- メンバーズボイス
展覧会『砂の旅券 Emptiness passport in a handful of sand』
1トンの砂を敷いた展覧会『砂の街』を開催し、 砂へのまなざしを更新する。
私はこれまで、四畳半の部屋に砂を200キロ敷いた「砂の部屋」に暮らしながら、砂の上に人を招き、そこでさまざまな空間を展開してきました。もしもそれらの空間を一面の砂の上に同時に展開することができたら、それは街のようになるのではないか。この景色を実現する試みとして、砂の部屋の展覧会となる『砂の街』を開催します。
会場には1トンの砂を敷き、そこに異国の街のような空間を展開します。そして、訪れた人々の砂への思い出やまなざしを更新します。
2016年11月、私は渋谷区にある四畳半の一室に砂を200キロ敷いた「砂の部屋」に暮らし始めました。そこに100を超える人を招き、様々な砂にまつわるエピソードを聞いてきたのですが、その多くの砂の記憶は子供の頃の思い出の中に留まっていました。私はそこにまっさらな想像の余地を感じ、そしてそれは、あらゆるものが飽和しているように感じられた現代の都市生活において泉のように思えました。
絆とまでは呼べなくても、ただ同じ地続き上に誰かが存在しているというだけで和らぐ孤独もあるのではないか。
一握りの砂は、私たちが同じ地続き上に存在しているという実感をもたらします。『砂の街』に訪れる人々には、最後に敷かれている砂を一握り持ち帰ってもらいます。『砂の街』での体験をした後に手にするその砂は、最後には消えてなくなる街の断片であり、他にも砂を分かち合った人々とのエンプティネスな繋がりとなります。
渋谷を出発点として、今後この取り組みを世界中のあらゆる場所で行う中で、一握りの砂を通した繋がりは広がっていきます。それは、多様性とは一言で括り切れないほどの人々の間を包括します。
100BANCHの3階の空間を借り、そこに1トンの砂を敷いた展覧会『砂の街』を開催します。その1トンの砂は、現在私が暮らしている砂の部屋に敷かれている砂をはじめとした、これまでに敷いてきた780キロの砂と、新たに加える220キロの砂によって構成されます。それらの砂を一面に敷き、その上で屋台のようなかたちの作品群を展開します。そして訪れた人には最後に一握りの砂を持ち帰ってもらいます。
『砂の街』のすべての砂が尽きた時、そこには街があった場所だけが残るが、砂の街は流出した砂によって存在し続けます。街は砂に溶け、広く流出し、人々の記憶や街の記録、そしてまなざしによって浮かび上がることになります。このようにして、一握りの砂へのまなざしを更新することを目指します。
砂は100年後にも残り続けます。私ができることは、100年後に残るものをつくるよりも、100年後にも存在している砂へのまなざしを更新することだと考えています。そして、そのまなざしの先に見出せる可能性の広がりを、私は「想像力」と呼びます。それは、物事の空白を読み取る力であり、他者との関係の間を想うことでもあります。物事を捉えるまなざしが変われば、自然とその先に現れる行動や結果も変わってきます。人間のまなざしの先に少しでも彩を添えられるようになれば、それは100年先の人にも通じるものになると感じています。
砂の主人井手尾 雪
渋谷区にある四畳半の部屋に砂を200キロ敷いて暮らし、これまでに100人以上を招く。現在までに敷いてきた総重量は780キロ。今回のプロジェクトを機に1トンに到達する。
砂のコックさんぽんちゃん
食卓から世界をのぞけるようなごはんをつくる。旅をしながら、その土地の文化や風土を反映させたコロッケもつくる。砂の料理店のコックさんでもある。
砂の図書委員かんちゃん
存在が無色透明。ニュージーランドで羊飼いになるため休学したが、羊の自立が想像以上に早く、世話することがなくなり帰国。裏方と呼ばれる作業は、すべて完璧にこなすことができる。
国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員/ニコニコ学会β交流協会 会長/メディアアーティスト江渡浩一郎
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 主任研究員/慶應義塾大学SFC 特別招聘教授/メディアアーティスト。1997年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。在学中よりメディアアーティストとしてネットワークを使ったアート作品を発表する。1997年、アルス・エレクトロニカ賞グランプリを受賞(sensoriumチームとして)。1999年、アルス・エレクトロニカ賞栄誉賞受賞。2001年、「インターネット物理モデル」の制作に参加。日本科学未来館の常設展示となる。2010年、東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。2011年、ニコニコ学会βを立ち上げる。ニコニコ学会βは、2012年にグッドデザイン賞ベスト100、2013年にアルス・エレクトロニカ賞栄誉賞を受賞するなど高い評価を受ける。産総研では「利用者参画によるサービスの構築・運用」をテーマに研究を続ける。主な著書に『ニコニコ学会βのつくりかた』(フィルムアート)、『進化するアカデミア』(イースト・プレス)、『ニコニコ学会βを研究してみた』(河出書房)、『パターン、Wiki、XP』(技術評論社)。2017年、科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(理解増進部門)受賞。ニコニコ学会β交流協会会長、COI STREAM構造化チームメンバー、JST CREST領域アドバイザー、東京藝術大学 美術学部デザイン科 非常勤講師を務める。ホームページ:http://eto.com/