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異なる人々をつなぐ接点の発明で、新しい社会の見方をつくる:高橋鴻介(発明家・10期 Braille Neue プロジェクトリーダー)

「視覚障害の方が点字をものすごい速さで読む姿を見て、未来の文字のように感じたんです。」
点字との出会いをきっかけに、新しい書体の開発に挑んだのがGARAGE Program 10期生の高橋鴻介です。

高橋は2018年8月に100BANCHに入居。晴眼者が使う「墨字」と視覚障害者が使う「点字」が一体になった目でも指でも読める書体「Braille Neue」を開発。渋谷区役所庁舎を皮切りに、社会への実装に取り組みました。現在でもコミュニケーションデザインを中心に、人が関わりを楽しみ、互いの視点を面白がれるような方法の発明・ものづくりを行っています。
そんな高橋が100BANCHとの出会いや当時のプロジェクトについて語りました。

高橋鴻介|Braille Neue

1993年、東京生まれ。『接点の発明』をテーマに、人と人の間につながりを生み出すためのプロダクトを制作している。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、電通に勤務。その後、2022年に独立。主な発明品に、点字と文字が一体になった書体『Braille Neue』、触覚ゲーム『LINKAGE』、オンラインで競い合える『ARゆるスポーツ』など。wired AUDI INNOVATION AWARDにて、日本のイノベーター20人に選出。受賞歴にグッドデザイン賞、DIA Award、日本サインデザイン賞など。

 

高橋:はじめまして。発明家の高橋鴻介といいます。発明家と聞くと「何やってる人なんだろう」とみなさん思われると思うので最初にまずは体験してみましょう。今日は発明品を1つお持ちしています。

 

——そう切り出した高橋は、参加者を募り、カードの指示に合わせて指を棒でつないでいく協力型のバランスゲーム「LINKAGE」を実演。参加者自らに参加してもらうことで、触手話というコミュニケーション方法を実際に体験してもらいました。

 

高橋:今やっていただいたのは「LINKAGE」という触覚を使ったゲームです。共同制作者がそこにいるので、ちょっと話を聞いてみましょう。

 

田畑:こんばんは、田畑はやとといいます。触覚デザインの活動をしています。高橋さんと一緒にLINKAGEの制作に取り組んできました。

高橋:はやとくんは、触覚デザイナーでありつつ、盲ろう者でもあるんですが、彼が今まさにやっているコミュニケーション方法を触手話といいます。はやとくん、触手話ってなんですか。

田畑:触手話は、盲ろう者のコミュニケーション方法です。文字通り、手話に手で触れることで、話したい内容を読み取り、意思伝達をします。盲ろう者は視覚と聴覚に障害があり、その人たちのコミュニケーション方法には、触手話、指点字、接近手話、音声、パソコンなど様々な方法があります。ろう者は基本的に手話を使います。その後、全盲になった方、視覚に障害がある方は触手話を使います。弱視で耳が聞こえない方は接近手話を使います。他には、指点字などもありそれぞれコミュニケーション方法が変わってきます。

 

高橋:ありがとうございます。こういう感じで、はやとくんは触手話を使ってコミュニケーションをするんですが、ぼくは初めて体験したときにものすごく感動しました。「押したり引いたり、ちょっとした触覚の動きだけでも気持ちや言葉のニュアンスを伝えられると彼から教わったんです。それをきっかけに、「これは面白い」「触覚のコミュニケーションをなんとかして体験できるような形にできないか」と考え、LINKAGE というゲームを作りました。LINKAGEは色々なところで販売しているんですが、はやとくんはゲームマーケットで売り子もやってくれたり、触覚のデザインだけでなく、営業かつ制作担当みたいな動きをしてくれています。 

 

高橋:このように、ぼくは「接点の発明」というテーマで発明をやっています。 先程のゲームのように、言語だけでなくコミュニケーションを生み出したり、コミュニケーションを活性化したりするプロダクトや、遊びを新しくデザインすることをテーマに活動をしています。 

 

100BANCHで生まれた「接点の発明」

——高橋は、次に現在のテーマの原点となった、100BANCHで取り組んできた3つのプロジェクトについて話します。

高橋:「接点の発明」というテーマは、100BANCHで生まれました。100BANCHでは、Braille Neue未来言語TOUCH PARK、という3つのプロジェクトをやっていたんですが、プロジェクトを経るごとに自分がどんどん変化していって今のテーマにたどり着いたと思っています。

