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紙と印刷の可能性を探りながら、領域を超えたデザインを追求する:守田篤史(株式会社ペーパーパレード 共同創業者)

「デザインは消費を促すだけではなく、サステナブルを実現できる」

そう話すのは、GARAGE Program 11期生「Papertype × Shibuya」の守田篤史です。守田は2018年6月に100BANCHに入居し、紙製で新しい活版印刷用活字「紙活字」を用いたワークショップの開催や、ナナナナ祭での展示など様々な活動に取り組みました。2020年に株式会社ペーパーパレードを共同創業し、印刷領域やブランティング、グラフィックデザインなど多岐にわたる事業を展開。現在はサステナブルやサーキュラーをテーマとし、事業の幅を広げています。

そんな守田が、100BANCHでの活動やそこを起点にはじまった様々な取り組みについて語りました。

守田篤史|Papertype × Shibuya(株式会社ペーパーパレード 共同創業者)

「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、フィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインを提案している。下町の印刷・紙加工工場との協働を通じてプリンティング、プロセッシング技術の知見を深める。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、サーキュラーの観点からプロジェクトをプロデュースするといったサステナブルな領域のデザインも提案している。国内外の受賞歴多数。

 

守田: 今日は、100BANCHの活動をきっかけに始まった様々なことを「紙と印刷の可能性を探りながら領域を超えたデザインを追求する」というテーマでお話しさせていただきます。

株式会社ペーパーパレードは、デジタルとフィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインファームです。原点は、紙と印刷の可能性を探ることにあります。100BANCHでも紙と印刷の2つの要素をかけあわせて活動してきました。100BANCHのGARAGE Programを終えてからは「幸せなサステナブルデザイン」というパーパスを掲げ活動しています。

 

100BANCHで得た最大の財産

100BANCHでは紙活字(Papertype)のプロジェクトとして採択していただきました。紙の表面にテクスチャをつけることで新たな表現を生み出すプロジェクトで、ポータブルの活版印刷キット製作やワークショップを行いました。レーザー加工機を使って、紙製の活版印刷用活字を作り、ハンドプレスを用いて活版印刷をより身近にするキットを制作しました。ミニカーを転がしたり、表面を破ったり、上からガリガリこすったりすることで表面に独自のテクスチャーが生まれるのが最大の特徴です。

100BANCHの入居期間中に開催された、「おとなりサンデー」というイベントでは参加者の方に紙活字のテクスチャーを付けてもらう紙活字のワークショップをおこなったり、そこで収集した紙活字を活用してナナナナ祭で「きらめく風車」というインスタレーションも展開しました。

また、パナソニック100周年フォーラムでは、同時期に100BANCHに入居していたプロジェクトを、紙活字を使って紹介するアニメーションも作りました。紙活字のプロジェクトでのGARAGE Program入居期間を終えた後も、Papertype × Mangaという漫画と紙活字を融合させたプロジェクトで再入居し、フィジカルとデジタルをどう組み合わせて展開していくか模索する活動をしてきました。

100BANCHの活動で得た最も大きい財産は「チーム横石」のつながりです。プロジェクトのメンターが横石さんで、そのつながりでVRバンジーの野々村くんやヘラルボニーの松田くん、他のプロジェクトメンバーと知り合うことができました。チーム横石は本当に団結力が強く、チームで集まって相談したり、時には愚痴を言い合いながら協力しあってきました。 

 そういった縁もあって、ヘラルボニーのロゴを紙活字で制作したこともありました。松田くんのお兄さんの日記帳にあった文字の骨格をベースに、紙活字にしてロゴマークを制作しました。その流れでヘラルボニーのアパレルのデザインも僕らで担当しました。ロゴマークの作り方を参考に、日記帳から書体デザインの設計も行いました。100BANCHで出会ったからこそ、当時のヘラルボニーの世界観を一緒に表現していく、トータルブランディングのようなかたちで応援していくことができたと思います。

