
「火星探査機の学生世界大会に挑み、日本の宇宙開発の底上げに貢献する」100BANCH実験報告会

100BANCHで毎月開催している、若者たちが試行錯誤を重ねながら取り組んできた“未来に向けた実験”を広くシェアするイベント「実験報告会」。
これからの100年をつくるU35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を終えたプロジェクトによる100BANCHでの活動報告や、100BANCHでの挑戦を経て、プロジェクトを拡大・成長させた先輩プロジェクトによるナビゲータートークを実施しています。
2026年6月25日に開催した実験報告会では、火星探査ローバを開発や学生世界大会への挑戦を通して、ローバ開発の意義と面白さを伝え、日本の宇宙開発の底上げに貢献することを目指すGARAGE Program70期生「ARES Project」の永原陵司をナビゲーターとし、GARAGE Programを終了した5プロジェクトが活動を報告しました。
本レポートではその発表内容をお伝えします。
折り紙・工作に潜む数理から生まれた装置で、「気づき」を立ち上げる!
登壇者:山﨑玲美
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/kizuki_0

「Kizuki_0」は、不思議な動きや形の折り紙からインタラクティブな作品をつくり、人々がそれに触れ、探索する中で様々な気づきが生まれる、新たな体験空間を生み出すプロジェクトです。
山﨑:私はこれまで新しいアートや科学などを知ることで、世界の見え方が変わる「気づき」の体験に感銘を受けてきました。特に長年私を魅了してきたのが「幾何学折り紙」です。100BANCHへの応募当初、作品はまだ構想段階でした。当時は数学的な規則に従って形が変わる作品を夢中で触っているうちに、背後にある数理的現象に気づき、その「気づき」が日常生活に広がり、俯瞰的な視点や自己肯定感を生むことになる。そして「気づき」には人を変える力があり、人が変われば社会も変わるだろう、という抽象的な希望を抱いてました。
しかし、その時点では、何をつくりたいのか明確化できていなかったので、まずは作品に触れることで本当に数理的現象に気づくことができるのか、実験で確かめてみることにしました。幾何学折り紙や立体パズルをつくり、多くの方に触ってもらった結果、言葉で説明しない限り、背後にある数理的現象に気づいた人は一人もいませんでした。さらに、途中で触るのをやめてしまう人を防ぐためにはデザインの工夫が必要なこともわかりました。そして、音と映像のインタラクションを加えた作品にすると、人々は長い時間、夢中で遊んでくれましたが、やはり数理的現象への気づきは生まれませんでした。
この実験から、体験を成立させるためのデザインはわかってきたものの、何を、どういう人に伝えたいのかはまだ言語化できていませんでした。そこで私は、「数理的現象への気づきを生むことが一番やりたいことなのだろうか」と自分の原体験を振り返ってみることにしました。私は8歳の頃に「カワサキローズ」という作品に強く魅了されました。平面と立体を行き来する構造、見た目の美しさ、折り方による感覚の変化に当時、とても魅了されたことを思い出し、「私は構造の違いを身体で感じる体験を生み出したい」と思うようになりました。また、私は、万人に数理的現象を教えたいわけではなく、私と同じようにこの体験に強く魅力を感じる人に向けて、人生が豊かになるような「気づき」を与えたい。そして、自由な探索から多様な「気づき」が交わっていく、にぎわいの風景をつくりたいのだと気づきました。
100BANCHでは3ヶ月の試行錯誤を経て、手探りでモノをつくり、他人に見てもらい、説明する中で、本当につくりたいものが何かわかってきました。最初は、「気づきは社会を変えるのではないか」という抽象的な考えでしたが、自身の感動体験を起点に「人々が夢中になって探索し、気づきが交わる場をつくる」という具体的な実践へ移ってきました。

「現在はナナナナ祭に向けて制作を進めています。本日、制作過程の作品を展示しているのので、ぜひ体験してみてください。」と山﨑は話しました。
映画の字幕制作を自動化し、埋もれた才能を世界に広げる!
登壇者:坂本遼
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/koto-no-hashi

「Koto-no-Hashi」は、映画の動画ファイルから文脈を読み取って、自動で字幕を生成するシステムの開発を通じ、言語の壁をなくしてクリエイターの可能性を世界へ広げるプロジェクトです。
坂本:今、字幕のない英語の短編映画を流しました。多くの方は、正直、何が起きているのかわからず、小さな女の子が踊っている映像にしか認識できなかったと思います。実は、カンヌやベルリン、ヴェネチアのような世界三大映画祭に入選していながらも、日本で全く上映されていない作品が山のようにあります。日本やヨーロッパの作品以外にも、スーダンやイランなど、日本に馴染みのない国の素晴らしい作品がたくさんあるのですが、ほとんど知られていません。
現在、ナナナナ祭に向けて海外作品の買い付け交渉を行っているのですが、意外にも買い付け自体はできそうです。しかし、上映するための字幕制作費の方が買い付けの費用よりも高くついてしまうのではないかという状況がわかってきました。これは海外映画が日本に来るときだけでなく、日本の映画が海外へ出るときも同じです。私自身、学生時代に映画制作サークルで自主映画をつくっており、「海外でウケそう」と言われたこともありました。しかし、海外の映画祭に出すためには英語字幕が必要で、自主制作の場合、映画本体の制作費よりも字幕制作費の方が高くなってしまうことが珍しくはないので、これが世界へ羽ばたくのに大きなハードルになっています。
こういった言語の壁を解決するのが、私たちの開発しているシステムです。映画の動画ファイルを入れると、自動で字幕が生成されます。近年のAIの発達により、意味だけを取る直訳は簡単にできるようになりましたが、私たちが挑んでいるのは、映像を観ながら、映画の文脈を踏まえて翻訳をする、技術的にも難しいものです。現状では、まだ粗削りですが、なんとなく意味がわかるかなというレベルまでは来ました。近々、実際に買い付けた映画に字幕をつける実験を予定しています。

