「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
Academimic(旧:Sci-Cology)
「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
100年後の未来を考える場を創出すべく100BANCHが毎年開催している「ナナナナ祭」。2023年は「Future Jungle」をテーマに様々なトークイベント、ブース出展を行い、未来を感じさせる場となりました。
ナナナナ祭2023の2日目、7月8日に開催されたトークイベント「Science Fusion - 科学とクリエイティブの融合-」では、共通の課題、両者が一緒になったときどんな未来が描けるのかを語り合いました。モデレーターは、サイエンスコミュニケーターとして科学を通して多様な未来を語る場をつくる宮田龍をはじめ、「エモい科学」を掲げ、難解なテーマをクリエイティブの力で表現するプロジェクト「Academimic」のメンバーたち。
ゲストには、豊かなアイデアで領域を横断するプロジェクトとして、光の三原色を使用する「RGB_Light」プロジェクト、培養肉や培養液のエナジードリンクを開発する「A cultured energy drink」プロジェクトを迎えます。
サイエンスとクリエイティブを横断することで描かれる未来について、白熱した議論を見てみましょう。
登壇者 ゲスト |
トークイベントはモデレーターのAcademimicがサイエンスに関して「心が動いた原体験」をシェアすることからスタートしました。
浅井:「リベットの自由実験」って知っていますか?アメリカの生理学者ベンジャミン・リベットが1983年に行った自由意志に関する実験で、人が動作をするとき、意志の前に神経活動が立ち上がる事を証明した出来事です。僕は高校生の時にこの実験をを知って衝撃を受けました。色んなことを自分で決めてきたつもりだったけど、それが実は抗いようのない神経の反応によって決定されていることだったんです。それ以降、世界がガラッと変わって見えました。そういった科学の情動的な部分を「エモい」形で伝えたいとAcademimicを発足しました。
水山:僕も科学に世界の見方をひっくり返された経験があります。小さい頃に心は心臓にあると思っていたんです。けれど、心があるとされているのは実は心臓ではなく脳で、その重さはたった1.2キロほどしかないんです。草や風といった光景や自分の中に芽生える緊張感を豊かに感じている一方で、たった1.2キログラムの脳が朽ちたら全てが無くなってしまう。それは非常に怖くもあり、一方で、不思議な軽やかさも感じました。そんな感覚を世の中に広めたい。そう思って浅井君と一緒に活動をしています。
宮田:僕はサイエンスコミュニケーターとして働いています。科学やテクノロジーの考え方を基点に、社会課題や未来の在り方を多様な人と語り合いたいと思ってこの仕事を志しました。大阪万博の時代、チューブの中を車が走ったり不思議な服を着ていたり、これから発展する未来のイメージをみんなで描いていた。でも今は科学技術が複雑になり価値観も多様になりました。そんな時代だからこそ、一人一人が「どういう未来を生きたいか」を考えるのが大事だと思っています。でも、未来を考えるのって敷居が高いんですよね。
水山:確かに、敷居の高さは僕も感じます。「未来を考えよう」なんて言っても、つらい過去があったり、現在のことに精一杯で未来に思いを巡らせる余裕のある人ばかりではない。「強さ」や「余裕」のある人のものと思われている部分もあるかもしれません。一方で、そうした各々の個人的な痛みや弱さを引き受けて未来に向かおうとする時にこそ、アートや「エモさ」が寄り添えるのではないかとも感じています。
宮田:大人数でも少人数でも、複数の人が集まる場で個人の物語性や人生の価値観、つまりナラティブな話をすることは難しいですよね。その敷居を下げつつ、ナラティブと向き合ったサイエンスの話をするきっかけをつくっていきたいです。
水山:個人の体験から共通項を見出して話をすることもできますよね。例えば恋人と別れた辛さはみんなが持っている。そうしたエモいエピソードを共通項に「人間関係って難しいよね」「じゃあこれからどうしていこう」という対話の場を作っていけたらいいと思います。
