楽しさの垣根のない場をつくることで、 障害を生み出さない社会を目指したい
Blined Project
楽しさの垣根のない場をつくることで、 障害を生み出さない社会を目指したい
「遊び」と向き合うプロジェクトが100BANCHには多くあります。面白い・楽しいといった入り口から、本質的な課題の解決や実現したい未来へとつなげていく。そんな、遊びに取り組む100BANCHのプロジェクトたちと、遊びの価値を高める事業を行う株式会社IKUSA代表取締役の赤坂大樹さんをゲストに迎え、ナナナナ祭2023の2日目となる7月8日にトークイベント「一緒に遊ぼう! ──遊びが開く未来のトビラ」を開催しました。
遊びは、どんな未来をつくるのか。本レポートでは当日のトークの数々をお届けします。
登壇者 赤坂大樹 |株式会社IKUSA 代表取締役 合戦事業、運動会事業、謎解き宝探し事業、防災·SDGs事業、フードエンターテインメント事業など複数のあそび事業を擁する“あそび総合カンパニー”をビジョンに掲げ、チームビルディングや地域活性化など企業や地域の課題を解決する60種類以上のサービスを展開。年間1000件以上の研修·イベントを実施。著書に『エンゲージメントを高める あそぶ社員研修のススメ』(幻冬舎)。 浅見幸佑|Blined Projectプロジェクトリーダー/GARAGE Program62期生 今村柚巴|University of Universeプロジェクトリーダー/GARAGE Program47期生 堀口野明|Classroom Adventures MOGURAプロジェクトリーダー/GARAGE Program69期生 則武 里恵|100BANCH発起人/オーガナイザー |
最初に100BANCHオーガナイザーの則武がイベントの趣旨を語りました。
則武:このイベントは100BANCHから見える「13の未来の当たり前」の中の 「人 × 学び」 にインスピレーションを受けて企画しました。100BANCHには、真正面から大真面目に捉えて取り組むというよりも、面白さを大事にしながら、その中から本質的な人のあり方や課題の解決に向かっていこうとするチームが非常に多いです。そんな『遊び』を一生懸命つくりながら、未来の社会に近づいていこうとしているチームのみなさんと、どんな未来をつくっていきたいかを一緒に話していきたいと思います。
「チャンバラ合戦」をはじめ、様々な遊びを手がける、赤坂大樹さん(株式会社IKUSA 代表取締役)は、遊びをテーマにした事業について紹介しました。
赤坂:みなさん、遊ぶことは大好きだと思いますが、仕事としてはなかなか考えにくいところがあるのかなと思っています。私たちは、あそび総合カンパニーといって、遊びの価値を高める仕事をさせていただいています。
企業向けの運動会や研修イベント、チームビルディングなどにも活用できるゲームやイベントをつくってきた赤坂さんですが、コロナ禍で多くのイベントがキャンセルに。そこで新たにオンラインイベントや、困っているお弁当屋さんと組み、リモートワークなどでも活用できるフードビジネスにも事業を広げてきたそうです。
赤坂:元々、私はぜんぜん遊びを知らなくて、会社も最初はデジタルマーケティングの事業をやっていました。チャンバラは、それこそ遊びみたいな感じだったのですが、やっていくうちに逆転して遊びの会社になりました。今は「遊び」を広めることにデジタルマーケティングの力を使う会社になっています。運動会や宝探し、esportsの体験型サービスまで、自社で開発・提案・運営まで行う一気通貫型のサービスを展開しています。
再び、則武が登壇。パナソニックの社内分社で広報・企画の仕事をしているときに、社長から会社の一体感を高めるための運動会の実行、という任務を任された思い出を話しました。
則武:「運動会は嫌だけど、チャンバラだったらやりたいです」という提案が通り、1,000人でのチャンバラ大会を実施しました。自主練をする人が出てきたり、出場希望者が多くて予選会をしなければいけなくなったりする光景に、みんな遊ぶのが大好きなんだなと実感しました。その時の思い出から本気で遊ぶことの可能性に魅せられて、イベントや遊びをつくってきていて、振り返ると100BANCHの企画にも繋がっていると思います。もしかしたら、あの時、チャンバラを1,000人でやった風景が、 ここに連れてきてくれたかもしれないと思っているので、その意味でも今日のイベントは私にとってすごく嬉しいイベントです。
続いて、100BANCHで遊びをテーマに活動している3プロジェクトのメンバーが登壇。それぞれの活動やプロジェクトへの思いについて話しました。
浅見:ぼくたちは、視覚の状態を問わずに一緒に楽しめるものを、もっと社会に生み出していくプロジェクトとして「Blined Project」をはじめました。最近はイベント事業やワークショップ事業の規模が大きくなってきています。
浅見は自分たちが開発したボードゲーム「グラマ」を披露。会場のみなさんにも参加してもらい、ボードゲームの内容を実演しました。
浅見:視覚状態に関わらず、コミュニケーションがとれる遊びの可能性をすごく感じています。今後、ボードゲーム以外にも視覚状態を問わずに、一緒に楽しめる瞬間を生み出していきたいです。
