- イベントレポート
正解にとらわれずビジョンを実現する「これからの資金調達」──ナナナナ祭2024アーカイブ
「資金調達」といえば成長著しいスタートアップが想起されますが、ビジネスのみならず、アートやカルチャー、社会運動など、未来を目指すあらゆる活動にとって「資金」は不可欠です。もちろん、100BANCHに集うメンバーたちも日々「お金」について悩んでいます。自分たちの信じる未来に向けて存分に活動していくために、どのようにお金と向き合っていけばいいのでしょうか?
ナナナナ祭2024の4日目となる7月10日にはトークイベント「これからの資金調達」を開催しました。100BANCHのメンターでもある、ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんをゲストに招き、昨今の潮流を学ぶとともに、公開メンタリングも交えながら、これからの資金調達のあり方を探りました。
登壇者 高宮 慎一|グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP) パートナー、Chief Strategy Officer 高橋 良爾| RINGO PAY / DEWプロジェクトリーダー / ほぼひとりメーカー/GARAGE Program 62/68期生 則武 里恵|100BANCH発起人/オーガナイザー |
起業家の想いや情熱
──イベント冒頭、100BANCHオーガナイザーの則武が本イベントの趣旨を語りました。
則武:100BANCHではユニークなメンバーが楽しそうにのびのびと活動しています。すごく素敵ですが、一方でちょっと不得意なことがあります。それは、お金のことです。100BANCHで耳にしてきた悩みに対し、どのようにお金と向き合っていけばいいのか、今日はメンターの高宮さんと一緒に考えていきたいです。
──続いて100BANCHのメンターでもある、ベンチャーキャピタリストの高宮さんが自己紹介の後、出資先とどのようにして出会うのか、どのように出資先を決めているのかを語ります。
高宮:VC投資にも色々なフェーズがあります。ぼくらは、メンバーが何人かいてプロダクトもできていてユーザーに受けいれられている兆しが見えている、いわゆるPMF(プロダクトマーケットフィット)のタイミングで投資をすることが多いです。そうすると、「事業計画やビジネスモデルなんて変わって当たり前」の世界です。では1番変わらないものは何か。それは人の想いや情熱です。その起業家がどれだけ大きな絵を描いているか、その絵に向かってどれだけ本気か、原体験が本物か。それを見て、投資判断をすることが多いですね。
そうすると、「資金調達したいので話を聞いてください。審査期間は3か月です。イエス or ノー」という感じにはなりません。以前から知っていて、飲みながら相談に乗っていたり、ただの友達だった人が「いよいよやるぞ」となった時に「それだったら行けそうだよね、じゃあ一緒にやろう」と投資することが多いです。そのような応援要素や、ぼくらが一部に参加させてもらう、という要素はとても大事だと思います。
クラウドファンディングの体験談
──資金調達の方法の一つとしてよく挙げられるクラウドファンディング。会社ではなく、プロジェクト単位の資金調達の方法として100BANCHでも活用しているプロジェクトがたくさんあります。実際にクラウドファンディングを何度も経験した高橋良爾がその経験談を話しました。
高橋:ぼくは、「ほぼ1人メーカー」として活動しています。実験的なものづくりで、いろんな分野の考え方を掛け合わせながら、靴やスマートリングなど、自分のつくりたいものをクラウドファンディングをしてつくったりしてきました。
──高橋は、Kibidango、GREENFUNDING、CAMPFIRE、Makuake などクラウドファンディングのプラットフォームを活用してきて感じた、各プラットフォームごとの強みや自身の結果、そこらから得た知見などを紹介しました。
高橋:ぼくの場合は、Makuake さんと相性が良くて何度も利用しています。つくったプロダクトに対しては、多くの苦情を受けたり辛辣な意見もいただいたりして、プロダクトの良くない所もわかったりします。指摘された部分を直して再チャレンジしたりと、プロダクトの改善にも役に立ちました。
また、助成金のコンテストに出た時に、審査員の方に「実際に売れるの?」と質問されて「クラウドファンディングで売れています。」と言えたり、検索から問い合わせがきたりしたのは、クラウドファウンディングをしてすごく良かったポイントです。
則武:こんなにたくさんクラウドファンディングをやってる人は100BANCHの中にもいませんね。高宮さんの領域からは、クラウドファンディングはどのように見ていますか。
高宮:例えば、スタートアップ投資をエクイティや株式で受ける前に、最初に背中をポンと押してもらってスタートダッシュをきるという意味では金銭的にも良いと思いますし、先ほどの高橋くんの話にもあったように改善点を言ってもらえるのはすごく良いです。一方で、資金調達やビジネスという意味で、「人からお金をもらう」ということはそのお金以上の何かしらのリターンを返さなきゃいけないのが事業というものだと思います。そこで満足が得られないと、「騙された」「もう二度と買わない」「支援しない」となってしまいます。どんなプロジェクトでも、支えてくれた人、お金をくれた人にリターンを返すという意味でつくり込みをしないといけないですよね。
公開メンタリング
──この日のイベントでは、会場から希望者を募って、高宮さんによる公開メンタリングも行いました。100BANCHのプロジェクトメンバーから、野々村哲弥(Omoracy)、古堅陽向(Classroom Adventures MOGURA)、坂田拓人(LEAFPRINT PROJECT) の3名が資本政策や資金調達にまつわる悩みを高宮さんに相談し、アドバイスを受けました。
VC以外の資金調達の選択肢は?
