EVENT REPORT

2022.08.01 Mon

小さくてもいいから実践者になろう
実験報告会メンタートーク:林千晶さん(株式会社ロフトワーク 共同創業者)

  • #GARAGE Program

2022年6月のメンタートークは林千晶さん(株式会社ロフトワーク 共同創業者)が登壇。2022年6月で設立から5年間つとめてきた100BANCHのメンターを退任されるタイミングで、100BANCHでのプロジェクトに参加しているメンバーに向けて、ご自身の想いを語りました。

(撮影:鈴木渉)

100BANCHはパナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーの3社が協働して 2017年7月7日に誕生しました。それから約5年間、メンターとしても100BANCHを見続けてきた林さんは今回のメンタートークで「100BANCHのみんなへ」と題し、これまでの経験から得た学びや考えを紹介しながら、夢に向かう若者たちにエールを送りました。

 

登壇する林千晶さん

 

林さんのプロフィール

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD」などを運営。MITメディアラボ 所長補佐、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立。現在、取締役会長を務める。

 

林:今、私が立っているこの木のステージがありますよね。100BANCHがオープンする時はすごい反っちゃって大変で「どうしよう、もう1回作り直さなきゃ」みたいな、そんなドタバタではじまったけど、気がついてみると5周年。今後もずっと続く形になっていて、本当にうれしく思っています。メンタートークも「こないだやったばっかりでは?」と思っていましたが、ちょうど1年前でした。時間が経つのは早いですね。

前回のメンタートーク

自分らしい生き方やあり方を追求する—— 実験報告会 & メンタートーク(株式会社ロフトワーク・林 千晶さん)

 

林:実は、22年働いたロフトワークも3月末で退社をしたし、5年間やらせてもらった100BANCHのメンターも今月末でひと区切りをつけることになりました。100BANCHのプロジェクトメンバーに、改めて過去、そして未来のお話をさせていただきたいなと思ってやってきました。

 

林さんは「今まで自己紹介ではあまり言ってこなかった」と前置きをしつつ、自身の幼少期を話し始めました。

 

林:私は幼稚園から小学校5年まで、アラブ首長国連邦のアブダビで育ちました。でもそれを言うと「だから林さんは変わってるのね」となってしまうので「アラブで育ったのは関係ないです」と言ってきたんです。でも、たったひとつ、アラブで育ったことで変わったな、と自覚してたことがあります。

 

アブダビで一番印象に残ってるのは、庶民よりもラクダの方が貴重だという話を聞いたことです。普通、人間の方が大切だと思いますよね? だけどアブダビで砂漠を旅する時は、日照りに負けず水がほとんどなくても生きていけるラクダの方が、庶民よりも大切にされているんです。ということは、人間ひとりの命さえも国によって重さが違う。だから「もし日本に帰って受け入れられなかったら、自分と価値観の合う国を探そう」と思ったことをすごく覚えてます。

 

 

林:とはいえ、中学、高校、大学と日本で自分が受け入れられるように努力をしました。ある意味自分を殺して日本のカルチャーに合うように過ごしたんですね。大学卒業後は花王に就職しました。実は花王に行きたいという気持ちはほとんどなかったのですが、大学のゼミ生みんながいいという理由で受けたら、とんとん拍子で受かってしまって。そして入社3年目に広告代理店の人と名刺交換をする機会があったのですが、花王の化粧品事業部の名刺を出したらすごくうれしそうに「よろしくお願いします」って受け取ったんです。「林千晶です」と名乗る前に。つまり、林千晶ではなく花王の化粧品事業部の人と名刺交換するのがうれしかったんだなって。そこで自分は何の価値も生み出してないんだ、と気づかされました。

 

それで、このままここで働き続けていくのが本当に私の人生なのか、と悩みました。みんなが評価してくれる花王と私ひとりがやりたいこと、どちらを選べばいいのか。その時、自分がやりたいことを選んで失敗した時に待っている人生を想像してみたんです。「実家もあるし、着るものは500円でもいい。食費くらいはバイトでも稼げる」と考えたら「失敗と言っても大したことないんだな、だとしたら、林千晶の人生を選ぼう」って。その思いから私はアメリカに行きました。「自分がいいと思うかどうかで判断をする」「他の人に責任を委ねない」、そういう人生を選んでいこうって26歳のときに決めました。それ以来、私は「林千晶」の人生を歩んでます(笑)

