つくりたい未来

彼らは「ねはんごはん」を通して、100年先にどんな未来をつくりたいのでしょうか。

——椎茸祭の竹村はこう語ります。

「食べることは身近で繰り返されていますが、あまり意識はしていないと思います。でも、毎日繰り返される食事の時間がもっと癒される時間になれば、心が安定し、人に優しくできたり、自分を大切にできたり、人生が豊かになっていく人が増える。つまり、『癒し』を追求することは『個人平和』を生み出すことにつながると思っています。食による『癒し』をノウハウ化し、食を通して『個人平和』をたくさん生み出していくことで、最終的には『世界平和』に貢献していきたいです。」

想像してみて下さい。

イライラしている職場の同僚は、ゼリー1つで1日分の栄養を取ろうとしています。そんな時は、彼らが開発した「癒しのレシピ」を検索し、上司に提案しましょう。レシピによって癒された上司は、次の会議でいつもより優しくなり、会話が弾み、素敵な企画が生まれる。

会議の幸せとか、友達や家族との会話から生まれる幸せとか、そんな些細な幸せが1つ1つ集まって、どんどん大きくなって、いつのまにか世界全体がハッピーになっていく。
「世界平和」というと大きすぎて自分ひとりでは手に負えない気がしますが、こう考えると実現できそうな気がしてきます。

「食」を通して世界平和を実現しようとする「ねはんごはん」チームの取組みは、まだまだ続きます。今後とも、よろしくお願いいたします。

 

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