• リーダーインタビュー

コオロギラーメン 篠原祐太:“昆虫食”という冒険が、自分の五感を取り戻す

“「虫を食べる」って、変なことなの?”
“それは牛や鶏、ほかの動物を食べることと、何が違う?”

――「昆虫食伝道師」として活動する篠原祐太(しのはら・ゆうた)の話を聞くと、そんな問いを自分自身に投げかけずにはいられません。

2018年6月に「Cricket ramen(コオロギラーメン)」プロジェクトを引っ提げて100BANCHに入居した篠原。今までは”虫を食べる”という価値観や彼のこれまでの生き方に多くフォーカスが当たってきました。今回は少し視点を変えて、数ある昆虫食のなかでなぜ「コオロギラーメン」をつくるのか、それを提供することで何を伝えようとしているのか、その思いの丈を丁寧に語ってもらいました。

そこには、未来の食となりうる「昆虫食」の新たな可能性に挑戦する真摯な姿がありました。

見た目を削いで、味で勝負するコオロギラーメン

──篠原さんはこれまでフレンチ・和食・スイーツなど、さまざまなジャンルで昆虫食を試作・提供されてきましたが、現在は「コオロギラーメン」の開発を活動の中心にしていますね。どのようなきっかけから、コオロギラーメンをつくるようになったのでしょうか。

篠原:もともと、年間300~400杯食べるくらいラーメンがめちゃくちゃ好きなんです。それで、新宿に「ラーメン凪」というお店があって、よく食べに行っていて。ある日、「今日も凪の煮干しラーメン美味しかった!」とTwitterでつぶやいたら、凪の社長さんから「虫の方ですよね? テレビで見ました!」とメッセージをいただいたんです。

僕は軽く挨拶程度のつもりで「いつも美味しく食べています。いつか虫ラーメンもやってみたいです!」と返信をしたら、向こうが「興味あります、ぜひやりましょう!」と言ってくれて。これは願ってもないチャンスだと思って、すぐに「いつでも行きます!」と日程の調整をお願いして、4日後にはサンプルのコオロギを持って、先方の事務所におじゃまさせてもらいました。

──そこでコオロギを選んだ理由は?

篠原:いろいろな虫で料理を試してきた中で「乾燥コオロギが最もいい出汁が取れるな」という手応えを感じていました。また、ラーメンの出汁(だし)で使うとなると結構な量が必要になります。コオロギは近年、食用の養殖場が国内外に増えてきているので、現実的な仕入れのしやすさからもピッタリだと考えました。

2020/1/8までクラウドファンディング に挑戦中(2019年11月現在)

──2015年の9月に初めて「ラーメン凪・新宿西口分店」で一般のお客さんに販売して以降、その他のイベントなどでも定期的にコオロギラーメンを提供されるようになりました。ラーメンに注力されるようになったのは、なぜですか。

篠原:理由は大きく3つあります。1つ目は、自分が単純にラーメンを好きだったから。好きな虫を使って、好きなラーメンをつくることは、今でも楽しくてしょうがないです。

2つ目は、ラーメンの料理性と昆虫食の相性がいいと感じたから。昆虫をまっとうな食材として扱い、まっとうな料理として広めようする上で「出汁を取ってスープとして提供する」という点が、食材として扱う意味で魅力に感じられまし た。

3つ目は、ラーメンの持っているポテンシャルの魅力ですね。ラーメンって、日本では老若男女どんな人にも愛されているじゃないですか。最近は海外にもどんどん広がっていて、今後は日本の国民食ばかりか、地球食にもなり得る料理だと思っています。そんな伸びしろに“コオロギラーメン”を乗せていったら、昆虫食の間口が豊かに広がっていくのでは、と期待しています。

徳島産の食用コオロギを、強火で少し焦げ目がつく程度に炒めます

──「見た目のイメージの影響を受けにくい」という点は、昆虫食への敷居を下げてくれそうですね。

篠原:たとえば、セミやバッタの丸揚げを食べてもらって「どんな味ですか?」と聞いても、それらを食べ慣れていない人にはちゃんと味わってもらえないと思うんです。「うわ、いまセミ食べてる!」という情報に引っ張られてしまうから。虫は、見た目の情報がどうしても大きいです。

一方で出汁になっていると、見た目の情報がない分「どんな味なんだろう?」と、純粋に料理と味わってもらえるなと実感しています。僕が昆虫食を広めようとしているのは、それが珍しいからでも、ビジュアルが面白いからでもない。味として魅力があるから料理にしているし、そう伝えていきたい。「いかに味にフォーカスして、ほかの料理と同じ土俵で受け取ってもらうか」が、自分が昆虫食に取り組む上での大事なテーマなんです。

 

「虫は美味しくない」ってソースどこ?

