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お茶を飲む意義のアップデート「茶(サ)ミット −和の心で世界を和やかに−」─ナナナナ祭2023アーカイブ

夜遅くまで作業をしていると、誰かがお茶を淹れてそっと差し出してくれる──そんな光景が100BANCHでは日常的に見られます。人を和ませてくれるお茶は、これからの100年をつくる多くの人が交わる場に欠かせない存在です。

そこで、ナナナナ祭2023の3日目となる7月9日、ステージイベント「茶(サ)ミット −和の心で世界を和やかに−」を開催しました。100BANCHのお茶に関するプロジェクトが集い、活動紹介やクロストークを通して、お茶を飲む意義や世界にお茶を広めていくことについて語り合いました。本レポートではそのトークをピックアップしてお届けします。

 

登壇者

岩本 涼|TeaRoomプロジェクトリーダー/株式会社TeaRoom代表/GARAGE Program13期生

洪 秀日|NODOKAプロジェクトリーダー/株式会社NODOKA代表/GARAGE Program4期生

新田 理恵|The Herbal Hubプロジェクトリーダー/TABEL株式会社代表/GARAGE Program 2期生

則武 里恵|100BANCH発起人/オーガナイザー

 

対立のない優しい世界を目指して

幼い頃にお茶の世界に出会い、お茶とともに人生を歩んできた岩本涼。茶道家としても活動しながら、株式会社TeaRoomでお茶を通じて世界中を平和にしていくこと目指して活動しています。

岩本:当初から掲げているのは「対立のない優しい世界を目指して」という理念で、それをお茶を通して広げたいと考えています。ただ、1杯のお茶だけではその理念の達成は難しいため、物の価値を信じ、それを伝えるために製造と卸に取り組んでいます。物の価値を信じる経験を通して、行動や思想が変わる可能性を感じています。また、体験を提供することに加えて、社会を変えていくことが必要だと考えています。受動的なアプローチだけではなく、社会側も変化させて対立をなくしていく必要があると思っているので、現在、大手企業と協力して社会のインフラを変えていくような取り組みをしています。また、静岡と鹿児島に茶畑を展開していて、東京・京都・金沢に茶室もあります。最近では、工芸の会社である中川政七商店の社外取締役を務め、ホテルのプロデュースや日本的な要素を取り入れたビジネスにも関わっています。6年かけて、多くの課題を乗り越えて現在の状態に至っています。これからも様々な取り組みを通して、社会に対立をなくす理念を広めていきたいと考えています。

 

もっと自由に、お茶しよう。

洪秀日は、日本茶をまるごと食べるように味わえる新感覚の日本茶ブランド「THE NODOKA」をニューヨークのブルックリンで2017年に立ち上げました。そのタイミングで100BANCHにも入居し、これまで日本茶の楽しみ方や活動を共有してきました。

洪:THE NODOKAは「もっと自由にお茶しよう」をブランドとして掲げています。人もお茶もいろんな魅力があっていいと感じており、伝統をリスペクトしながらも、そこにとらわれすぎずに、その人にあったいろんなお茶の楽しみ方を提案できればという思いで活動しています。

お茶を全部パウダーにしているのがTHE NODOKAの1番の特徴ですが、その理由の1つは水・お湯で混ぜるだけで手軽に飲みたい時に楽しめるからです。 2つ目の理由は、元々、薬草として伝わったと言われるぐらい、栄養が豊富なお茶の栄養をパウダーにすることで100%楽しんでもらうためです。3つ目は、水・お湯で混ぜるだけではなく、アイスにかけたり、いろんな発想で無限大に楽しみ方が広がるため、パウダーにしています。プロダクトのラインナップは、抹茶2種類、煎茶、玄米茶、ほうじ茶、和紅茶の6種類で、すべて静岡で無農薬でつくっています。

お茶は、宗教上・健康上の理由などで飲めない人はいないことが非常に魅力的だと思っています。世界的に見ても、水に次いで飲まれている飲料はティーです。お茶をパウダーにすることで、食材、人や、文化に合わせて柔軟に形を変えることができるのも他にはない要素だと思っており、スムージーやラテ、カクテルなどで使っていただくこともあります。実店舗はなく、基本的にポップアップやオンライン、または卸販売をメインに、事業をしています。

私たちが考えるお茶の役割は、「コミュニケーション」だと思っています。お茶を楽しむと自然と会話が生まれて、笑顔になれる。そこでは性別、人種、年齢は関係なく、いろんなものを繋ぐことができます。日本と海外だったり、作り手と飲み手だったり、お茶を通して、いろんなものが繋がることで、新しい喜びや可能性が生まれると信じて活動しています。

 

食生活のupdate!

