LEADER INTERVIEW

2019.12.03 Tue

電動キックボードは人の行動をデザインする【後編】─「やさしい社会」は自分たちの手でつくる:ema (e-kickboard sharing) 中根 泰希

  • #プロダクト/サービス

  • #シェアリングエコノミー

デザインリサーチを専攻し、アプリの開発と事業化に取り組んでいた中根 泰希(なかね・たいき)さん。そんな中根さんが「目に見える変化」を起こせる手段として新たな可能性を見いだしたのが、「電動キックボード」でした。今、彼が率いる「ema (e-kickboard sharing) 」では、電動キックボードシェアリングサービスの社会実装を実現するため、日本各地で実証実験をはじめています。

中根さんは電動キックボードを、「その地で暮らす人の生活や体験が、より良いものになる手段」と位置づけ、そのシェアリングサービスによって広がる人との出会いやつながりに期待を寄せているのです。

emaが広げようとしている「電動キックボードのある社会」は、私たちの暮らしにどう影響を与えるのでしょうか。そこには、中根さんが理想とする、ある価値観が密接にかかわっていました。

(執筆:大矢 幸世、写真:小野 瑞希)

 

■前編はこちらから:電動キックボードは人の行動をデザインする【前編】─モビリティで広がるまちづくりの可能性:ema (e-kickboard sharing) 中根 泰希

──電動キックボードが社会実装されることによって、どんなことが実現するのでしょうか。

電動キックボードはパーソナルモビリティとして、小型で持ち運びも楽だし、自転車のように跨いで漕ぐのではなく、ちょっと脚を乗せるだけで移動できる楽しさがある。ただ、プロダクトとしての素晴らしさだけでなく、電動キックボードのシェアリングサービスが生まれることで、街としての魅力も生まれるんじゃないかな、と思うんです。

 


-電動キックボードは法令上原動機付自転車に該当するため、取材当日は手で押して撮影しました

 

地方都市では特に、車を使うことが当たり前になって、郊外のショッピングモールに人が流れていって、中心市街地の商店街が寂れたり、百貨店が潰れてしまったりするようになった。でも、電動キックボードで街を回れるようになれば、個人の小さな店にまた光を当てられるかもしれない。そこで地域の横のつながりが生まれて、街に活気が生まれるかもしれません。

よく、モノやサービスを生み出すうえで「マーケットインか、プロダクトアウトか」みたいな議論がありますけど、僕らはちょっと違います。emaのメンバーに言われたのは、「“世界観アウト”だよね」と。確かに、僕らが信じる世界観を世の中に提示することで、それに共感してくれる人々と一緒にサービスを作っていきたいんです。

 

──その世界観って、どういうものなのですか。

僕はよく「やさしい社会」と言っているんですけど、シェアリングサービスってまさにそれを表していると思うんです。知っている人だけでなく、見ず知らずの人とも何かを共有して、それによって選択肢や可能性を増やすことができるじゃないですか。

 

 

ただ、モビリティのシェアリングサービスを自治体と協力して展開するとして、ビジネスとしてはそれで成功かもしれないけど、乗り物を街に提供して、「はい、終わり。あとはみなさんでなんとかしてください」みたいなのは違うと思うし、そもそもそういう立ち振る舞いもできない。どうすれば、そこに暮らす人々が、本当に欲しいと思えるサービスを作れるか。一緒にユースケースを考えながら、ものづくりをしている感覚なんです。

だから、海外のものをそのまま日本に移植するのではなく、いかにそこから脱せるのか。僕らが考える「こんな社会がいいよね」というものを提示して、どんなまちづくりをして、人の移動を生み出して、どんな感情を作れるのか……。起点はプロダクトだけど、やればやるほど、それ以外のことを考えているような感じです。

 

──中根さんが考える理想のまちづくりって、どんなものなのでしょうか。

僕らがシェアリングサービスを提供することで、街そのものは変わっていないのに、新しいものや場所に出合えたり、自分自身を幸せにしてくれる出会いや発見、気づきがあったりする。そうやって、もっと人と人が混じり合い、移動が楽しくなるような街になっていくといい。

「楽しい」って、それまで気づかなかったことに気づいたり、行ったことのなかった場所へ行ったりすることによって生まれる感情ですからね。どうすればそういう感情をもたらせるのかを考えながら、サービスとしてそれを提供できるようになれたらいいなと考えています。

ema (e-kickboard sharing)のプロジェクトページはこちら

 

