こんにちは、いわかん

日常の些細な違和感を問いに変え、考えることの面白さを再発見するプロジェクト「TOIMOCHI」(全人類問い持ちプロジェクト)。目的や社会的意義に縛られず、純粋に問いを面白がるプログラムを試行錯誤しながら提供しています。
ナナナナ祭2026では、《街のオーディオガイド》を体験できるプログラム「こんにちは、いわかん」を実施。日常の風景を様々な角度から見つめることで、人と都市の新たな関わり方が生まれるのではないか。そんな実験の様子を、TOIMOCHIの岸ふみ・佐藤もとが振り返ります。
この取り組みは「都市で暮らす人たちが、日常をよく見る、よく聞くにはどうしたらいいか?」というシンプルな問いから始まりました。
オーディオガイドとは、美術館などで展示物の解説を音声で聞けるツール。解説によってその作品の見え方がかわるのなら、日常の風景にも同じ効果が起きるのではないか?という仮説から、都市に暮らす人々と一緒にオーディオガイドを作ってみました。

街のオーディオガイドというと、有名観光地や歴史的建造物についての観光案内が一般的ですが、《こんにちは、いわかん》のオーディオガイドは全く違います。

これは、別の「誰か」が「どんな違和感を」「どう感覚したか」が音声で入っています。音声を聞きながら同じ場所を歩き、話し手の視線や行動を追体験することで、都市との関わり方を再発見するためのいわば補助器具です。
今回のナナナナ祭では、3ヶ月間をかけて計16名の人たちと6回のワークショップで作られた26個のオーディオガイドを体験することができます。

私たち全人類問い持ちプロジェクトは、「問いたがる身体感覚を取り戻す」を合言葉に、仕掛けや空間を作ることをしています。「問いたがる身体感覚」とはつまり、予測不可能なことに身を置いて、その分からなさを問い続けようとする時に生まれる感覚のことです。

その一歩目として、自身の身の回りを「よく見る、よく聞く、よく関わる」ことが必要だと考えているのですが、Googleマップなどの台頭により、行きたいところに効率よく行ける反面、自分の目や耳で街を見る、聞くことが極端に減ったように思います。このままでは、都市に暮らす人は、そこに暮らしているのにも関わらず、都市と関わる態度を忘れてしまうのではないでしょうか?
私たちは、都市に暮らす人がもっと、カオスで、絡まったり、蛇行したりしながら、都市と関わることができる未来を作りたいと考えています。
このマップはワークショップにきてくれた参加者の声の記録です。5月から7月までの3ヶ月間に計6回のワークショップを行い、16名の「渋谷に関わる人」が制作しました。それぞれの感性で掬い上げた「些細ないわかん」が、合計46個の音声ガイドとして集まりました。
【語り手(敬称略)】
きさわ / りゅう / うたこ / tk / ちなつ / まつした / ハリー / はな / ゆうか / れお / あらい / さしゅう / しいな / いっちー / ふみ / りょうか
オーディオガイド作りのワークショップは4つのアクティビティから構成されています。

①ウォーミングアップ
「じゃあ街に出て、街と色々なやり方で関わってきてください。いってらっしゃーい!」と言われても、困ってしまいますよね。まずは身体や五感を「都市に開く」感覚を掴んでもらう必要があると思いました。そこで用意したのがこのウォーミングアップです。
「想像はできるけど、やったことはない行為」を行い、想像と実際の感覚の間にどのようなズレがあったか、なかったか、に意識を集中させてみる時間です。「想像はできるけど、やったことはない行為」は全部で5種類あり、そのうち3つをランダムに選んで行いました。

写真から、渋谷のどこで行ったものかわかるでしょうか?ハチ公前や、渋谷ストリームからスクランブルスクエアに向かう大歩道橋の上、金王八幡宮横の公園など、渋谷らしい場所を選んで実践しています。
人も情報も多い渋谷という空間の中で、このようなちょっと変な行為をやることに戸惑いを見せる方もいらっしゃいましたが、やるうちにだんだん慣れてきて最後には皆さんノリノリでやってくださいました。この後の②ウォーキングの時間が豊かになったのも、このウォーミングアップがあったおかげだと思います。
ちなみに、個人的に1番好きなのは「人のまぶたをなぞる/なぞられる」です。結構、奇妙な感覚になりますよ。
②関わるウォーキング
ウォーミングアップが終わったら、早速ウォーキングを始めます。この時間を「関わるウォーキング」と呼んでいるのですが、渋谷の街にあるモノ、ヒトと、色々な方法で関わることを試みてもらう時間です。

例えば、写真の左の男性。金王八幡宮にやってきた彼は、じっくり境内を見渡して、9つのベンチに近づいていきます。ベンチに座る人々を観察しながら「(おそらくそういうルールはないと思うけれど)なぜかみんな境内の内側を向いて座っている」ということに気づきました。みんなが同じ方向を向いて座っている。
そこで彼も、みんなと同じ方向を向いて座ってみる。まずは境内に1番近い、一列目のベンチから。次に真ん中の列。そして最後の列も。どの列に座るのかによって、感じるものや思い起こされる考えが違うようでした。
このように試行錯誤しながら、街をよく見て、よく聞いて、よく関わってもらいます。その様子や自分が感じていることを実況中継的に口に出してもらい、レコーダーで記録します。
③スクリプト編集
ウォーキングが終わったら100BANCHに戻って、記録した声をもとにオーディオガイド用のスクリプトを書いてもらいます。

