• イベントレポート

獅子舞から見据える都市の未来「都市と祭りとコミュニティー」─ナナナナ祭2023アーカイブ

「祭り」は地域コミュニティの結びつきを強め、伝統文化を継承する役割を持っていました。しかし、高齢化が進み担い手である若者が少なくなってしまった現在、その伝統が失われつつあります。100BANCHのお祭りである「ナナナナ祭」では、「100BANCHの獅子舞」が登場。全国をたずね歩き獅子舞を取材し、様々な土地で獅子舞を舞う「SHISHIMAI habitat city」プロジェクトの稲村行真がその発起人です。

地域において、厄を払い、人々の願いや祈りを受け止めてきた獅子舞。そんな獅子舞が「渋谷」という都市空間に出現したとき、どんなことが起こるのでしょうか。聞き手に、東京・京都・アムステルダムに活動拠点を持つ都市体験のデザインスタジオ「for Cities」の石川由佳子さんと杉田真理子さんを迎え、それぞれの活動紹介をもとに「獅子舞」をひとつの切り口として、都市と祭りとコミュニティの未来について語り合いました。

登壇者

石川由佳子|for Cities/代表理事

杉田真理子|for Cities/代表理事

一般社団法人for Cities は、東京・京都に活動拠点を持つ都市体験のデザインスタジオです。国内外の、建築やまちづくり分野でのリサーチや企画・編集、教育プログラムの開発まで、国や分野を超えて「都市」の日常を豊かにすることを目指して活動しています。都市に関わるプロジェクトや実践者を収集するプラットフォーム「forcities.org」を通した国内外のアーバニストたちとのネットワークを活かし、これまでに、これからの都市を考えるうえで必要なスキルを学ぶ学びの場「Urbanist School」や展覧会「for Cities Week」を東京・ナイロビ・カイロ・ホーチミンなど国内外の都市で実施。若手の人材育成や、これからの持続可能な都市づくりの提案を地域に入り込みながら実践しています。

稲村行真|獅子舞研究家/SHISHIMAI habitat cityプロジェクトリーダー/GARAGE Program59期生

 

「獅子舞」でこれからのまちのあり方を考える「SHISHIMAI habitat city」プロジェクト

稲村:僕は新しい暮らしを考えるひとつの視点として「獅子舞」を捉え、これまでに日本全国500か所以上で取材をしてきました。もともと博物館が好きで、全国を回っていた時に獅子頭をじっと見てしまっていたのですが、そこから、神社や公民館で獅子舞を見せてもらって、作り人や担い手の人に話を聞いて、ブログにアップしてリサーチするようになりました。

休日は全国のどこかに行って獅子舞をみる日々を送っていたのですが、コロナ禍になって、全国に取材に行くことができなくなりました。そんな時に色々な街を歩きながら、次第に「この街ではこんな獅子舞が生まれるんじゃないか」と想像するようになりました。「この妄想を形にしたい」と考え、2022年の1月に「獅子の歯ブラシ」という獅子舞ユニットを結成しました。その土地の素材を使って、舞い方を想像しながら、色んな場所で獅子舞を作って舞っています。

稲村:東京の渋谷109の前でも獅子を舞いました。でも開始して10秒くらいで警備員に止められて「ハチ公なら舞っていいよ」と言われ、ハチ公前の広場に向かいました。渋谷は時間や空間の余白が少なくて、獅子舞が最も生息しにくい場所だと思うんです。だから修行しようと思って、渋谷にある100BANCHに応募して「獅子舞生息可能性都市」という本も作らせてもらいました。

今回のナナナナ祭では「100BANCHの獅子舞」を作ります。伝統的な獅子舞のような地域だけじゃなく、コミュニティにも獅子舞が生まれると考えたときに、100BANCHの獅子舞は「共同体の内と外の人を繋げて、人の流れを作る存在」だと思ったんです。懸垂幕を使った巨大な獅子舞を作り、沢山の人がその獅子舞に入ってきて、100BANCHから渋谷のストリームまで歩くことで人の流れを作る。100BANCHの他のプロジェクトの素材を提供してもらって獅子舞に貼り付けることによって、アナログな広告にもなる。そんなプロジェクトです。

 

