• イベントレポート

熱量が街に伝播し、100BANCHは風景に———ナナナナ祭「クロージングイベント こんにちは未来」

“未来を作る実験区”として、2017年7月7日にオープンした「100BANCH」。

この1年間に生まれたプロジェクトの成果報告やお披露目イベント、作品展示、シンポジウムなど、全36のプロジェクトを盛り込んだ夏の文化祭「100BANCH ナナナナ祭 ーナせばナる ナさねばナらぬ8日間ー」が全ての公開実験を終えました。

その締めくくりとして行われた「クロージングイベント こんにちは未来」の内容から、プロジェクトの活動を通じて見えてきた未来の兆しや、「100BANCHとはなんなのか?」について探ります。

オープン1周年で振り返る、100BANCHの現在地

はじめに、イベントの司会を務めるパナソニック・コーポレート戦略本部の則武 里恵、ロフトワーク・100BANCH運営責任者の松井 創より、100BANCHとナナナナ祭の概要について説明がありました。

1年前OPEN直前の100BANCHの様子

100BANCHは、次世代を担う若者たちが主体となって「次の100年につながる新しい価値の創造」に取り組むための施設です。2018年に創業100周年を迎えたパナソニックが記念事業として構想をスタートさせ、カフェ・カンパニー、ロフトワークと提携して立ち上げました。

オープンしてから1年の間、100BANCHでは67ものプロジェクトが「GARAGE Program(ガレージ・プログラム)」で採択され、ここを拠点にして“未来をつくる実験”に勤しみました。

それら実験の経過報告と、さらに新たな突然変異を生むための機会として企画されたのが、ナナナナ祭です。


8日間の総来場者数は約6000人に及びました

ナナナナ祭では8日間にわたり、100BANCHで活動中のプロジェクトメンバーが中心となって、16のイベントと21の企画展示を行いました。

100BANCH発起人の1人でもある松井は「100BANCHのこれまでの取り組みとナナナナ祭を振り返りながら、関係者たちと『100BANCHとは一体何なのか?』と議論することで、今後の目標や目指す未来を見定めていきたい」と、クロージングイベントの趣旨を語りました。

 

パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 則武 里恵

株式会社ロフトワーク Layout Unit CLO(Chief Layout Officer) 松井 創

ナナナナ祭を彩った個性派ぞろいのプロジェクトたち

続いて、ナナナナ祭に参加したプロジェクトの代表者たちがライトニングトークを行ないました。

①ふんどし部 星野 雄三

“これからの100年をつくるお祭り”をコンセプトに企画された「PHANTASM TOKYO」などに取り組みました。

 

②KISABURO KIMONO Project キサブロー

「ピースキモノ」の展示と共に、お披露目イベントを開催しました。

 

③TABEL 新田 理恵

「HERBAL HACK」をテーマに掲げ、マルシェでの商品販売やイベント登壇、また「薬草のある暮らし」を体感できる企画展示を行ないました。

 

④椎茸祭 竹村 賢人

しいたけダシ「oh! dashi」のリリースイベントとして、エンターテイメント性あふれる巨大な流しそうめんを企画しました。

 

⑤Future Insect Eating(F.I.E)/Cricket ramen(コオロギラーメン)

昆虫飼育プロダクトの展示、外部のパートナーと昆虫食を開発した「Future Insect Eating(F.I.E)」と、マルシェでは売り切れ続出となった「Cricket ramen」を提供した。

 

⑥未来言語ワークショップ  松田 崇弥、高橋 鴻介

文化差や障害を超え、誰もがフラットにコミュニケーションできる手段としての「100年後の未来言語」を作り出そう――このようなコンセプトをもとに、言語やコミュニケーションにまつわる4つのプロジェクトが合同で開催したのが「未来言語ワークショップ」です。

 

⑦RGB_Light 河野 未彩

RGB_Lightを用いたインスタレーション展示を行ないました。

 

⑧Now Aquaponics! 邦高 柚樹

RGB_Lightとコラボレーションした展示を実施、トークイベントにも参加しました。

 

⑨ECOLOGGIE 葦苅 晟矢

企画展示を行うと共に、Cricket ramenプロジェクトに養殖したコオロギを提供しました。

 

⑩Creative Shibuya Mornings 永井 礼佳

Creative Shibuya Morningsは、ミレニアル世代が培う未来のライフスタイルを定義し、社会実装する実験プロジェクト「ミレカル」が月1で開催している朝活イベントです。

トークの内容を振り返りつつ「インフルエンサーに依存しない、ビジョンで人が集まるコミュニティは揉め事も少なく、流動的だけど温かい。こうした100BANCHのようなコミュニティは、自然と相互に扶助し合える新しい“家族”の形のひとつに発展していくのでは」と指摘しました。

 

⑪BUSHOUSE  青木 大和

ナナナナ祭では完成したばかりのBUSHOUSEの出発式を催したほか、トークイベントにも登壇しました。

 

⑫TOKYO SENTO 後藤 大輔

100BANCHのバックアップを受けて新しくリリースしたサイト「東京銭湯不動産」にまつわる展示、銭湯グッズの販売などを行ないました。

 

