• イベントレポート

渋谷の路上に、現代サーカスは根付くか──ナナナナ祭2026を終えて

渋谷を舞台にしたコンテンポラリーサーカスプロジェクト「City Stories Circus」。渋谷に眠る歴史や文化を演出に組み込んだ、没入型現代サーカスショーの創出に取り組んでいます。ナナナナ祭2026では、100BANCH前の渋谷リバーストリートにて公演を実施しました。3日間・1日2回公演で、およそ335人の方にご来場いただいた模様を、City Stories Circusの浅瀬石柚乃が振り返ります。

はじめに

「現代サーカス」という言葉は、日本ではまだほとんど知られていません。けれど、身体表現と街という、誰にでも開かれた2つの要素を掛け合わせれば、その街に住んでいる人も、通りすがりの人も、一緒に楽しめる場がつくれるのではないか。City Stories Circusは、その仮説から始まったプロジェクトです。

今回のナナナナ祭2026では、渋谷の歴史や文化をリサーチしたうえで、現代サーカスというかたちに翻訳し、渋谷リバーストリートで実際に上演するという、初めての実証実験を行いました。

ここまでの道のり

2021年夏、旅を始めたことがすべての出発点でした。2022年夏、カナダのモントリオールで、現代サーカスによって人と街の両方が活気づく光景に出会い、「これを渋谷でやりたい」という構想が生まれました。

そこから2022年〜2024年にかけて、地方の村や町へ企画書を持ち込んでは、白紙になる、進まない、断念する、を繰り返しました。2024年冬に福島の会津坂下でアート×イベントの機会をいただき、2025年秋には「りんご祭り」をプロデュース。ただしこのときは予算の都合で、現代サーカスの上演そのものは実現できませんでした。

2026年春、100BANCHに入居。そして同年夏、ナナナナ祭にて「渋谷×現代サーカス」を、ようやく形にすることができました。旅を始めて5年、現代サーカスに出会って4年。何度も挫折を繰り返した企画の先に、この3日間がありました。

 

本番までにやったこと

100BANCH入居から本番まで、実働はおよそ2ヶ月。入居メンバーは私ひとりで、平日は会社員として働きながらの並走でした。企画の練り直し、演出家・パフォーマー・美術家へのオファー、渋谷のスポットのヒアリングリサーチ、クラウドファンディング、ワークショップの開催、リハーサル、集客・広報、そして本番3日間の運営などなど。

 

渋谷のリサーチ

演出家さんと美術家さんとともに、「金王八幡宮」の宮司さん、「北谷公園」の管理人さん、「のんべい横丁」の広報さんを訪ね、渋谷の歴史や文化についてお話を伺いました。ここで聞いた話が、のちの演出やワークショップの内容に反映されています。

 

クラウドファンディング

プロフェッショナルにオファーした以上、資金も必要になります。目標40万円のクラウドファンディングを本番の1ヶ月前に開始しましたが、「現代サーカス」自体の認知度が低く、知人ひとりひとりに想いを説明して奔走する日々が続きました。

https://motion-gallery.net/projects/city_stories_circus

 

ワークショップの開催

「アートで渋谷を表現する」ワークショップでは、金王八幡宮や桜坂のマンホールや塀の凹凸を、参加者と一緒に粘土で写し取りました。開催前日に台風の直撃が判明し、急遽延期。半数以上の参加者が延期日には来られませんでしたが、集客をやり直し、無事に開催しました。

 

リハーサル

リハーサルでは、「渋谷の文化を現代サーカスで表現してほしい」「分かりやすいものにしてほしい」という私からのリクエストと、「分からなくても、最終的に感じ取れるものであってほしい」という演出家さん・パフォーマーさんの表現意図とのすり合わせを重ねました。最終的には、身体表現だけでなく音声も取り入れる形に着地。

 