今村:コロナ禍でオンライン授業が流行っていたことをきっかけに「宇宙はすべて私のキャンパスだ」というスローガンのもと、学校以外の瞬間も全て学びの種として「寄り道」の価値を上げる活動をしています。
今村はプロジェクトで開発したWebサイト「人生のターニングポイントマップ」を紹介。自分の人生が変わった瞬間の場所を世界地図に投稿し、他の人の投稿も見ることができるページです。
今村:私は偶然で人生が動き出すと思っているのですが、その偶然性はこの現代社会で、すごく価値が低くなっていると思います。無目的なものの価値が低い現代において、場所や目的にとらわれず、宇宙全部に本能的に飛び込むような人を増やしたいです。
堀口:つまらない学校の授業ではなく、学校を好きになれる教室のようなものがつくれたらいいなという気持ちで「Classroom Adventures」をつくっています。教室でみんなで協力しながら謎を解くゲームのようなものですが、最終的には学びに繋がってることを後から知る体験ができます。
堀口:最終的には、ぼくたちがつくった授業を届けるだけではなく、生徒が自分たちで作った授業をまわりに届けるネットワークをつくることを目指しています。
会場では参加者同士でグループをつくり「夢中になって遊んでいますか」のテーマで意見の交換が行われました。その中で「イベントなどを子どもの遊びとしてしか見てもらえず、なかなか積極的に参加してもらえない場合はどうしたら良いか」という質問から、これをテーマに登壇者でのクロストークがはじまりました。
赤坂:遊びに興味がない人に対してどうするかという問題ですが、すごく本質的だなと思っています。 我々のビジネスモデルはB to B to Cという形で、お客さんが企業で、その先に楽しむ人がいるというパターンです。B to Cだと、こんな問題は起こりませんが、コロナ禍で全国の銀行でオンラインイベントをやらせてもらったときのことです。参加した社員の方々が、本当に遊びに興味がなくて。我々がイベントを始める際、ほとんどのお客さんがもう冷たい感じでしたね。幹事が勝手に決めた、みたいな。そんな空気を変えていくのを楽しむ、そういうモチベーションのメンバーを集めています。つまり、体験に対する火のつけ方をどこまで突き詰められるかということです。チャンバラ合戦のしくみもよくできていて、遊んでいるうちに勝っても負けても楽しくなるようなフローになっています。謎解きをやるにしても、必ずファシリテーターをつけて、楽しむための土台に上がってもらうようにしています。6割が脱出できるように難易度や時間を細かく調整したりして、成功体験と共有体験を大切にしています。MCやファシリテーターなど、イベントに関わる全ての人がプロフェッショナルな動きをしないと、自ら入ってきてくれないお客さんは楽しい気持ちになってくれません。同じ品質で何回繰り返してもできるように、ものすごく訓練をしてから行きます。そういったところが、基本ですけど、大事なのかなと思います。
浅見:お話を伺ってずっと思っていましたが、そもそも遊びとは何か、楽しいとは何か、もう少しそもそもの話もしたいです。 かくれんぼが楽しいから、どうやったら社員にかくれんぼをさせることができるか、という問いは、前提が違うと思うんですよ。かくれんぼは、あくまでツールだと思っていて。遊びは、結局その人が感じる「楽しい」を分解したときに、楽しいを実現できているものがぼくにとっては遊びだと思っています。誰かにとってワクワクすること、楽しめることを実現できるツールを持ち合わせ、その人たちにもっと楽しんでほしい、何かを学んでほしいときに、どうやったら楽しくできるのかを、遊びを混ぜながら体験設計をしていく、 プロダクトをつくっていくという話だと思います。だからこそ、どうやったら社員さんたちに売り込めるかは、その社員さんたちの「楽しい」を分解したうえで、その人たちに合った遊びを設計することが、ぼくらのやるべきことだと思いました。
赤坂:それでいうと、寄り道理論との関係が気になりますね。
今村:浅見くんの言うこともわかるなと感じています。遊びって赤坂さんがつくってらっしゃるようなゲームもありますが、私の中では「全部」なんですよね。生きてる中で、やってることがだいたい遊びになる感じなんです。私、「趣味は何ですか?」と聞かれると、困ることが多いです。DIYも好きだし農業も好きだし、狩猟したり戦争地に行くのも好きですし…
則武:浅見くんは「遊びは楽しいと思う要素を分解して、その楽しいの中にあることが遊びだから、もしかしたら、パッケージで遊びを提供することは遊びに反する考え方」だと思っているのかな。
浅見:そうですね。例えば、防災についてもっとみんなに学んでもらいたい、そのためにみんなが楽しめるような設計をする。それで、実際にみんな楽しみながら防災が学べたら、それは「遊び」だと思います。目的に応じてワクワクを楽しみながらそれをできるようにできればパッケージも遊びになると考えます。しかし、かくれんぼをやってほしいとか、鬼ごっこをやってほしいから、特定のパッケージを会社に売り付けることは、ぼくは遊びと反していると思います。
則武:でも、楽しいを売るというのが遊びで、クリエイトだとしたら?そういうパッケージを売りたいことよりも、B to Bの難しさって、遊んでほしいと思っている人と遊ぶ人が違うことにあるのかなと思います。自分たちが思っている世界を伝えようとか、例えば、グラマをみんなで遊んでほしいとかは思わない?