最初のプロジェクトは Braille Neue です。ぼくは元々会社に勤めていて、仕事で視覚障害の方の施設に行く機会がありました。そこで出会った男性が、点字を読んでいたんです。初めて見てびっくりしたんですが、読むのがすごく早かったんです。「すごいですね」と話をしたら、彼が点字のしくみだったり、「点字は元々ルイ・ブライユという方が発明したと言われてるけれど実はそれ以前にナポレオンが軍事用の暗号で作ったものが原型かもしれないと言われてる」といった歴史の話をしてくれてすごく面白かったんです。とどめに「高橋くんも点字が読めたら暗闇で本が読めるよ」と言われて「めちゃくちゃいいじゃないですか。未来の文字みたいですね!」と話をしたんです。それをきっかけに点字にすごく興味を持ち、どうしたら点字の世界に自分がもっと入っていけるだろうか、と考えはじめました。「もしかしたら点字に線を足してあげると目でも読めるものになるんじゃないか」「そうしたら自分も覚えられるかも」という考えからスタートし、実際に点字と文字を組み合わせて書体をつくっていきました。

 

高橋:最初は、本当にただ自分が読めるように、英語と日本語のバージョンをつくりました。

 

高橋:また偶然ですが、きっかけとなった施設に「書体をつくったんだけど」と持っていったところ、そこで開催されるイベントで使っていただけることになったんです。イベント名を点字で入れ、ロゴをつくらせてもらいました。

 

高橋:触ってもわかるし、見てもわかるロゴです。点字を使われる方が、同伴の目が見える方と話していて「ここに点字でイベントの名前が書いてあるよ」「え、それ私にも読めるよ」みたいな話を楽しそうにされているのを見て、ぼくもすごくうれしかったです。今までは違うものを読んでいたのに、目が見える人と見えない人が共有できるものが1つできたことにすごく感動を覚え、「これを広げられないだろうか」と1年間色々な所にプレゼンに行きました。しかし、全部だめだったんです。プレゼン先も「面白いけどどうしよう?」みたいな感じで、申し訳なくなりぼくも「しんどい」と思ってしまう時期が1年ほどありました。そのタイミングでこの100BANCHと出会い、メンターの市川文子さんに支えてもらいました。

当時、自信を失っていたぼくは「色々な所でプレゼンしたけどうまくいかなかったので絵本を1冊つくって終わろうと思っています」と話したところ、市川さんに「小さくまとまってるんじゃない!」と言われました。そこから、「もっと大きく考えよう」「渋谷でできることに注力しよう」と考えを変え、「渋谷公会堂に実装する」をテーマに掲げ、まずは100BANCHの色々な場所に書体を実装していきました。

 

渋谷区長への即席、30秒間の階段ピッチ

——すっかり自信を失っていた高橋に、予期せぬ変化の瞬間が訪れます。

高橋:その後、100BANCHのイベントで渋谷区長さんがお話をされる機会がありました。その時、市川さんに「せっかくだから話しかけなさい!」と言ってもらい、区長さんの帰り際、階段を降りていくときについていって「すみません。こういうプロジェクトをやっていて…」と、30秒で階段ピッチをしたんです。

すると、「ちょうど区役所を建てているから、ぜひ取り入れさせてください」とお誘いいただいたんです。今では、本当に渋谷区役所の中にこの書体が実装されています。エントランスの説明文やトイレ案内図など実際に使われる点字表示の部分にも使っていただいています。

 

高橋:これを皮切りに、渋谷区ほか、パナソニックセンターへの導入など、色々なプロジェクトに広がっていきました。最初は、「何か共有できるものがあることは素敵だな」とつくりはじめたものでしたが、「自分が面白いと感じた事象が突然現実になった」という体験をすることができました。

 

4人のメンバーとともに挑戦した、未来言語プロジェクト

高橋:同時期に 未来言語 というプロジェクトにも取り組んでいました。日本語の先生で日本語教育のプロジェクトをやられていた永野さん、ろう者で手話を使った脱出ゲームを作られている菊永さん、点字のプロジェクトをやっていたぼく、コピーライターの河カタさん、ヘラルボニーの松田くんが最初のメンバーでした。100BANCHの人に「君たち、コミュニケーションに関する活動をしているんだから、一緒に何かやってみたら?」と提案されたんです。

 

高橋:ミーティングを重ねる中、視覚障害を持つぼくの友人も来てくれたんですが、その人と菊永さんが出会ったとき、どう会話するかけっこう悩んだんですね。これが大きなきっかけになって、「見えない、聞こえない、話せない、そういう状態の人たちは、お互いどういう風にコミュニケーションをするのがベストなんだろう」と考えはじめました。それでスタートしたのが 未来言語 というプロジェクトです。見ない、聞かない、話さない、という条件でコミュニケーションをとってみる。簡単な自己紹介をしてもらったり、しりとりをやってもらったりすごくシンプルなワークショップをはじめました。

 

高橋:触覚で伝えあうのを実際にやってみると、生まれてくる工夫がすごく面白かったんですが、1番の気づきは「言葉は不完全だ」ということでした。ぼくたちは色々なことを言葉でなんとかしようとしますが、意外と伝わりきっていません。その気付きとそれを再構築したいという想いがこのプロジェクトのきっかけです。プロジェクトの中で、「遊びであることはすごく大事で、「楽しい」という気持ちは、新しいコミュニケーションやアイデアを出す時の心のハードルをぐっと下げてくれる」という大きな気づきを得ることができました。