そんな中、ペーパーパレードとヘラルボニーがナナナナ祭でコラボレーションすることになり、ヘラルボニーの契約作家さんの制作した横断幕を100BANCHの懸垂幕として掲出しました。「街の風景の一部を所有しよう」というコンセプトで、街の風景(懸垂幕の生地)の場所売りをし、その場所から生まれたトートバッグをヘラルボニーと共同で制作し、販売しました。ありがたいことに3日ほどで完売しました。

このコラボのアップサイクルグッズを販売するための試みとして、Zoomを使ったバーチャルファッションショーも行いました。僕らは紙活字をテーマに活動してきましたが、ヘラルボ二ーとのコラボをきっかけに、アップサイクルやサーキュラーに興味を持ちはじめ、そこから少しずつプロジェクト化していきました。今思えば、それが現在メインとして行っている、サステナブルやサーキュラー活動のきっかけだったと思います。

 

悪者になりつつある広告に新しい価値をつけ再生する

そうした取り組みでの気づきから誕生した弊社のプロジェクトが、「屋外広告、OOHの再生」です。広告は、大量消費を促しそれ自体がゴミになるイメージに変わりつつあります。そのようにネガティブに捉えらえる現状に対して、「誰かをサポートするだけではなく、デザイナーとしてプロジェクトを起こさなければ」という気持ちが高まりました。そこで、広告を循環させることで、悪者になりつつある広告に新しい価値をつけるプロジェクトを生み出しました。広告の掲出期間は約2週間なのですが、実は屋外広告の耐久年数は約10年あります。そういった素材寿命のギャップに着目し、使えるのに捨てられている、そんな広告を再生することを考えていくことに決めました。

屋外広告を循環する上での課題として、廃棄される屋外広告に関わる知的財産権を解決する必要がありました。主に、著作権、肖像権、商標権の3つですが、それらを打ち消すために「シークレット地紋」という加工を施し、課題に向き合いました。これは、100BANCHで培った、問題や課題に対して自分たちのスキルで向き合い乗り越えていくという経験がこのプロジェクトでも活かされたんだと思います。その結果、回収、洗浄、シークレット地紋を施してプロダクト化する、という一連の流れが完成しました。知財の解決をしくみ化したことで、以前は屋外広告の再利用を相談しても門前払いだった企業や自治体の人たちが「使ってよいか、聞いてみます」などとアクションを変えてくれたのがすごく意外でしたし、彼らも再生したくなかったわけではなく、やり方が分からなかっただけなんだと感じました。広告を循環させるためには、循環できる素材に戻すしくみ、デザイン、知財の解決を含めて行う必要があるのではないかと思います。

 

「都市型サーキュラー」の実践に大事なこと

ペーパーパレードは「都市型サーキュラー」という造語を用いて提案をしています。都市ならではの課題や素材(経済活動によって生じる廃棄されるもの)を循環させていくためのアプローチです。サーキュラーが語られる時に、里山が例に出されることがあるのですが、僕らが生活している都市でサーキュラーをしていく上で、都市ならではの課題があることに気づきました。工場から出るものではなく、一度社会を経由したものを回収し、再生して、素材化することを目指して活動しています。都市型サーキュラーでは、持続可能性に配慮した素材の循環だけではなく、回収システムの整備、廃棄物に関する法的・倫理的問題の解決、素材の効率的な活用、ビジネスモデルをいかに考えるかが大事だと実感しました。 実例として、渋谷の屋外展示会で使われたターポリンパネルをトラベルポーチに再生したり、バカラのクリスマスシーズンを彩った広告を、お土産用のバッグとして再生することを行いました。

 また、丸の内のエリマネ広告として、街を起点としたアップサイクルブランドのプロデュース兼共同創設者のご依頼をいただき、廃棄削減と素材循環を目指しながら街の物語を紡いでいく、街を起点としたアップサイクルブランド「Ligaretta」というブランドを大丸有エリアマネジメント協会と一緒に立ち上げました。