「ダメ元でカンヌやヴェネチアの作品にメールを送ってみたところ、なんと返信をいただき、映画の素材までいただくことができました。これらに字幕をつけ、ナナナナ祭で実際に上映する予定ですので、皆さんぜひお越しください。」と坂本は話しました。
天気を敵から味方に。行動を引き出す気象インターフェースの再設計。
登壇者:新羅由清
プロジェクト詳細: https://100banch.com/projects/clouva

「Clouva」は、双方向のコミュニケーションが取れる気象アプリの開発に取り組むことを通じて、「天気が敵ではなく、味方になる社会」を目指すプロジェクトです。
新羅:気候変動によって異常気象が増加していますが、私たちは異常気象を止めるというよりも、環境が変わってしまった社会の中で、気象データを通じてリスクを減らしていくことを目指しています。現在の課題は2つあって、1つ目は、独自のインフラがない場所ではローカルな気象と被害が観測できないという、データが不足していることです。2つ目は、日本のようにインフラが整っている国でも、避難情報を得て実際に行動に移す人は2割未満に留まっているという問題です。そこで私は、人々の行動につながる情報発信が必要だと考え、100BANCHに入居しました。
100BANCHで実際に取り組んだことの1つが、天気から服・食・音楽・街歩きを提案する生活者向けアプリの開発です。空の写真を撮るとアクティビティがレコメンドされる仕組みですが、これが防災にどうつながるかというと、空の写真からミクロでローカルなデータを集め、ユーザーが実際にどう行動したのかというデータを蓄積できます。次におこなったのが、SNSメディアの立ち上げです。アプリをつくっても、使う人がいなければ意味がないため、東京在住の若者に向けて、天気とおすすめの過ごし方を発信するメディアをはじめました。フォロワー0からのスタートは難しかったですが、約20人のインフルエンサーに「好きな天気とその日の過ごし方」をインタビューしてキュレーションした結果、1ヶ月で2万インプレッションを達成することができました。また、ビジネスコンテストに参加したり、私たちのプロジェクトを面白がってくれて一緒に活動するチームメンバーも増えました。
活動を進める中で、日本における最適な伝え方のヒントも見えてきました。日本と韓国の人に「好きな天気」をインタビューしたところ、日本では「晴れ」「雨」「曇り」という3パターンで返ってくることが多いのに対し、韓国では「顔に涼しい風が当たる日」「暖かい匂いがする日」など、身体感覚や感情を交えた答えが多くありました。これは日本人が季節や天候の変化に敏感ではないというわけではなく、日常レベルでの天気の言語化やコンテンツが世の中に不足しているのだと気づきました。ナナナナ祭では、来場者の方々に「好きな天気」をより具体的に言語化してもらう体験を用意しているので、ぜひ遊びに来てください。
「6ヶ月を振り返って一番大きかったのは、人生を通して解きたい問いに出会えたことです。大学生活、このままじゃダメだという思いから無理やり立ち上げたプロジェクトでしたが、いろんな人にアイデアを話し、1つ1つ進めていく中で、心から面白いと思えるプロジェクトに出会えたことが100BANCHに入居して一番良かったことです。」と新羅は話しました。
コスメとコミュニティの力で、「肌色の多様性」を祝福できる未来をつくる
登壇者:バー・ニャクワ 未裕
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/lumiskin