浅見:その観点で言うと、場面によりますね。視覚障害界隈って、とことん遊びがないんです。保護者の方のアンケートでも子供を外で遊ばせられないから悩んでいるという声があります。だからグラマがいろんなところに届いてほしい思いがあって、盲学校の教員さんが、余暇の時間を一緒に楽しく過ごしたいけど、過ごし方が分からない、だからグラマがほしいと言ってくれるのはすごく嬉しいんです。
則武:うんうん。多分、そういう風に色んな人に使ってほしいと思っていることと、そんな変わらないと思っています。
赤坂:でも、今の話で言ったら、グラマ自体はパッケージじゃないですか?ゲームもまたパッケージなので、何が違うのかな。
浅見:パッケージとは何かという話かもしれません。ぼくの中では、企業や団体が研修などに取り入れる教材のことだと思っています。グラマは教材として使える側面があるので、ワークショップ事業をやったりもしています。でも、「ボードゲーム楽しいからやってください」という売り方だと難しいです。ただ、視覚の状態を問わずに楽しめる瞬間を社会にもっと増やしていくことがぼくらの目的なので、別にボードゲームにはこだわっていません。今後は視覚の状態に関わらずに楽しめるファッションや、映画館、スポーツなど、様々なことを通じて一緒に楽しめる瞬間を生み出していきたいのですが、無理にこれを売らなくてもよくて。
則武:おそらく、そこはみんな同じこと言ってると思いました。遊びをつくることは、楽しいを増やすとか、それによってその先にいいことに出会えたらいいなという気持ちがある。寄り道もだし、MOGURAとかも。授業を面白くしたいんだよね。
堀口:そうですね。ぼくも楽しいものが遊びだと考えています。つまらない科目があった時に、そのつまらないと思ってる気持ちを、楽しい気持ちに変えられると思っているんです。それで、今まですごくつまんないと思っていた数学がすごく楽しくなるような、授業が遊びになるようなものをつくろうと思っています。
浅見:中高生にとっての楽しいを分解していくと、ぼくらが思う楽しいとはけっこう違ったりもするんじゃないかと思っています。中高生がワクワクするためのヒアリングとか、どうやって改良を重ねていますか?
堀口:ターゲットが中高生だとしても、ぼくたちがワクワクするものを詰め込めば中高生も楽しいだろうって思っています。中高生向けにすると彼らは「舐められてるな」って感じると思うんですよ。なので、中高生向けがぼくたちとは違うというのを意識してつくったことはないです。ぼくが楽しいと思ってるものは、彼らも楽しい、と思っています。
浅見:遊びをツールとして、コンテンツをつくるクリエイター側の役割の1つは「楽しい」という感性の違いを、どれだけ分析して、言語化して、分解しながら、それをUIに落とし込めるかだと思っています。 中高生とぼくらの考えがそんなに違わないんじゃないかという仮説をもとに、ぼくらが楽しいと思うことを分解して、はじめていくというのが1つのアプローチだと思いました。例えば、高齢者が感じる楽しいとはけっこう違ったりするんじゃないかと思います。
則武:それは多分、浅見くんが高齢者の面白いと思うことを自分が追体験できないところに課題があるかもしれないね。
浅見:そうですね。ぼくの師匠がいつも言うのは、とにかくインプットしろということです。毎日、新しいことを1つインプットすれば、その分アウトプットするときの質が上がる。自分の感性を磨くとか追体験できるようになることは、日頃のインプットやどれだけそういう人たちと交流できたかなど、ある意味、寄り道がすごく強いところの1つだと思いました。
則武:楽しいものや面白いものをつくるのに苦労している100BANCHのメンバーもたくさんいると思います。そういう時に気を付けてることや心がけていることなどあったら教えてくれませんか。