TABEL株式会社の新田理恵は、高校生のときに父親が重い糖尿病になったことから、食べることは凶器にもなるとショックを受けたそう。食べることで人が良くなっていくような食事を作っていきたいと管理栄養士の道に進みその後、日本伝統茶のブランドtabel(タベル)を立ち上げ、食生活をどうアップデートしていくか、というテーマで活動を続けています。

新田:食生活を変えるのって、すごく難しいですよね。でもそんな中でも、少量でちゃんと身体に効くものがないかと考えた時に、日本の薬草の存在に気がつきました。何千年も使ってきた文化があったのに、私は知らなかったんですね。そして、日本は未活用の自然資源がたくさんあるのに、作り手がなかなか稼げない現状がある一方、医療費は増え続けるという、社会課題があります。それならば、おいしいものを食べながら身体が整っていくような、そんな食生活があったらもっといいのにと思うようになりました。薬草を通じて、この2つを同時に叶えられるのでは、と考えるようになりそこから、日本各地を色々巡るようになって、薬草工場の存在を知っていくことになります。果物を育てていらっしゃる農家でその葉っぱも活用できないか、など色々な可能性に気づいていきました。昔ながらの知恵と自然資源を活用していくような、町と町を越えたような、そんな繋がりができたらいいなと思い、TABELを立ち上げました。

クラウドファンディングからプロダクトの開発をスタートして、今ではメイン商品は7種類ほどのラインナップがあります。コラボ商品も色々つくっていたり、大手企業さんと一緒にプロダクトづくりに取り組んだり、お茶のプロダクトをつくる際のレシピの監修もやらせていただいたり、原料の調達のようなこともさせていただいています。私一者が儲けるよりは、みんなで文化や産業を盛り上げていきたい気持ちが強く、連携しながらやることが多いです。

100BANCHには当初、プロダクトを開発するために入居したんですが、プロダクトよりも、みんなで学べる場や、コミュニティができる場があった方が本質的に良いんじゃないかと思い、薬草大学NORMという100人規模のコミュニティを運営しています。ゆるゆると薬草のある暮らしを次の世代に向けてみんなでつくっていけたらとの思いで活動しています。

 

「お茶」に感じる可能性

各自の活動紹介の後、100BANCHオーガーナイザーの則武をモデレーターに交え、それぞれが「お茶に感じている可能性」からクロストークをスタートしました。

則武:お茶を通して伝えていきたいこと、自分たちが活動を通じて、広めていきたいことは何でしょうか。

洪:自分はちょっと乱暴な言い方をすると、お茶じゃなくても良かったんです。海外で流行ってるお茶を誰がどうつくっているかに興味があって、茶農家を回って泊めてもらっていました。静岡って朝ラーメン食べる文化があるんですけど、一緒に飲んで朝ラーメン食べて人々と触れていく間に、この人のお茶をいろんな人に届けたいなと思うところがあって、その手段がパウダーだったのです。これが正解なのかはまだわからないですが、好き嫌いは別として本当にお茶を飲めない人は世界中にいない、ということから、お茶の魅力にどんどん引き込まれていったイメージですね。

新田:お茶はすごく手軽なのが魅力だと思っています。例えば、管理栄養士として食のアドバイスをするとき、料理だとアドバイスとしてハードルが高いことが多いんです。キッチンが整ってないとか、職場だと水ぐらいしかないとか。料理が苦手な人もいらっしゃいますし。でも、お茶はすごく簡単で、お水やお湯を注ぐだけでどこでも誰でも絶対淹れられる、そんな手軽さがいいなと思います。それでも結構エフェクトがあるというか、みんな和やかになったり、飲み物で身体が変わっていくような体感ができたりするのも面白いです。お茶は、淹れてあげてもいいし、ちょっとしたプレゼントにもできる。そうやって優しい思いやりの気持ちや癒しを、もっとみんなで巡らせていけたらいいなと思います。

則武:めっちゃ巡らせてほしいです!この100BANCHはその恩恵にすごく預かってきたから、いい世界だなと思っています。みんながお茶を淹れられるようになるといいのですかね。その良さが伝わるといいのかな。

新田:お茶を好きになった人から淹れていく、みたいなことでいい気がします。あとは、環境が整っていること。100BANCHではお茶を置いてくださっていますが、気づいたら横にあって、いつでも淹れられる。そんな環境もとても大事だなと思います。

岩本:ぼくらの事業概要をアメリカの方々に伝えたとき、「君たちは appreciation of tea を広めたいんだね」と一言でまとめていただきました。appretiationは感謝とか尊敬、尊重するという意味がぜんぶ含まれてる言葉だと思うんです。それを日常の「お茶」というシーンから広められたらとてもステキだよね、と話をされたのは印象的で。飲むという行為は、一日の生命活動の中で最も回数が多いと言われています。栄養学的には一日6〜8杯ほどの飲料を飲むと良いといろんなレポートに書かれていますが、お茶を飲むことで1日8回も何かに気づく接点があるというのは素晴らしいことです。食べないことよりも水を飲まない方が死ぬ確率が高く、水分は3日飲まないと死んでしまいますが、食べ物は1週間食べなくても死なない。飲むことには、生命の寄与度が高く、そこに儀式性が発生したり、宗教が発生したりすることが世界中にあります。飲料はものすごく面白い接点で、それを活用しながら、日々の暮らしに感謝をすることを学べると、面白そうだなと思っています。