 

「ただ一緒にいる」ことの重要性に気づけたTOUCH PARK

高橋:最後は TOUCH PARK で、これもはやとくんと一緒に作っていて、手すりを使った迷路のような作品です。途中で途切れている箇所があって、そこには必ず変な形のユニットがついています。それをヒントに、ごちゃごちゃした手すりをまっすぐ進んでいくゲームです。「ここはジャンプ台っぽいな」「先に何かあるのかな」と感じながら進めていきます。「触覚で人を誘導することはできるんだろうか」をテーマにつくった作品です。

 

高橋:この TOUCH PARKを、京都の円山公園で展示させてもらったんですが、その風景がすごく印象に残っています。子供の間に大人がはさまって子供に連れていってもらってたり、その間にはやとくんが一緒に入って遊んだりしている、その絵がめちゃくちゃいいなと思ったんです。最初は、共通言語のない人同士を「楽しさ」でつなぐ仕掛けと言っていたんですが、ちょっと違うなという気づきがありました。ただ一緒にいるだけで、触覚にはそういう状況をつくれるパワーがあることにすごく魅力を感じました。「つなぐ」というとすごく能動的に感じますが、「もっとシンプルに一緒にいるだけでいいんじゃないか」と思いはじめたんです。そこで出会ったのが「ONENESS」という言葉です。

「ONENESS」とは、「ともにいる感覚」「一体感」「他者との共有感」を示す言葉ですが、みんなが異なる中でこういった感覚はどこから生まれてくるのか、それが自分の中ですごく大きな問いになりました。コンセプトを「INVENTION FOR ONENESS (接点の発明)」としていますが、一体感を生むには、どうやって、どんなプロダクトをつくればいいか、というところに今はようやくたどり着けた感覚です。

 

プロジェクトの進め方は「川下り」

——3つのプロジェクトについて話し終えた高橋は、100BANCHに入居したことで得た気付きについて話しました。

高橋:ぼくが100BANCHに入って感じたのは、「プロジェクトの進め方は山登りではなく川下りだった」ということ。山登りには頂上という目的地があるからこそ、そこに向かって登っていく感じだと思うんです。しかし、ぼくの場合はシンプルにものづくりが好きで、偶然にも視覚障害者の方の施設に行ってつくりはじめ、だんだん自分の中でこういうのが好きなんだというのが深まっていった感覚で、最初はゴールが見えてない状態からはじまったんです。

ぼくは、ゴールが見えてないとプロジェクトなんてはじめられないと思っていましたが、実はそうじゃありませんでした。

 

高橋:ぼくのプロジェクトは川下りみたいなもので、「なんかここ面白いな」という支流を探していくんです。その流れに沿って歩いていたら、色々な分かれ方をしていて、「こっちも面白そう」「あっちも面白そう」「ここはちょっと違ったかも」と歩いているうちに、地図がだんだんできていって「どれが海に繋がってるんだろう」と考えながら進めていくのが自分なりのやり方だったかもしれません。

実際に、面白そうな川を下っているうちに、こんな思いもよらない場所にたどり着きました。みなさんの中には100BANCHに興味を持って、「何かプロジェクトに入りたい」と考えている方もいるかもしれませんが、「何も決まってない」「何したらいいかわからない」状態のぼくでも大丈夫だったから安心してほしいです。新しいプロジェクトのゴールなんて誰も知らないし、どこに着くかなんてわかりません。わからないからこそとにかくやってみる、それが大切なんだと気づけたことは、ぼくにとってすごく大きな変化だったと思います。

 

ここは、信じてくれる人と出会える場所

高橋:今のぼくは自信ありげに見えるかもしれませんが、実はアイデアに自信がない瞬間も多いです。「これは面白いかも」と思ったアイデアを人に話すのは今でもハードルが高く感じます。でも、100BANCHには信じてくれる人がたくさんいます。ぼくの場合、メンターの市川さんがいらっしゃったし、TOUCH PARK のときは、100BANCHの REPIPE というプロジェクトの和久くんが手伝ってくれて実現できました。

ぼく自身の好奇心は、すごく弱く吹けば飛ぶようなものですが、信じてくれる人と出会ったことですごくいいプロジェクトになりました。100BANCHは、そういう人がたくさんいる場所です。アイデアを一緒に信じてくれる人との出会いが、何よりの財産だと感じます。ぼくも今まだ道の途中で、もしかしたら「接点の発明」というコンセプトも1年後には変わってるかもしれない。でも変化することはすごく楽しいので、みなさんもそれを楽しんでやってみてください。

 

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。聴覚障害者の方も楽しめるように、お話の当日は手話による同時通訳も行われました。

https://youtu.be/UApUJyqONT0?si=uvDiyZckCI-Niw5a

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