視覚的な方向づけを詳細にしてもらって(「そこ」を「右側のベンチ」と言い換えるなど)オーディオガイドとして聞きやすいように調整してもらいつつも、基本的にはウォーキング時の語りを大きくは変更しません。
というのも、このオーディオガイドを別の誰かが聞きながら歩く時、語り手と一緒に動き回って欲しいと思ったからです。「じゃあ、ベンチに座ってみようと思います」と語り手が喋ったら、聞き手も一緒に座ってみる。そういう「関わる」動きが含まれているオーディオガイドを作ることが目標でした。
④収録
スクリプトが完成したら、また現場に戻って収録を行います。100BANCH内で収録を済ませることもできたのですが、現場にもう一度立つということを今回は大切にしてみました。同じ場所に戻ることによって語りの臨場感も変わってきますし、語り手にとっても、ウォーキング中に考えていたことや感じたことを想起しやすくなると思ったからです。

このようにして、オーディオガイドは完成しました!なんと、一回のワークショップにつき6時間のお時間をいただき、制作してもらいました。
①ウォーミングアップと②関わるウォーキングは実際に体を動かすアクティビティなのですが、③スクリプト編集などは現段階だとパソコンに向かう作業になってしまったので、次回以降はもっと楽しい時間に工夫できたらと思っています!

さて、出来上がったオーディオガイドをナナナナ祭来場者にどう聞いてもらうのがベストでしょうか?
彼らが見つけたものやその感覚、語りはとても流動的であるのに、それを上から見た平面に点として保存することへの違和感を元に、一般的な地図のように「どの場所に、どんな建物があるか」ではなく、「誰が、どう感覚したか」に軸をおいた人図(JINZU)(※ジーパンでも、眼鏡屋でもないよ)を作ってみることにしました。

ガイドを直感的に選んで、差し込んで、聞いて見ることができる仕組み
参加者はこのオーディオガイドを選んで、一人称視点デモ動画を見ながら、疑似体験できるというシンプルな体験です。
シンプルなため、「これを聞いてみたい!」と思ってもらえる動機作りの設計に注力!電子工作、プログラミングはもちろん、レーザーカッターまですべて自分たちで行っています。(ギリギリのため発注している余裕はありません)嬉しいことに、「去年よりも明らかに進化したね」と言われることが増えました。

アンケート結果をみて見ると、このオーディオガイドで日常をよくみて、よく聴けるようになると思うか?という設問に対して36人中30人が、5段階評価で「4」以上の評価をしていました。
実際に、街で使ってもらったわけではないので評価が少し難しいですが、ポテンシャルがありそうです。
一方で、オーディオガイドを聞く会、作る会があったら参加したいですか?という質問に対しては、どちらにも参加しなくてもいいというシビア目な意見が想像以上に寄せられていたので、これはまだ日常を良く聞く、見ることのおもろさが十分に伝わっていないなという反省点とともに、どの層にどういうニーズがあるかの検討をよりする必要があると感じました。


頂いた感想の中で面白いと思ったのが、「渋谷は流行の中心とかビジネスの街のイメージだったが、まちとして捉えたのは初めてだった」というものです。
「ビジネスの街」「流行の中心」という固定化されたラベルは、そこでの人の振る舞いも固定化してしまいます。今回、オーディオガイドを作った参加者は、その中で自分なりに新しく渋谷での振る舞いを自ら発見していった、その視点の集積でもあります。
だからこそ、そういったラベルから外れた渋谷という「まち」に初めて気づいたのかもしれない。という、あくまで仮説ですが、そのような気づきもありました。
この期間中、「なぜ“渋谷”のオーディオガイドなんですか?」と、多くの人から聞かれました。考えなきゃと思いつつ、ただ100BANCHやその周辺の実験場があるからかなあ、とその時は答えていましたが、振り返ってみました。

そもそも、私たちは「都市をよくしたい、もっといい街にしたい」という街づくり的視点を主眼にして活動していません。(もちろん、都市が良くなれば人も良くなると思っていますが。)
ただ、都市は自分たちの問いたがる感覚を取り戻す、練習場に適しているような感覚がある。その最たる例が渋谷なのかな?と思います。

渋谷でも、木に抱きつくことだってできます
例えば、普段だったら絶対入らない雑居ビルに入って、そこでイギリス専門店を見つけたり、ビックカメラ前の交差点をひたすら歩いて4周してみる。そこにいた外国人カップルのハグを真似してみる。薬局に入って一番高価な薬を探してみる、とかエトセトラエトセトラ。どっかの段差に座って、ぼーっと人が通り過ぎていくところを観察したりもできます。誰も気にしないです。
ナナナナ祭期間中、来場者の皆さんからも「渋谷って、再開発で『稼げるビル』が立ち並ぶようになり「カルチャーがなくなっている」とかなり聞きました。ですが、まだ都市と人が多様に関係し得る余地が残っている、と抵抗してみたいし、その実験ができると思います。
今回の《こんにちは、いわかん》は計16名の参加者とオーディオガイドを作りました。音声収録や撮り直しやらで、度々100BANCHへ足を運んでいただいて本当にありがとうございました。
都市に暮らす皆さんの、なんてことない、だからこそ特別な個人の視点を一緒に見せてもらえたことが嬉しかったです。

約50個のオーディオガイドが集まりました
次のステップは、ガイドを作る参加者を、より多様にしていくことです。
「子供の視点で街をみたり、聞いてみたい」という声を聞きました。今回は、オーディオガイドを選ぶきっかけとして、街と関わる態度という切り口でやってみたけど、「誰の」を聞くかという切り口も試してみたいです。
あとは、そのオーディオガイドを、誰にどういう風に使ってもらうかの探究も進めていきたいです。現時点では、人図(JINZU)として紙媒体のマップのプロトタイプを作っています。


より進化した形でまた皆さんの前でお披露目します!
オーディオガイド作りワークショップも引き続き参加者募集するので、ぜひご連絡お願いします!