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食べる喜びを未来に結ぶ、新しいおむすび屋のカタチ:菅本香菜(旅するおむすび屋)

「『おむすび』は、小さい子からおじいちゃん・おばあちゃんまで、どんな世代の人とも、食べる喜び・大切さを共有できます。」

GARAGE Program2期生「MUSUNDE HIRAITE」の菅本香菜は、2017年9月に100BANCHに入居。都市と地域を結ぶ「おむすびツーリズム」の実践をテーマに、様々な地域の食材を掛け合わせて丁寧におむすびをむすぶイベントの開催や、Web上でのセレクトショップオープンのためのクラウドファンディングへの挑戦など、精力的に活動に取り組みました。現在もおむすびを軸にしたワークショップの開催や商品開発などを通して各地域の魅力を発信し続け、2024年10月には日本全国47都道府県のおむすびを取材し、おむすびを通してその土地の食文化を紐解いていく書籍の出版も果たしました。

そんな菅本がこれまでの活動や、大事にしている想いについて語りました。

菅本香菜|旅するおむすび屋 / 総務省 地域力創造アドバイザー

福岡県北九州市出身。熊本大学卒業。『くまもと食べる通信』の副編集長として活動したのち、2016年に株式会社CAMPFIREに転職。LOCAL・FOOD担当として全国各地のクラウドファンディングプロジェクトをサポート。本業の傍ら2017年5月に『旅するおむすび屋』立ち上げ、2019年3月に独立。フリーランスとして、食に関わるイべント企画・運営、食材のPR、商品開発企画、ライター、クラウドファンディングサポート等を手がける。著書:『日本のおむすび 47都道府県を旅して見つけた毎日楽しめるレシピ94』

菅本:よく「キッチンカーで全国を回りながらおむすびを販売しているのですか?」と質問されることがありますが、おむすびの販売はほとんどしていません。おむすびを通して、人と人、地域と人、地域と地域を「結ぶ」ような活動をしています。

菅本:例えば、商品開発やレシピ開発に携わらせていただいたり、日本全国で出会った商品からセレクトして店舗さんで紹介させていただいたり、自治体とコラボして地域の食材のPRや取材をさせていただいたりしています。他にも、ケータリングや食育の授業、自主企画でのいろいろな企画など、ここ100BANCHにもお世話になりながら活動しています。

 

100BANCHからはじまった「旅するおむすび屋」

——現在さまざまな形で活躍する菅本。100BANCH入居当時の実験を振り返ります。

菅本:「旅するおむすび屋」は100BANCHに入居させていただいた同じ年にスタートしているので、私たちの活動は100BANCHから始まったと言っても過言ではありません。2017年9月に100BANCHに入居し、おむすびを通して生産現場や消費者、生活者をつないでいきたいという想いから「のりのりの」というイベントを100BANCHでやらせてもらいました。

菅本:日本全国の海苔漁師さんに来ていただき、皆さんと一緒に海苔についてとことん考える、海苔を食べて楽しむイベントです。なかなか尖ったイベントですが、100名ほどの方にお越しいただき、これまで知らなかった海苔の世界を覗き見したり、生産現場の方々の想いに触れてもらったりするような機会をつくりました。

コロナ禍には100BANCHで絵本づくりにも挑戦しました。もともと食育の授業をやっていて、地域の食材を使って、その地域の子どもたちとおむすびを結びながら食の大切さを伝えていく活動をしていたのですが、コロナ禍でどうしても対面で会うことが難しくなってしまいました。そこで、子どもたちに食の楽しさをどうすれば伝えていけるのだろうかと考え、100BANCHのナナナナ祭と掛け合わせて絵本をつくり、その絵本を通して子どもたちにおむすび、食の楽しさを伝えることに挑戦しました。