⑬Lanterna 尾崎 泰一朗

こちらはガレージプログラムに採択されていたわけではありませんが、100BANCHに刺激を受けたパナソニック社員の有志が集まって始まったプロジェクトです。尾崎は「Lanternaの構想はかなり前からあったが、なかなか実現まで至らなかった。この場所の後押しがあったおかげで念願が叶った」と語りました。

  • 展示紹介:Lanterna(記事内18番目)

 

世界初のふんどしファッションショーを開催してメディアで一躍話題となり、今や100BANCHのアイコン的な存在でもある「ふんどし部」の星野。

創業90年の仕立て屋・岩本和裁の4代目でもあるキサブローは、ファスナーで各パーツを着脱可能にすることで、サイズ・形を自由にカスタマイズできるようにした「ピースキモノ」を開発中。

日本の在来ハーブである「薬草」を日常に取り入れたライフスタイルを根付かせるために、薬草をハブとしたコミュニティづくりや商品開発を手がける新田。

お湯を入れるだけで直接飲むことができる液体タイプの出汁「oh! dashi」を開発・商品化した竹村。

急遽欠席となった、昆虫食の魅力を開拓する2つのプロジェクト代表者に代わって、進行役の100BANCHコミュニティマネージャー加藤が概要を紹介しました。

ライトニングトークでは4つのプロジェクトを代表して、知的障がいを持つアーティストたちのストーリーに焦点を当てた新しい美術館を創造を目指すMUKUの松田、「目でも指でも読める文字」を開発しているBraille Neueの高橋が登壇しました。

光と影の在り方をデザインし、照明をナラティブなものに昇華するプロダクト「RGB_Light」の制作をする河野

水産養殖と水耕栽培をかけ合わせ、魚と植物を同じ環境で育てる循環型の農法「アクアポニックス」についての研究を行なう邦高。

サステナブルな社会の構築のため、IoTを活用したコオロギの大量養殖システムの確立を目指す葦苅

Creative Shibuya Morningsの運営メンバーとして登壇したカフェ・カンパニーの永井

“不動産から可動産へ”をコンセプトに、移動式住居「BUSHOUSE」の開発を行う青木

銭湯に特化したウェブメディアの運営、銭湯の経営などを手がけるTOKYO SENTOの後藤

100BANCHの館内に設置されている行灯型照明機「Lanterna(ランターナ)」の開発者の1人であるパナソニックの尾崎

100BANCHが追う6つのテーマ、芽吹き始めた12の兆し

各プロジェクトのプレゼンを受け、ロフトワークの松井は「ここにいると、未来は明るいなと心から思える」と講評。そして、この1年間で見えてきた「100BANCHが大切にしている6つのテーマ」と「100BANCHから見える未来の12の兆し」をまとめて発表しました。

<6つのテーマについて>

  • 温故創新のコトづくり、モノづくり
  • 食の原点と未来
  • 温かくて柔らかいテクノロジー
  • Diversity & Inclusion
  • サスティナブル・ソサエティ
  • 人生100年時代の働き方、生き方

下記の記事にて詳しく紹介しています。

「100BANCHが大切にしたい未来をつくる実験・6テーマ〜SIX THEMES FOR EXPLORATION〜」

【前編】https://100banch.com/magazine/six_themes_vol1/

【後編】https://100banch.com/magazine/six_themes_vol2/

 

<12の兆しについて>

100BANCH、2年目の挑戦は? 3社代表のクロストーク

イベントの終盤では、100BANCHの運営を共に握る3社の代表者――パナソニックのコーポレート戦略本部経営企画部長・村瀬 恭通さん、カフェ・カンパニー代表取締役社長・楠本 修二郎さん、ロフトワーク代表取締役・林 千晶の3名が登壇。司会の則武・松井も交えて、100BANCHの未来を占うクロストークを展開しました。

以下、トークでのやり取りを一部抜粋して掲載します。

<これまでの100BANCHの取り組みを見て、感じたこと>

林:「最近の若い子には夢がない」なんてよく聞くけど、それは彼らが夢を持たない世代なのではなくて、古い世代が夢だと思っているものに憧れを感じていないだけ。100BANCHに集う子たちを見ていると、「若い世代には新しい夢の形が見えているから、一切心配する必要はないんだな」と明るい気持ちになりますね。

村瀬:私のようなバブル世代の人間は、家も車も持たないと気が済まない。それらを持つことがステータスであり、ひとつの夢だと、誰もが捉えていた時代でした。

100BANCHの若者は、自分にとっての夢や理想を自分なりに考えて、それに向かって楽しみながらプロジェクトをやっているのが印象的です。もしかしたら、僕ら上の世代の方がモノに執着するばかりで、自分のやりたいことを分かってないのかもしれない。

松井:100BANCHにいると「いつかやってみたい」という思いが、「来年やろう」「いや、来月からやろう」にどんどん変わっていく。しかも、それで実際に始められてしまうのがすごいなと感じます。「ここでは周りから日々エネルギーをもらえるし、協力や助言もし合えるから、自分ひとりで考えていた頃の限界を難なく突破できる」と言うメンバーも多いです。