──こうして話を伺っていると、手段はアプリから電動キックボードへ変化したかもしれないけど、取り組んでいるのは一貫して、人の体験や生活をよりよくしていくのか、ということなんですね。

そうですね、自分の中ではあまり変わっていないかもしれません。会社の名前が「マイメリット」なのも、「自分自身の大切なものはこうです」とそれぞれ生きる上でのマイメリットを持てるようになることを、概念として大切にしているからなんです。自分にとって何が大切なのかをきちんと考えられる人、自分にとっての幸せを自分で作っていけるような人を育めたらいいな、と考えていて。

教育なんかを考えても、親や教師自身も疲弊して、「人を育む」ことに集中できない状況じゃないですか。多くの人が、未来に向けてどう意思決定するか、自覚的になれていない。もっと、自分自身で幸せになろうと意思決定できる人を増やすことができたら、社会としての幸福度も高くなるのではないかと思うんです。

 

──そう考えるようになったきっかけって何かあったんですか?

自分が起業している一方で、同級生たちは就職活動をはじめていたんですけど、就活って、本当に本人が希望する仕事選びをしているようには、正直思えなくて。僕は起業して、やりたいことをやろうとしているけど、周りは「就職しなきゃいけないから」「大企業のほうが安心だから」という理由で、なんとなく就職していく……。

結局、入社して1年とか2年で転職する人も多くて、僕からすると、「そうなるよね……」と感じたんです。やっぱり、自分の心に……自分自身の本心に忠実になれていないんだろうな、って。

 

──確かに。何かやりたいことがあっても、「そんなに甘い世界じゃない」とか「自分には無理だ」と、自分の本心を押し込めるようなことは、よくありますよね。

それって、別に能力が足りないとか、やるかやらないか、ではなくて、単純にそういう「流れに身を任せる」マインドが当たり前に設定されているんだろうな、と思うんです。僕も学生時代、サッカーに明け暮れてた頃は、サッカー選手を目指すという目標を設定して、毎日ただただボール蹴っていた。でも、いま思えば、それって本当に僕がやりたかったことだったのかなぁと。

 

 

やっぱり、自分自身の判断で、自分の選択をするという機会自体が少なすぎるんですよね。日本では小さい頃から、自分で欲しいものを選ぶというより、「こっちのほうが長く使えるよ」とか「そんなにお菓子を食べたら、あとでご飯が食べられなくなるよ」とか、親の判断が物事を左右する。そうではなくて、ちゃんと自分で選んで、決めてもらう。もっともっと自分に忠実になって、やりたいこと、やりたくないことを選んで、生きていくことが大切なんじゃないかと思うんです。

 

たとえば、アメリカと日本では子どもとの向き合い方が違っていて、象徴的なのは「grounded(外出禁止)」という言葉。アメリカでは子どもを叱るとき、自分の部屋に閉じ込めて、一人で考えさせるんです。その後にまた親と話して、何がいけなかったのかを深く考えて、理解させようとする。日本だと「廊下に出ろ」もそうだけど、外に出すじゃないですか。間違ったことをすれば、とにかく罰せられる。それが正しいとみなされているから。

でも、僕が大切にしているのは「正しさよりやさしさを」という言葉なんです。正しさよりもやさしさを優先させて、その先に正しさとは何かを深く考える。そのほうがより本質的な答えや結果が導き出せる気がするんです。

 

──だから、「やさしい社会」という世界観を大切にしているんですね。

電動キックボードは、何が自分にとっての幸せなのか、自分で考えられる人を育むための手段なんです。そのきっかけが、電動キックボードによる移動や、その先にあるいろんな人との出会いによって生まれたらいいな、って。しかもそれが楽しければ、もっといい。実は、いつか教育分野にも関わっていきたいなと思っているんですけど、自分の中では意外とそこから遠いようで近いことをやっているんです。

街をすぐに開発するのは難しいけど、電動キックボードをきっかけに、乗り物起点でどういう暮らしをしたいのか、どんな街であって欲しいのか、一人ひとりが考えて、意思決定して、今度はみんなで一緒に街を作りあげていく。そのはじめのきっかけを、僕らが作れるといいなと考えています。

 

WRITER

大矢 幸世

writer / editor

愛媛生まれ、群馬、東京、福岡育ち。立命館大学卒業後、西武百貨店、制作会社を経て2011年からフリーランス。鹿児島、福井など地方を中心に活動。2014年末から東京へ拠点を移す。話す口実が欲しくて、インタビューをしています。

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