糖尿病とそうでない人の境目が無くなるような
コミュニケーション・デザイン
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180mg/dl
糖尿病とそうでない人の境目が無くなるような
コミュニケーション・デザイン
糖尿病とそうでない人の境目が無くなるようなコミュニケーションのきっかけをデザインするなど、予防や治療に新たな楽しみや喜びを作るプロジェクト「180mg/dl」。
ナナナナ祭2023では、心臓の鼓動を可視化するメディア アート「脈々 myaku-myaku」の展示を行いました。ヘルスデータは、エンターテイメントによってどのように変化するのでしょうか。企画背景や当日の様子を180mg/dlの丸山がお伝えします。
こんにちは、プロジェクトリーダーの丸山亜由美です。2018年に100BANCHへ入居し、自分自身が糖尿病であることから、血糖値をテーマにした作品展示やイベントを開催してきました。2022年からはデジタルハリウッド大学大学院に在籍し、ヘルスデータをエンターテイメントとして活用することに取り組んでいます。
今回のナナナナ祭2023では、脈拍の変化を計測しながら、ペアでお抹茶を点ててドキドキするひと時を楽しむという体験型のメディアアート「脈々 myaku-myaku」を開催しました。
マスクを付け・会話を控え・人との距離を保つという新しい生活様式が数年に渡って続きましたが、ポストコロナを迎えた今、私たちは対面でのコミュニケーションを再び楽しめるようになりました。一方で、まだなんとなく初対面の人に話しかけずらかったり、必要以上に相手との距離が空いてしまったりすることはありませんか?
私自身、ナナナナ祭への出展は3年ぶりの3回目。久しぶりのリアルイベントへ出展するにあたり、来ていただいた方とのコミュニケーションのきっかけとなるようなブースを自分の興味関心があるテーマから作り上げることを目標にしました。
まず第一に、データへの偏愛と言えるくらい、私はヘルスデータを記録して可視化することに長年取り組んできました。100BANCHでも血糖値からデジタルアートを作るイベントなどを開催してきましたが、その測定には針が必要だという課題がありました。もっと多くの人に気軽に楽しんでもらうために、簡単に計測ができて絶えず数値が変動するデータは何か?辿り着いたのは、私たちの心臓のドキドキを表す心拍数でした。
普段はヘルスケア領域のwebやアプリを制作するUIUXデザイナーをしているのですが、今回は画面上ではなくリアルなイベントでの体験設計。参加者の心拍が変化する、自然にドキドキできるような演出を考えることが、私にとって新しいチャレンジとなりました。
大袈裟かもしれないですが、それくらい私にとって食事の時間は大事なものです。糖尿病になった当初は薬を飲むことを受け入れることができず、ハードな食事制限によって血糖値を上げないようにしていました。誰とどこで食事をしても同じものが食べられない…そんな経験は、美味しいものを一緒に味わう幸せや、それによって生まれるコミュニケーションの豊かさに気づかせてくれるものでした。
我が家には、母が茶道を習っていることから、コーヒーブレイクのような茶の湯タイムがあります。疲れた時や気分を入れ替えたい時に母が点ててくれたお茶を飲むと、自然と心が和んでちょっと長話に。お抹茶をいただくことは、メディテーションのように心拍を整えてくれ、会話のきっかけになると思い、お茶会をメインのコンテンツにすることにしました。
その後、100BANCHのメンバーや大学院で所属している「現実科学ラボ」の先生や学生の皆さんとディスカッションを重ねた結果、2人掛けのちょっと狭い椅子に隣同士で座ってもらい、自分が点てたお抹茶を相手に味わってもらうというドキドキの体験を企画することができました。
また、同じラボに所属するビジュアルアーティストである川村健一さんが映像制作を担当してくださり、「2人の心拍数が似ているとお互いのラインが重なり、差があると離れていく」というロジックで、まるでサーキットレースのような躍動感のある脈拍アートが誕生しました。
久しぶりのリアルイベントで、実は私自身が1番ドキドキしているのでは?と思ったくらい緊張して迎えたイベント前夜。当日は、5年前に100BANCHに入居した時からずっとプロジェクトを支えてくれている栄養士の山川夏菜さんがトークを盛り上げてくれたり、川村さんがテクニカルサポートや撮影をしながら見守ってくれたり、茶道のお稽古歴15年の私の母が一緒にブースに立ってくれたり。心強いチームメンバーと共に、60人以上のお客さまをお迎えできました。お越しいただいた皆さんの和やかな会話や表情に、こちらも心温まる2日間となりました。
ご感想のハイライト
実はこんなハプニングも。心拍センサーを付け間違ってしまい、お互いの波形が入れ違ってしまった回がありました。ものすごくドキドキしているデータは、実は自分ではなく相手のものだったことがお茶会の最後に判明。医療現場であれば大惨事かもしれない「脈の取りちがい」が、このイベントでは逆に大爆笑になりました。
また、本イベントではGoogleとイサナドットネットの2社にもご協力をいただくことができました。
イベント期間中、Fitbitのウェアラブル端末からナナナナ祭に参加した5名のヘルスデータを連続的に記録し、isana.netのダッシュボードで1日ごとの集計データを展示しました。ある出展者と来場者に注目すると、お互いの活動量や睡眠の質がポジティブに変化していることが分かりました。
生活習慣の改善や行動変容というテーマで活用されることが多いヘルスデータ。今回のナナナナ祭では、企業や参加者の皆さんのおかげで、アートイベントがヘルスデータに与える影響を可視化するというユニークな取り組みを行うことができました。
この実験から、アートやイベントなどのエンターテイメントは、ウェルネスやマインドフルネスという、私たちが生き生きと輝くウェルビーイングな状態をつくる大きな可能性を感じています。今後もデジタルヘルス領域の企業や団体とのコラボレーションによって、その効果をヘルスデータから明らかにしていきたいです。