The Herbal Hub to nourish our life.
からだとローカルを元気にする「薬草カレー」づくり
「食べることって、本当は人生をデザインするもの。良くも悪くも変えていくものなので、食べることでみんなが元気に幸せに良い人生を送っていけるような、寄り添う仕事がしたい。」
GARAGE Program 2期生「The Herbal Hub」の新田理恵(TABEL株式会社 代表)は、日本の薬草文化をもとにした伝統茶ブランド「tabel」の商品企画・販売を行いながら、食卓研究家として、現代の食卓にからだの慈しみと風土の魅力を伝えるおいしさの提案に取り組んでいます。
そんな新田が「食」に魅せられたきっかけや現在の活動内容、100BANCHに感じている魅力などをお伝えします。
TABEL株式会社 代表 新田理恵(GARAGE Program 2期生 The Herbal Hub プロジェクトリーダー) 管理栄養士であり国際薬膳調理師。食を古今東西の多角的視点からとらえ、料理とその周りにある関係や文化も一緒に提案し、食品開発やレクチャーを行う。日本の在来ハーブ・薬草のリサーチをはじめ、日本各地つなげながら伝統茶ブランド{tabel}を2014年に立ち上げる。2016年8月にTABEL株式会社へと法人化し、2018年より薬草大学NORMも開催。著書に「薬草のちから(晶文社)」がある。 |
新田:伝統茶「tabel」というブランドをやっている新田理恵と申します。100BANCHには2017年に2期生として入らせていただきました。日本のハーブの拠点になるような取り組みをしていきたいと入居し、「The Herbal Hub」というプロジェクトをやっていました。もともと管理栄養士で、現在はこれからの食生活がどう豊かで健康的なものになっていくだろうか、そのためには何ができるだろうかと考えながら「食と健康」をテーマに商品開発やレクチャー等をしています。
新田:特にフォーカスしているのが「お茶」です。お茶はたくさんの種類があり、緑茶や紅茶は茶の木からつくるのですが、ハーブティーのように茶の木以外の植物からつくるものもあります。実は私たちの足元に生えているような植物にも面白くて個性的なものがたくさんあります。それらを活用していくと、私たちのカラダはもちろん、社会も変えていくぐらいのインパクトがあるんじゃないか、という仮説をもって活動しています。「食べる」ことが私のメインテーマなので、会社名もそのまま「TABEL株式会社」としました。「食」という漢字も実は分解すると「人を良くする」と書くことができます。
私の原体験として、高校2年生の時に父が重い糖尿病になったり、親友が拒食と過食を繰り返したりといった「食」が凶器になるような強烈な出来事がありました。その体験から「食べることって、本当は人生をデザインするもの。良くも悪くも変えていくものなので、食べることでみんなが元気に幸せに良い人生を送っていけるような寄り添うような仕事がしたい」と思って活動しています。
新田:「食生活のアップデート」をテーマにしていますが、食生活を変えることはすごく難しいですよね。「野菜を食べなきゃ」と分かっていても実行するのはなかなか難しいです。そこで、少量でもカラダに良い影響をもたらしてくれる国産のスーパーフード的なものはないかと探していたところ、薬草に出会いました。ヨモギやタンポポなど身近なものも含めると薬草は日本に350種類以上ありますが、それらをうまく使うことで私たちのカラダも食卓も文化も豊かになっていくと気づきました。身近に生えているのに活用できていない「未活用の自然資源」と呼んでいます。そういったものは、山が多くて産業をつくることが難しい地域でも、「逆に可能性がある」という提案ができたり、医療費が年々かさんでいく日本で、健康管理の面でも自立することができる、といった二つの良い面があると考えています。
新田:そんな風に「薬草って面白そうだな」と思ったものの、どこにいったら見られるのか、手に入るのか、最初は分かりませんでした。さらに、薬膳の勉強をしていたときに蓮の葉のお茶がお腹の調子を整えるのに良いらしいから飲んでみよう、と横浜中華街に買いに行ったのですが、そこで買える蓮の葉茶は中国産しかありませんでした。日本にも蓮が生えてるのだからそれを使えば良いのでは?と思い、蓮農家さんに会いに行ってみることにしました。そこで九州の蓮農家さんと出会いました。
新田:外来種を育てている農家が多い中で、その蓮農家さんは貴重な在来種を守って育ててらっしゃる方でした。しかもお茶にして飲むと「今まで飲んでいた蓮茶は何だったんだ」というぐらいすごくおいしかったです。そこから様々な農家さんのところへ訪問し、薬草工場という存在を知るなどいろんな気づきを得ました。そこで、このステキな人たちを応援したい、こんなステキなお茶を飲み続けたいし、まわりにもお裾分けしていきたい、という想いが生まれ、お茶のブランドを立ち上げることにしました。
新田:そんなことを細々と9年ぐらい続けてきましたが、最初に100BANCHに応募をしたプロジェクトは日本の薬草をつかったカレー作りでした。今思えば、3ヶ月という短い活動期間の中でもできることを、という打算的な考え方でした。しかし、メンターの先生と「自分が本当にやりたいことってなんだろう、本当に起こしたい社会の変化ってなんだろう」といろいろとぶつかっていく中で「商品づくりをやってるだけじゃダメだ、もっと本質を見据えたい」と思い至りました。商品で売上を出すことよりも、薬草について学ぶ場となったり、薬草を使う人が増えたり、困ったことを助け合える社会をつくる方が私はワクワクするので、コミュニティづくりをすることにしました。薬草大学NORMというプロジェクトが最初の活動です。