会場からは、お茶という文化の国内でのポジションをどのように上げていくか、今後、海外に進出していくような、茶事を理解したプレゼンテーターをどのように増やしていったらよいか、という質問があがりました。

洪:日本国内でも、友人に「お茶行こうよ」と言うと基本的にコーヒーを指すことが多く、お茶は飲んでいないんですね。「立ち止まる」とか「休憩をする、のどかな時間」という本質をTHE NODOKAのブランドに込めるようにしています。でも、あらためて、お茶するってなんだろう、とか、来客におもてなしで出すお茶の役割や、お茶を飲むことの意義を、私たち日本で生まれ育った者たちが考え直す必要もあるのかなと思っています。また、海外に一度出てみて外から日本を見ることは非常に重要だと思っています。需要と供給がマッチしてこないと、いくら私たちが美しく・素晴らしい文化、と誇りを持っていても、 受け入れてもらえない。その人のライフスタイルや文化、国に合わせていくことも重要だと思っていて、NODOKAとして活動するときは、あまり文化の押し売りにならないようにしています。やはり人それぞれの価値観がありますし、こちらからちょっと歩み寄る、その素晴らしさに私たちが気づくという2点だと思って活動しています。

岩本:日本でお茶を広めるならば、私は「優しいインフラ」と呼んでいますが、精神的に人々を支える存在としてあり続けて欲しいと思っています。そのためには社会側も変える必要があると考えています。最近、銭湯に関わることが増えてきたのですが、こういった社会のインフラ的に機能したものを支えることは、今この時代は国だけに支えてもらうのも厳しいですし、民間だけで支えるのも厳しい。新しい事業モデルが必要なんだと思っています。お茶で言えば例えば、気軽にお茶を飲めるようなおばあちゃんがやっているようなお茶屋さんが社会に溢れる状態がつくられたら、精神的に非常に豊かな国になれる気がしていて、高級化やインバウンドなどの流れはもちろん意識していますが、誰もが500円だけ握りしめれば、銭湯に行けて温かいお湯に触れられる、苦しくなったらあったかいお茶を誰かに淹れてもらえる。それが都市に溢れている景色を広められれば、個人的にはお茶の価値が広まったと言ってもいいのでは、と思っています。どう稼ぐか、という観点ではもちろんお茶の単価を上げるなどラグジュアリー化の流れには抗えず、推進すべきだと思っています。物自体の価値には上限があるので、前後の体験も含めた新しい体験や様式をつくっていかなければいけないため、粛々と行っています。ただ個人的にはラグジュアリーよりも、どう精神的に豊かなインフラとして銭湯やお茶屋などが存続できるのかを考え、それが現実のものとなったならば、それは先進国のいい事例にもなると思います。

新田:野草・薬草は日本茶よりももっとニッチな世界なので、とにかく学べる場がなくて、全部ゼロからやらなくてはいけません。だからどう接点を持つかについては、名前も知らないハーブのお茶を飲んでもらうために、イベントやお茶会をします。ローカルに行かないと学べないことはこちらでやっておいて、それをオンラインや渋谷のようなアクセスしやすい場所でとにかくシェアをしていくことが、結果的に強みになります。たくさん助けてくださったり、繋がったり、新しいことをはじめるプレイヤーが増えていく。うちの大学には、向上心が高く好奇心旺盛で行動を起こす人が多いですが、その人たちにまず来てもらって、ツールを渡す。私がお茶を販売・卸売りできる状態にしているのも大事ですし、今書いてる2冊目の本は教科書的な役割で、ローカルに行かないと得ることができない情報や、何ヶ月も歴史や本を読み漁らないと見つけられないことを書いています。そういったことは先陣を切ってこちらでやって、それを惜しげもなく渡していく。その辺のバランスをとって、うまく循環させることが大事だと思いました。

則武:このイベントも100BANCHもきっとそうだと思うのですが、無形のものや意味、価値を伝えるのは結構難しいですよね。わかりやすく何かものを、ぽんと渡して終わりというわけじゃないですもんね。そこで、大きなビジョンや、1人じゃないと思える感覚がすごく大事だなと。人の繋がりをたぐり寄せながら、そういう世界がきっと来るのを信じて歩んでいけるといいのかなというのは、この場にお集まりいただいたみなさんも、100BANCHのメンバーも全員が持っていると思います。1人じゃない、という感覚で輪をつくっていける、今日はそのきっかけになるイベントになったらいいなと感じています。

 

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