「Lumiskin」は、黒肌・小麦肌等の方向けのコスメブランドの開発と、自己肯定感を高め合えるコミュニティづくりに取り組むことを通じて、どんな肌色でも輝ける世界を目指すプロジェクトです。
バー・ニャクワ:私はガーナと日本のハーフとして日本で生まれ育ちました。今の日本には「白い肌が美しい」という美的基準が根強くあり、私自身、小学生の頃にはじめて塗ったファンデーションの色が白く浮いてしまい、クラスの男子に「お面かぶってるの?」とからかわれて「白い肌になりたい」と強く思い悩んだ時期がありました。現在、日本のファンデーションは約70種類ほどあるのですが、海外にルーツを持つような黒肌の人、黒肌さんが使えるものは4色ほどしかありません。黒肌さんにアンケートをとってみたところ、約93%の方が「自分に合う化粧品に不足感を感じている」と回答をしていました。日本にはそういった黒肌さんたちは約64万人いるといわれています。この半年間で活動を進める中では「コスメブランドをつくるだけでは、自信を持つきっかけづくりはできない」という大きな気づきがありました。からかわれた経験を共有できる同じ境遇の仲間がいなかったり、海外のコスメ情報を得る媒体がなかったりすることこそ大きな問題なのかなと思っています。
GARAGE Programの3ヶ月でおこなった実験と、その結果ですが、先月、黒肌さん向けの美容メディアを開設しました。現在はSNSで、黒肌さんあるあるや、自分のメイク動画などを発信しているのですが、共感や応援のコメントも集まり、1,500人くらいまでフォロワーも増えました。来月からは、ホームページを開設し、会員限定のコンテンツにしたいと思っています。また、5月4日に100BANCHでイベントを開催したのですが、約40名の方に集まっていただき、満足度も高く大成功を収めました。次回は9月頃に海の家を貸し切ってイベントをやろうと企画を進めている段階です。コスメブランドについては、ダークトーンのものを3色つくろうと企画していて、OEMのメーカーさんに問い合わせているところです。
私が100BANCHで一番得られたことは、アイデアを実際のアクションに落とし込む、ということです。最初にここでピッチをしたときは高校生の発表レベルでしたが、今はしっかりと話せるほど具体的に自分の中に落とし込むことができたと思います。

「Lumiskinは、どんな肌色でも輝ける世界を目指して活動しています。SNSも頑張っているので、よろしければフォローお願いいたします。」とバー・ニャクワは話しました。
街に眠る物語を、現代サーカスでワクワクに変える!
登壇者:浅瀬石柚乃
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/city-stories-circus

「City Stories Circus」は、街の文化や歴史を現代サーカスやアートで表現することで、渋谷の文化100年の物語を表現するプロジェクトです。
浅瀬石:私は大学時代から国内外を1人で旅してきて、それぞれの街が持つ魅力に気づきました。あるときカナダのモントリオールに1ヶ月滞在したのですが、そこはシルク・ドゥ・ソレイユなどの本拠地で、毎日街のいたるところで現代サーカスが行われていました。それですっかり現代サーカスに魅了されてしまいました。
100BANCHの3ヶ月間では、ナナナナ祭に向けた公演の制作を行ってきました。プロジェクトのメンバーは私1人なので、演出家、美術家、パフォーマーの方など、それぞれの分野のプロフェッショナルな方々にオファーを出し、ミーティングを重ねてきました。また、渋谷でやるからには、渋谷の街・文化を理解する必要があります。そこで、金王八幡宮や北谷公園 の管理者の方などにお話を伺って渋谷の街や文化をさらに深く学びました。これらをアートとしてどう表現するかという観点では、渋谷の街で、例えば「渋」という文字を拓本アートとして写し取ったりしてきました。ナナナナ祭では、こういった渋谷の文化をパフォーマンスとして表現する公演を1日2回開催し、街の記憶を写し取る拓本アートの展示も行う予定です。現在は公演に向けたクラウドファンディングも実行中です。
本来、公演の準備は半年から1年くらいかけるものだと思いますが、ナナナナ祭のタイミングが入居してから3ヶ月後だったので、かなり急ピッチで準備を進めています。企画についての責任や、お金回りの責任など、不安はたくさんあります。それを払拭するのは、自分のプロジェクトを自分がいかに信じきれるかだということに、100BANCHでの3ヶ月の活動を通して気が付くことができました。私は、過去・現在・未来の記憶に残る渋谷をアートとパフォーマンスで、ここでしか感じられないものを表現したいと思います。

「ナナナナ祭終了後は、100BANCHを起点に、金王八幡宮やのんべえ横丁、北谷公園を回る、回遊型のイマーシブなアートパフォーマンスの公演を構想しています。事業としてどうするかなどを考えるのが今後の課題です。」と浅瀬石は話しました。
実験報告会の各発表内容はYouTubeでもご覧いただけます。
Kizuki_0 https://youtu.be/T2RYFU7i17o?si=m4_oUxRy1-6SbpxV
Koto-no-Hashi https://youtu.be/vOyn5XI_pI4?si=En5NOfXis0KxQ6tN
Clouva https://youtu.be/nxk5kxP370Y?si=Vpth4rJK3XUkWSy3
Lumiskin https://youtu.be/jqX08TUlEb8?si=etAWv7OghHk1ZFIf
City Stories Circus https://youtu.be/RDTwIf6toY4?si=V1TJTgZta-QSDXF8
次回の実験報告会は7月23日(木)に開催。ぜひご参加ください!

(撮影:鈴木 渉)

【こんな方にオススメ】
・100BANCHに興味がある
・GARAGE Programに応募したい
・直接プロジェクトメンバーと話してみたい
・テクノロジーを活用した作品制作に興味がある
・日本の文化や習俗、信仰に興味がある
【概要】
日程:7月23日(木)
時間:19:00 – 21:30 (開場18:45)
会場:100BANCH 3F
参加費:1500円(1ドリンク付き)
参加方法:Peatixでチケットをお申し込みの上、当日100BANCHへお越しください
詳細はこちらをご覧ください:https://100banch.com/events/81085/