新田:色々と商品も開発しました。クラフトコーラをつくったときは、メンターであるカフェ・カンパニーの楠本さんに飲んでいただき、そのままカフェに導入していただいたこともありました。
新田:牛乳に溶くだけでジンジャーチャイができるペーストもつくりました。その際には NODOKA- ORGANIC JAPANESE TEAというオーガニックでおいしい抹茶をつくるチームが開発した和紅茶のパウダーを使わせていただいたり、商品の「めざめろ、からだ。」というキャッチコピーは、未来言語 プロジェクトの河カタ ソウくんに考えてもらいました。うまく協業しながら助けてもらえるような、コラボがありました。
あらためて、100BANCHで変態・成長したことはなんだろう、と考えました。ナナナナ祭など色々なチャンスがあってコラボや協業をすることが増えたので、他の人と協力することが上手くなったと思います。100BANCHに入る前は、自分だけで頑張ろうとしていました。ですが、自分と違うことができて、すごく面白く、尊敬できる素敵な仲間が増えていくことで、何かを一緒にやれたり、自分の力量や想像を超えるようなことができるのがすごくうれしかったです。だんだんとそれが身について、自分の組織をつくれるようになったのは私にとって大きな脱皮でした。また、協業やコラボをするためには、自分の強みがわからないといけません。その方が相手にとってやりやすいですし、境界線を良い意味でつくることがうまくやっていくコツだと感じました。さらに、周りから触発をされ、自分一人でいるより早く動けるようになりました。未来を早回ししてるような、アクセラレートしてもらっているような感覚です。まわりがみんな頑張っているから、自分も専門分野でとにかく頑張ろうと集中できるのも良かったです。
また、昔からぼんやりと「いつか大学院に行きたいな」という思いがありました。メンターの岩田先生との出会いで、やはり自分の専門性を確かなものにしたり深めていくために大学院に行きたい、とあらためて考えました。岩田先生には相談に乗っていただいたり、推薦状も書いていただき、大学院に進学することができました。
100BANCHは異世界との出会いみたいなところが面白いと思います。私は、伝統、ローカル、植物、食べる、と原始的なものと向き合う仕事をしていましたが、100BANCHに入ると、最先端のテクノロジーを活用するようなチームと出会ってまったく新しい発想が生まれたのも良かったです。
新田:自分の枠を飛び越えたい!と思ってる人には100BANCHは本当に格好の場です。やりたい、と思ったらすごく応援してくださる人も多く、思考の枠を外すような出会いや話もたくさんあります。ただ2Fのガレージで黙々と作業しているだけよりは、イベントに参加したり、みんなで話してみたりするともっと楽しめると思います。私は周りで頑張っている人をみつけたら、お菓子やお茶をおすそ分けをして、話すきっかけを増やしました。
新田:今までずっとWebショップで展開をしてきたので、そろそろ場を持ちたいと思って今年は物件を探しています。薬草大学というイベントをこの場からスタートさせましたが、オンデマンドとリアルを織り交ぜながら展開していきたいです。具体的には、資格を取得できたり、みんなで山を運営したりするような、実際の場づくりを考えています。
日本は世界に誇れるトップクオリティの日本茶をつくれるので、ハーブティーも世界最高レベルのものをつくれる可能性があると思っています。1年後にはその挑戦をしてみたいと考えています。日本各地にいろいろな薬草工場さんがいますがどの方も、地域が良くなるように、みんなが元気になるように、という想いで働かれています。これからも、彼らと連携していきたいです。「ハーブ産業のHUBに」というのは、最初に100BANCHでやったプロジェクト「The Herbal Hub」の想いですが、それがだんだんとカタチになってきていると思います。
新田:ナナナナ祭などに参加する中で「Qusnoki」という食養生AIアプリもつくりました。10問ぐらいの質問に答えると、中医学に基づいて8つの分類の中からみなさんの体質が分かります。私は何の薬草が合うか、どんなことをすれば元気になれるかをアドバイスしてくれます。このアプリですが、実は数ヶ月前にブラッシュアップして、クロノタイプが表示されるようになりました。クロノタイプというのは、朝型とか夜型といった睡眠の嗜好です。大学院で学んできた「時間栄養学」がとても面白く、取り入れてみました。これまでの常識はどんどん更新されていて、栄養計算に関しても、これまで2大要素だった「量」と「内容」に加え「何時」という時間の要素が入ってくるようになってきています。もちろん「食」を変えることも効果はありますが「睡眠」も影響が大きいものなので、今とても気になっている分野です。食事のアドバイスでの改善率は2〜3割ぐらいなのですが、睡眠を変えると8割ほど改善される結果も出ているそうです。体内時計に沿った暮らしがちゃんとできると、代謝など生命活動がスムーズになります。食べたものからしっかりと栄養素を吸収し、本当に基礎の基礎みたいなところから整っていくので、体内時計に関するサポートができたらいいなと思い、アプリやAIの開発も実験をしながら少しづつ進めています。
これまでの伝統だけにとどまらず、新しいテクノロジーやアカデミーの研究の最先端の分野と行き来しながらつくることは、100BANCHで学んだ1番大きなことだと思います。今の私の原動力にもなっています。
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。