- イベントレポート
科学の根源にある面白さをわかちあうには——DESIGNART TOKYO 2023アーカイブ
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。
2021年12月の実験報告会には、メンタートークに世界株式会社 / CEKAIの共同代表・加藤晃央さんがリモートで登壇。クリエイティブの領域で革新的な仕組みを生み続ける加藤さんの起業の経緯、現在の活動やその思いを語りました。
21歳で起業してから15年ほど経ったと話す加藤さん。今回はそのきっかけから、現在の活動に至るまでのプロセスを紹介しながら、そこで得た大切な気付きを参加者に伝えました。
メンターの加藤晃央さん
加藤晃央さんプロフィール
1983年、長野県生まれ。2006年、武蔵野美術大学4年在学時に起業し株式会社モーフィングを設立。2007年、クリエイティブチームである株式会社TYMOTE立ち上げに参画。2013年、同世代のフリーランス化や独立起業の流れの中、個が集結できる場所としてクリエイティブアソシエーションCEKAI / 世界株式会社を設立。2018年、クリエイターのためのコレクティブスタジオ「村世界」を開村。クリエイターの可能性を高め、繋げ、拡張させることをミッションとし究極の裏方を目指す。
加藤さんは高校卒業後、武蔵野美術大学に入学。しかし、すぐ壁にぶつかったと言います。
加藤:すごい奴らがたくさんいたし、課題や行事に難しさを感じて「自分はここでやっていけないかな」と早い段階から挫折してしまったんです。クリエイターやアーティストになれたらいいなと思っていたけど、これは無理だなって。でもクリエイティブには興味があったし、クリエイターとは近くで関わっていたかったので、1、2年生の頃はとにかく彼らがやってほしいことや、彼らが苦手なことを全部やることにしました。
運営、会計、交渉、調整、予約、準備など、ものづくり以外でクリエイターが必要なことをとにかく必死で行う日々。加藤さんは自らの活動を「クリエイティブマネジメント」と呼び、その領域を広げていきます。
加藤:とはいえ、それはどこまでいっても雑用なので、もう少しものづくりに関わりたいと考えるようになり、デザインや映像、ファインアートやファッションなど、さまざまな授業を通してものづくりを一通り学びました。そのプロセスを知ることで、クリエイターと話すときも、単なる裏方ではなく対等に話ができたりるようになり、次第にクリエイターから頼られる存在になりました。
その後、加藤さんは美大生やクリエイターが特に苦手とする営業をサポートして、学内だけではなく社会に発信する取り組みを開始。全国の美大生が参加したフリーペーパーの創刊や、美大生の作品を売り込むための総合展覧会の開催、新卒美大生に向けた就職メディアを立ち上げました。
2006年、加藤さんは大学4年生で起業。起業とクリエイターをつなぐ株式会社モーフィングを設立します。マッチングプラットフォームをつくり、クリエイターの価値を社会へ発信すると、次第にさまざまな企業がその発想や価値を感じ、次々と仕事の依頼がくるようになります。2006年から2014年までの8年間で、約2000プロジェクトをクリエイターと一緒に生み出しました。
加藤:しかし、どんどん企業で関わる人が増えていくと企業の影響値が強くなってしまい、クリエイターとの摩擦が生まれてしまったんですね。そこで「そもそもクリエイターのためになっているのか」と悩みました。そのいちばん大きな原因は、クリエイティブにおけるさまざまな言い訳によって、クリエイターの熱量がどんどん失われていくこと。もともとマネジメント側はいい環境を作ったり、いいものづくりをサポートしたりすることで、そしてクリエイター側は純粋にいいものを作りたいという思いで動いていたのですが、企業の案件やプロジェクトになると「〇〇がない」ということが増えていったんです。
「予算がなくて」「時間がなくて」「クライアントの理解がなくて」……、クリエイター側からも企業側からもどんどんそういった「○○がなくてできない」という声が増えていくと熱量を失うことになり、どんどん妥協したものができてしまう。加藤さんは、「クリエイターとマネジメントがセパレートしたり議論をやめたりした瞬間に熱量は生まれなくなるので、双方で思想や意図をすり合わせ続けないといけない」と言います。
加藤:図のように、マネジメントとクリエイティブが少しくっついたり微妙に繋がっていたりする状態を続けていくことが大事だと思いました。この接続している部分こそが新しくて自由な、そして多様ないいものが生まれていくエネルギーになると。でも、一方でクライアントとクリエイターの間で双方をつなぐことに限界を感じてしまったんですね。そこでクリエイターとマネジメントが同じ立場、同じ組織として一緒に同じ課題に向き合ってものづくりに向き合っていくことが結果的にいいものづくりになり、いい環境ができるのではないかと考えました。