今村:負の感情って「あるある」を共有しやすいと思うんです。でも、楽しい文脈の「あるある」はすごく細かい分散が多いです。私の場合は、遊びをクリエイトしているというより、プラットフォームをつくる側なので、1人1人がどう楽しかったかよりもとにかく向き合い続けて、どうやったら自分も一緒に面白がれるかを強く考えています。もう1つは、何かを発信する時は、自分自身がすごく楽しいことを心から発信することです。私は元々ブログ活動からはじめています。例えば、農業をやって本当に楽しかったことを、いかに文脈に落とし込むか、まず気を付けている点がそこです。3つ目は、インプットするぞ、とは思わずに、息をするように遊ぶことです。寄り道もその1つで、意図してやっていないレベルの日々の小さなこともどうやったら楽しめるのかと考えて暮らしています。難しいテストがあったとか就活で隣の人が怖かったとか、そういうことをいかに面白がれるように頭を常に働かせることで、いろいろな人がブログやサイトに意見を寄せてくれた時に共感できる幅を広げておくことを私はすごく大切にしています。そして未体験のことであれば、すぐその場所に行ってみますと有言実行する、と決めています。
浅見:1つはインプットだと思います。ゼロから新しいものは生まれてこないと思っているので、意識的にインプットを増やしたいです。もう1つは、 楽しかった、よかっただけで終わらず、ちゃんと分解することに尽きます。ボードゲームカフェに行った時も、なぜこのゲームが面白かったのか、どの瞬間が面白かったか、視覚障害者の人がいたらどうか、そういう話を1つずつ振り返ります。インプットした後にそれをパーツとして、ちゃんと自分のレゴブロックに変えられるかどうかは、その振り返り力に変わっていくし、それが楽しいをつくると思います。
堀口:ぼくも言語化はとても大事だと思っています。一緒にプロジェクトをやっているメンバーは例えば、温泉に入ってるときに、急にその設計の話をしはじめるんです。そういうのを理解した上で雰囲気をつくっているからみんなも楽しいとなっているんだと思っています。もう1つは、情熱です。ぼくは培養肉とか全く知りませんでしたが、(100BANCHの培養肉に関するプロジェクトメンバーが)すごく情熱が伝わる話をしてくれました。何も理解はできていないんですが、これは面白いと、それだけは理解できたんですよ。それって多分どんなプロジェクトでも同じで、自分がどれだけ好きなのか、情熱や気持ちを伝えるのが面白さに繋がっていると思います。
赤坂:ぼくはクリエイターとして自分を見たことがないことが、この 3名と大きく違うのかなと思います。遊びって3パターンあると考えていて、1つは自分が楽しみたい場合の遊び。もう1つは目の前にいるあなたを楽しませたい時の遊び。最後は、多くの人に届けたい時の遊びです。遊びって、そもそも自分でルールを考えている人が1番面白いものなんですよ。 だから全員クリエイターを目指すんですね。すると、遊びの大好きな人がつくった会社はプロダクトアウトの会社になります。そして遊びは基本的にローカルルールが1番面白いです。だから、私とあなたが一緒にルールを考えたら2人とも楽しくなります。ケイドロって地域ごとにルールが違いますよね。小さい子がいるときのケイドロと同い年の子の間でやるときにケイドロのルールを変えますよね。 それが1番楽しいんですよ。でも、より多くの人に届けるためには、ルールはシンプルじゃないといけない。そして、絶対に儲けないといけません。これが、遊びをテーマにして生きていきたい人たちの最大の課題であり、本当に乗り越えるべきテーマだと思っています。ここにすごくジレンマがあり、クリエイティブとセールスの狭間があります。うちの場合、セールスで何をKPIにしているかというと、遊ぶ人をいかに増やしたかということです。「あなたたちは遊びを増やす人達です、100人より1万人に遊びを届けることで価値を高めなさい」と言っています。クリエイターには「天才であることが当たり前の仕事です、あなたたちがつくる遊びがつまらなければ、それを届ける人たちは誇りを持って売れません」と言っています。そして、やっぱり海外でもやりたいですが、日本の遊びは諸外国と比べると全体的に安いですよね。2,000円で2時間で映画館よりも安い費用で遊べても、SNSですごく文句を言われるような風土があります。そこをどうするかが今後の課題です。日本は本当にエンタメ大国で、みんな遊びが好きなはずなので、みんなの力でポジティブなものに変えていきたいし、遊びに行く側も変わらないといけないのかな、とも思っています。
途中、会場の皆さんにも「夢中になって遊んでいますか?」という問いが投げかけられ、数人のグループで話をしてもらうなど、会場全体で遊びが開く可能性、夢中になって遊んだ先の未来について、考えた時間となりました。