• イベントレポート

【ナナナナ祭2019:ピックアップ】どこでもドアが究極の移動手段?私たちが望む「移動の未来」とは。渋谷100BANCHで熱くディスカッション

パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーが運営する100年先を豊かにするための実験区「100BANCH」は、7月6日(土)から14日(日)まで、9日間にわたる『100BANCHナナナナ祭2019』を開催。

本記事では、最終日に行われたイベント「移動の未来」の様子をお伝えします。

100BANCHナナナナ祭2019 >> https://100banch.com/nanananasai/2019

 

究極の移動手段は「どこでもドア」?

9日間にわたって開催された100BANCHナナナナ祭。「移動の未来」はその最終日の午前中に開催されました。

霧雨の降りしきる、あいにくの天候にもかかわらず会場には多くの人が詰めかけ、場内はほぼ満員。ナナナナ祭の中で最も多くの申し込みがあったイベントということもあり、注目の高さが伺えました。

https://100banch.com/events/18354/

イベントの登壇者は、木下拓也さん(ヤマハ発動機株式会社 執行役員/MC事業本部長)

村瀬 恭通さん(パナソニック株式会社 執行役員/モビリティソリューションズ担当)

青木大和(BUSHOUSE/株式会社DADA代表取締役CEO)

中根 泰希(e-kickboard shareing/株式会社ema)の4名。

モビリティ事業にかかわるベテランと若手が集まり、会場全体を巻き込んだ熱い議論が交わされました。

登壇者をかんたんに紹介した後、モデレーターを務める100BANCHの則武里恵からこんな疑問が会場内に投げかけられました。

「Q.究極の移動手段はどこでもドア? 使いたい/使いたくない 使うとしたらどんなシーン?」

この疑問をテーマに、会場に集まった参加者の皆さん同士でさっそくディスカッションがスタートしました。話しやすいテーマなのか、ほぼ初対面であるにもかかわらず会場内では活発な話し合いが繰り広げられています。こうした参加者同士のコミュニケーションが自然に、かつ活発に行われるのはナナナナ祭で行われるイベントの、ひとつの特徴です。

約10分間のディスカッション終了後、会場内では少数派だった「どこでもドアを使いたくない派」の方々を中心に意見を聞きました。

〈どこでもドアを使いたい/使いたくない理由〉

・移動中に出会う楽しみがなくなってしまうから

・健康に良くないから。でも、遠いところに行くときは使いたい

・通勤・通学時には使いたい。旅行のときは行く間の楽しみが減るので使いたくない

・移動の利便性が高まることで、観光地の人口密度が異常に密集すると思うから

・入浴中のしずかちゃんのところに突撃できるなど、セキュリティ的に問題があると思うから使いたくない

最後の「入浴中のしずかちゃん~」のくだりには会場内からどっと笑いが起こっていました。モデレーターの則武も「その視点はなかったです」とコメント。

「どこでもドアを使いたくない派」の意見には、使いたい派の人たちにとっても賛同できるものがあったようで、うなずく人が多く見受けられました。たしかに、どこでもドアは究極の移動手段なのかもしれませんが、それを使いたい移動と使いたくない移動とがあるようです。

では、どこでもドアをどういう移動のときには使いたくて、どういうときには使いたくないのでしょう。その疑問にヤマハ発動機の木下さんがこんな考えを寄せてくれました。

「8割くらいの人は便利なほう、つまり、どこでもドアを使いたいと思っていると思う。でも、残りの2割くらいの人は自分の能力を開発したいという欲求に向かうのでは。また、バイクのツーリングのように、移動そのものを目的としている場合もある。どこでもドアを使うかどうかは、移動という行為自体を私たちがどう捉えているのかにもよるだろう」(木下さん)

 

パネルディスカッション:「移動」の未来はどうなる?

会場内のアイスブレイクも兼ねたディスカッション、そして登壇者4名の紹介後、いよいよパネルディスカッションがスタート。まずは最初に提示された「どこでもドアは究極の移動手段か?」をきっかけに話が展開し始めました。

木下さん:先ほども話に出たように、移動には「どこでもドア」のように効率化を求める移動と、偶然の出会いを求めるセレンディピティ的な移動とがあります。ヤマハはどちらかというと後者を提供する企業で、移動の価値をアップデートしていきたいと考えています。

則武:移動にまつわるセレンディピティについては、登壇された全員が大事にされているのでは、と感じます。中根くんもキックボードのそうした部分に魅力を感じて起業したようですが?

中根:キックボードはスタンディングモビリティであり、そこに大きな魅力を感じています。立っている人と同じ目線で話せるのでコミュニケーションを誘発しやすく、自転車を超える価値があると考えています。

則武:村瀬さんは? 移動の価値をどう考えていますか?