つまり、ものをつくることから始めるのではなく、その前からクリエイターと一緒に「そのものをつくるためには、どういう環境がいいのか」、「どうすればクライアントとすれ違わないようにできるか」「いいものって何だろう」と話し続けて、探り続けていくことが重要じゃないかと。もともと僕たちはクリエイターと企業の間にいたのですが、クリエイターとマネジメントが一緒になった組織をつくろうということで、新しい組織を作りました。
2014年に加藤さんの株式会社モーフィングと、映像ディレクターでクリエイティブディレクターの井口皓太さんが立ち上げた株式会社TYMOTEが原型となり、CEKAI(世界株式会社)を設立。加藤さんはCEKAIについて、「いいものをつくる、いい環境をつくる」ことを突き詰めていこうとする組織だと言います。
加藤:まず、いい環境をつくるという組織自体がどうあるべきか、そして、それを継続していくための体裁を設計するなくてはいけないと考えました。CEKAI を設立した2014年は、僕の同期が独立や転職をし始める年齢でもあり、社会的にも復業や副業をする時期でもありました。さらに考えると、そもそもクリエイターは組織に縛られずもともと野良の存在だと気付いた。そういう背景から、これからは「企業」ではなく「個人」が主役の時代になっていくだろう。そのための個が集まるクリエイターのためのクリエイティブ組織をつくろうと考えました。
「企業」から「個」の時代へ。加藤さんは、CEKAIは会社ではなくてアソシエーション(連盟・協会)という定義で組織を設計。それを2014年から実践していると話します。
加藤:一般的な会社のように、しっかりとした目的があって、それに応じてウォーターフォール型にタスクが降りてくるような流れではなく、CEKAIはもう少しフラットであり自分たちが自立して自然発生的にどんどん進んでいくようなやり方です。イメージとしては絵本の『スイミー』。それぞれが独立し、自立して活動しているのだけど、プロジェクトや大きな方向性に進むときは、ガッと集まって一緒に進む。そのために日々接続していたり、繋がっていたりする場所です。
加藤さんはCEKAIの組織をイメージした一枚のイラストを紹介。水中に根を張る植物や海藻がCEKAIであり、そこで生活する魚がクリエイターというイメージです。
加藤:水が濁ると魚は寄ってきません。反対に、植物や海藻がある環境が魅力的であったり機能的であったりすれば魚が寄ってくる。この空間に酸素があるのか、おいしい餌があるのか、とても休まる空間なのか、いろんなイメージを持ってそこに葉っぱをつくり、そこに対してみんなが集まってくるような組織。それを会社ではなくアソシエーションというかたちで区切り、拘束やルールがあるのではなく、この幹に集まる人たちを全部ひとつの仲間とする組織を作っているようなイメージです。
CEKAIは契約自由で、現在は約100名のフラット型組織として運営。クリエイターとの雇用関係はなくプロジェクト毎に契約を結ぶクリエイターが約60名、バックアップ組織として雇用形態自由なマネジメント人材が約40名在籍します。
加藤:CEKAIのミッションは、組織に縛られず、個として求められる人の集合体になること。これからの時代は全員フリーランスになる世界が待っている。そのときにこそつながっていられるプロフェッショナルでいようという思いを共有しながら、クリエイターとマネジメントがつながっています。
CEKAIは「共創型のフェアでシームレスなものづくり」を大切にしていると言う加藤さん。クライアントの依頼をただ実現するためだけにクリエイターが動くというよりは、クライアントも含めたワンチームの共創を前提として、役割もどんどん横断しながら、ものづくりを進めていると話します。
加藤:例えば、デザイナー、プロダクション、エージェンシーを飛び越えて直接クライアントに話してそこから生まれるものを大事にすることや、だからといってプロダクションやエージェンシーがいらないわけではなく、それぞれがフラットになり、役割に応じて適切なプロジェクトのゴールをつくることがCEKAIのものづくりの進め方になっています。
CEKAIが行うクリエイターのマネジメント体制は5つのチーム——いい環境をつくる「Association Team」、クリエイターを支える「Management Team」、事業やサービスをつくる「Creative Partner Team」、いいものを作る「Production Team」、後方支援をする「Back Office Team」で構成されています。