楠本:僕は、椎茸祭の竹村さんが「やりたいことが明確に決まってるわけじゃないけど、やってみたいと思うことはたくさんある。『やってみたい』を小さく試す連続性の中で、自分は生きている気がします」と話しているのを聞いて、なるほどなと感心しました。

多分、物事の進化って本来そうあるべきなんですよね。大きな目標やKPIを決めた瞬間、変化に対応できずに生き延びれない時代に来ているのかもしれない。

村瀬:そういうのを決めた瞬間に、方向性が一個に限定されるから、柔軟性や広がりが死んでしまう。

実はパナソニックも、現社長が「何の会社なのか、常に自問自答しています」って言うくらい、いろんな事業をやっている会社で。次の100年に向けて「本当に我々がやりたいこと」を模索するために、100BANCHのプロジェクトを立ち上げた。だから、それがはっきりするまでは、ここでのKPIも問われないはず(笑)

林:パナソニックの社長さんが100BANCHに初めて来た時に「ここは雀荘やな」と表現したのは、未だに覚えています。「雀荘は仕事を早く終わらせて、いそいそと行く場所。

僕が皆に行けというのは違うね。誰もが自発的に行きたくなる場所であり続けてほしい」と言っていて、カッコいいなと思いました。

楠本:昨日、少し離れたところから100BANCHの様子を見ていたら、ここが「風景」になっているなと感じた。街に許容され、その一部として同化しなければ、風景にはなり得ない。風景になっているから、ご近所さんはここでしいたけが飛んでいても「またなんかやってるな」と言いつつ受け入れてくれるし、参加もしてくれる(笑)。

100BANCHに集う人たちのビジョンや熱量が街に伝播しているからこそ、ここは風景になったんだなと、あらためて感じました。

<これから100BANCHが取り組むべきこと、目指す未来>

林:2年目の挑戦は「家づくり」じゃないかなと思う。現状、プロジェクトに参加できているメンバーの多くは、東京近郊に住む若者たち。今のプロジェクトメンバーの子たちのように、素晴らしいビジョンや熱意を持った若者が、全国、そして世界各地にもたくさんいるはずです。

彼らが100BANCHに集まれる環境を整えていったら、もっと多様性に富んだアイディアがここで生まれてくると思います。

則武:メンバー内でも、まさに「100BANCHの仲間が集うシェアハウスをつくりたい」といった話題がよく出るようになっていました。

情報や活動を共有する場所が、段々と生活を共にする場所に移りゆこうとしているのは、「“プラットフォーム”から“ホーム”になる」ということなのかもしれません。これは、これからの100BANCHの大きなテーマの1つになるかもしれません。

林:それと合わせて、「旅する100BANCH」も必要かな。現状で足りないインプットを求めて「どこでどういう景色を見なきゃいけないのか」を考えながら、100BANCHメンバーが全国を転々とするような。

楠本:旅をしながら、新たな100BANCHの拠点を開拓していってほしいですね。「東京だから、都会だからうまくいく」というようなモデルには留まらずに、どこでも風景になり得るような場づくりができるのが理想。

将来的には「1BANCH」から「100BANCH」まで、100の拠点をつくってコンプリートできたらいいなと。

村瀬:拠点は全国各地に広げたいですね。私も若い頃は地方勤務が多かったんですけど、どこにでも「いい未来にしたい」って熱量を持っている方はたくさんいました。
彼らと今後どうコラボしていくか、真剣に考えていきたい。

楠本:1年目はプロジェクトメンバー同士のコラボレーションが次々と自然発生して、目覚ましい発展を見せてくれました。2年目はそれを見習って、メンター同士の協力関係も高めていきたいですね。

各メンターは国内外に広大なネットワークを持っている人たちが多いから、その繋がりを生かし合えば、もっと魅力的な機会をメンバーたちに提供できるはず。そうやって網の目のように100BANCHの活動範囲を広げていったら、結果的に旅をすることになる気がします。

――温かな笑顔と活気にあふれたクロストークは、会場に熱を残しつつ終了。最後の挨拶として、松井は次のように語り、本イベントを締めくくりました。

松井:未来は予測しようとすると難しく、先行きの見えない不安が募っていきます。けれども、「ほしい未来は自分でつくろう」と思えば、不安を希望に変えることができる。今後とも100BANCHが、自分たちの力で未来をつくる“希望の拠点”であり続けられるよう、今日見えてきた課題や目標をしっかり受け止めて、ここを運営していきたいと思います。

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これから「100BANCH」は、一体どんな場所に進化していくのでしょうか。そして、ここからどんな「未来の当たり前」が生まれ、世界に定着していくのでしょうか。

その過程は、これからもイベント開催やこうしたレポートなどを通して、積極的に世の中に発信していきます。皆さん、ぜひご注目して……いただくだけじゃなく、よければ一緒に「ほしい未来」を考え、つくっていきませんか?

 

パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 経営企画部 部長 村瀬 恭通

カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長 楠本 修二郎

株式会社ロフトワーク 代表取締役 林 千晶

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