──これまでコオロギラーメンを提供してきた中で、どんな手応えを感じていますか。

篠原:お店で出し始めた頃は、「今日は罰ゲームで来たんですよ」と、冷やかし気味に来る人も結構いたんですよ。でも、そういう人が食べた時に「えっ、これ美味しいかも?」とビックリしていたりすると、昆虫食をここまでの段階に持ってこられてよかったなと感じます。「思っていたのと違う」と感じてもらえることは、紛れもなく“虫に対するイメージを変えた瞬間”であって。その機会をつくれることはとても名誉で、本当に嬉しいです。

頭では「虫は美味しいものじゃない」と思っていても、余計な情報をそぎ落としていくと、やっぱり美味しいものは「美味しい」と身体は正直に反応してしまう。そんなリアルな自分の感性や感覚に迫れるのが、昆虫食、ひいては“食”という体験の面白さだと感じています。

──なるほど。

篠原:多分、食欲とか性欲とか、人の根源的な欲求に根差している感覚って、最終的にウソをつけない所なんですよね。食べてみて、美味しかったら美味しいし、不味かったら不味い。ごまかしが効かない感覚に訴えられるからこそ、食を通して伝えられることは大きいと思っています。

大人になればなるほど、頭だけで考えていたことと、実体験のギャップに直面する機会って、なかなかないですよね。小さなズレがあったとしても、自分にうまくウソをついて、なんとなくやりすごしてしまったり。でも、今まで食べ物だと思っていなかった虫が、食べてみたら美味しかった」というギャップは、一度食べてそう感じたら、もうウソのつきようがない事実になる。そういう体験は「正しいと思い込んでいる当たり前が、ほかにもあるかもしれない」と気づく契機にもなるはずです。

──そう言われてみると、多くの人の「昆虫は食べられない、美味しくない」という感覚は、実際に食べたことがない状態で持たれていそうですね。

篠原:そうですよね。今の時代、検索しようと思えばなんでも調べられるし、なんでも分かった気になれてしまいます。下手したら、現実世界で自分が直接得た経験よりも、ネット上にある情報の方が確かだと感じてしまうこともあるかもしれません。デジタル化が進む社会の中で、自分のリアルな感性に立ち返ること……不確かなイメージではなく、自分の五感を信頼し直すことが、今とても重要だと思うんです。

 

100BANCHで得た自信と緊張感

──篠原さんが100BANCHに入居したのは、2018年の6月でしたね。何かきっかけがあったのでしょうか。

篠原:先に100BANCHに入居していた「ふんどし部」の創業に関わっていたこともあって、100BANCHの存在は場所ができる前から知っていたんです。「Panasonicみたいな大企業がそんなことをやるなんて粋だな!」と感じていました。

僕個人としては、2018年3月に大学を卒業して、そこから本腰を入れてコオロギラーメンをやっていこうと考え始めました。いろいろ検討した結果、次の挑戦として「不定期で提供するだけでなく、お店を持てるように頑張ろう」と。そこで覚悟を決めるというか、目標に向かってエンジンをかけられる環境に身を置こうと思い、100BANCHに応募しました。

──100BANCHに入って、ご自身やプロジェクトに何か変化は?

篠原:正直にお話しすると、大きな方向性の変化などは、なかったかもしれません。ただ、「100年後の世界を豊かにする」という壮大なコンセプトの活動の中で、コオロギラーメンに可能性を感じてもらい、また応援してもらえているという事実が、僕にとっては大きな支えになりました。そして今でも「期待をしてもらっている以上、それを上回るものをつくっていかなければ」と、いい意味での緊張感を持てています。

都度、火加減や味の状態を確認しながら調理を進める篠原

──3カ月の入居期間の中で、具体的に得られた学びや機会などはありましたか。

篠原:ほかの入居者からの刺激は大きかったです。「椎茸祭」の竹村さんとは、出汁について何度も熱い議論を交わしました。竹村さんと「コオロギのポテンシャルをどれだけ出汁として引き出せるか」と話している中で、自分がまだ少しだけ「昆虫食だから」と甘えを持っていたことに気づかされましたね。もっとフラットに料理として、どれだけ味を追求できるかと考えるきっかけをもらえました。

Future Insect Eating」の高橋さんとも、よくお話させてもらいました。彼はデザインの観点から昆虫食を広めるアプローチをしています。引いた目線で客観的に昆虫食を捉えていて、主観的になりがちな僕にとって、とても参考になる意見をもらえることが多かったです。

根本の部分での変化はなかったものの、100BANCHに入って視野が広がったことで、自分の活動に奥行きが生まれつつあると感じています。そのひとつの形として、現在コオロギを使った醤油づくりや麺づくりに取り組んでいるんです。

──それは、ラーメンに使うための?