都市を見る視点をずらすと、新たな価値が見えてくる

石川:都市体験のデザインスタジオ「for Cities」では自分たちの手で街をつくるための様々なプログラムを行っています。都市を自分の手でつくる「アーバニスト」が事例を持ち寄る「for Cities.org」というオンライン上のプラットフォームをつくったり、「都市と五感」をテーマにした学びの場「アーバニストスクール」や、都市を普段とは違う視点で見られるような「アーバニストキット」をつくって芸術祭に参加したりしています。

東京、京都、カイロ、ベトナムのホーチミンで行われた展覧会「フォーシティーズウィーク」では、都市に1ヶ月滞在し、リサーチ結果を展覧会としてまとめます。地域に斜めから光を当てることで、これまで見えなかった新しい価値が見えてくる。そのために、視点をずらして都市の見方を変えるアプローチを様々な形で行っています。

そのほか、山梨県の富士吉田市では、「アニマルスケールシティ」というプログラムをつくりました。神社のやぶさめの馬と一緒にまちを歩き、彼らが行きたい道や居場所になるエリアをリサーチしてマップにまとめました。直角の道じゃなくて、川沿いの道や緩やかにカーブする道が好きだったり、以外な場所に餌場があったり、人間だけでは見逃してしまうまちの要素に光が当たりました。京都の丸山公園では、匂いを採集するツアーをして、データ化することで、視覚的情報だけでは見えてこない魅力に光を当てるプログラムも行いました。

杉田:兵庫県永田区で行った「視点ウォーク」では、真ん中が空いている枠をつくって、その枠からみた色んな人の都市を見る視点を切り取ることをやってみました。参加してくれたアメリカから来たアーティストは妖怪が大好きで、まちなかで妖怪がいそうなスポットを探し回っていました。いま私は、南フランスのマルセイユにいるのですが、バーレーパークという市民の反対活動で開発から守られた公園でカーニバルが開催されています。このお祭りでは、みんなで段ボールでつく作った大きな人形を叩いて、デモのように市政に対する抗議や要求の主張を掲げて街を歩くのんです。市民のシビックプライドと祭りが密にリンクしていて、こういったお祭りができる余白がある街は素敵だなと思います。

これからの都市空間を考えるときに、稲村さんの獅子舞のように、自分だけのとっておきの視点があると、これまで見えなかったものが見えてきますよね。そういった視点で本日もディスカッションしたいと思います。

 

「渋谷」にはどんな獅子舞が似合う?

もし都市で獅子舞を生息させるとしたら、どんな獅子舞になるのか。獅子舞が生息しづらい都市である「渋谷」を舞台に、クロストークでは熱い議論が交わされました。

稲村:獅子舞が生息できる街とそうでない街があるんです。獅子舞は大きいので、空間的な余白があること。獅子舞を舞う時間の余白が地域の人にあること。地域の人が支援して立派な獅子舞がある地域もあるので、各家庭に経済的な余剰があること。共同体が存在していること。獅子舞という来訪者を受け入れないと成り立たないので、他者に対する寛容性も必要です。

渋谷は企業はあるけど、昔からのご近所付き合いは少ないし、まちを歩いている人たちも他者に対する寛容性も低い感じがして、当てはまるものが少ない。この渋谷で、獅子舞どう生息していくかを考えてみたいです。

石川:獅子舞が願いとか祈りを捧げる役割として人が集う共同体を作っていたのなら、人が通り過ぎていく渋谷では、形のない祈りや共通の願いをどう作るかがポイントだと思いました。渋谷らしい獅子舞の体験を考えても面白いですよね。マルセイユのお祭りは、地域への不満を発散する役割として求心力を持っている。そういう関わり方のデザインを考えることで、渋谷でも求心力を持つ獅子舞祭りが作れるかもしれない。

稲村:たしかに。伝統的な獅子舞の世界では、担い手の人が必ずしも熱い思いを持っているわけではないんです。求心力がある参加のデザインを考えることは必要な気がしますね。

石川:一方で、渋谷のハロウィンや盆踊りや神輿(みこし)って稀に見る盛り上がりの祭りですよね。私も渋谷の神輿に参加したことあるんですけど、全国から担ぎ手が来て、地域に関係ない人もみんなで一緒に担ぐ。伝統や地域の文脈には繫がっていないけど、むしろ地域を超えた求心力が渋谷にはある。獅子舞がその可能性を増幅する可能性はあると思います。

 