街の中のフラッグをコートやスカート、バッグなどのファッションアイテムにアップサイクルし、街が起点のファッションブランドを立ち上げた点が特徴です。街から出たごみを廃棄されるものではなく、「街の物語が染み込んだ素材」と捉えなおすことで、街を起点に循環するしくみをつくりました。

Ligaretta が目指すサーキュラーデザインは「廃棄されるものを循環する素材に戻し付加価値をつけて再び街へ還元していく」ことです。街が起点となるファッションブランドとして世界的にも珍しい例で、サーキュラーデザインを日本で発信していくのにとてもふさわしいブランドだと考えています。

 

アップサイクルのプロジェクトで変わった意識

都市のサーキュラーデザインを進めていく中、「屋外広告以外の素材も一緒に考えてほしいという相談もありました。世の中、本当に色々なものが捨てられていて、自分たちの知らないところでなんとなくいい感じに処理されていると思われているのですが、すべて埋め立てか焼却になってるといっても過言じゃないぐらい、色々な素材が僕らの知らないところで捨てられています。

そんな中、カンロさんと実施した廃棄包材のプロジェクトも紹介させていただきます。工場生産の中で出た余剰や廃棄される飴やグミのパッケージ包材をばらして1枚1枚シート状に加工し、それを縫製してアップサイクルするという途方もない作業なのですが、僕らはバカみたいな物量には強いので、「どんと来い!」という気持ちで、このプロジェクトに向き合いました。

このアップサイクル自体が廃棄削減に直接つながるわけではありませんが、カンロのパッケージデザインを活かしたプロダクトのため、社内のサステナブル推進のシンボルとして、インナーブランディングとしての役割を果たした1つの例になると思います。このプロジェクトのおかげで、工場の人たちに、失敗したときの対応を1秒でも早くする意識が生まれたそうです。このパッケージを使ったグッズはとても人気で、再生産することになり工場に問い合わせたところ、「これをきっかけに『廃棄を減らさなきゃ』と思い、今は材料がありません」と言われました。

 

幸せなサステナブルデザイン

循環型社会に移行してる中、「デザインは消費を促すだけではなく、デザインの力によってサステナブルを実現できる」という考えが、色々なプロジェクトを通じて僕らの中で固まりました。今提案しているデザインにもそういったことが言えるのはとても大きな意味があると考えています。デザインの視点からサーキュラーやサスナブルをどう乗りこなすか、を柔軟に考えることが大切だと僕自身は考えています。

2020年に欧州委員会が発表した「New European Bauhause」というプロジェクトがあるのですが、その言葉が好きなので紹介させていただきます。「Beautiful / Sustainable / Toggether」。これまでのヨーロッパでは、制作の中でごみを出してはいけない、プラスチックはこういう風に処理しなくてはならない、といったちょっと押し付けのようなサスナビリティが主流で、なかなか市民から受け入れられていませんでした。そういった課題に対してのBeautiful / Sustainable / Toggetherなのですが、美しさがあればサステナブルはみんなが参画してくれる、といった意味になります。押し付けられたサステナブルやサーキュラーではなくて、心に響く美しさがあれば人々はサステナブルな活動に一緒に参加してくれる。そのことを、ヘラルボニーのブランディングや様々なプロジェクトを通じて、ただ社会課題に向き合うだけでなく、そこには「美しさ」や「かっこ良さ」、「おもしろさ」ということが重要になってくるということを実感しました。

「市場に流通する製品がもたらす環境負荷のうち、80%以上がデザインのコンセプト段階で決定される」とも言われています。僕らはいろんな分野でコンセプトの段階から、サーキュラーやサステナビリティを意識していますが、コンセプトの段階で自分たちがやりたいことをどれだけドラスティックに提案できるかが、そのプロジェクトの純度に関わってくるのかなとも考えています。

サステナブルデザインとは「素敵なこと」である。そういった「幸せなサステナブルデザイン」をペーパーパレードでは提唱しています。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/hgGlcL-FQEg?si=zbAzceG5zL2Yw16P

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