篠原:そうですね。ラーメンの構成要素は「出汁・油・かえし(タレ)・麺」が基本です。現状、出汁と油はコオロギでつくれているので、醤油と麺ができれば、すべてコオロギでまかなえるようになります。まずはラーメンを中心にコオロギの可能性を掘り下げていって、そこで完成度の高い出汁や醤油などが出来るようになれば、また新しい別のレシピの可能性が広がっていくのではないかなと想像しています。

 

虫の調理は未開拓、伸びしろしかない

──今後、コオロギラーメンでどんな展開を考えていますか。

篠原:直近では、とにかく美味しいコオロギラーメンづくりに全力を注いで、今年2019年内の店舗の開業を目指しています。そこで、昼はコオロギラーメンを出して、夜は虫のコース料理を提供したいなと。コース料理は、ラーメンと違った形の制限があって、その中でストーリー性を持たせられることが魅力だと思っています。自分がやりたいこと、伝えたいメッセージを、どうやってお店という形に込めていこうかと、最近はずっと考え続けています。

お店の準備については、4月からクラウドファンディングにも挑戦する予定です。資金集め以上に、興味のある人たちも巻 き込んで一緒に良いものをつくっていけたら嬉しいなと。

美味しそうな香りに釣られる100BANCHメンバー

──仲間を集めるために?

篠原:昆虫料理の大きいチームをつくっていくようなイメージで取り組みたいです。昆虫食はまだまだ発展途上で、これからつくる側と食べる側で、一緒につくり上げていくものだと感じていて。そういう意味では、食べに来てくれるお客さんもチームの一員だと捉えていきたいし、クラウドファンディングを通してお客さんにもそう思ってもらえたら嬉しいですね。

あと、僕はやっぱり虫が好きで、ほかの人よりも虫に寄り添った解釈をしてしまいがちです。だから、たくさんの人に関わってもらう中で、昆虫が食材としてどれだけのポテンシャルを持っているのか、または持っていないのかを、冷静に見つめていきたいです。

──持っていない可能性も。

篠原:全肯定して妄信的になってしまったら、ただの押し付けになってしまいます。それは絶対に避けたい。昆虫が本当に食材として良いものなのかどうかは、僕が決めることでなくて、食べるひと一人ひとりが決めていくことだから。

──現時点で、食材としての昆虫に限界を感じる部分はありますか。

篠原:めっちゃあります(笑)。牛肉や鶏肉、魚などのほかの食材に比べたら、いわゆる美味しさで純粋に勝てる点は、まだまだ少ないと思います。それは、今後新たに見つけていけるかもしれないし、もしかしたら見つからないままかもしれない。

けれども、食の大事な要素って「美味しさ」だけではなくて、ほかにもいろいろあると思っていて。そのほかのベクトルについては、昆虫にしかないポテンシャルや、ほかの食材に勝ち得るポイントがあるはずだと、僕は信じています。

──先ほど話題にも出た「価値観を転換させる体験」としての昆虫食などは、まさにそれに当たりますね。

篠原:ただ、やっぱり食べ物なので、美味しさ以外の価値だけじゃ普遍的なものとしては受け入れてもらえません。食材として、シンプルな美味しさの追求は、大切にしていきたいです。

たとえばコオロギでも、与えるエサや下処理の方法で、出汁の味は変わります。それって、ほかの食材では当然のことなんですが、昆虫に関しては、これまで「どうしたら美味しくなるか」という調理的な研究が、ほとんどされてきていない。そのまま食べるとか、素揚げするとか、原始的なレベルで止まっているんです。

──つまり、これから美味しい調理法が開発される可能性が、大いにあると。

篠原:大昔からさまざまな分野の知識や技術が積み重ねられてきた中で、こんなに探求されていない未知の領域は、ほかにあまり見当たらないんじゃないかと思います。伸びしろしかないと考えると、すごくワクワクしますね。

 

