ギグエコノミーの実態と私たちが生きる社会に、 美術作品を通じて問いを投げかける
DELIVERY DRAWING PROJECT
ギグエコノミーの実態と私たちが生きる社会に、 美術作品を通じて問いを投げかける
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東京藝術大学大学院 先端芸術表現学科(2022年4月入学)
KDDI総合研究所「Future Gateway」 山口 塁
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目の現役活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会を実施しています。
2022年8月の実験報告会には、5プロジェクトが登壇。活動の報告と今後の方針や展望について発表しました。
■DELIVERY DRAWING PROJECT
登壇者:山口 塁
ギグエコノミーの実態と私たちが生きる社会に、美術作品を通じて問いを投げかける
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/DELIVERY_DRAWING_PROJECT
DELIVERY DRAWING PROJECT は、UberEatsなどのフードデリバリーのドライバーにGPSを装着してもらい、その配達ルートをドローイングとして変換・可視化して表現するアートプロジェクトです。
山口:今日はドイツからオンラインで参加させてもらっています。100BANCHでは、エンジニアのメンバーと一緒に、GPSをつけた配達員さんの配達ルートがそのままドローイングに変換されていくアプリを開発してきました。実際にそれで描いたものを元にMDF(Medium Density Fiberboard)をレーザーカッターで加工、塗装し作品を制作しました。先日、東京芸大の美術館でコンペのようなものがあったのですが、そこでインスタレーションとして作品を展示させていただきました。
「期間を3ヶ月延長し、いったん作品としてのモノはできました。しかし、配達ルートを変換するアプリも未完成で、配達員さんとの連携も密にできていないので、まだまだこれからかなと思っています」と山口は話しました。
■Sci-Cology
登壇者:浅井 順也
「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションを作りたい。
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/Sci-Cology
Sci-Cology は、科学の基礎研究をポップなカルチャーにして伝えていく表現方法を考えるプロジェクトです。
浅井:科学のエモさというのは、まだまだ分からない部分があるので、これを自分たちでカタチにしてベンチマークとなる作品を作っていこうという方向性で活動してきました。 そこで、科学に基づいた小説、音楽、イラスト、経験をアートにした作品などを制作し、ウェブサイトをつくりました。SF作品ではなく、今後の科学を考えさせられるような読後感のあるものをつくろうと考えており、例えば、人が瞬きで目を閉じた瞬間に写真を撮ってGIF化した「Blink Album」という動画作品を撮りました。また「食べちゃいたいぐらいかわいい」という心理的表現がありますが、近未来的に人肉の培養肉によって、愛する人を食べられる世界になったとしたらどんなことが起こるだろうかという「H-Meat」という小説作品等をつくりました。
「今後としては、とにかく作るということ、と作品を深めるということを進めていきたいです。これまでの活動でウェブサイトと作品ができたので、9月からは若手研究者へアプローチして作品をつくることをすすめたり、 H-Meat を軸に実際に人肉の培養肉を作ったり、そのパッケージデザインをしたりと、絶妙な科学表現を攻めていきたいです。」と浅井は話しました。
■獅子舞生息可能性都市
登壇者:稲村 行真
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/SHISHIMAI_habitat_city
獅子舞生息可能性都市は、日本全国300件以上の獅子舞を取材してきた知見を生かし、渋谷に獅子舞が生息するとしたら道順、舞い方、獅子のデザイン等はどうなるのか? を想定し、実際に獅子舞として舞い歩くというプロジェクトです。
稲村:今回の100BANCHでのプロジェクトの3ヶ月間は、6〜7月はリサーチ期間とし、8月にメンバーの3人で一週間の泊まり込みをして獅子舞を制作、8月17日に獅子舞の演舞を行い、振り返りをしてプロジェクトを終了しました。
渋谷の街は、そもそも獅子舞が舞う習慣も地域コミュニティもなく、ビルが隙間なく立っていて早足に去っていくという、空間や時間の余白もない環境です。この街で獅子舞を舞うには、自分たちで舞い場を作り出し、ミニマムな行動と時間が必要だと考え、32秒間に限定し、渋谷の街の色んな場所を転々としながら獅子舞を舞っていきました。
稲村は最後に「こういう獅子舞ができました。渋谷の獅子舞生息可能性はどうだったのかというのをこの映像に託したいと思います」と映像を披露し発表を終えました。
■縁側プロジェクト
登壇者:寺崎 薫 百瀬莞那
縁側を渋谷に出没させる実験を通して、未来の縁側のあり方を拡張させたい
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/ENGAWA+project
縁側プロジェクトは、未来の「縁側」を新たに模索し、提案するプロジェクトです。
寺崎:100BANCHでは、縁側の歴史や役割を調査したり実際の縁側に座りに行ったりしてきました。 結果、未来の縁側は「周りの環境が鑑賞する庭に代わる装置」と定義でき、これに基づいたアイデアを展開したり、簡易な実験を行ってきました。
実験を重ねる中で2つの企画が生まれました。「音が遠くに感じる装置」は、吸音シートを使ってプロトタイプを作り、渋谷の街に持っていって実際に実験を行いました。音がある程度遠くに聞こえて庭を鑑賞するような感覚があったものの、他者が参加してこないという気づきを得ました。
「圏外スポット」は、電波が圏外になる場所を公共空間に設置し、それを体験する人の様子を記録し発信するといった企画です。実現するためには電波抑止装置が必要ですが、使用には電波法に基づいた許可がいります。 総務省に問い合わせたところ、公共の福祉の維持のための効果が得られること、等といった条件を満たせば、許可がおりると回答をもらいました。また、装置の使用には多大な費用がかかるため、シビック・クリエイティブ・ベース東京というアーティスト・フェローに応募し、現在選考中です。
「今後は装置の使用許可を得るために企画内容を少し修正していくつもりです。使えなかった場合にはアルミで囲った空間の設置や電波暗室の制作といった代案も考えています。また渋谷の電波をハックするというテーマでCreative Hack Awardにも応募していきたいです」と寺崎は話しました。
■SoundAirport
登壇者:佐野 風史
人が、「想像力」を使って音で世界を旅するきっかけを作る
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/Sound+Airport
「Sound Airport」は、視覚情報にとらわれた我々の生活を、その視覚の依存から開放し、画面の外へ飛び出すきっかけを作っていくプロジェクトです。
佐野:多くのSNSがそうであるように、ぼくたちの生活は段々と視覚情報にとらわれた生活になってきているのではないか、と感じています。また、その情報を切り取る方法が写真や動画など目の前に広がる景色しか捉えられないという問題があると思っています。それをもっと立体的に、空間的に情報を伝達する方法はないかという点から、環境音を録音・編集・加工してシェアする「Sound Airport」というアプリの開発を行ってきました。このアプリでは録音を行った後にジャンルを選択をしたり、ラベリングをして、世界中にシェアすることができます。だんだんと画面への注目が薄れて情報を空間的にとらえようとする仕組みを入れたり、音という表現によって想像の余地を持たせられるように工夫しています。
「今後の展望としては、来月中にこのアプリを正式にリリースすること、また他の想像の世界へのチャンネルを構想していくこと、を考えています。」と佐野は話しました。
報告ピッチ後は、各プロジェクトの登壇者とイベント参加者が輪になり、質疑応答や意見交換、今後のビジョンなどを語り合いました。次回の実験報告会は9月26日(月)に開催。ぜひご参加ください!
※登壇・集合写真の撮影時のみマスクを外しています。