100BANCHで色々な挑戦をさせていただく中で、様々な方々から声をかけていただけるようになりました。当初、「旅するおむすび屋」は副業として立ち上げたのですが、100BANCHとの出会いやいろいろな活動の中で「旅するおむすび屋」としてのお仕事が増えていったので、2019年に独立しました。

どんな活動をしてきたかというと、例えば、ロフトさんで特設ブースを設置して、私たちが全国で出会ってきた商品を販売させてもらったりしました。また、スタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんが描かれた「となりのおにぎり君」というキャラクターと一緒に活動させてもらい、私たちのロゴも描いていただいたり、村上隆さんの個展のレセプションパーティーでおむすびを結ばせてもらったり、多くの方とのコラボが生まれました。

そして、今年開かれる大阪万博では象印さんの「ONIGIRI WOW!」というお店に携わらせていただいています。世界中から人が集まる万博で、おむすび、おにぎりを通して日本の魅力を世界の方に伝えていくということで、今、象印さんと一緒に全国を回りながら地域の食材を活かしたおむすびのレシピ開発をしています。ただレシピ開発をするだけではなく、地域の生産者さんや、郷土食に詳しいおばあちゃんたちとワークショップを開催するなど、地元の人たちと一緒におむすびのアイデアを考えています。例えば、島根県で、地域の食材を使って世界の人たちに島根の魅力を伝えるおむすびをみんなで考えるワークショップを開催しました。島根で有名な宍道湖のしじみを使ったおむすびや、島根はサバの消費量が日本一なのでサバを使ったおむすび。参加してくれたサバの漁師さんたちも一緒におむすびのレシピを考えるイベントになりました。このように、ただ私たちがレシピを提供するだけではなく、地元の方と一緒に、地元の魅力を食を通して発掘し、どう発信していけるか、企業さんとも組みながら一緒に考えています。

 

47都道府県のおむすびを取材した書籍「日本のおむすび」ができるまで

菅本:去年の大きな挑戦は、2021年から3年ほどかけて47都道府県のおむすびの取材をし、3〜4年越しで完成した「日本のおむすび」という書籍をダイヤモンド社さんから出版させていただいたことです。これも日本全国のおむすび屋さんに行ったというよりは、様々な地域の生産者さんやおばあちゃんたちに会って、地域の食材を活かしたおむすびや郷土のおむすびを教えてもらって、それをまとめた一冊になっています。

本を出版するにあたっては、100BANCHの則武さんに相談をさせていただいたのですが、それでぜひ100BANCHでイベントをやらせていただきたくて、「日本のおむすび展」という展示会を100BANCHで開催しました。日本全国47都道府県のおむすびを全部準備して、皆さんに召し上がっていただきながら、私たちがどんな旅をしてきたかに触れてもらえるような企画です。招待制のイベントでしたが好評で、80名以上の方がお越しくださり、実際に食べて、見て、触れていただける場になったと思います。そんな風に節目節目で100BANCHにはとてもお世話になっています。

書籍の件も私たちの自主企画で、クラウドファンディングで集めた資金と自分たちで集めた資金で日本全国を回らせてもらいました。仕事として依頼されたからやる・お金が入るからやるのではなく、自分が興味があるからやる・お金を自分で使ってでもやることから積極的に動いていって、そこに興味を持ってくださった方々がまたお仕事にしてくださる流れがとても面白いなと思っていて、今度は、カメラマンさんと一緒に映像制作もやっていきたいと話しています。先日、まずは1回撮ってみようと福島の西会津町で「雪があるからこその食文化」という取材をさせてもらいました。今後、このような活動を映像でも発信していきたいです。

菅本:2017年に「旅するおむすび屋」の旅がはじまって、100BANCHとの出会いがあり、様々な活動をさせていただく中で、皆さんにも認知されるようになり、お仕事も増えていきました。私たちも旅を通した出会いがあり、そこで学んだことを皆さんに発信して、それを見てくださった方々が興味を持ってくださってコラボが生まれどんどん活動が広がってきました。