街の中華屋みたいに、日常にとけこむ昆虫食店に

──篠原さんは幼い頃からずっと虫が好きで、昆虫食を広める活動を始めてから、さまざまな経験をされてきたかと思います。それらを踏まえ、あらためて「昆虫食を広める意味」を、今どのように考えていますか。

篠原:当初からずっと変わっていない動機は、「こんなに良いものがあるんだよ! 知ってくれ!」と、自分が圧倒的に好きで魅力に感じているものについて、たくさんの人と共有したいという思いですね。これは今後も変わらない部分だと感じています。

それに加えて、「価値観を転換させる」という話とも少し近いのですが、最近「昆虫食は、日常にある冒険だ」と考えるようになっていて。

──冒険、ですか。

篠原:今まで食べられないと思っていたものを食べるって、冒険だと思うんです。冒険の先には予定調和のない世界が広がっていて、その中で自分の今まで持っていた価値観が、大きく揺るがされたりする。

今、僕たちが生きている社会って、予定調和に感じることが多くなっている気がします。大人になればなるほど、常識や既存の知識、経験や予測の範囲内で物事が回っていくようになる。でも、生きていることってイレギュラーばかりだし、世界や自然はそんなに予定調和じゃないはずなんですよね。

冒険的な体験をした結果、「やっぱり虫は嫌い」となっても構わない。その冒険が、予定調和ではない本来の世界や自然に、自分の感覚を開いていくきっかけになる。だから、冒険的な体験そのものに大きな価値があるんだ……コオロギラーメンを食べた皆さんから感想をいただく中で、そう感じるようになってきました。

何度も試作を繰り返したことがわかる美しい手さばき

──大人になると冒険的な体験って、確かに少なくなる気がします。

篠原:冒険をすることで、自分の心の動きを感じてほしいんですよね。だから、活動を認知してもらうために、こうしてメディアには出させてもらうんですけど……「コオロギラーメンはこういう味だ」とか、「昆虫食にはこういう意味がある」とか、ホントはあんまりしゃべりたくないんです(笑)。それも、実際に体験してもらって、皆さんの感性に委ねたい。僕の言葉で、食べる側の解釈の余地を奪いたくないんですよね。伝える時のバランスは難しいです。

──一般的に“冒険”というと壮大なイメージを持ちがちですが、“食の冒険”は日常の延長線上に置きやすいですね。身近に体験できる冒険として、昆虫食は絶妙な装置なのかもしれません。

篠原:そうなんですよ。ちょっとでもハッとする体験が持つ冒険≒非日常性が、日常的な食の現場で起こっていくのが面白いんです。

アマゾンに行って「こんな世界があるなんて知らなかった!」と感動するのは、言ってしまえば当たり前なんですよね。それは非日常的な空間に行ったからであって、日本に戻ってきたらまた普通の生活に埋もれてしまう。一方で、普段から日常にありすぎて意識もしていない食卓に非日常が現れたら、それはアマゾンで味わう非日常よりも、きっとインパクトが大きいですよね。

自然が好きだと言うと「アマゾンやアフリカが好きなんですか?」と聞かれることが多いんですが、僕は渋谷の川に住む生き物とか、いま目の前に見えている世界の自然が好きなんです。日常と何ら分断されていない、すでにそこにそのまま存在しているものが、自然。うまく言葉に落としきれていないのですが、“日常性”こそ自然の一番の魅力なんだと思っています。

今、身の回りにそのまま存在しているものが自然なのかもしれない

──現代は“自然”と言うと、都会や文明から切り離されたものと捉えられていることが多いかもしれません。

篠原:それでも、文明や人間はやっぱり自然の中にあって、そこに日常のすべてがある。自分の外側の世界にあると思っていた存在が、実際はこんなに身近にあるじゃないか……という気づきのポイントをつくっていくことは、今後の活動の大きな指針としたいなと感じています。

──冒険によって、“自然という日常”を取り戻していくのですね。

篠原:これから自分がやるお店でも、珍しい虫ではなく、どこにでもいるような身近な虫を使って、美味しいものをつくりたいです。ゼロがひとつ多いような高級レストランで美味しいものが出てくるのは当たり前だけど、どこにでもあるような街の中華屋で、700円くらいの半チャンラーメンが美味しかった時って、めちゃくちゃ沁みるじゃないですか。そういう感じの、日常の風景にとけこめる店であり、そこに自然がとけこんでいるような店にしていけたらなと、思っています。

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( 写真:金 洋秀)

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