- イベントレポート
微生物を通じて世界を捉えることが、気候変動解決に与える可能性。Kin Kinプロジェクト主催「微生物中心の未来で気候変動を変える」
私たちにとって最も身近な他者である微生物をケアし、 現代的アニミズムを実践したい
周辺環境や体内にいる最も身近な他者である微生物との関係性を再考することは、私たちの「人間」としてのあり方変え、人間以上の存在たちとケアリングな関係を築いた世界を築くのでないか。自然を分離し搾取してきた文化が引き起こした気候変動の時代から異なる未来の可能性を想像するために、微生物を中心に日常をリデザインし他者との繋がりを思い出す「菌[kin]曜日」を実践して、現代的アニミズムの可能性を模索する。
私は環境アクティビストとして、気候変動対策を求めて日本政府に対して政策提言などを行ってきました。しかし活動の中で気候変動という人類の脅威が起きた原因を探っていくうちに、この問題は人間が化石燃料を燃やしたという単純な事実ではなくとても根深い文化的な原因があることに気づきました。それは西洋の帝国主義や植民地化の歴史の中で、「自然」を神や恵として敬いケアしてきたカルチャーが西洋の「自然は支配可能なオブジェクト」というヒエラルキー的自然観に切り替わってきたことです。そういった文化的価値観が自然の搾取や人々の搾取を肯定し、化石燃料を燃やし尽くした先に気候変動という環境危機があります。植民地主義は物理的な支配のみならず、何千年という土地の観察に基づいた先住民族の知恵や生態系のケアが根付いた文化を「非科学的な野蛮な文化」として抹消してきましたし、現在もそれは続いています。その文化的暴力に対抗して、世界では気候変動対策の根幹として先住民族やグローバルサウスの人々がDecolonization(脱植民地化)を求め、欧米的ではない自然との関係性や生態系の働きに基づいた「他の知のあり方・存在の仕方」を取り戻そうという流れがあります。
この背景を踏まえて、私は今「エコロジー」と「脱植民地主義」をテーマに、いかに人間中心主義のヒエラルキー的世界観を分解し、人間以上の生物や存在たちをケアした公平な関係性を築くことができるかを考えています。
その実践として、わたしの体の中に住み着いてくれている微生物をケアした、存在の仕方・関係性の実践を脱植民地主義研究のフレームワークを活用して研究したいと考えています。
微生物と人間の関係性を考え直し、微生物を自主性・自立性を持った存在たちとして相互的なケアの関係性(kin/親類になること)を作り出すことはどう可能になるのかを考察したいと考えます。現状としては人間と体内微生物の関係性が、植民地支配の構造における植民地支配者と抑圧された人々(Subaltern)と同じではないかという考えのもとに、微生物のことを存在として敬いケアするという行為の中で、気候危機の時代における他者・多種との関係性のあり方があるのではないかと考えています。
体内の微生物や周辺環境に住み、最も身近であり最も小さい他者である微生物たちとの関係性を再考することは、私たちの「人間」としての存在論をトランスフォームし、人間以上の存在たちとより公平でケアリングな関係を築いた世界を構築する礎を可能にするのではないか。そして微生物と人間の関係論のアップデートは、脱植民地主義的観点におけるSubalternと呼ばれる存在たちの解放とも共鳴し、より大きな脱植民地化のプロジェクトを行う上でのワールドメイキングに寄与するのではないか。微生物にとって良いことを実践する先に、結果として人間にも、環境にも、地球にもよく、気候変動対策にもなる行動を設計できるのではないか。
微生物多様性を高め、体内外にいる微生物をケアすることを第一に、1日・1週間の行動をリデザインする、「菌[kin]曜日」を実施する。
体内外の微生物が接続し、そこの多様性が高まるよう、日常の行動一つ一つを考え直してみる中でどういった生活の変容が求められるかを知り、実際に体験することによりどのような感覚の変容があるのかを記録します。それを通じて、どのような行為をした時に最も感覚や気づきがあり、人々の思想の変化に繋がるのかを観察することで、実際にサービスやプロダクトへの反映の参考にする。
そして「kin曜日」は菌を起点にした生活に加え、kin (類縁)であることを感じることも目的にします。私たち(人間、菌、動物、植物)が菌を媒介して、すべてつながっていることをどう実感することができるのかを考えたいです。個人主義の世界において、世界から切り離されたと感じるのではなく、菌という媒介者を通じていかに参加者同士が互いに繋がっているという感覚を育めるかを検証する。
