• イベントレポート

社会を自分ごとにする「対話のデザイン」。実験報告会メンタートーク:米田惠美さん(米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表)

これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。

2022年3月の実験報告会には、メンタートークに米田公認会計士事務所 代表/一般社団法人エヌワン 代表の米田惠美さんが登壇。会計士という立場から何故Jリーグに関わるようになったのか、現在の活動やその思いを語りました。

会計士から在宅診療を経てJリーグと出会う

大学3年生の時に新米会計士としてキャリアをスタートした米田さん。会計士として9年監査法人で勤めた後に独立して人材開発・組織開発の会社を設立、保育士の資格を取得して在宅診療所も立ち上げ、診療所では末期のがん患者さんの看取りも行いました。その後、様々な活動を通してJリーグとの出会いにつながります。

米田さんのプロフィール

慶應義塾大学在学中の2004年に公認会計士の資格を取得。大手監査法人(EY)勤務を経て2013年に独立。Jリーグでは社会課題を共通テーマにした官/民/スポーツの連携を推進する「シャレン!」を立ち上げ、経営改革を推進。Jリーグ理事退任後もスポーツを使った社会課題解決の取り組みを多く扱う。現在はソーシャル・スポーツ・パブリック・ビジネスなど多様なセクターのリーダーのパートナーとして挑戦中。

米田さんが会計士への進路を決めたのは高校2年生のこと。当時は「女性の働きにくさ」が話題になっており、「なぜ『女性は働きにくい』と言われるんだろう。お金の流れが分かれば世の中の構造が分かるかもしれない」という発想から、会計士を目指すことになりました。

その後会計士として働くうち、粉飾決算や組織風土という問題にぶつかった米田さんは、「会計や戦略だけでは人の問題にアプローチできない」と大手の監査法人を退職。「社会の役に立ちたい」という言葉を自分ごとにするために福祉の資格を取り、在宅診療所で働き始めました。

しかしそこでも米田さんは日雇い労働の方々や精神疾患の患者さんとも出会い、彼らの環境や背景を知らずに生きてきたことの無知さに気づくとともに、彼らの前では会計士という資格は何も役に立たないことに気付かされ呆然としたそうです。

米田:彼らと出会ったことで「社会において自分にできることは何だろう?」と自問自答した結果、世の中に無関心から関心を持つこと。自分で動いてやってみようと思う人が一人でも増えていけば世の中が向上していくのではないか、それなら人材開発・組織開発にも触れていた自分がアプローチできるのではと思いました。そんな時に出会ったのがJリーグです。

 

社会的ミッションの理念を持ったJリーグ

最初はJリーグを「サッカーの団体だ」と思っていた米田さんですが、Jリーグに関わるにつれてJリーグがただのスポーツ団体ではない、ということを知ります。

米田:私はJリーグを「社会的ミッション」「競技的ミッション」「事業的ミッション」というミッションを持ったトリプルミッションの組織だと認識しています。ただサッカーをするだけではなく社会をより良くするミッションも背負いながら、同時に競技の水準を上げていき、事業としても成立しなければいけない。これはとても難易度が高く、それぞれの価値観をうまくマネージしないといけないのでとても大変です。

社会性ミッションを担う具体例として米田さんが挙げたのが、地域に愛されるクラブとなるための「ホームタウン」という活動。福島の被災した子供たちのマーチングバンドの発表をアウェーのスタジアムでしてもらう復興支援や、障害者の就労体験の場としてスタジアムを提供、さらには地域の介護予防や防災にも貢献するなど様々な活動を行っています。

米田:Jリーグの理念には「国民の心身の健全な発達への寄与」という文言もあり、Jリーグの規約では「ホームタウン活動をしなければならない」と義務化されています。ホームタウン活動を一回もやってないクラブはアウトしてもらうくらい、意志を持ってきてやってきた活動です。

 

Jリーグの力を活かした社会連携活動「シャレン!」

Jリーグとの出会いによって、スポーツがポジティブな形で社会課題にリーチすることができる「わくわくしながら参加していたらいつのまにか社会課題解決にも寄与していた」ということが起きている凄さに気づいた米田さん。「この活動の質を高めたい」「届ける人をもっと増やさなければいけない」と立ち上げたのが、Jリーグの社会連携活動「シャレン!」です。

シャレン!は、「Jリーグのチカラで地域をより良くする」をテーマに、社会課題や共通のテーマ (教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など)に、地域の人・企業や団体(営利・非営利問わず)・自治体・学校などとJリーグ・Jクラブが連携して、取り組む活動です。

米田:こういう活動は「意識高い系」と言われてしまいがちなのですが、「『(意識が高くて)私には関係ない』とならないようにする」というのが私の大切なポリシーで、シャレン!も当事者を増やすことを重視しました。具体的には誰かを応援したいと思った時に、私にはできない、と諦めずに「とりあえずJリーグに相談しよう」という気軽に一歩を踏み出す装置を作りたいと思ってつけたキャッチフレーズが「Jリーグをつかおう!」です。

このキャッチフレーズは、関係者から「Jリーグが何かに利用されるんじゃないの」と怒られたとのこと。しかし、あえて「つかおう!」という言葉を使うことで「Jリーグをつかうってどういうこと?」とざわざわする感を作り、ハードルを下げるという狙いがあったそうです。

米田:地域のテーマに対してJリーグのアセットを使ってマイプロジェクトを作ってください、という投げかけが「Jリーグを使おう!」だったんです。Jリーグは実績があるので信頼性がある。企業も1クラブあたり何百社もつながっていたりするので上手く使おうよ、各種ノウハウを地域に還元しようよと提案しました。また、スタジアムというハレの場は、何万人も集まる実証実験の場としても使い勝手が良いので使ってくださいな、ということも言っていました。