村瀬さん:パナソニックは「ヒトを中心にしたサステナブルな街」の開発を目指しており、ヒトを中心とした移動という面では中根くんの考え方と似ています。ヒトとヒトとが出会うとコミュニケーションが生まれ、街が元気になる。ただ、社会全体のことを考えると、ヒトだけを中心に置くわけにいかないこともある。結局は社会と個人とのバランスが重要になるでしょう。

則武:このイベントに多くの申し込みがあったことから、移動の未来に興味を持っている人は多いと思うのですが、どうでしょう。皆さんはなぜモビリティに関連する事業をやっていますか?

青木:移動の未来や可能性に期待して集まっているのか、それとも移動にストレスを抱えているから集まったのかは表裏一体だと思うんですね。満員電車に代表される移動にみんながストレスを抱えているのは事実で、そこに対する課題解決はやっていかなければいけないと思っています。僕がモビリティに関するスタートアップを始めたのは、モビリティ革命にはインターネット革命を超える次元のマーケットがあり、インターネット革命に乗り遅れた日本が盛り返せる最後の手段だと思うから。マーケットドリブン的な意味もあるんです。

木下さん:日本の産業において、世界で40%以上のシェアをとっている日本製品は二輪車だけ。うかうかしているとシェアをどんどん失ってしまうので、今のうちにどうにかしなければと考えています。ただ、四輪車に比べて二輪車への自動運転やAIなどの投資額は圧倒的に少ない。それゆえ若干ホワイトスペースでもあるので、そこをどう進めていくかを考えたいです。個人的には青木さんの事業「BUSHOUSE」にシンパシーを感じていて、世界中を移動しながら暮らしたいと思っています。そこに今の時代の空気感があるのかもしれませんね。

青木:今は移動に関する選択肢が少なすぎるんです。自動運転についても「自動運転を使うか/使わないか」の二者択一だけでなく、マイクロモビリティが登場したり、Uberのようなサービスが出てきたり、BUSHOUSEのように家自体が動いたり、幅広い移動の選択肢が増えて、自分の置かれた状況によって選べることが望ましいです。選択肢の幅を広げることで選べるものが増えるのが今の世の中にとって最適だと思っているし、そういう議論をしていくことが、世の中が変化するカギになっていくのではないでしょうか。

BUSHOUSEの内部。このようにバスの内部を改造し、家のようなくつろぎの空間を作り出している。

BUSHOUSEの内部。このようにバスの内部を改造し、家のようなくつろぎの空間を作り出している。

 

移動の選択肢を広げるには

青木が発した「移動の選択肢の幅を広げる」という話から、議論がさらに展開していきます。

則武:選択肢の広がりというと、村瀬さんが提示したパナソニックの目指す世界(クルマに過度に依存しない、ヒト中心のサステナブルな街)にもつながりますが。

村瀬さん:選択肢が増えると、自分に合った「ちょうどいい」ものを選びやすくなるんです。それを実現するにはハードとソフトがうまく融合する必要がある。効率を考えると同じものを大量生産するのが望ましいけれど、今後は個々の状況に合わせたものを作れるようになるのがよいと思います。

中根:効率という視点で言うと、クルマには無駄というか余白が多い気がします。1人で移動するだけなのに必ず席は複数人分あるし、スピードも必要以上に出る。そうした余剰スペースやエネルギーを削減したり、有効活用できたりしたらよいのではないのでしょうか。BUSHOUSEには余剰スペースをおもしろく展開していくという文脈もあるのかな、と感じました。

木下さん:モビリティ選択の自由度を上げるというのはヤマハにおけるテーマでもあります。二輪車メーカーの立場でこんなことを言うのははばかられますが、同じ選択肢を示し続けて、二輪車を毎年買い換えさせるのが本当にいいこととは思っていません。

村瀬さん:効率を求めるのも大切ですが、無駄が楽しいという面もあるんですよね。たしかにクルマを持っているけれど、普段乗らない人たちにとっては無駄が多いかもしれない。しかしクルマには「たまにでも運転すると楽しい」という無駄を楽しめる面があります。そうした無駄の楽しさと効率化のバランスをどうとっていくかだと思います。現在はそのバランスを少しずつとっていくしかできないですが、今後の体制によっては加速度的に変わっていく可能性もありますよね。

則武:今後モビリティの選択肢が広がっていくという実感が、まだまだ感じられませんが、その原因は何だと思いますか?