獅子舞がいなくなっていることは、都市のアラートかもしれない

稲村:獅子舞が地域に生息していることのメリットってたくさんあるんですよ。獅子舞は家庭を回るので、地域の見回り機能になったり、地域の獅子舞を引き継ぐことでシビックプライドにも繋がる。獅子舞を通して知り合ったきっかけで、都会から若者が戻ってきたりUターンのきっかけになるかもしれない。獅子舞は祈りや願いを受け止める存在なので、生活に祈りをもたらします。うまく機能すれば生活者のインフラにだってなり得ます。でも、獅子舞はどんどん減っている。原因のひとつは人口減少です。一定数の若者がいないと担い手が足りなくて、獅子舞ができなくなります。

石川:稲村さんの話を聞いていると、獅子舞の生息条件は、地域で生きていくためのセーフティーネットとほぼ同じですよね。獅子舞が都市の中でどんどん失われているということは、一種のアラートなのかもしれないですね。稲村くんはそのことを感じ取って、ある意味「危機のメタファー」として獅子舞を見ているのかもしれないと思いました。

稲村:昔は渋谷にも狸がそこら辺にいたかもしれないですよね。野生動物の住処が失われていることと、獅子舞がいなくなっていることは、同義なのかもしれない。環境問題のアラートでもあり、加密都市の東京へのアラートと言えるのかもしれないですよね。

杉田:渋谷で獅子舞を舞ったときに、警備員の方から「ハチ公前なら舞っていいよ」と言われたことが面白いと思いました。獅子舞が現代社会の危機として考えるなら、獅子舞が舞えるような余白のあるハチ公前広場的存在が街から減っている状況は怖いと思うんです。マルセイユのお祭りは、なかなか使えない場所で、普段言えないことや、できないことができて、普段の自分ではない誰かになれる。そういった状況を許容するための広場的存在を都市の中でどう守るのかも大事なことだと思います。

 

獅子舞は、生活に「祈り」をインストールする媒介

トークの後半では、会場からの質問やアイデアが飛び交いました。それは私たちが都市の中で知らず知らずのうちに失ってしまったものを「獅子舞」という視点を通して、考える時間でもあった。

質問①:獅子舞が都市から消えていくのは科学技術が発展して、色々なことが解明されることを通して、わからないことや、人々がおそれる存在がなくなっていったことにも現れているのかなと感じました。獅子舞を生息させるのは、都市におそれられる存在を召喚することにもなり得るのかもしれないですね。

稲村:獅子頭を神の使いと呼ぶ場合もあるんです。神社の御祭神のように獅子舞が厄を払う存在である地域もあれば、獅子頭自体を御神体として祀る神社もある。東北では獅子頭が祠に収まっている地域もあります。猟師さんが獲物を弔う意味が転換した先に獅子頭ができたんじゃないかと思っています。今は食肉加工の過程は見えざるものになって、祈りとか恐れを直接感じることが難しい。獅子舞はそういう祈りやおそれを我々に思い起こさせてくれる存在だと思います。

質問②:都市のオフィスビルの裏側のビルとビルの隙間は人が入れなくて、おそれを感じる時があります。そういった場所に対しても、獅子舞の場所の可能性を感じたりしますか?

稲村:たしかに、裏路地は魔物が住んでいそうですよね。そういう場所で事件が起きたり、痴漢が発生しやすい。獅子舞が舞うことで、明るい場所に変えられる可能性はあります。あとは人があまり通らない場所って、電気やガスのインフラの線が通っていると思いますが、都市の人にとっての生命線ですよね。地方の人は、五穀豊穣という収穫の感謝を祈る。都市の人はインフラに対して生命を感じて祈りを捧げる舞ができるかもしれない。

石川:それめっちゃ面白い!たしかにインフラが止まったら、都市では生きていけない。自分の命を成り立たせている要素に対しての感謝とか対話をするってことですね。そんな話まで広がるとは思いませんでした。獅子舞ってすごい。

その後も、AIとしてインターネット上でコミュニケーションを促進させる存在としての獅子舞や、ドローンを使って、渋谷の余白である川を渡っていく獅子舞の舞うアイデア、歩行者天国のように色んな願いを込められた獅子舞が路上に集う「獅子舞天国」など、会場からは現代に獅子舞を生息させるための豊かなアイデアが寄せられました。

最後に「for Cities」の杉田さんから「獅子舞を考えることは、西洋とは違う軸で、私たちが暮らすこの日本やアジアという場所の土地や大地の在り方を捉え直すことであるかもしれない」というコメントも。「獅子舞」の視点から都市やコミュニティを考えることで、違った未来を想像することができるかもしれません。

 

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