 

「街への愛着、誇り、生きがいが生まれること」をJリーグでデザイン

この動画は日本初のセンサリールームの取り組みで、発達障害で感覚過敏などの理由でサッカー観戦が難しいお子さんやご家族のために、サッカーを楽しむことができる環境作りにトライした時のものです。関係者によればかなり大変なプロジェクトだったものの、「シャレン!の代表とも言えるプロジェクトだね」と言われていたそうです。

シャレン!やってる! ~えがお共創プロジェクト スポーツ×ユニバーサルツーリズム(川崎フロンターレ)~

米田:私がJリーグでずっとデザインしたかったのは、街への愛着、誇り、生きがいが生まれるということ。先ほどのプロジェクトでも参加された方がすごくいい笑顔になってくれたり、翌日から病院通いがなくなりました、という人生が変わるような体験を教えてくれました。街に「当事者」が増えていくこと自体が共生社会の実現に向けた一歩になり、街からすれば行政コストの削減にも繋がることがあると思っていて、こういう循環をうまく作りたいなというのが私の根底にあるデザインの発想です。

シャレン!はメディアに多く取り上げられましたが、その裏ではかなりの時間を使って中計・人事・財務・ガバナンスなど「血だらけの改革」を行っていた米田さん。

米田:組織の変革は傷だらけになる覚悟が必要になります。嫌な思いをする一方で嫌な思いをした分だけ、人に優しくなれるので私はいい経験をしたなと思っています。マイノリティである経験をすることも大事で、これがまた人生を生きる上での次の問いになってくると思っています。この経験を活かして次は何をしようかと考えています。

 

あらゆる分野の分断を対立構造にならないように翻訳していく

米田:今考えていることは、パブリックセクターを含む様々な組織がガバナンス不全になっていると感じていて、こういった歪みを整える仕事は引き続きやっていきたいと思っています。また、あちこちで分断が起きているので、対立構造に陥らないようにしっかりと翻訳していく役割の人が必要だよねと思っています。そして、金融資本主義が行き過ぎてしまうと格差が広がってしまう側面もあったり、本来価値があるのにそこにお金が流れないことが起きてしまっているので、会計士の宿命としてそのジレンマに挑戦していくことも考えています。

米田さんが一例として挙げたのは、自治体や病院が持つ情報の非対称性。うまく翻訳できていないことで不利益を被っている領域がまだまだあるので、財務、非財務のブリッジをする、現場とルールメーカーのブリッジをする、色んなセクターがちゃんと繋がって連携することで別のインパクトが出すといった、触媒的な役割として活動していくそうです。

米田:私がずっとやっているのは対話のデザイン。分断が進めば進むほど、非効率になったり、コロナでも象徴されるように取り残される人たちがいます。そういったことが無い状態を早めに作っておくことが重要で、「私にはできない」ではなく「私にもできるかもしれない」と思ってもらうための装置として、仲間や学びの場だったり、実践の場を作っていくというチャレンジをしています。

最後に「シャレン!」のロゴとバリューを紹介した米田さんは、「このLOVE&CRAZYという言葉には溢れる情熱やはみ出してもいいよ!ちょっとくらいクレイジーでもいいよね、という意味がこめられています。こういった活動に関わる人達向けに、挫けそうになることもあるけど、燃えてるハートを胸に勇気を出してがんばろうという意味を込めたんです」と話します。

米田:みなさんも起業されたりしているので、色んな壁にぶつかると思います。もし壁にぶつかったら私のような変人もなんとか生きてたよということ、もしくはこのLOVE&CRAZYのことを思い出していただきながら、場所は違えど皆さんと同じ時代を生きる仲間として、一緒に頑張っていけたら嬉しいなと思っています。

 

(撮影:鈴木 渉)

 

GARAGE Programの成果報告ピッチレポートはこちら

<次回実験報告会>

100年先の未来を描く5プロジェクトがピッチ!

5月実験報告会&メンタートーク:高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)パートナー/Chief Strategy Officer)

日時:2022年5月26日(木) 19:00〜21:00

無料 定員100名

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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

https://100banch2022-05.peatix.com
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストはグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP) パートナー、Chief Strategy Officerの高宮慎一さんです!

【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・Garage Programへの応募を検討されている方

【概要】
 日程:5/26(木)
 時間:19:00〜21:00
 参加費:無料
 参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介

19:15〜20:00:メンタートーク
・高宮慎一(グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP) パートナー、Chief Strategy Officer)

20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評

登壇プロジェクト(現役)

farmatería:雑談からはじまる“対話”と“つながり”の医療を『日常』へ

Post-Graffiti:落書きを犯罪として無視するのでなく、その魅力を体験し、街の見方を変える

DELIVERY DRAWING PROJECT:ギグエコノミーの実態と私たちが生きる社会に、美術作品を通じて問いを投げかける

登壇プロジェクト(延長)

STREET ART LINE PROJECT:アートでつなぐ、視覚障碍者の新たな道。

MOCK-PLAMO:プラモの様に手軽に、楽しく、カスタマイズできる国産木製家具キットをつくりたい

20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING

【メンター情報】

高宮 慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP) パートナー、Chief Strategy Officer

プロフィール
GCPではコンシューマ、ヘルスケア領域への投資担当。Forbes 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード大学MBA。投資先には、メルカリ、アイスタイル、ナナピ、ランサーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アルなどがある。

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2月入居の募集期間

11/26 Tue - 12/23 Mon

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