本番3日間

会場は、渋谷川沿いの渋谷リバーストリート。公演時間は各回約20分で、7月10日〜12日の3日間、1日2回上演しました。

演目のタイトルは「あの日、いたかもしれない」。谷底に電車が着いたあの日、焼け野原に灯りがともったあの日、ハチ公前で待ち合わせたあの日——渋谷に積み重なってきた「いたかもしれない誰か」を、ジャグリングとコンテンポラリーな身体表現で立ち上げる作品です。出演は目黒陽介さん(ながめくらしつ)と安岡あこさん、構成・詩作を野宮有姫さん、スピーカー・誘導を奥村優子さんが担当し、私は運営管理として全体を回っていました。物語を言葉で説明するのではなく、身体と音、そしてストリートという場所そのものを使って、渋谷の「見えない記憶」を浮かび上がらせる、移動型のパフォーマンスです。

会場では、パフォーマンスと並行して、美術家の西尾佳那さんと共に事前に行った拓本ワークショップで参加者が採集した「まちのかけら」も展示しました。金王八幡宮や桜坂で採取したマンホールや塀の凹凸の拓本が並び、来場者はパフォーマンスを観る前後に、この展示にも触れることができる構成です。「その時、ないかもしれない」というテーマのもと、身体表現とアート展示のふたつの入り口から、渋谷という街に向き合ってもらう場をつくりました。

3日間、天候にだけは恵まれ、雨は一度も降りませんでしたが、その代わりに続いた猛暑のなか、ボランティアの美大生やクリエイターメンバーにはこまめに休憩を取ってもらい、パフォーマーさんには近くの楽屋で準備をしていただきました。初日から1回あたり30〜40名、3日間で合計約200名の方に観劇いただき、大きな怪我もなく無事に終えることができました。

 

来場者の声

公演後、感想フォームにたくさんの言葉を寄せていただきました。

「身体表現と音響のセリフがとても合っていたので感動した」「渋谷の発展はすごいけど、過去を忘れたくないと思った」など、渋谷という街への見方が変わったという声を多くいただきました。「アートを通してこの街のことを知れるとは思っていなかった」という感想も印象的でした。

「石を引きずって運ぶところ。場所に合わせて作っているのが良かった」「遠くの過去にもこの地で息づいて生活している人がいるのかと空想した」というように、目の前の場所と見えない歴史が重なる瞬間を受け取っていただけたようです。

一方で、「閉ざされた空間で見たかったかも」「よくわからない感情も残った」という声もありました。ある方は「新しいサーカスだからこそ、色々悩むことはあるかもだけど、挑戦応援してます」と書いてくださいました。「作風を考えると夜に公演で光を使った演出も見てみたい」「事前告知での期待値コントロールもファンを増やすのに大事だと思う」といった、次に向けた具体的な提案もいただいています。

 

実験完遂後の課題

今回もっとも検証したかったのは、「渋谷の文化を、多くの人が観やすいパフォーマンスとアートで表現できるか」ということでした。結果として、この検証はできたと感じています。現代サーカスの公演を完遂できたことで、人とのつながりも増え、改善点も具体的に見えてきました。

一方で、想像と異なった点もありました。自分の理想の公演にするには、演者さんや演出家さんとの話し合いやすり合わせをもっと早い段階から慎重に詰めるべきだったと感じています。街の文化を、老若男女にとってもっと魅力的で伝わりやすい、ワクワクする形に翻訳していくことも、引き続きの課題です。

 

これから

City Stories Circusは、まだ「興行」とは呼べない、小さな規模の取り組みです。それでも、「パフォーマンス」や「アート」によって街が活気づくという可能性には、確かな手応えを感じています。

渋谷でのフェスに参画させていただけるところがあれば、ぜひお声かけください。渋谷でフェスを主催されている方、場所を持っている方、そして現代サーカスを面白がってくださる方とも、これから一緒に活動の場を広げていきたいと考えています。よろしくお願いいたします。

連絡先

 Instagram
https://www.instagram.com/yu_zu00ry/

メール
yuzu@creativeprod.jp

 

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