現代的なアニミズムの思想を実践し、気づける仕組みづくりや、思想を持たずとも日常的な行動のなかで気づかぬうちに様々な存在たちをケアしているようなプロダクト・サービスなどを考えたいと思っています。
ビジョンの共有:現代的アニミズム・微生物を始めとして人間以上の存在たちの視点や相互のケアを踏まえたビジョンを、政策提言を行うアクティビストやメディア関係者、アーティストなどに広め、未来を考える上での前提に挿入していく。
プロダクト/モノ/行動設計への反映:実際に思想を30分も聞いてくれるほど現代人は暇ではない。アニミズム的な価値観に基づき他の命たちをケアする行動を、思想を持たずとも実践している人が増えるような仕組みを作りたい。例えば腸活にいいからと自然農法の野菜を食べる人が増えることによって、結果として無肥料無農薬で不耕起栽培の土地が増え、生態系が回復していくような仕組みづくり。自分の体にとって良いことが、実は微生物や様々な命をケアする行動につながり、結果として地球にも良かったという流れを生み出したい。
私が実現したいのは現代的なアニミズムの実現された未来です。それは自然の仕組みに乗っ取った変化しながらも持続しつづけられる社会システムや、自然の中で人間以上の存在たちのケアが当たり前になった文化や世界観を作ることです。バイオミミクリー(自然模倣)に見られるように、自然の中で育まれてきた形状などは最も最適化されたデザインであることが多いと言います。私はそれは社会システムのあり方にも接続しうると思います。現在の社会システムは人と自然を生き続けられなくなるまで使い果たしてしまっています。何千年も残った先住民族などの社会は、つまり生態系の一部として持続し続けるシステムデザインを持っていたのではないかと思います。
それを踏まえて、存在たちが搾取ではなくケアし合い、100年を超え、1000年、10000年と生き続けられる生態系のあり方にのっとった社会や生き方になった未来を実現したいです。現時点では、万物を神として敬いケアするアニミズムがその社会を実現するために必要なデザインを持っているのではないかと思っています。生態系においては多様な種が存在することがその生態系のレジリエンスを高めるように、現在の社会において周縁に追いやられているマイノリティの人々への差別や格差などを元にしたシステムから、雑多で多重性がありレジリエンスの高い社会や関係性のあり方を作りたいと考えています。
代表酒井功雄
アーラム大学3年。2001年東京都中野区出身。2019年に気候ストライキ、”Fridays For Future Tokyo”に参加。2021年には英国でCOP26に参加。現在は米国インディアナ州の大学において、平和学を専攻。 Forbes Japan 世界を変える30才未満の日本人30人選出。
場を創る人山岸翔一朗
新宿生まれ新宿育ちな2001年生。コーチングの技術・マインドを中心として、ビジョン形成やインサイト統合の場のファシリテーションが得意技。
菌メンバー石田パトリシア
1994年千葉県生まれ。南米ペルーにルーツを持つ。10代から自分のペースで続けている俳優活動の傍ら、都内で派遣社員として勤務。コロナ禍をきっかけに気候危機をはじめとする社会問題に関心を持ち、自分にできる限りのことを模索中。動物を眺めたり、自然環境に身を置くが好きで、家族と過ごす時間を何よりも大切にしている。
菌メンバー黒部睦
国立音楽大学3年。2001年、東京都出身。高校生時代にSDGsの啓蒙を始め、スウェーデンへ研修をきっかけに気候変動の危機に気づく。現在は「Fridays For Future Tokyo」やClimate Clockプロジェクトメンバーとして気候変動対策に取り組む。
tenrai株式会社 代表取締役医師桐村 里紗
予防医療から生活習慣病、在宅医療まで幅広く臨床経験を積み、現在は鳥取県に移住し、日野郡江府町において人と地球全体の健康を実現する「プラネタリーヘルス」や女性特有の悩みを解決する「フェムケア」など、ヘルスケアを通した社会課題解決を目指しプロジェクトを共創。東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座・光吉俊二特任准教授による量子ゲート数理「四則和算」の社会実装により、人と社会のOSをアップデートすることを掲げたUZWAを運営し、新しい文明の萌芽を描く。新著『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。
プロジェクトの歩み