菅本:ある意味、「旅するおむすび屋」の活動自体がちょっと100BANCHらしくて面白いなと思っています。企業さんや自治体とのお仕事が生まれたり、将来こういった活動をしてみたいと思った学生の方々が私たちのイベントでスタッフとして関わってくれたり、想いをきちんと発信していると「それに共感した方々が集まってくださるんだ。広がっていくんだ」ということを実感しています。その広がりを大事にしたいなと思えたきっかけも100BANCHだったので、最初に100BANCHを通してスタートを切れたことは、とてもありがたいなと思っています。

 

人、地域、文化の架け橋としての活動

——菅本は次に、どんな想いで、何を大事にしながら活動しているかを語ってくれました。

菅本:私たちは生産現場や、郷土食に詳しいおばあちゃん達に会いに行く機会が多いのですが、やっぱり物語にたくさん触れることが大事ですね。郷土食ってすごくラブレターに近いと思います。単に「郷土食って大事だよね」ということだけではなくて、おばあちゃんたちが何を考えて、どんなことを先人から受け継いで、次につなごうとしてくださってるのかの物語をきちんと伝えていきたいと思っています。

菅本:また、今はSDGsやサステナブルの話がよく出てきますが、いろんな地域に行かせてもらうと、日本にはそれを解決するヒントがたくさんあることがわかります。そういう多彩なヒントを私たちも拾っていきながら発信していきたいです。

それから、私たちも全国様々な地域に行かせてもらうのですが、都心と田舎とその暮らしを両方とも活かしながら、そこを架け橋としてつないでいくこともできたらなと思っています。そして、人と人、人と地域のつながりを生む架け橋になっていきたいです。食文化の継承でいうと、これまで当たり前のように受け継がれてきた文化が次の世代に引き継がれていないことがたくさんあることを全国を回りながら感じているので、それらをきちんとつないでいくような活動もしていきたいと思っていますし、今後も出会いがあってこその「旅するおむすび屋」なので、出会いの1つ1つを大事にしていきながら旅を楽しんでいきたいです。このあたりは、活動を手伝ってくれているスタッフにもきちんと伝えていきながら、想いを共にして活動をしています。

 

新しいおむすび屋のカタチ

——最後に、菅本は自身が食に興味を持った原点を振り返ります。

菅本:私が食に興味を持ったきっかけは、中学、高校時代に拒食症になったことです。中学2年生から高校3年生の間、当時、身長160cmぐらいで23kgまで体重が落ちてしまうほど、食べることが怖くなり、まったく食べられなくなった結果、約6年間の闘病生活を送りました。とても辛い体験だったのですが、大学に入って完治したときに、自分自身の体や心を食が支えてくれてたことにあらためて気がつきました。ただ、まわりを見た時に、食べるということがあまりにも当たり前になりすぎていて、それを大事にする機会が少ないことも同時に実感しました。私の6年間は非常に辛い体験ではありましたが、その経験があったからこそ気づけた食の大切さ・楽しさを、皆さんにきちんと伝えていきたいという想いで活動をはじめました。

「おむすび」というのは、小さい子からおじいちゃん・おばあちゃんまで、どんな世代の人とも、食べる喜び・大切さを共有できます。また、47都道府県を旅してつくった「日本のおむすび」にも94種類のレシピを載せていますが、地域の食文化を伝える意味でも、本当に地域性を出せる、その地域で大事にしてきたものをおむすびに込めることができるのです。そんなとても魅力的なおむすびを通して、活動するようになりました。

菅本:こういった想いもきちんと発信させていただきながら、共感してくださった方々と一緒に、今回お話ししたような活動が広がっていってることがとてもうれしいなと思っています。ただおむすびを販売するだけではない、皆さんと一緒にどんどん結ばれていきながら活動を広げていっているところが、今までにない「新しいおむすび屋」のカタチかなと思っています。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/8aCFHcuQLVk?si=Cybj29rqQZS5mkP7

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