則武:高宮さんは、ベンチャーキャピタリストとしての悩みはありますか?
高宮:100BANCHのメンターをやらせていただいてうれしいのは、「スタートアップだけでない、より広い、良い事業に対して何かしら貢献したい、共犯になりたい」という思いがあるからなんです。資金調達という限られた側面においてVCという仕組みが万能ではないことが大前提にあります。さらに日本はVCが急激に増えていて、世界で1番お金余りの状況です。当然たくさんお金があれば値上がりし、良い案件に対してたくさんVCが殺到して競争も激しくなり、そこはなかなかしんどいですね。
則武:VCがそぐわないと思った時、その他の選択肢はどういったものがあるんでしょうか。
高宮:抽象的なレベルでいうと3つほどしかないと思っています。資金調達する道具は、株式か、借り入れか、お金をもらう、しかないですよね。株式は、リターンが出れば投資してもらえるというそろばん資本主義の世界です。借り入れも資本主義の世界ですが銀行は金利が低く、2%とかの世界ですよね。ぼくらは10年で3倍にしなければいけないので、複利計算だと20%、というような話です。
デットで借り入れられるのであれば、エクイティを借りる前にまずデットを使いましょう。今だと創業支援融資で2,000万円程度であればそこまでハードルが高くなく借りれるので、法人化しているなら活用しましょう。また、法人化してもしていなくても使えるものとして、「もらう」パターンがあります。クラウドファンディングや、補助金、スポンサーといったものです。ただ、このお金をもらう世界では、急成長しなくても説得できれば共感を得てお金をもらえる一方で、たくさんお金をもらうためにより広い人たちに刺さる価値をつくったり、世の中の課題解決をする必要があります。そういった提供価値、世の中の課題解決は、結局ビジョンなどの話なので、言語化してお金をもらう相手に対して刺しに行く。ストーリーの言語化とそれをしっかり伝えることがお金をもらうときは大事なんじゃないかと思います。
則武:お金を借りるときには何が大事ですか?
高宮:借りるときに大事なのはやっぱり手堅い事業計画です。月次も年次も黒字化していないと、おそらく借りるのは難しいです。銀行としても金利が低いというリスクをとっていて、例えば金利2%だと50社貸して1社でも返済不能になると金利分が全部吹き飛んでしまうのでビジネスモデルとしてリスクを取れません。一方、エクイティは金利が高いけれど、リスクを取れる、ゼロになるのも承知の上です。その属性の違いがあるので、自分の事業はどちらが適しているか見極めるのが重要です。
則武:ケースバイケースだと思いますが、今のお話を聞いてると、まずは補助金をもらうのが良いのでしょうか?
高宮:もらえるものはもらっておきましょう。デットの難点は、やはりリスクを取れないので早い段階の赤字の時期ではなかなか借りられないことです。よく資本コストと言いますが、借りると金利2%、エクイティで期待利回りが20%だとすると、資本コストは圧倒的にデットの方が安いのでデットで借りられるのであれば先に借りましょう。ただし、デットが怖いのは、返せなくなった瞬間、倒産させるかどうかは銀行の手に委ねられてしまうことです。エクイティの場合は別にIPO・エグジットをつくれなくても、エクイティがきっかけで倒産することは絶対にありません。
How を気にしすぎず、自分たちの What を大事にしよう
則武:高宮さんがいらっしゃるVCの世界、資本主義のど真ん中から見ても、今いろんなベンチャーキャピタルやスタートアップという言葉では表せないような事業・ビジネスの領域の人が増えていると思います。最後に、そういったメンバーの方たちにメッセージをいただけたらうれしいです。
高宮:スタートアップ以外でも良い事業っていっぱいありますよね。むしろスタートアップが良い事業のニッチです。世界最古の株式会社は1,500年ぐらい続く宮大工の金剛組という会社です。国宝や神社仏閣の修復をしている会社で、宮大工の技術を後世に伝えているし、文化財の修復もしてるし、とてもいい事業なんですよ。だけど、宮大工の職人の技を徒弟制度の中で引き継ぐので、スケールは難しいです。でもその伝承する、受け継ぐ、といった美学を大事にされています。やっぱり、スタートアップ病に犯されず、自分たちのビジョン、何をやりたいのか、成し遂げたいのか、定量的にどこまで行きたいのか、何を大事にしてるのか、そこが全ての出発点だと思います。その他すべては How で、What に対してHow を最適化させればいいだけです。万人にとっての圧倒的な正解の How というのもないと思うので、あまり正解の How を気にしすぎず、自分たちの What を大事にするのを最優先するといいんじゃないかと思います。
──何かの活動に取り組む若者たちが集った会場では、高宮さんのお話を聞きながらこれからの向かう先を考える姿が見られました。
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