科学を通して共通の未来を考えること、個人の体験に基づくナラティブを感じること。一見正反対のように思えるあり方をつなぐヒントは「クリエイティブ」にあるといいます。そこで、「Academimic」が立ち上げたコミュニケーションプロジェクト「Neu World」が紹介されました。
宮田:「Neu World」は、SF作品を作るところから未来を考えるプロジェクトです。研究テーマを取り上げて、クリエイターの方と一緒に企画会議やトークイベントをして、作品を作る。作品を通してコミュニケーションする場をつくっていく。どうみんなを巻き込むか考えてAcademimicさんにお願いしたら、ワクワクするようなコンセプトムービーやイラストをつくってくださいました。
浅井:国というスケールで未来を考えると、大阪万博の時代に描かれたような壮大なスケールのものになってしまう。でも、それだとリアリティがない。どうしたら一般の人にも広く伝えられるんだろうと考えて、Twitterの漫画に注目しました。「いいね」が押されている数は読んだ人の感情が動いた数だと思ったんです。クリエイターの力を借りて、科学では届かない感情に響くようなコンセプトやムービーを考えました。
水山:科学って強い未来を描いて社会を発展させていくイメージがある。それだと個人がついてこれないときもあると思うんです。「Neu World」は個人の物語に寄り添ったものであることを大切にしながらつくりました。
イベントの後半では、光の三原色を使用し影がカラフルになる照明を制作したRGB_Lightプロジェクトの河野未彩、培養肉や培養液のエナジードリンクを開発するA cultured energy drinkプロジェクトの田所直樹を加えて、クロストークが行われました。より多くの人に新たな価値観を伝えていくためにどんなことが必要なのでしょうか?
水山:新しい価値観が世に接近するためには共鳴する人が要ると思います。受け入れる側も、自分の枠からはみ出す怖さや理解するための労力がいる。社会からの抵抗もある中で、それでもみなさんがプロジェクトを行うのはどうしてなのでしょうか。
田所:僕は培養肉という文脈で、その先の病気の悩みをなくしたい。培養肉に機能性を持たせることで、再生医療に使えるんです。実は僕は小学4年生の時に交通事故にあい、「99.9%死ぬ」と言われていた状況を生き延びました。「今日死ぬかもしれない」と思ったら、好きなこと絶対やり通そうって思いましたし、生きたいのに生きれない命があるんだなと思ったんですよね。
水山:未来に向かう「原動力」のような出来事を伝えられたら、多くの方に共感していただけるかもしれないですね。田所さんの培養液のエナジードリンクも、河野さんの光の三原色のライトも、考え込まれて研究された科学の原理に裏打ちされているのに、アウトプットはユーザーの心が動くように設計されている。そういうバランスが鍵となっている気がします。
田所:ありがとうございます。僕のバックグラウンドはやや特殊なこともあり、熱い想いを一方的に話しすぎると、相手にとっては重く受け取られてしまうこともあります。そこを強調しすぎずに純粋にプロジェクトの面白さを伝えることで、多くの人に届いていくという実感がありますね。
河野:私は手品の種明かしをする感覚で伝えています。例えば、日々使っているスマホが動く原理はわからない。けれども、ひも解いていくと単純な仕掛けの仕組みの連なりだったりするんです。私のつくっている照明が、そういう事に気づいていただくきっかけになればいいなと。
浅井:新しく面白いものは諸刃の刃なんですよね。ハードコアなのが面白さでもある。でも難しすぎると近づけない。だから伝えていくためにも、デザイン性やコミュニケーションプランニングが大事だと思います。100BANCHのナナナナ祭という場所も、僕たちギークにとってありがたい場であると思います。
トークの最後、会場からサイエンスとクリエイティブの関係性、可能性についての質問が寄せられました。田所は「問いをどう解消するかに科学やクリエイティブの価値がある」と答え、宮田は「両者をコミュニケーションの起点として、世の中の閉塞感を打破していきたい」と、それぞれの展望を踏まえて回答。サイエンスとクリエイティブの融合がどんな未来をつくりだすのか、参加者とともに想像を巡らせるイベントとなりました。