100年後の日本は、明治維新の頃と変わらないくらいに人口が減ると予測されています。そんな日本の未来を生きる若い世代やこの場にいる100BANCHのメンバーを林さんはすごく羨ましく思う、と話します。

 

林:みなさんは今後、千年単位でも類をみないような極めて急激な人口減少をする大変革の時代を生きることになります。その時代で100BANCHの若きメンバーに頑張ってもらわないといけない、っていうのが私のメッセージなんです。今後、日本全体は単身世帯と家族で暮らす世帯がほとんど変わらなくなるという予測もあります。でも暗い時代なのかといえば、そうは思ってません。人口密度だけで捉えると、憧れの北欧の暮らしに近づくとも言えますからね(笑)

 

 

林:これから地方だけでなく大都市も人口が減少します。今まで、札幌、東京、大阪、福岡など表と呼ばれるところで大きくビジネスが動いていました。それを「動脈のデザイン」と言っていましたが、そうではなくて今後は「静脈のデザイン」が大切になってくる。動脈が動き、静脈がまた血を戻す。静脈は今まで注目を浴びてなかったけれども、分散型で小さい単位で心臓に血を戻す。東京や大阪など、都市の、消費や生活がどんどん分散してくるんです。地方に分散した中でどういうふうにキラリと光る未来が描けるかが大切になってきています。

現在、林さんは「東京にいると聞こえてこない場所に行こう、そしてさらに耳を傾けないと聞こえない声に耳を傾けていこう」と思って動いているそうです。これからやろうとしていることを具体的に紹介してくれました。

 

 

林:今までは、市場という「客体」があってそれを正確に分析できる人が求められていました。花王で働いていた時に私が「これがいいと思います」と言ったら、上司は「お前がいいと思うかは聞いてない。そうじゃなくて、1000人がいいと言ったのか。30代のファミリー層がいいと言ったのかを聞いてるんだ」と言われました。これは、ものすごく印象に残っています。花王にいた時にやってたことは、まさに客体を分析することなんです。でも最近になって、早稲田大学の入山(章栄)​​先生と話したとき「これからは主体者が客体の中に入っていって主体者が自ら行動する。すると客体が変わり、変化が起こってくる。自らが環境の中に飛び込み働きかけることで、新しい価値を生み出していくマインドが大切になってくる」と伺いました。「センスメイキング理論」と呼ばれていて、経営手法としても注目されているそうです。

 

ベネッセの福武(總一郎​​)さんがまさにそれを実践している方だと思います。ベネッセアートサイト直島は、今でこそ注目を浴びてますが20年前は産業廃棄物の山でした。しかし福武さんは自分の育った直島をこのままにしたくない、と自らアート作品を配置し、瀬戸内国際芸術祭を呼び込み、瀬戸内海をアートの観点でどんどん周りに認識される客体へと変化させていきました。瀬戸内海は、今や海外の旅行者が日本に行ったときに行ってみたい場所の5本の指に入るほど人気となったそうです。

林さんは「これからは動脈ではなく、静脈が大切になってくる」と語ります。今後の林さんのチャレンジの場所として秋田県に注目しているそうです。

 

林:静脈の一つとして私が選んだのが秋田県です。22年間ロフトワークを経営していて、秋田県はまったく縁もゆかりもない県でした。だったら秋田県に行ってみよう、と1年前に決めました。不思議なことに秋田で夜中にふらっと散歩していて通りがかったのが、ロフトワークを辞めた人が紹介してくれた、秋田県で起業した男の子の事務所の前。中から出てきた人に「こんにちは」と挨拶されました。

 

会話をしてみると「まさに今、僕たちはこれからどんなことをやりたいか話してるんですよ」と言われ、次々に建物から出てきた8人ぐらいに囲まれました。1カ月後に話を聞くと約束して、また秋田に行ったら全員が夢を共有してくれたんです。その夢の中でいくつか支援したいなって思うものがあり、自分でも不思議なんですが、「よし、秋田から始めよう!」と決心がつきました(笑)。