加藤さんはこれまでCEKAIが手掛けたプロジェクトを紹介。共同代表の井口皓太さんは、今年開催された東京2020オリンピックで発表された「動くスポーツピクトグラム」、開会式で披露され話題となったパントマイムのピクトグラム映像やドローンの演出も手掛けました。
東京2020動くスポーツピクトグラム
他にも、スポーツブランドのイベントや、ファッションショーの演出、アーティストのプロモーションビデオの制作などを、さまざまなジャンルのクリエイターやクライアント、そしてマネジメントがひとつのチームとなって手掛けてきました。
これまでの活動を振り返った加藤さんは、まとめとして伝えたい3つの項目——「継続は力なり」「はじめは何でも小さい」「成り行きを大切にする」を紹介します。
加藤:プロジェクトを始めた頃はモチベーションが高いけど、続けていけばどこかで熱量を失ったり、それを保ち続けることが難しかったりするので、いかに継続するかが一つのポイントだと思います。僕は最初から何か大きな仕事をやろうと考えていたわけではなくて、本当に身近なところから徐々に拡張と更新をしていき、その流れの中で選択を繰り返してきました。今がうまくいっていたとしても変えていくなど、柔軟であること、接続しようとすることが非常に重要だと思っています。
最後に加藤さんは100BANCHで活動するプロジェクトメンバーにアドバイスを送ります。
加藤:100BANCHという大きなコミュニティの中には多様な人たちやプロジェクトがあり、それぞれが役割やジャンルを区別できると思います。しかし、それはある意味でみなさんのイメージを固定したり多様性を失ったりすることでもある。そういう状態になるのではなく100BANCHは領域を横断してつながっていける場所だと思うので、プロジェクトというチームがありつつも、ここにあるつながりや、そこで生まれる可能性を大事にしながら活動してほしいですね。
そうやって多角的に繋がること自体が、新しい環境や可能性を生むと思うので、自分たちの熱量を保ちながらも、アンテナを張ったり出会いを求めたりすることで、次の熱量が生まれて新しい可能性になるというイメージをしてもらえたらうれしいです。
GARAGE Programの成果報告ピッチレポートはこちら
100年先の未来を描く6プロジェクトがピッチ!
1月実験報告会&メンタートーク:乙武洋匡(作家)
日時:2022年1月25日(火) 19:00〜21:00
無料 定員100名
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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
https://100banch2021-12.peatix.com/
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストは乙武洋匡(作家)さんです!
【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方
【概要】
日程:1/25(火)
時間:19:00〜21:00
参加費:無料
参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介
19:15〜20:00:メンタートーク
・乙武洋匡(作家)
20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評
登壇プロジェクト(現役)
・Bridge Letter:障がいのある中高生の、今と未来の架け橋になるメールレター
・ShareTech:企業の課題解決を促進する!テクノロジー専門家と企業を繋ぎ「探す・相談」の負を解決
・The 21st century da Vinci:真実の発明が結び目をほどく
・OMAMORI : 誰もが安心して過ごせる社会の実現に向けての第一歩〜安心安全のルート提案アプリ〜
登壇プロジェクト(OB)
・Stat!:リアクションが生き生きと伝わるオンライン通話を実現したい
・NOVA:令和のライフスタイルを定義する「REIWA Fashion Week」
【メンター情報】
乙武洋匡
作家
プロフィール
1976年、東京都出身。先天性四肢欠損により、幼少時より電動車椅子にて生活。大学在学中に著した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。海外でも翻訳される。大学卒業後はスポーツライターとして活躍した後、小学校教師として教育活動に尽力する。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している。