村瀬さん:レトロフィットが一因では。新旧含めたさまざまな移動手段が混在している現在の空間において、新しいモビリティをフィットさせるのはハードルが高いんです。

中根:まさに今、村瀬さんのおっしゃったような課題に直面しています。街の人たちに新しい移動手段を受け入れてもらうのは難しい。移動手段を広げるためには、トップダウンよりもボトムアップのほうが受け入れられやすいように感じています。しかし、エンドユーザーを喜ばせられる方法を作るのには時間がかかります。

青木:法律的なことの難しさは自分も感じています。それがあるのでスタートアップでモビリティをやるのはハードだと思います。限られた資金の中でアウトプットを出すのが大変な上、それでもまだマーケットが開けるのかがわかりません。そこが本当に難しいところです。

木下さん:新しいモビリティを受け入れてもらう方法はいくつかあるが、法律を変えるというのもひとつの手です。実際にヤマハも電動アシスト自転車を出したときに法律を2回変えた過去があります。法律やレギュレーションを変えることで技術革新が進み、新しい市場ができるというのはたしかにあるんです。また、まったく新しい形のものではなく、昔からあるものをアップデートしたほうが、社会には受け入れられやすいですよね。

村瀬さん:青木くんの言うことが非常に身にしみるね。新しいことをやる時にはお金が回ってサステイナブルでないとできない。それは大企業であっても同じ悩みです。本来はテクノロジーが変わると同時に、法律を含めたレギュレーションが変わり、政府も変わっていく…というのが理想だけど、日本ではそのための旗振り役がいないんです。そこが我々も含めた課題です。コンソーシアムで解決するという方法もあるけれど、あまりうまくいっていません。

 

移動=リセット? 移動がヒトにもたらす効果

ここで議論をいったん切り上げ、会場から質問を募集することに。
するとまずは「中根さんが自己紹介の際に言っていた『おもてなしの移動』とはどんなものか?」という質問が飛び出しました。それに対する中根の回答から、また登壇者同士のディスカッションが広がっていきます。

中根:たとえば今後、自動運転になったとき移動中に何をするかだったり、海外のUberのドライバーとつながることで生まれるコミュニケーションだったり、僕のやっている電動キックボードにおける「寄り道ルート」だったり、そうした移動における体験をどうおもてなしできるのか。そういう意味で言っていました。

木下さん:おもてなしに関連して、じつはタクシーや電車など移動体の中で見る広告は、家でテレビで見る広告よりも数倍効果があるという記事を読みました。その理由として「人間は移動中、心がリセットされているのではないか?」という仮説を立てました。最初のどこでもドアの話にもつながるが、朝起きて、ドアを開けたときに瞬間移動のように移動ができてしまったら、果たしてヒトは気持ちをリセットできるのだろうかと疑問に思います。移動の価値や効果をもっと考えたほうがよいかもしれませんね。

青木:一時期、僕の会社がまだ10人くらいだったとき、全社員が同じビル内で一緒に暮らし、そこにオフィスもあった時期がありました。たしかに効率は上がったが、そのときは社員全員つらそうでしたね(笑)

移動の手段だけでなく、移動そのものへの価値観や効果についても、未来に向けてもっと考えていく余地があるのかもしれません。会場内からはもう一問、「今後、未来のモノづくりにおいて、どんなエネルギーを使っていきたいか?」という質問が問いかけられました。

村瀬さん:難しい問題だけど、自然エネルギーを使うのが人類としての責任だと思います。ただ、自然エネルギーは「自然」だけあって、いつ、どこでできるかわからない。電動モビリティが町中に点在するようになったら、自然エネルギーでそれらを補うための全体的な仕組みも考えていかなければいけないですね。

木下さん:我々のようなモビリティに関わる会社は答え方が難しいけれど、エネルギー量全体を見て考える必要があります。単純に石油を電動化するといった代替だけでなく、全体のバランスを見て、新しいエネルギーを考えることが大切。そうした課題も含めてどうするかというのがモビリティ会社の課題だと思います。

 

クロージング:「移動の未来」に描きたいもの

最後に、登壇者から一言ずつ「移動の未来」で描きたいものについてお話をいただきました。

木下さん:個人的にはモビリティで「人間能力革命」を起こしたい。なんなら人間能力革命協会ぐらい作りたいと思っています(笑)。人間の変化は進化。人間能力の開花=ルネッサンスがどうやって行われていくのかを知りたいと思います。

青木:モビリティの領域は日本が世界で勝てる、もしくは変化を起こせる大きなマーケットだと思っています。そのために自社だけでなく、周りのスタートアップや大手企業、政府としっかりコラボレーションしながらやっていきたいですね。

村瀬さん:ヒトを中心にしたコミュニティの活性化を進めたい。モビリティを使うと遠くまで行けて、遠くの人ともコミュニケーションを図ることができます。そんなコミュニティを作るためにさまざまな企業と手を取りながら、みんなで推し進めていきたいと思っています。

中根:街をより良くする移動手段のソリューションを提供し、ヒト・場所・モノをつなげていきたいです。それは一社だけではできないので、会社同士がもっとオープンにコネクトして、一緒にやっていけたら理想的だと思います。

最後は全員、拍手でイベント終了となりました。

「未来をつくる実験区」である100BANCH。そこで行われたナナナナ祭2019のラストを飾るのにふさわしい、未来のリアルな可能性を感じられる内容でした。

 

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