 

もうひとつは、AIU(国際教養大学)の存在です。緑がたくさんあるキャンパスで「こんなビジネスやれるかも?」ってイメージがどんどん湧いてくるすごくいい大学なんです。私は以前、ベルリンの「フローティング・ユニバーシティ」にすごくインスピレーションを受けました。

 

フローティング・ユニバーシティ

 

林:水辺で昆虫がどう育つか、水辺に成り立つ建築はどうなるか、そもそも大学ってどういうものなのか、ということを問う、新しい大学なんです。建築も仮設のような建物になっているし、校舎も水辺というか泥沼みたいなところ。みんな泥沼の中にじゃぶじゃぶと人が入っていって学んでるんですよ。親子で大学に来て新しい学びを体験している人もいるし、私たちが行っても長靴を貸してくれて「あなたたちは何が学びたいんですか」っていうことを問われる。カフェの手を洗う場所でも微生物の水のタンクがあって、手洗いの水もトイレの水も雨水も全部再生させるんです。レストランで飲むお茶にも再生したお水を使うんです。

 

林:「そういうところが大学なんじゃないの?」って言ってるんですね。実は「フローティング・ユニバーシティ」のような考えの学校が日本にもあって、2020年に日建設計が岐阜県の公立中学校でZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)を実現してたんです。学校全体で太陽エネルギーからエネルギーを作り、自然の換気など建築の工夫で使うエネルギーを減らして、さらにどうすれば使うエネルギーを減らせるかって生徒たちも努力しているっていう。この3つでZEBを達成しているんです。そのことをAIUの方に話したら、ものすごくインスピレーションを受けていました。どういう形になるのかわかりませんが、AIUともうまく連携できたらいいなと思っています。

最後に、林さんは、若い世代の声に耳を傾け、その変革を少しでもサポートしていきたい、と語ります。

 

林:小さくてもいいから実践者たれ。大勢の発言、新聞に書いてあること、そんなのは一切やらなくていい。小さくていいから、仲間と感じたリアルなインサイトをアクションにする。そういう実践者が100BANCHから ひとりでも多く生まれてほしいなと思ってます。たくさん経験をして大胆な夢を実現してください。夢は予測するもんじゃないよ。夢は自分たちで作って実現するものだよ。これが5年間100BANCHのメンターをしてきた私からのメッセージです。これからも100BANCHのメンバーのいろんな報告を心から楽しみにしています。

 

 

GARAGE Programの成果報告ピッチレポートはこちら

<次回実験報告会>

100年先の未来を描く5プロジェクトがピッチ!

8月実験報告会&ナビゲータートーク:河野辺 和典(13期生 Personalized tea experience with teplo/株式会社LOAD&ROAD

日時:2022年8月26日(金) 19:00〜21:00

無料 定員100名

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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

https://100banch2022-08.peatix.com
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また今回からGARAGE ProgramのOBOG陣から1人をナビゲーターとして迎え、プロジェクトのその後を伝えてもらうナビゲータートークもお送りいたします!
今回のナビゲーターは、13期生 Personalized tea experience with teplo 河野辺和典さん(株式会社LOAD&ROAD)です!

【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・Garage Programへの応募を検討されている方

【概要】
 日程:8/26(金)
 時間:19:00〜21:00
 参加費:無料
 参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。

【タイムテーブル】
19:00-19:05  はじまりの挨拶

19:05-19:15  1000BANCHの概要プレゼン
19:15-19:45  OBOGナビゲータープレゼン
19:45-20:30  現役・延長卒業メンバーピッチ
20:30-21:00  交流会・撮影
■登壇プロジェクト
 卒業ピッチ(プロジェクト)
 [卒業]
Sci-Cology
獅子舞生息可能性都市
縁側プロジェクト
SoundAirport
[延長]
DELIVERY DRAWING PROJECT

■ナビゲーター情報

河野辺和典(GARAGE Program13期生)株式会社LOAD&ROAD

日本でロボットエンジニアとして経験を積んだ後にアメリカへ留学。留学中に起業しお茶のIoTデバイスを開発。

WRITER

100BANCH編集部

#GARAGE Program